黒の剣士の妹分?   作:唄乃 奏

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第五話

デュエルの始まりを伝える文字が出てすぐさま飛び出したオレだったが、それは男――グンナルも同様だった。

 

「ふっ!」

 

先に剣を突きだしたのはグンナルだった。水平に構えた片手剣を、ダッシュで得たスピードに上乗せして、空気を切り裂くような突きだった。アインクラッドの実装とともに正式に採用された『ソードスキル』というものであろうか。刀身が淡く光るその突きはオレの胴体目がけて撃たれている。この速さ、タイミングで放たれた一撃だ。胴にあたらなくとも、体のどこかに当たると算段したものであろう。

 

……悪いが、利用させてもらうぜ!

 

オレは小さく跳躍して、突き出された片手剣の腹に己の片手剣を叩きつけた。しかし、弾くことはしない。オレはそのまま剣を腹に添わせる。ガリガリとすさまじい音とエフェクトをまき散らしながら、オレの剣はグンナルの片手剣を流れる。

「っ――」

予想外の反応だったのか、グンナルは不意に突きだした剣を自分側に戻そうと試みた。だが、その前にオレの剣がガチンとグンナルの剣のつばにぶち当たり、一瞬オレは空中に投げ出される。

 

「はぁ!」

 

すかさずオレは、空中で一回転してグンナルの背面を薙いだ。上下が反転した視界の中で、オレはグンナルのHPゲージが、一割に満たないがほんの少し減ったことを確認した。その後くるりと空中で体をひねり、グンナルの背中を半身で眺めるような姿勢で着地した。オレの動きを辛うじて眼だけで追っていたグンナルは、驚きに口を半開きにしていたがすぐに後ろに回ったオレに向き直った。

「……驚いたな。嬢ちゃんホントに素人か?」

額に小さく冷や汗を流しながら、グンナルは信じられないものでも見たかのようにつぶやいた。オレはふんと鼻を鳴らして、軽く前かがみになり右手の剣を大きく後ろにためた。

「こういうのは、別のMMOでそれなりに場数踏んできたからな!」

言い終わると同時に、オレは地面を蹴った。初めのダッシュよりもさらに加速する。

 

「っく!」

 

グンナルは舌打ちをして正面から迎え撃つ構えを取った。

「食らえっ!」

「甘いっ!」

オレはダッシュの勢いのまま、右手に持った剣を大きく弧を描くように、横からグンナルを切りつけようとした。それにグンナルは、オレの剣目がけて自身の片手剣を振りあげて応戦した。ガツンという金属と金属がぶつかり合う鈍い音と小さくないライトエフェクトが、剣同士がぶつかった拍子に弾けた。さすがにレベルはないといっても、初期ステータスのオレの筋力では、大柄の見るからにファイターのグンナルの筋力にかなわないようだ。剣同士がぶつかった途端、オレの剣が腕ごと大きく弾かれる。多少腕に不快な感覚が走り、HPゲージが一割ほど減少したが、その上でオレは小さく口元に笑みを浮かべた。

こうなることは分かってたさ。

オレは一瞬片手剣を手放した。だが、決して握力がなくなってすっぽ抜けたわけではない。自分から手放したのだ。

 

 

右手で持っていた剣を、左手に持ち替えるために。

 

 

オレは前に踏み出していた左足をぐりっと九〇度内側に傾けた。そして上半身を右方向にひねって、手放して宙に浮かんでいる剣の握りを左手でしっかりとつかんだ。体にはまだ弾かれたときの反作用が残っている。それを利用して、オレは左足のかかとを軸にしてくるりとその場で一回転した。グンナルに一瞬背中を見せる格好になったが、大きく振り上げたグンナルはとっさに反応できなかったようだ。

 

「はっ!」

 

オレはその勢いで、がら空きだったグンナルの右わきを斜めに切り付けた。頑強な鎧に多少阻まれたが、打ち所が良かったのか初期武器にも関わらず二割程度HPを減らすことができた。

 

まだまだ!

 

オレはそこで止まらず、連撃にはいった。

切り付けて体の内側に向かった左腕を沈ませ、力をこめる。すると、持っていた剣が青紫色に発光し始めた。そうなると、体が勝手にスキルを発動してくれる。

片手剣スキル『バーチカル・アーク』。

何気なしにクエストの敵を蹴散らしているときに、偶然に発動させることができたスキルだ。

先ほど切りつけた軌跡をたどるように高速で切り上げ、その勢いで舞うように一回転し、回転で得た力を上乗せして左肩を大きく薙ぐ。一連の動作でグンナルの体に大きなV字の軌跡が描かれた。

 

このスキルを発動させた後、わずかだが体が言うことをきかなくなる。メニューウィンドウを操作して見つけたマニュアルによると、このスキルだけでなくすべてのスキルで、発動後は硬直時間があるらしいということを知った。スキルで決めないと相手に隙を与えてしまうということも。

オレはちらりとグンナルのHP表示を見た。ゲージの色は半分を切り黄色に変わっていたが、ゼロにはなっていなかった。あ、やべスキル使うの早すぎたな……と、内心ハラハラする。

 

……が、硬直が解けるまでグンナルはなにもしてこなかった。見るとグンナルはわずかに姿勢が後ろに反っていた。と、そこで重撃スキルは相手をのけぞらせる効果があるということもマニュアルに書いてあったなぁ、ということを思い出した。

 

 

「リィンナール、離れて!」

 

 

そこで少し離れたところから、レコンの声が響いた。反射的にオレは硬直が解けると横方向に大きく跳躍した。

 

「ベルデ・テンペスタ!」

 

直後に、レコンが魔法を発動させる。レコンが言い放つと、突然地面から先のとがった無数の木の根がグンナルを取り囲んだ。グンナルはようやっとのけぞり時間が終わったようで、慌てて羽を震わせ避ける姿勢を取ったが、間に合わない。無数の木の根は、数メートル上に伸びるとその後一気にグンナルに襲い掛かった。木の根が多すぎて、グンナルの姿が見えなくなる。

 

不意に、木の根の間から燃えるような光のエフェクトが漏れた。それが聞こえたところで、しゅるしゅると木の根が割と速いスピードで地面に戻った。木の根が取り囲んだ場所にあったのは、プレイヤーが死んだときに出る小さなゆらめく炎だけだった。

 

オレは地面に転がったまま呆然とその炎と、デュエルに勝利した際に目の前に出る『congratulation!』の文字を眺めた。

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