黒の剣士の妹分?   作:唄乃 奏

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第十話

「まぁ、な鳴戸? 先生もまったく遊ぶな、と言いたいわけじゃないんだぞ?」

 

翌朝。母親に強引にアミュスフィアを強奪されて意気消沈していたオレは、集中ゼミナールの間に担任に呼ばれ、職員室に来ていた。

「でもなぁ……。この模試の結果を見ちまうと、そうも言ってられなくてな」

まだ三十代も中ほどしか行っていない、オレの担任である男性教諭は、おそらく自分の机であろう、所狭しと教科書類が置かれているデスク上に広げられている紙切れを、トントンと指で小突きながら、対面に座るオレに視線を投げかけた。

確かについ先日、志望校を決めるための目安にでもするのだろう、模試を受けさせられた。その結果はまだ知らされていなかったが、これがそうらしい。オレは担任の視線を真っ向から受けきることが出来ず、そそくさと自分の模試の結果に目線を落とした。

 

……こ、これはひでぇ。

 

書かれていたのは、第一志望校に合格できる確率は五割を下回ってますよー……と読み取れる各種データだった。

「正直志望校変えるか? と言いたいところだが、先生もどうせならお前の『兄と同じところに行きたい』ていう願いを聞きたいからなぁ」

そう、今オレが第一志望校としてだしている高校は、オレの兄貴の母校でもある。オレとしては特別行きたい学校なんてものがなかったので、適当に兄が通ったことのある学校を選んだだけなのだが、どうやら担任の中では、オレの願いにまで昇華されているらしい。

「だが、諦めるしかない……てほど悪すぎるわけじゃないからな。お前の場合、苦手な英語やら国語――特に古文漢文が足を引っ張ってるだけだ。数学や理科は十分合格圏内だ。英語や国語を頑張れば、合格するのはそう難しいことじゃないさ」

「は、はぁ……」

担任が目の前で熱弁を繰り広げているが、当のオレは他人事のように覇気のない返事を返す。だがオレの態度もなんの、と言う調子で担任はオレの肩をポンポンとたたく。

「集中ゼミを復習するだけでも全然違うからな。要はどれだけこれから根つめて勉強するか、だそ鳴戸?」

 

そのためのアミュスフィア没収かー!

 

薄々……というかそれしか考えられないだろう。担任はオレが家で勉強を全然していないということを察していたのだ。娯楽を取り上げれば、自然と勉強せざるを得ない……というやつだ。なんと余計なことを。

「頑張れよ鳴戸。あと数週間の辛抱だ!」

それを締めの言葉にして、担任はオレを解放した。

ちょうど授業が終わった時間なのか、校内は授業で途絶えていた騒がしさが増し始めていた。教室に戻る廊下をトボトボと歩きながら、その喧騒の中オレはつぶやいた。

 

「人生とか糞ゲーやぁ……」

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!」

ズバンっ、と豪快な音とエフェクトを撒き散らしながら、キリトが振るった大剣が目の前の敵をなぎ払う。ガリガリと敵のHPが消滅していくが、しかし削りきることが出来ず、一ドット程度残った。耐え切った、とばかりにサイのような図体をした敵は、姿勢の崩れたキリト目掛けて眼前にある角を突きたてようとしてきた。

「くっ――」

キリトは咄嗟に防御姿勢に移ろうと大剣を引き戻そうとするが、間に合わない。一発もらうか、と身構えたキリトだったが、

 

「ウォーターバレット!」

 

という術名詠唱とともに現れたサッカーボールほどの水の塊が、敵の横っ腹を強襲した。ドンっという鈍い音を立てて当たった水の塊は見事に敵のHPを削りきり、敵は光の破片となって霧散した。その一部始終を、大剣を引き戻しきっていない中途半端な体勢で眺めていたキリトは、とりあえず直立の体勢まで姿勢を戻すと、小さく息を吐いた。目の前には、先ほどまではなかったウィンドウが表示されている。獲得経験値やこの世界の通貨であるユルド、そしてドロップアイテムが表示されたリザルト画面だ。

「ナイスアシスト、アスナ」

戦闘のリザルト画面を横目に、キリトは背中越しに背後を見た。

 

「……ふぅ。魔法の詠唱って、舌をかみそうで怖いね」

キリトの言葉に、そういって小さく舌をだして苦笑したのは、青い長い髪を後頭部あたりで結ったウンディーネの少女だった。その少女――アスナの言葉に、キリトは肩をすぼめた。

