「くっそー、マジかよ。俺がカウンター合わせられる羽目になるとは」
試合後、防具一式を外し悔しそうにつぶやく八田に対して、オレはポリポリと頬を掻いた。
「ま、まぁあれだけ打って来てくれればな。そ、それにオレ結局最後の一本しか打ち込んでないし……、ど、ドンマイ?」
結局負かしてしまった元主将に対し、何を言っていいのか考えあぐねたオレは、とりあえずそう言って事なきを得ようとしたが、そうは問屋がおろさなかった。
「……罰としてお前今日昼飯おごれよな」
「なんで勝った方が罰受けないとなんねーんだよ!?」
一方的に組まれた……まぁ、最終的にはこちらも乗り気だったのだが……勝負に勝ったにもかかわらず罰を受けるとか、理不尽以外のなにものでもない。オレはすぐさま突っ込みを入れると、所謂突っ込み待ちだったのか八田は小さく息を吐いて肩をすぼめた。
「まぁ、冗談ではあるが。……しかしお前、本気で強いな! なんで剣道部入らなかったんだよ」
「んー……」
ついさっきまでは悔しそうにしていたのに、八田はやがて吹っ切れたかのように笑みを浮かべてそう聞いてきた。それにオレは腕を組んで言いよどむ。素直に言えるほどの大層な理由がなかったからだ。
部活してまでこういうことしたかったわけじゃないというか……ぶっちゃけ普通に部活云々が面倒臭そうだったから――とは言えないよなぁ。
部活の顔である主将に対して、平然と勝っておいてそうのたまう勇気はオレにはなかった。
「ま、まぁオレにも色々あってだな……」
「どうせ面倒臭いとか、ゲームの時間が減るとか、そーいう理由だろ」
「…………すんません、おっしゃる通りです」
普通にばれていました。
オレは八田の顔を直視できず目を泳がせた。そのオレの態度に「ほれみろ」と半眼を向けてくる八田だったが、責めるつもりは一切なかったのだろう。それ以上の責め文句を言うことはなく、苦笑いを浮かべた。
「しかし、そんなのに勝てないんだからなぁ……。俺もVRゲームやってみたら強くなるんかな? 鳴戸なにやってるんだっけ?」
あーあ、と大きくため息をついた八田は、ごろりと道場の床に大の字に寝転がり、オレを見上げる。それにオレは先ほどまで使っていて、とりあえず近場に置いていた竹刀を片手でいじりながら口を開いた。
「前やってたやつが、この前閉鎖されたからなぁ。今はアルヴヘイム・オンライン……《ALO》ってのをやってる。……というか、やり始めるとこ」
「《ALO》って……確か桐ケ谷が普段やってるって言うのもそれじゃなかったっけ?」
「へぇ、桐ケ谷が《ALO》やってるってのは、周知の事実だったのか。そうそうそれそれ」
「《ALO》かー。やってみようかなー俺も」
「まあ、面白そうだぞあれ」
「もしやる気が出たら、そのときはアドバイスもらうわ」
「おう、その時はメールでも飛ばしてくれ」
「…………ところでよ鳴戸」
そこまで話した時に、不意に八田がむくりと起き上がってまじまじとオレを見つめてきた。あ、改まって何だ、そんな見つめられてもオレにはそんな気はないぞヤメテー……と彼の視線の先を辿ると、どうやら彼はオレも手元を見ているようだった。
「授業中にもやってたのを見たが……相変わらず器用だよな、それ」
そう言われて、オレは「あぁ」と小さな安堵のため息とともに漏らした。同じく自分の手元に視線をやる。
手持無沙汰だったオレは、竹刀を手元で遊ばせていた。ぐにぐにと握り直すのから始まり、順手・逆手の持ち替えをしたり、左右の手で持ち替えたり……。オレとしては何気なくやっていた動作であったが、普通ではあまりお目にかからない所作であろう。
「前やってたゲームに、テクニカルポイントっていう、一種のボーナス点みたいなのがあってな。敵の攻撃を避けたり、防いだり……まぁ、ちょっとイイ感じの動きをしたら経験値にボーナスが入ってたりしてたんだよ。そのテクニカルポイントにボーナスが入る動作として、戦闘中の持ち替えってのがあってだな……それを狙った結果がこれだ」
「ほう。……そして結局またゲームで得たもんなのかよ。VRゲームマジでやろうかな」
「ま、まぁそこは任せるわ」
「マジでやろうかなマジで」とひとり呟く八田をしり目に、そろそろ制服に着替え直したいなと思ったオレは、他の生徒と話をしていた先生の所へ行く。
「おう鳴戸。そういえばお前は高校どこにいくんだ?」
オレが来たことに気が付いた先生は、思いだしたかのように聞いてきた。その問いに、オレは何も考えずに答える。
「えっと、~~高校です」
「なんだ、桐ケ谷と同じところか」
「え、鳴戸君も同じとこ行くんだ?」
高校名を出すと、先生とちょうど近くにいた桐ケ谷がちょっと驚きの声を上げた。同時に桐ケ谷の近場で大人しくしていた長田が、この時「な、なん……だって」と小さく声を上げたのを耳にしてしまったオレは、なんというか……心の中で長田に合掌した。
悪気はないんだ、許せ長田。てか、別に同じとこにいっても何もないっての。
オレの進学先に、桐ケ谷は別段大きな反応は見せなかったが、先生が予想以上に嬉しそうな顔をした。
「それなら丁度いい。そこの高校の剣道部顧問と、先生は顔見知りでな。桐ケ谷の事をよろしく頼むと言ってはあるんだが、ついでに鳴戸のことも言っておくわ。ぜひとも剣道部に確保してくれってな」
「な、なん……だと」
長田に続き、今度はオレが驚愕の声を上げる番となった。