黒の剣士の妹分?   作:唄乃 奏

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第三話

「うっはぁー! こりゃ確かにいいな!!」

オレはぱたぱたと背中の羽を動かしながら、小さな森の上に吹き抜ける風を感じて歓喜する。

「フライトシステム。……確かに病みつきものだわ」

 

オレは今、町の外に出てクエストの真っ最中だ。何個かクエストを重ねた後、町の外でのクエストにぶちあたり、さわやかな空を拝んだ時にそういえばと、この飛行システムを思い出したのだ。

飛行には、二種類ある。左手で操作する飛行用のスティックを用いるか、あるいは高等技術である『随意飛行』を使うか、だ。勝手も何も分からないニュービーのオレが、『随意飛行』なんて出来るはずもないので、こうして左手で操作して飛んでいるわけだが、それでもひどく感動する。

 

「いつかは覚えたいな、随意飛行」

ぼそりとつぶやいて、試しに背中の羽を右手で軽く触ってみるが、右手の薄っぺらいなにかを触っている感触以外はなにも感じない。一応自分の背中から生えているが、まるで実感がない。こんなのでどうやって任意に飛びまわれるんだよ、とオレは心の中でため息をついた。しかしそう思うも、今は飛んでいるという状況だけで、オレは十分お腹いっぱいであった。

 

「ん?」

そうこうしているうちに、ポンと、メッセージが届く音がした。オレは飛行状態のままウィンドウを開くと、レコンから『インプ領の町の前まで来たよ。どこにいる?』というメッセージが届いていた。

「町の前、か。……よし、上から行ってやろ」

にししと口元に笑みを浮かべて、オレはすーっと町のほうに飛んで行った。すると、地上で戦闘をしているプレイヤーたちの姿が良く見えた。動きが拙いものもいたり、やたらとイカツイ装備のものもいて、一様にオレが頭上近くを通ると視線を投げかけてきた。領が近いだけあって、みんなインプだ。黒っぽい紫の羽を見ればよくわかる。

 

「……ん?」

空から観察していると、途中一人だけインプじゃない種族のプレイヤーを発見した。浅黒い肌をしており、黒の短めの髪はレイヤーが効いている。格好は黒のロングコートにぴっちりとした黒のレザーズボン。そして背中には片手用直剣用の黒革の鞘……と、全身黒で染め上げたスプリガンだ。

「確か、スプリガン領ってそんな近くはなかったよなぁ……」

うろ覚えの地図だが、確かインプ領は北にウンディーネ領、南にサラマンダー領を眺めるはずだ。スプリガン領は、ウンディーネ領のさらに北ではなかったか?

「お」

はて、とまじまじと問題のスプリガンを眺めていると、不意に相手がこちらを見上げてきた。そして一瞬警戒したように身構えたが、オレがただ飛行を楽しんでいることに気が付いたのか、すぐさまその警戒を解き、あろうことかぶんぶんと手を振ってきたではないか。オレは初の飛行体験の感動で気が舞い上がっていたので、普段なら無視するであろうところを、思わず大きく手を振りかえしてしまった。満足そうに笑顔をこぼすスプリガン。オレも小さく笑ってしまう。そのままオレは、そのスプリガンの上をすいーっと通り越していった。

 

「……いた、シルフだな」

そのまま少し飛行していると、お目当てであるシルフ族特有の緑色の羽を発見した。聞いた話だと、レコンはシルフらしい。実際にレコン――長田かどうかは、キャラ名が見えない以上分からない。……が、遠目に見ても分かる背の低い華奢な体に黄緑色のおかっぱ風の髪、そして下方向に下がる長い耳は、リアルの長田慎一の姿をどことなく彷彿とさせる。間違いなくあいつはレコン――長田だと確信したオレは、さっそく声をかけてやろうと操作スティックを押しかけたところで、ふと立ち止まった。

「……なんかあいつ、囲まれてない?」

よく見……なくとも、レコンは三人のインプの偉丈夫に囲まれている。そのなかで、ただ一人のシルフの彼は、オロオロと三人の間で右往左往していた。

「……なにしでかしたんだ、あいつ?」

考えられることと言えば、①レコンがインプ三人衆になにかしでかした。②インプ三人衆のほうがレコンにイチャモンつけてきた。③レコンが勢いでインプ三人衆にデュエルを……。

「③はないな」

そこまで考えて、オレは③の案件をさっさと切り捨てた。どう見てもそんな空気じゃないし。……だとしたら、①か②か……あるいは、まだ理由があるか。

 

「……っ!?」

宙に浮いたまま、まじまじと事の行方をうかがっていると、突然ジャキっとインプ三人衆のうちの一人が、腰の片手剣を引き抜いた。レコンはビビったのか、半歩下がる。

「……とりあえず、助けに行った方がいいな」

そうつぶやいて頷くと、オレはくくっと左手の操作スティックを動かした。そして下に降下するよう操作しながら声を張り上げる。

 

 

「そこのインプ、ちょっと待ったぁー!」

 

 

 

 

 

 

「あいつの友人ねぇ……一体どんなやつなのかしら?」

インプ領の町にほど近いところにある木々の陰。そこに一人のシルフの少女が潜んでいた。インプ領に近いので、異種族である彼女はいつ攻撃を吹っかけられてもおかしくない状況だが、彼女が使った高度な隠蔽魔法のおかげで、その心配はなかった。

「てか、あいつの友人ってことは……同じクラスの誰かってこと?」

長い黄緑色の髪をポニーテールにしたシルフ族のその少女は、さっきから一人の少年を付けていた。その少年とは、同じくシルフ族の友人で、またリアルでも同じクラスに所属している見知った人物、レコンこと長田慎一だった。

