突然響く甲高い声。何事かと彼らのほうを振り返ると、なぜか知らないが驚きの表情を浮かべているリーファと目が合った。かと思ったら、彼女はレコンに食って掛かる。
「うそでしょ……どう見たって女の子じゃない!」
「ぼ、僕だって信じられないよ。で、でも実際そうらしいんだって」
「……あぁー。……ん?」
その会話から、一体何が話題になっているのか把握することができた。どうやらオレのアバターについてあれこれ言っているらしい。確かにこの姿はどう見ても小柄な女の子にしか見えない。『男友達の手伝いにきてたー』的なことを言ったとしたら、さぞ驚きだろう。
……それにしたって、驚きの度合いが大きすぎやしないか?
驚くのはオレ自身もそうだったから分からないでもない。むしろ驚いてくれるほうがいい。「なん、だと。……男の娘、キターー!」とかなんとか叫ばれるほうが怖い。
だが、口をわなわなさせながら指を刺し、「レコン近い、邪魔!」と片手間でレコンを蹴り飛ばすのは、いささか過剰だろう。……レコンが哀れでならない。
「どうしたんだリーファ?」
彼女の様子にキリトが疑問の声を上げた。
「え? あ、え、えっと……」
するとリーファは、何か言いたげに口を開くが、言い辛そうに口ごもる。
「……えっと、ちょっと確認したいことがあるの。リィンナールさん、ちょっといい?」
「キリト君はそこで待ってて」と言うと、リーファはオレに手招きをしてきた。オレは一度キリトに視線を送ってみたが、彼はリーファの意図がわかったのか苦笑を浮かべつつ肩をすぼめた。
「……えっと、なんですか?」
一体何を言われるのやら……。
戸惑いを覚えつつも、オレは恐る恐るリーファの元へ行く。当のリーファは、一度レコンの方に確認を取るかのように一度目配せをした後、ここに来て言い辛そうに口元をゆがめた。
「えっと……、ぶしつけっていえばぶしつけなんだけど」
「は、はぁ……」
「……君って、ホントに鳴戸君――、鳴戸鈴汰君……なの?」
「………………………………お?」
とりあえず何を言われてもいいように気は強く持っていたつもりだったが、予想の斜め上をいく言葉を受けて、オレは一瞬フリーズする。
き、聞き間違いじゃないよな。な、なんでオレのリアル名を……?
と、そこまで考えてオレはばっとレコンの方を振り向いた。このなかでオレのリアル名を知っていて当然なのはやつだ。考えられることは、レコンがリーファに情報を流した……ということ。
……にしては、リーファさんの反応が妙だ。『ホントに』なんて、リアルのオレ知ってて、このどう頑張ってもF(女性)型にしか見えない格好に疑問を持たないと言わないよな?
「……おいレコン、これは一体どーいうことだ?」
オレは詰問するようにレコンに言い寄る。するとレコンは「ははは……」と苦笑いを浮かべていた。
「えっと……。勝手にリアル名を言ったのは謝るけど、どうせこの三人はリアル知ってるからいいかなぁって……」
「リアルを知ってる……?」
言われてオレはリーファの方に目を向ける。するとリーファは決まりが悪そうに明後日の方を向いた。
「……あたしは桐ケ谷よ。同じクラスの」
「え……。き、桐ケ谷って……あの剣道部の?」
オレが確認を取るように言うと、リーファは小さく頷いた。
確かに、オレと同じクラスに桐ケ谷という名前の少女はいる。まぁ、三年生の冬で解散間近ではあるのだが……、とにかくうちのクラスには桐ケ谷直葉という剣道部所属の女子がいるのは確かだ。余談だが、同じ班になったことだってある。
「……えっと、マジで?」
だから知っているのだが、彼女はこういうゲーム――VRMMOをするような人物には思えないというか。聞いた話によると、彼女の兄があの《SAO》の虜囚の一人になっていたらしく、個人的にはVRゲームなどにはその影響から手を出さないのではないか、という考えを持っていたのだが……。そういえば、以前レコン・長田が桐ケ谷嬢になにか聞かれてた事件(長田と桐ケ谷の当時の接点の皆無さを考えると、そう言ってもいいほどの衝撃だった)が思い出される。もしかしたら、なにかそのときにあったのかもしれない。
「マジよマジ。そっちこそ、ホントに同じクラスの鳴戸君なの? ……どう見てもF型なんだけどそれ……」
「あぁ、間違いないよ。……この格好については、オレだって謎だわ」
懐疑的なリーファの物言いに、説明できるほどのものを持っていないオレは肩をすぼめてそう返した。
「まぁ、それが事実だったとしても……え、でもそうしたら鳴戸君大丈夫なの? 推薦進学組だったっけ?」
「…………」
説明ともいえない言葉になってしまったが、それでも一応納得いただけたのか、「ふぅん」と小さくつぶやいたリーファが、その次に発した言葉にオレはわざとらしく虚空を見上げ目を泳がせた。そして力なく口を開く。
「……数週間後には、普通にテストがあります」
そう、推薦進学組で卒業式などの登校日を除けばもう学校すらくる必要もない長田や桐ケ谷と違って、オレは今ひたすらに試験勉強をしている時期である。むしろ今まで積み重ねてきた勉強を整理して仕上げる時期であり、本来ならこんなことをしている時間は一切ない。
「それじゃあ、こんなことしてるヒマないじゃない!」
「お、おっしゃる通りで……」
リーファが目を見開き驚いた様子で発した言葉に、返す言葉もなくオレはうなだれる。
「ま、まぁ今日は勢いというか……。その、宣伝見てついつい我慢できなくてさ。とりあえずは満足だから、試験終わるまでは入らないようにしたいところだけど……」
しかし、顔を上げ言い訳がましくオレはそう言った。だが、後半の方は全然言葉に力がない。自信がない証左である。オレ自身始めたばかりのゲームをひとまず置いて勉学に励めるわけがないよなぁ……と半ば悟っている。
で、でも仕方ないじゃないっ。あんだけそこらで宣伝されたら気になって夜も眠れないっての! オレは悪くない。悪いのは世間だ!!
……とまぁいくら心中叫んだところで状況に変わりはない。再度オレはうなだれる。
オレのその様子に、リーファとレコンは顔を見合わせた。
「……ま、まぁほんの数週間の辛抱だから! 顔見知りの好だし、フレンド登録だけでもしとく?」
場の空気が重くなるのを嫌がったのか、慌てて体の前で両手をぶんぶん振り、努めて明るい声を出したリーファ。彼女はそこから両手の振りを一度落ち着かせると、手元で何かを操作し出した。すると、オレの視界の前にリーファからフレンド申請が届いたというメッセージとともに、承認如何のボタンが現れた。オレは一瞬ほうけた様にそのウィンドウを眺めていたが、とりあえず承認ボタンを押した。そうするとウィンドウは『リーファ様をフレンドとして登録しました』と言う言葉を残して消えていった。