黒の剣士の妹分?   作:唄乃 奏

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第十七話

「海岸洞窟は序盤じゃかなり強いから、とりあえず今日は諦めておいた方がいいよ」と去り際にレコンがオレに忠告をし、その時は「そうか、わかった」と返して彼を見送ったオレだったが、その後どうしたかと言うと。

 

「……ここが入口か」

 

比較的寄り道もせず真っ直ぐに海岸洞窟の目の前まで来ていた。

「やっぱ、いくら強いよ……っていっても、戦ってみない事にはわかんねーわな」

結局好奇心と戦闘欲が湧き上がってしまい、海岸洞窟に向かうこと以外の事をやる気力が湧かなかったのだ。

「初期装備ってのがまぁ不安ではあるが……ここまでの道中も普通に余裕だったし、それに新しい強い防具を手に入れるために、弱い防具を新調するのももったいないしな」

うんうんと、一人腕を組みながらオレは大きく頷く。

「……て、オレは誰に言い訳がましくこんなことつぶやいてるんだ……」

びゅうびゅうと、オレ以外誰もいない洞窟の前に比較的強い海風が吹く。リアルの四季を多少なりとも反映させているのか、その海風はかなり寒かった。

「……いくか」

寒さに一度身震いしたオレは、とりあえず洞窟内に足を踏み入れることにした。

 

海岸沿いにあるということで、洞窟内は潮の香りが充満し、あちこちに苔のようなものがうっすら生えていた。明かりはご丁寧にインプ領の街にもあった光る石が点在しており、比較的見通しは悪くない。そしてなにより、意外に広い。

「初心者がどんな武器を選んでも攻略できるように……ていう配慮かな?」

これだけ広い洞窟ならば、槍や広範囲の魔法などを使ったとしても問題はないだろう。最初の方のダンジョンで、武器制限がついていたりしたら、その武器のユーザーが減ってしまうと運営は危惧して、こういう構造にしたんじゃないかなと、オレは考えた。

 

「とりあえず、ボスがいるエリアまで行ってみるか」

マップを視界の端に配置しちらちらと眺めつつ、オレは最初の一本道をすたすたと歩いて行く。

 

 

 

 

「……分かれ道か」

ある程度進んだところで、オレはふと立ち止まる。目の前には方向の違う三つのルートがあった。

「さて、どの道を――」

行くか……と言おうとしたところで、オレは言葉を切った。同時に腰に差している剣に手を伸ばす。耳を澄ますと、かすかに地面を掻くような音が聞こえてきた。

 

「敵さんのお出まし、か」

 

オレはするりと剣を抜くと音のする方……向かって右側の通路の先をにらみつけた。謎の音は徐々に近くなっていき、やがてほの暗い通路の奥からゆっくりと黒い影が現れた。

パッと見は八本の足と堅そうな甲殻、そして体の両端についている大きな鋏……とまるで蟹をそのまま大きくしたような魔物が、かさかさと三体こちら側に近づいてきていた。この男なのか女なのかよく分からない今のオレの身長の半分くらいはある、あまりおいしくなさそうな色をしたその蟹の魔物は、その体に似合った大きな鋏を振りかぶりながら、一気にオレの方へ押しかけてきた。

「へへ……。うまくはなさそうだけど、カニ鍋にしてやるぜ!」

そう息巻いて、オレは地面を蹴り一気に真ん中の蟹に肉薄した。

 

 

「せいっ!」

 

 

オレはとりあえずあの大きな鋏を無力化した方がいいだろうと思い、助走の勢いに体のひねりを加えて、鋏の根元目がけて下から強引に剣を切り上げた。だが、剣を振りきることは出来ず、ガンと重苦しい音とともに剣を持っていた右手にしびれが伝わった。

 

「か、かてぇ!?」

 

渾身の力をこめて切りつけたはずだが、鋏を切り落とすどころか、切りつけた衝撃で数ドットだが自身のHPが削られる羽目になってしまった。

「あんだけ強引に切り込んで、削れたのは一割かよ!」

オレはそう毒づきつつ、すぐさま一歩引いた。直後先ほどまでオレが立っていた場所に、大きな鋏が割り込んでいた。

 

「こんのっ」

 

オレは割り込んできた鋏の根元に剣を振り下ろす。それに蟹は多少痛そうに身震いはしたが、何事もなかったかのようにもう片方の鋏を押しつけてきた。大げさにひるむほどのダメージも与えられなかったという証左だ。

「ちぃっ」

オレは迫ってきた鋏を、体をひねることでなんとか避けたが、相手をしなければならないのは正面の一体だけではない。正面の蟹の鋏を避けたと思ったら、今度は両サイドから大きな鋏が迫ってきた。

「うわっ」

タイミングが同時ではなかったので一つずつ鋏を回避した後、手近にいた一匹に一太刀浴びせ、大きく後ろに跳躍して距離を取る。

 

「これは……舐めすぎてたな」

自嘲気味につぶやくと、オレは彼我のHP残量を見る。最初に大ぶりの一撃を与えたのと、その後一撃を加えたことで大きくHPを減らしたはずの真ん中の蟹ですら、まだHPバーの八割は余裕で残り、去り際に一太刀浴びせたやつに至っては、減っているのかどうかすら怪しいレベルだ。対してこちらは一撃も食らっていないのに、わずかにHPを減らしている始末。こんな状況できれいに一撃もらったらいくら減るのか考えたくはない。……正直突破するのは、厳しいだろう。

 

「だが、不可能じゃないな」

 

オレは不敵に笑みをこぼす。

 

 

「要は、一撃ももらわずに倒せば問題はない!」

 

 

当たらなければどうということはない、の理論だ。まぁ、当たってないのにダメージは受けているんだけども。

「さぁ、仕切り直しだ。カニ鍋は無理でも、姿煮くらいにはしてやるぜ!」

その場の勢いに任せて意味不明な啖呵を切る。火を起こせる道具なんて持ってないけど。

 

 

 

「……ん?」

 

さてどう攻めるかと剣を持ち直していたオレだったが、ふと目の前にいる蟹達の動きが目に入り、首をかしげた。蟹達がなにやら鋏を頭上に持ち上げてカタカタ鳴らしたり、鋏を合わせたりして音を立て始めたのだ。威嚇のつもりかと思い、再度攻め方を思案しようとしたオレだったが、その前に奴らの意図に気が付いて絶句した。

 

かさかさ、かさかさ、かさかさ……

 

とりあえず意識の外に置いていた残り二つの通路から、同様に足音が聞こえてきたのだ。どうやら、先ほどのモーションは仲間を呼ぶそれだったらしい。

恐る恐る横を振り返ったオレは、思わずつぶやいた。

 

 

「……あ、無理ゲ」

 

 

視線の先には、総勢十にもなるであろう蟹の軍勢がいた。

 

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