黒の剣士の妹分?   作:唄乃 奏

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第二話

「っ……と」

 

すとんと、地に足がついた感覚を覚えた。少し前かがみになった状態を反らす。そうするとあたりの景色が目線の高さで映し出されていた。

 

上空にふわりと浮かんでいた時には分からなかったが、窓から見える外の景色はとてつもなく広く感じる。真ん中の吹き抜け――といっても最上部には分厚そうな岩壁があるのだが――の空間は直径五十メートルほどあるのではないだろうか。高さも薄暗くて良く見えないが、相当ありそうだ。

その空間を中心にして、所狭しと通路のような穴が開いていた。通路のほかにも、その穴自体を店舗の外壁としている店も数多くある。この店もその一つのようだ。それらの穴は、地面に接しているところだけでなく、地面から離れた岩壁にも開けられていた。それらの上にある穴を繋ぐのは、吹き抜けの空間に蜘蛛の巣のように張り巡らされている岩の足場だ。岩だらけで日の光もないが、あたりを照らす不思議な光る石たちが、空間を柔らかく彩ってくれている。それらの視覚情報を、オレはすぐ前にあった窓に張り付いて得た。

 

「……ん」

はたと、オレは我に返った。確かに気になるのは目の前の景色だが、それと同じくらいに『自分のこと』も気になる。自身の分身であるアバターは、システムが無数にあるパラメーターを自動で選び練り上げたものだ。つまり、自分で悩んで決めたわけではないので、一体自分がどんなカッコをしているのかは、なってみないと分からない。

一体オレはどんなカッコになったのか。

ひとまずオレは、まず一番見やすいであろう両腕を、曲げて眼前に晒した。

「…………」

オレは予想外な腕の姿に、思わず絶句。代わりに心の中で叫んだ。

 

 

細っ! 小さっ!?

 

 

見るとオレの両腕は、現実世界の細身とは言えないが中肉のオレの体よりも明らかに細い。その上、両手なんかも一回りどころか二,三回りくらい小さいだろう。一体オレの体はどうなってるんだ? まさか陰気そうな骨みたいなやつじゃないだろうな!?

オレは慌ててあたりを見回して鏡を探す。と、そうすると頭の後ろがやけに振れる感覚を覚えた。おそらく髪が長い証拠だろう。え……髪が長い、だとっ。やばい、嫌な予感が電撃のごとく脳裏を走るんですけど!?

焦る心を落ち着かせる余裕もないまま、オレはぶるりと小さく震えた後、再度あたりを見回した。運よく全身を映せる鏡が、すぐ近くの壁の隅に立ててあるのに気が付いた。慌ててその鏡に近づいて、正面に立つ。

 

「な……」

 

己の全身を確認して、思わず二、三歩よろけた。

「え……えぇーっ!?」

よろけた後、思わずガッと乱暴に鏡の端を掴む。

 

鏡の中に映っていたのは……女の子だ。

 

背丈はどう見てもリアルのオレよりも小さい。髪の毛は黒に近い紫。さらりと長いその髪は、端上一五センチあたりをくくられてまとめられている。やわらかな箒のような形になったそれは、オレの動きに合わせて可愛らしく腰のあたりで揺れ、驚きに包まれている顔は白く、唇の紅を引き立たせている。

くりくりと大きく長いまつげを持っている両目の色は、髪と同じような色合いだった。

「っ!」

ばっと、オレは両手を胸のところに当てる。そこはどう触っても真っ平らで、女性の主張はなかった。少し落ち着いて自分のステータスを眺めみても、そこには『リィンナール』の文字の横に、ちゃんと『MALE』の文字が書かれていた。とりあえずは、こんなナリでも男らしい。

「……」

 

……さて、どうしたものか。

 

予想外……というよりも予想の斜め上をいかれた自分の姿に、オレは途方に暮れた。

いや、まあ陰気っぽそうなナリよりはましだけども……。これもなぁ。

一応姿が気に入らなかった場合の対処法もあるらしい。それは、課金して姿を再構成するというものだ。だが、課金にはあまり手を付けたくはない。しかも、不確定性の高い姿の再構成なぞ、気に入る姿を得るのにどれくらいかかるのか分かったものじゃない。

「……諦めるしかないかぁー」

はぁ、と細い溜息と一緒にでた声は、『男性』のものというよりは十二分に『オンナノコ』のものだった。

「もういいし。これで行くし」

やけっぱちに口をとがらせて言う。美少女なのが不幸中の幸いいやそもそも少女じゃねえし……とか言ってる場合じゃないっての。

 

オレは左手を軽く振ってメインメニューを開いた後、メッセージウィンドウを選択した。

「とりあえず長田に報告だ。えっとー、確かあいつの名前はレコン、だったっけ?」

宛先にレコンと打ち込み、メッセージ本文を書く。

『オレだ、鳴戸だ。とりあえずキャラを作ったぞ。結局インプにしたんだけど、お前は今どこにいる?』

送信した後、改めて自身の姿を見てため息をついていると、メッセージの返信が返ってきた。

『了解。インプね。分からないだろうから、こっちからそっちに赴くよ。行くのにそれなりにかかると思うから、適当に初心者クエでもやっておいて。ついたらまたメッセ送るよ』

 

『おーけー』とだけ送り返し、さて、とオレは奥にあるこの店のカウンターに目線を映した。カウンターの奥には、NPCの表示を頭上に掲げるダンディーなおっさんがいた。そのおっさんは、背中の薄い羽を時々ぴくぴく動かしながら、実に慣れた手つきでグラスを拭いていた。

「あのおっさんから最初のクエをするのか」

よく見ると、おっさんの頭上にはNPCの表示だけでなく、大きく『!』のマークが立っていた。この『!』は、そのNPCからクエストが得られるという証だ。

「あのー……」

「いらっしゃいませ」

てくてくとカウンターに近づき声をかけると、おっさんがこれまたダンディーな声でそう言った。すると同時に、視界の隅に受注できるクエスト一覧が表示された。最初のクエストにふさわしく、そこには実に要求レベルの低いものが並んでいた。

「ふむ。……とりあえず、一回戦闘してみようかな」

そうつぶやいて、オレは上の方にある『ケイブマウス討伐』というものを選ぶ。するとクエストを受注するかどうかの確認文が現れて、イエスを押す。するとNPCのおっさんが、最近あいつらが増えて困っているとか、そのような話をし始め、終わると視界の端にクエスト開始の文字が現れた。

 

「よし、行ってくるか」

意気揚々と足を延ばしかけたところで、オレはそういえばと装備ウィンドウを開いた。そして初期武器であるショートソードを具現化させる。

「うへ、やっぱ初期武器か……」

一、二回振ってみてその頼りなさにげんなりしつつも、オレは仕方なくそれを尻の少し上あたりに垂直に近い形でさす。

「まあ仕方ない。行こう」

そうつぶやいて、オレは歩を進め始めた。背中で揺れる長い髪に違和感を覚えながら……。

 

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