黒の剣士の妹分?   作:唄乃 奏

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第十六話

「酷いや鳴戸君!? 直葉ちゃんと同じ高校に行くなんてさ!」

「いやいや、何度も言ったが別にオレだって狙ってたわけじゃねえっての。てか、リアル名いうな」

 

剣道場でのいざこざが落ち着いた後、先生がその場にいたオレと長田を含んだ卒業生たちを昼食に誘ってくれた。そこで先生に「顧問の先生によろしくな」的な、もはや入ることが決定しているかのような発言を頂いたり、その帰路で長田に「直葉ちゃんと同じ高校とか、うらやましい!」的な発言を吐かれたりして、這う這うの体で家についた。そしてひと段落して、ついに念願の《ALO》にログインしたと思ったら、帰り道で言い足りなかったのであろう、長田ことレコンに捕まり、この有様である。

「そんなこと言うんだったら、お前も同じとこ受ければよかったのに」

とりあえず近場の中立の街の広場のベンチに腰を下ろしているオレとレコン。「久々にログインしたが、やっぱりどう見ても女の子アバターじゃんこれ……」とすぐそばの店の窓に映る自分の姿を見ながらため息をつきつつ、オレはレコンにそう言った。

普通に考えて後々そこまで言うのだったら、同じところを受けようとするのが定石であろうと思う。それなのにレコンはなぜしなかったのだろうか。そう思っての発言だったが、

「そりゃ僕だって同じところ受けようと、直葉ちゃんにどこ受けようか聞いたんだよ?でもなんか、『受かるかどうか分からないから、あんま言いたくない』って言われちゃって……」

「お、おう……ど、ドンマイ」

なんとも不憫なレコンの事情であった。

 

「……んー、まぁ」

なんか言わないとな……と、とりあえず重い口を開けたオレは、さらさらと上質な触り心地になった自分の髪の端をいじくりつつ目を泳がせる。

「確かに桐ヶ谷に限らず、行く先が決まるまでは公言したくないっていうやつは、いるにはいるが……」

 

……お前、心底桐ケ谷に嫌われてるんじゃね?

 

そこまでオレは頭の中で思いはするが、彼のことを考えると当然言えるはずがない。一体、こいつはなにをしてここまで桐ケ谷に敬遠されているのだろうか。

……まぁ、二言目には「直葉ちゃん」だからなぁこいつ。顔も見たくない……てほど嫌われているわけじゃなさそうにしても、あんまりまとわりつかれるのも嬉しくないってことなのかね?

人の恋愛というのものは、かくも難しいものだなぁ……と、未だ恋愛経験のない(本意ではない、絶賛彼女募集中よ?)オレは思うのであった。

 

「ま、まぁそれはそれとしてだな。ここ数週間オレログインできなかったんだが、なにか変わったこととかある?」

これ以上この話題に触れるのは面倒なことこの上ないと思ったオレは、強引に話を変えることにした。といっても、あらかじめレコンとコンタクトを取ったら聞こうと思っていたことであり、タイミングをうかがっていたところだ。

当のレコンは、未だに文句を言い足りなそうな顔色をしていたが、とりあえずは首を横に振ってこたえてくれた。

「んー……特に目立った変化はないかなぁ。精々アインクラッドの攻略情報が更新されつつあるくらい」

「……あの城か」

言われてオレは、視線を上げた。

 

視線の先……大きな山脈を越えたさらに先には、米粒程度にしか見えないが何かが浮遊している。実際の大きさは世界樹の次くらいにでかいと言えるくらいの巨城なのだが、距離が離れすぎていてそうは見えない。

 

浮遊城アインクラッド。

 

過去にはデスゲームを強いる牢獄としてとして君臨していた巨大城だが、今は世界樹の地下にあるという広大な地下迷宮と並び、攻略組と呼ばれる集団が日夜挑戦している、最も話題性のあるダンジョンの一つである。

「いつかは、あそこにも挑戦しないとだな」

ぼんやりと遥か彼方に見える浮遊城を眺めながら、オレは小さくつぶやく。

 

実際の所、今の状態でもあの城に行けないことはない。アインクラッドは浮遊城と言う名の通り空の上にあり、まだ世界を回るように遊泳もしている。その遊泳ルートには、各種族の街の上空も含まれており、タイミングさえ合えばわざわざ赴かなくても乗り込むことは可能だ。

だが、『乗り込むこと』と『攻略すること』は全くの別問題であり、今のオレの装備やステータス……実質プレイ二日目の性能……では攻略の『こ』の字も出来ないであろう。装備やステータスを含め、スキルや情報も圧倒的に足りない。

 

まあ始めたばかりだし、今は我慢だな。

 

