黒の剣士の妹分?   作:唄乃 奏

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第十三話

「鳴戸君……に長田君。どうしてここに?」

 

思いもよらなかった来訪者に目を丸くした桐ヶ谷。その桐ヶ谷が、オレと長田の名前の間に若干間をいれたのは、長田が床に座り込み鼻っ柱を押さえている光景に疑問を覚えたからであろう……と思う。長田のストーカー気質に、ここまでついてきたんかい……的なドン引きをしたわけではないと、彼の友人として思ってやりたいところである。

それはさておき。桐ケ谷の疑問に、オレは先ほどの覗き(やましいことは一切ない……はず。偵察の一種)をしていたという気後れから、目を泳がせた。

「ん、んーまぁ成り行きというか……ぶっちゃけ勢いと言うか」

「……? なによそれ」

「まぁ、とりあえずお前らも道場にあがるといい。最後だしな」

門前で問答をしていたオレたちに、石谷先生が「早く行け」とオレの後ろから催促をする。それにつられて、オレと長田はなし崩し的に道場にあがることとなった。

 

 

 

 

 

 

「しかし、桐ケ谷が卒業するのか。ウチもまた弱くなってしまうな」

「せんせー、それは私たちが弱いってことですかー?」

道場にあがると、名残を惜しむように先生がつぶやいた。それに後輩たちが口をとがらせながら反論する。

「……ウチの剣道部って、弱いのか?」

完全に部外者であるオレと長田は所在なさげにしていたが、近場に桐ケ谷がいたのでとりあえず居心地の悪さを解消するために話しかけた。内容が内容なだけに、小声にはなったが。その桐ケ谷は、若干苦笑いを浮かべる。

「まぁ、強くはないかな。全国行けたのだって、あたしだけだったし。男子にいたっては、団体でも個人でもまず一勝……ていう感じだったかな」

「へぇ、男子の方が弱いのか」

 

「そう、男子が不甲斐ないな、男子が」

 

と、オレたちの会話を聞いていたのか、先生が急に話に割り込んできた。「うおっ」とのけぞるオレを尻目に、その先生はちらっとオレの方を見ながら、これ見よがしに口を開く。

「一人、八田のやつがあと一歩で県ベスト八ってところまで行きはしたが……それ以外はてんでだめだ。鳴戸が入ってくれてたら、男子もいいところまで行けただろうになぁ?」

「え、ちょっ」

急に話を振られて、オレはたじろいだ。慌ててオレは首を横にぶんぶん振る。

「ないないないない、そんなわけないじゃないっすか!」

「謙遜すんなよ鳴戸。授業でのあの強さを見たら、俺だってそう思ってたぞ?」

そう言ってきたのは、隣のクラスだった剣道部員元主将の男子生徒……先ほど先生が話題に出した八田氏である。今どきはどこもそうらしいが、うちの学校にも三年生に武道の授業があり、剣道か柔道のどちらかを受講するかたちとなっている。武道の選択があるのは男子だけで、女子は普通に体育をするのだが、そうなると一クラスの受講人数が極端に目減りする。そこで、武道の時間としてあてられている体育だけは、二クラス合同で執り行うようになっているのだ。なので八田も隣のクラスではあるが一緒に授業を受けていたので、オレの授業態度がわかったというわけである。

 

「先輩そんなに強かったんすか?」

八田の隣にいたやんちゃそうな後輩が、オレと八田を見ながら無遠慮に聞いてくる。「大したことないよ」的なことを返そうと口を開きかけたが、それよりも早く元主将のやつがが大げさに腕を広げて熱弁した。

「やべーぞこいつは。なんたってこの一年授業があったけど、俺一度もこいつから一本取ったことないからな?」

「マジっすか! 部外者相手に一本取れないとか、先輩主将失格どころか雑魚じゃないっすか!」

「……ほぉ、言いやがったなこいつ!」

ぎゃあぎゃあと横で取っ組み合いを始める野郎共。その顔には笑顔が浮かんでいることから、最後の節目の日ということでどこか浮ついたところがあるのかもしれない。そんな楽しそうに横でじゃれ合っている野郎どもをしり目に、オレはちょっと居心地の悪さを感じ始めていた。

 

……なんか、部員の皆様の視線が気になるんですけど。

 

もともと突然の部外者の来訪ということで部員からの視線を集めていた。その内容は、卒業していく先輩方とか、その友人たちを温かく見送る……というか、まぁそういったものであったであろう。

しかし、先生の異常な推し具合とその次に発せられた八田の言葉で、視線の含む意味が若干変わったようである。その視線からは……

 

 

「……どうだ鳴戸。ちょっと一回手合せしてみないか?」

 

 

オレの強さの程を見てみたい……という興味がうかがえた。

 

「へぇ、先輩リベンジっすか?」

「おう! 負けっぱなしは主将として恥ずかしいからな。……お前もうるさいしっ」

「ちょっ、先輩それは痛いっす!?」

後輩とじゃれ合っていた八田が、不意にとんでもないことを抜かす。正直そろそろ帰って《ALO》にログインしたいオレは「はぁ?」と苦い顔をしたが、オレ以外の連中からは明るい声が漏れた。

「ほぅ、面白そうだな」

「先生まで!」

「まあまあ鳴戸。どうせ最後だ。先生もお前の動きをもう一回見たいし、試合をしてくれないか? 道着とか防具は誰かのを貸してやるから」

この場の最高権力者である先生からそう言われてしまったら、下っ端であるオレの意見なぞたやすく一蹴されてしまう。

「……はぁ、一回だけっすよ……」

仕方なくオレはため息をつきつつ、楽しげにしている先生の後に続いて試合の準備に移った。

 

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