黒の剣士の妹分?   作:唄乃 奏

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第十四話

「んー……」

「? どうしたの直……桐ケ谷さん?」

 

突如決まった剣道部元主将である八田氏と、その八田氏から授業中一本も取らせなかったという、部外者でありクラスメイトでもある鳴戸との試合。手馴れた手つきで準備を終わらせた八田をとりあえずは置いておき、直葉が見ていたのは久しぶりに防具に触ったため、準備にまごついている鳴戸の方であった。

「いや……」

無遠慮に下の名前で呼ぼうとした長田を睨みつけて牽制した後、直葉は目の前で着々と試合の準備を進める二人を見てふと思い出すことがあった。

 

……なんか、似てるな。

 

直葉の脳裏に浮かんでいるのは、兄がデスゲームであった《SAO》から帰還して二か月ほど経った日の事である。

 

たしかあの日は、朝の素振りをしてたらお兄ちゃんが見てて、そっから試合をすることになったんだよね。

 

二年間寝たきりであったことで筋力が致命的なほど落ちていた直葉の兄・和人は、毎日リハビリを続けていた。その時は、「リハビリしまくってる成果を見せてやる」と息巻いていたが、試合の結果は鍔迫り合いで押し勝った直葉の一本勝ちである。過去に少し経験があるとはいえリハビリ中の半病人と、毎日素振りを繰り返していて人並み以上に筋力がある上に、全国に行けるほどの人間との試合なのだから当然といえば当然の結果なのだが、驚くべきことに、事試合内容を見ると互角と言ってもいいだろう。

 

普通ないよね、小手打ちを竹刀から手を離して避けるなんて。

 

直葉が驚いたのは、和人の回避性能の高さと、的確すぎる要所要所への打ち込みであった。最初は、面を打ってくださいと言わんばかりの構えを取っていたにも関わらず、その実どこに打ち込んでもことごとく回避されたのだ。さらに、左右のステップからの打ち込みは本来剣道では見ない動きで、予想外の所から各種打ち込みが飛んできたりもした。最終的に、体力勝ちのような感じになってしまったが、同程度の身体的ポテンシャルを有していたとしたら負けていた……と直葉は感じている。

 

お兄ちゃんのあの突飛な動きが、《SAO》――VRゲームで培ってきたスタイルだった……ってことを考えると、鳴戸君も同じなんだろうか?

 

剣道部元主将と、VRゲームユーザーとの試合。字面にするとおかしな感じだが、この組み合わせは、以前あった直葉と和人の組み合わせに酷似している。

 

……あの時の自分たちを見るようで、ちょっと興味あるな。

 

思わず視線に熱がはいるのを自覚しつつ、直葉は準備が終わり目の前で向き合っている少年たちを見つめた。

 

 

 

「……さて、最後だし手加減はいらねえぞ鳴戸。お前授業中全然打ち込みをしてこなかったからな。あれ、手を抜いてたんだろ? やってりゃわかる」

「……手を抜いてたって程じゃないけど、回避優先だったのは認めるわ」

「ほれ見ろやっぱりだ。今日は打ち込んで来いよ。カウンター合わせてやるから」

「へぇ……じゃあ、やれるもんならやってもらおうじゃないか」

 

……うわぁ鳴戸君、さっきまで乗り気じゃなかったのに、やる気満々じゃない。なん

か、こういうところもお兄ちゃんに似てるなぁ……。

 

こと戦闘のことになると、まるで子供の様にやる気を出す兄の事を思い出して、直葉は苦笑を漏らした。

「さて、じゃあそろそろ始めるとするか」

先生の一声で表情を引き締める二人。試合場で蹲踞までの一連の動作を起こした二人の前に、「始め!」と先生が声をかける。

 

 

「でやぁぁぁ!」

 

 

開始の合図の直後に動いたのは八田のほうであった。掛け声と同時に、鋭い面打ちを試みる。開始直後の面打ちは八田がよくやる戦法であるが、鋭さが尋常ではない。彼が公式試合で勝ち進んだのは、この面打ちのおかげである。『来るのが分かっていても、防ぎきれない』――これが部内での彼の面打ちの評価である。

 

だが、その面打ちを鳴戸はいとも容易く姿勢を傾けるだけで避けて見せた。

「あっぶねぇ……。八田はこれがあるから怖いわ」

「……とか言いつつ平然と避けられるとムカつくんだが」

一旦距離を取った二人は、再び竹刀を向けつつ軽口をたたく。

「まあ、今日は絶対一本取ってやる!」

そうつぶやくと、八田は再び打ち込みに向かう。彼はフェイントを混ぜながら各部位に容赦なく打ち込もうとするが、なかなか鳴戸を捉える事が出来ない。

 

「マジだ……先輩が一本も取れてねえ」

「あの人、どういう反射神経してるんだよ……」

試合を観ていた後輩たちから、攻防ごとにどよめきが走る。それほど、鳴戸の回避が鮮やかなのだ。

「……すごい」

直葉も思わず声を漏らした。そして同時に思う。

 

……似ている、お兄ちゃんに。

 

鳴戸の回避の一挙手一投足が、普段見ている《ALO》の和人――キリトや、一度手合せした数か月前の和人にひどく似ているのだ。

面打ちを半身になることで避け、小手打ちを竹刀から腕を離すことで退け、胴打ちを的確に弾く……。『剣道選手』という枠を超えた、まるで『剣士』と言う言葉を体現したかのような彼の堂々たる剣裁きは、VRゲームの中でも「生きている」と口に出す『黒の剣士キリト』――そして優しくも自信家の兄、和人の幻影を見ているようであった。

 

 

「でやぁぁぁ!」

「っ、どおぉぉ!」

 

 

と、そこで初めて鳴戸が大きく掛け声をあげた。その声にはっと意識を戻すと、直葉が見ていたキリト――和人の幻影が霧散し、大きく一歩前に踏み込もうとしている鳴戸が視界に入った。同時に響くバシンと防具を叩きつける音――

「っ一本!」

そして、先生が持っていた旗を高々と挙げた。その様子に誰もが目を見開いた。

 

 

八田の面打ちにカウンターの要領で合わせた、鳴戸の胴打ちによる一本勝ちであった。

 

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