オレはそう割り切ってアインクラッドから視線を外すと、よっこらせと座っていたベンチから腰を上げて体を伸ばす。

「とりあえず、なんかしようぜ。えーっと、始めたばっかりだと何をすりゃいいんだ?」

そう言いつつ、《ALO》歴的に先輩にあたるレコンの方を向いた。オレが声をかけると、レコンは口元に手を当てて少し思案した後、

「……セオリー通りやるんだったら、まずは『カラー装備』集めかな?」

そう言った。初めて聞く単語に、オレははてと首をかしげる。

「からーそうび?」

「うん。その名の通り色の名前が付いてる防具の事だよ。『ブルーヘルム』とか『レッドプレート』とか。まぁ、手に入れた時点では一律ホワイトって名前なんだけど、NPCショップに持っていくと色を変えてくれるんだ。序盤で手に入るレア防具のひとつだよ」

「へぇ。強いの?」

露骨と言えば露骨なオレの質問に、レコンは苦笑いを浮かべた。

「序盤で手に入る装備だから、いずれは使わなくなる防具だけど……」

「それもそっか」

当然と言えば当然の返答に、オレも肩をすぼめた。

「でも、最初のうちは防御もそこそこあるし、HPも上がるから重宝するんだ」

 

どのゲームでも共通することだろうが、HPがなくなれば戦闘不能となる。戦闘不能となるとデスペナルティというものを受け、貯めてきたスキルポイントの一部が失われたり所持金が減ったりする。さらにパーティを組んでいた場合だと、仲間たちにも迷惑がかかってしまうなど、死んでしまうと不利益ばかりだ。なので、何よりもまず優先するべきなのは、死なないように耐久力を上げることだ。その点から言うと、『カラー装備』というものは、防御力もありHPも上がるというのでかなり優秀な装備と言えよう。

 

「で、その『カラー装備』とやらはどこで手に入るんだ?」

言いつつオレは左手を振ることでメニュー画面を開き、次いでマップを開く。それをレコンの前に持っていった。

「えっと『カラー装備』が手に入るの場所は結構あって、各種族の最初の街にほど近いところにあるダンジョンで手に入るんだ。このあたりだと……ここかな?」

そう言ってレコンが指差したのは、インプにとっての始まりの街からほんの少し距離を置いたところにある、海岸沿いの一点だった。

「ここに海岸洞窟っていうのがあって、『カラー装備』はそのダンジョンのボスドロップなんだ」

「なるほど」

ダンジョンと聞いて攻略欲というか、はやる気持ちが湧きあがったが、ボスドロップというところでオレは思案するように腕を組んだ。

 

レア装備の出所が大型ボスのドロップ……というのは、良くある話である。むしろ、大多数のレア装備がそうであるといっても過言ではないだろう。なので、『カラー装備』とやらがボスドロップ品だ、と言う情報には特に言いたいことはない。問題なのは……、

「頭、腕、胴、腰、足――。防具一式が一体のボスドロップっていうのは……、揃えるのが大変そうだなぁ」

一体のボスが、一個のレア装備をドロップするというのなら、欲しい部位をドロップするボスだけを狩ればいいが、複数の部位をドロップするボスになると、お目当ての部位が運よく出てくれるまでひたすら狩り続けなければならなくなる。頭装備は腐るほど出てくるのに、足装備が未だに出ない……なんて状況が頻繁に起こってしまうのだ。

 

「ドロップ率自体はかなりいいんだけどね。防具一式が一回で出ることはほとんどないかなぁ」

「だよなぁ……」

オレは天を仰ぎ見つつため息をついた。一回で揃うことはほとんどない、のは別にいいとして。果たして全部位揃えるのに何体倒せばいいのかは、未知数だ。

「ま、揃うまで狩り続けるしかないな」

今後予想される面倒な展開を頭からとりあえず振り払って、オレは肩をすぼめた。

 

「そうと決まれば、とりあえずその海岸洞窟とやらに行ってみるか」

オレは組んでいた腕を腰に当てて、レコンに視線を寄越す。それは当然レコンも装備集めに協力してくれるものだと思ってのことだったが……、

 

 

「ご、ごめんリィンナール。なんかこの後おじいちゃんおばあちゃんに卒業報告する、とかなんとかで一旦落ちないとなんだ。僕はそこまでする必要ないだろうって言ったんだけど、母さんが『孫不孝だー』って言うから……」

 

 

パチンと両手を合わせて、レコンは頭を下げてきた。

 

「お、おう……そうか……。孫不孝とか、初めて聞いたわ……」

 

興奮で口元がほころんでいたオレの顔が、みるみる残念そうに歪んでいったのは言うまでもない。

 

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