「一体誰かしら? 気になるわね」

木蔭に隠れたシルフ族の少女――リーファは、疑惑半分好奇心半分といった表情を浮かべたまま、ここインプ領までレコンを付けてきたのだった。

「しかもあいつ、さっそく厄介ごとに巻き込まれてるし……」

リーファがそうつぶやいたように、レコンは今三人のインプ族の男性プレイヤーに囲まれて、なにやら不穏な空気の只中にいた。

「助けに行ってもいいけど……あいつ変な気起こしそうだしなぁ」

なんとなく――でもないが、リーファは気づいている。レコン・長田慎一が、リーファ・桐ケ谷直葉のことを好いているということに。リーファ・直葉自身は、全然彼のことは好きでもなんでもないので、割と迷惑極まりなかった。

「んー、このまま見とくのもなんか悪いし。……仕方ない、助けに――」

 

 

「そこのインプ、ちょっと待ったぁー!」

 

 

木々から姿を見せようと隠蔽魔法を解きかけたところで、不意に頭上から高く、透き通った声が響いた。慌てて頭上を見上げると、一人のインプ族の少女が不慣れた手つきでスティックを操作しながら下りてきた。そして、おっかなびっくりといった様子で剣を抜いたインプとレコンの間に着地する。黒紫色の長い髪をしたその少女は、着地すると自分より頭一つ以上大きなインプ族の男性を見上げた。その顔は、ひどく幼いが、自身に満ち溢れている。

……だが、彼女の着ている服……というか装備は、どう見てもインプ族の初期装備だ。腰の下の背に差してある片手剣も、どうやら初期装備のままらしい。スティックの扱いも下手だったところを見ると、どうやらやり始めたばかりの初心者だろう。

「ちょっと、あの子一体どうするつもりよ――」

 

「お、思った通り面白い場面に遭遇したな」

「っ!?」

 

不意にすぐ後ろから声が掛けられた。ものすごい勢いでリーファは背後を振り返る。

振り向いた先にいたのは、全身を黒に染めたスプリガンの少年であった。

「お兄ちゃんっ!?」

リーファは驚愕の声を上げた。

「どうしてここに?」

するとリーファに『お兄ちゃん』と言われたスプリガンの少年――本名桐ケ谷和人、アバター名、キリトは「よっ」と笑いながら軽く手を上げた。

「なんかリーファがコソコソとレコンを付けてたからさ。これはオモシロソウだと思ってストーカーのストーカーを……」

「……あのね、別におもしろくもなんともないよ?」

実兄の行動に若干呆れつつ、実際は自分も似たような理由なんだよなと思い立ち、リーファは追及を避けてあたりさわりのない返事をした。

「じゃ、なんでリーファはこそこそとレコンを付けてるのさ?」

「ついでに俺にも隠蔽魔法頂戴」と付け足しながら、キリトは木蔭の陰にいるリーファ……の陰に隠れた。リーファのほうが背が低いので、キリトの方はあまり隠れられていない。

「あたしは……。なんか、今日レコンが『新しく《ALO》やり始めた友人を迎えに行く』とか言ったから、もしかしたらクラスメイトなんじゃないかって気になったの。もしそうなら、あいつ変なこと吹き込むかもしれないから、釘をさしとこうかと思って」

「信用ないなー、レコンも。少しは信じてやれよリーファ。好かれてるんだから」

「じょ、冗談じゃないわよあんなやつ!」

キリトの言葉に、リーファは隠蔽魔法をかけているにも関わらず割と大声をだした。「あんまり大声出すと隠蔽の意味ないぜ?」とキリトがカラカラと笑う。

 

「で、その『新しく《ALO》やり始めた友人』っていうのは、あの子のことか?」

ちらと、リーファの頭越しに木の向こう側……今まさに一触即発といった雰囲気を醸し出している集団の紅一点であるインプ族の少女を、キリトは眺める。

「……さあ? でも、インプ族って言うのは間違いないみたいだし、あの中で初心者っぽいのはあの子だけだから、そうじゃないかな?」

リーファが自信なさげに答える。答えたが……どうにも納得いかなかった。

 

リアルのレコン――長田慎一は、はっきり言って女子との接点が薄い男子だ。リーファ・直葉も、《ALO》の話を聞き出すまでは、会話ひとつしたことがなかった。その長田の友人だというから、てっきり男を想像していたのだが、あのプレイヤーはリアルと性別変更不可能な《ALO》のなかで少女の姿をしている。ということは、あのインプ族の少女のリアルの性別ももちろん女性であるはずだ。となると、長田には女の子の友人がいたのか。

「……ありえない」

失礼だとは頭のほんの片隅で考えたが、正直なところその言葉に尽きた。

「……ま、まあ、本人に確認を取ってみればいいんじゃないか?」

「……そうする」

ひどくムズカシイ顔で思案する妹に、兄であるキリトはささやかな助言を差し出した。

 

「でも、あの子どうするつもりなのかしら」

改まった口調でリーファが首をかしげる。

「まさか、デュエルするつもりなのかな?」

「……ぽい雰囲気だけどな」

断定を避けてキリトはそうコメントした。その後、ぽんとリーファの肩に手を置く。

「ま、いざとなったら顔を出せばいいさ。シルフの中で五指の中に入るリーファの顔を見たら、あいつらも尻尾巻いて逃げるだろうさ」

「なによ、人様をモンスターみたいに。お兄ちゃんのほうがずっとモンスター然としてるじゃない」

「いやいや、対面した時の怖さはリーファの比じゃないさ」

「……蹴りだすよ?」

「さ、様子見しようか」

旗色が悪くなったとみるや、キリトはさっさとインプ族の少女のほうに目線を移した。その変わりようの早さに、ひそかにリーファはため息をもらした。

 




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