「そりゃあ、早口言葉言うようなもんだもんな。俺には絶対無理だな。前衛一筋で戦うよ。詠唱される前にたたっきれ! って感じで」

「キリトくんは極端すぎだと思うなぁ」

キリトの子供のような言い分に、アスナは口元をほころばせた。その後、上を見上げる。

 

「リーファちゃんのほうは、どうかな?」

アスナの動きに習って、キリトも頭上を見上げた。頭上では、飛行モンスターの相手を空中戦闘が得意なシルフの少女――リーファが単騎で相手をしていた。戦況は見るからにリーファが有利なようで、飛行モンスターはリーファ相手に一矢報えないでいる。

「まぁ、このあたりのモンスターに空中戦闘でリーファがやられることはないさ」

当然のようにキリトが言い放つ通り、リーファの戦闘は危なげなく進んでいるようだった。と、ちょうど最後の攻防だったようで、リーファがすり抜けざまに胴打ちのような攻撃をあてると、モンスターは消滅した。残心をしてその始終を確認したリーファは、剣を腰に差し戻すと、地上にいるキリトたちのもとへ降りてきた。

 

「そっちも終わったようだね」

「ああ、僅差で俺たちのほうが早かったぜ?」

「べ、別に競うつもりなかったもん!」

といいつつ悔しそうに口元をゆがめたリーファに、キリトとアスナは小さく笑みを浮かべた。

 

「……しかしまぁ、また一からスキルレベルを上げるっていうのも結構厳しいものがあるよな」

そうこぼしたのは、自身のステータスを眺めていたキリトだった。彼の眼前のウィンドウには、アバター『キリト』のステータス……HPから始まり、筋力などの各種ステータス、そしてスキルレベルなど……が表示されているはずだ。

「三日三晩悩んで、ようやっと決心がついたと思っていたんだが……改めて考えると惜しいことをした気がする……」

名残惜しそうにキリトはステータス画面を凝視し、うんうんと頭を悩ませ始めた。その様子にリーファが腰に手を当て、あきれた様子で目を細めた。

「いい加減に観念しようよお兄ちゃん。『こんなの、チート以外のなにものでもないよな』って言って消したのはお兄ちゃんじゃない」

「そ、それはそうだけどさ……」

 

ちょっと前――キリトが《ALO》を始めた時、彼のステータスはどれも異常……チートと言われても文句は言えないほど育ちきっていた。これは彼が進んで不正を働いたからではなく、システム自体に問題があった結果である。というのも、以前の《ALO》は《SAO》のサーバーをコピーして使っていた様で、その世界には《SAO》のアカウントデータが残っていたのである。つまりキリトは、《ALO》の世界にいながらも、ステータス的には二年間育てに育ててきた《SAO》での『キリト』と同一の性能を有していたのである。現在はシステムの総洗いを行ったのと、キリト自身がアバターを作り変えたせいもあり、そんな無茶なステータスではなくなった。自分で望んだ結果で仕方ないとはいえ、キリトからしたら想像を絶する『弱体化』を食らったことになる。

 

「確かにパパからしたら、消すのはもったいないデータなのかもしれませんが、あのステータスのままいたら、いつアカウント停止処分をされるか分からなかったですよ」

そう言って、悩むキリトの胸ポケットから現れたのは、手のひらサイズほどの黒髪の小妖精だった。彼女の名前はユイという。この世界ではナビゲーションピクシーという、サポートシステムの一種と言う事になっているが、実際の彼女は《SAO》のメインシステムであるカーディナルの下で動いていた、プレイヤーたちの心身のケアを目的とした《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》の試作一号である。

本来なら今ここには存在し得ないはずの彼女なのだが、《SAO》内で彼女の実態が暴露された際に、強引にキリトがシステムから切り離し、彼のナーヴギア……アミュスフィアの一個前のハードであり、《SAO》を脱出不可の牢獄へと変える手助けをした機器でもある……に移されたことにより、ここ《ALO》でも稼動している。キリトのことを『パパ』、アスナのことを『ママ』と慕う彼女は、彼らにとってかけがえのない存在でもあった。

「そうだよ、ユイちゃんの言うとおりだよキリトくん。団長の作ったあの世界は、キリトくん自身が終わらせたんだから。張本人として、ちゃんと心を入れ替えないと」

「うぅ……」

そのユイとパートナーでもあるアスナからそう言われては、ぐぅの音もでないキリトであった。

 

「……せ、せめて経験値ポーションとか、そういうのに還元出来ていたら……」

「くどいですよ、パパ!」

「くどいよ、キリトくん?」

「う……はい」

がっくり、とキリトは叱られた子供の様に大きく肩を落とした。

 

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