黒の剣士の妹分?   作:唄乃 奏

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第九話

「……話はついた?」

 

リーファのフレンド認証を確認していたタイミングで、キリトが声を上げた。今までオレたちのいるところから若干離れたところでやることなさそうに辺りを見回したり、手元を操作していた彼はゆっくりとオレたちのほうへ歩み寄る。

「んーまぁ、一応」

するとフレンド承認のウィンドウを確認していたリーファが、ウィンドウの消滅と同時に腰に手を当ててキリトにそう返す。その言葉に「それはなにより」とキリトは肩をすぼめる。

 

「で、これからどうしようか?」

と、キリトがメニューウィンドウを開きつつ言葉を発する。

「今が十九時ちょっと前ってところだから……、一旦夕飯にするべきかもな」

それだけ言うと、キリトは腕を払いメニューウィンドウを消した。どうやらウィンドウを開いたのは現在時刻を確認したかっただけらしい。確かに、メニューウィンドウにある現在時刻を確認しないと、この世界では時刻の把握はできない。なにせ今だって、現実世界では十九時ということからもうあたりは真っ暗だろうが、ここ《ALO》の世界はほぼ真昼間の明るさだ。森というほど木が密集しているわけではないが、林と言えるほどにはちらほらと木々が連なるこのあたりは、木漏れ日がまぶしく降り注いでいる。

「あぁ、もうそんな時間になるんだ」

キリトの言葉に、リーファが「んー……」と口元に手を当てて首を傾けながらうなる。

「……確かに、一旦そうしようかな」

やがて思考に整理がついたのか、こくんとリーファはうなづいてそうつぶやいた。

 

「あたしは近くの中立領の町にとりあえず行くけど、おに……キリト君はどうする?」

羽を震わせ、ふわっとその場でホバリングし始めたリーファは、なにか一瞬言葉をかんだが、キリトのほうを向いた。それにキリトは片手をひらひらと振る。

「いや、俺はウンディーネ領の手前の町まで行くよ。先に落ちててくれ」

「そっか……分かった。それじゃ、先に行くね!」

一瞬……ほんの一瞬だけだったが、リーファはどこかさびしげな表情を浮かべた。だがその変化は、もしかしたらオレの勘違いか? 程度のものであり、当のリーファすぐに大きくうなづくと、運動部らしい元気な声を上げたのち、しゅんっと甲高い音を立てて垂直に上昇していった。木々の影響で、彼女の姿はそこで見えなくなる。一部始終を見ていたオレは、はたと気がつくことがあった。

 

……さっきの、コントローラー出してなかったよな? 桐ヶ谷のやつは随意飛行を覚えてるのか! すげえ。

 

高等技能である随意飛行は、習得がかなり困難だと聞いたことがある。まあもしかしたら、情報のソースがレコンであることから、少しくらい盛られているのかもしれないが。というのも、レコン――長田の運動神経はあまりよくはない。故に自分の動きがそのまま反映されるようなこういうVRゲームでも苦労しているんじゃないかなぁと勘ぐっちゃうわけだ。

 

「あっ、リーファちゃん!?」

 

そしてそのレコンは、数瞬遅れて上を向いて情けない声を上げる。だが、その声はリーファには届かなかったようだ。向こうからの反応が一切ない。それに気づいて明らかに肩を落とした彼の様子を見るに、どうやらレコンはリーファについていきたかったようだ。もう手遅れだが。

 

「……さて、俺もそろそろ移動するよ」

レコンの動作が一段落したところで、キリトがそうつぶやいた。

「あ、はいお疲れさま」

レコンから目を離し、キリトに向かってそう言うと、彼はゆるやかに飛び上がるが、数センチほど浮いたところでホバリングを維持したまま立ち止まった。

「まぁ、パーティ組む機会があるかどうかは分からないけど、今後よろしくな」

「こっちこそ、色々と聞かせてもらうと思うよ。全然わかんないから」

ふよんふよん浮いているキリトを眺めつつ、オレは苦笑いを浮かべる。始めてまだ数時間しか経っていないオレには、当然だが圧倒的に情報が足りない。育成の方針や消化しておきたいクエスト、所持しておきたい重要なアイテムがあるか、など聞きたいことは山ほどある。レコンももちろん情報源としてなりうるが、他方からの情報があったほうが信憑性も増すし、新たな情報だって得られやすい。

 

「……あと」

 

と、別れ際の会話はそれで終わりかと思っていたが、キリトが再び口を開いた。改めて意識を戻すと、彼は身じろぎで背中に刺している身の丈ほどもある大剣を鳴らし、そしてその顔には、不敵な笑みが浮かべられていた。

 

「いつかデュエルしようぜ」

 

本日二度目のデュエル予約である。まったくどいつもこいつも、どうしてこんなに血の気が多いのか。

まあ、それはオレにも言えることなんだけどな。

 

「……もちろん、受けてたつぜ」

 

お返しとばかりに、オレも口元に笑みを浮かべながらそう返した。もちろん、すぐには無理だろう。キリトの装備がどれほどの性能のものか分からないが、少なくとも初期装備なんか目じゃないほどの性能なのは間違いない。お互い公平に、そして全力を尽くせるデュエルがしたいのなら、キリトが装備のランクを下げるのではなく、オレのほうが並び立つくらいの装備をしなければならない。装備ランクを下げて行なうデュエルには、消化不良というか、不満が募るだろうことは目に見えている。

そのためにも、早く勝手を覚えて強くならないとな。

オレの浮かべた不敵な笑みを見て満足したキリトが飛び去った方向を見上げながら、オレは心中で意欲を高めていた。

 

 

 

 

 

リーファ、キリトがログアウトするために飛び去った後、オレとレコンも同様に夕食の時間だからと、一旦ログアウトすることになった。オレは始まりの街でもあるインプ領の街へ、レコンはインプ領に程近い中立領の街へ飛んだ。

 

「ふぅー……」

 

現実世界に戻ってきたオレは、頭に取り付けていたアミュスフィアをはずし大きく息を吐いた。

「まだまだ序盤の序盤だが、楽しいね《ALO》!」

記念すべき最初のログインは、総じて楽しいものだった。ほどほどにクエストをこなし、一足飛びなのだろうがデュエルも経験した。以前やっていた海外産のVRゲームが封鎖されてからほんの数ヶ月程度のはずだが、VRゲームの極上の『楽しさ』を忘れかけていたらしい。

「まぁ、なんかアバターが男の娘だわいきなりリアル割れするわ……予想外なこともあったがな」

そう自嘲げにつぶやきつつアミュスフィアをベッド横の棚にしまうと、オレはぐっと伸びをしてベッドから離れた。

 

「鈴汰ー、ちょっと」

 

と、そこで階下から母親の呼ぶ声がした。夕飯が出来たから降りて来い、ということだろうか。

「んー今行く」

タイミングばっちりだな! と内心ほくそ笑みつつ、オレはそう言って部屋を後にし階段を下りた。

 

「鈴汰」

 

階段を降りると、すぐ目の前に母親が立っていた。

「あ、母さん今日の夕飯は……」

意気揚々と本日の献立を聞こうとしたオレだったが、言葉を飲み込む。目の前の小柄な背丈をしている我が母親が、なにやら辛気臭そうに眉をひそめていたからだ。

「鈴汰」

「え、あ、はい」

再び、母親はオレの名前を呼ぶ。一体何を言われるのか見当がつかなかったオレは、ただただ気圧されたようにそういうしかなかった。

その母親は、じっとオレを見つめながら口を開いた。

 

「さっき、担任の先生から電話があったの」

 

……すげえ嫌な予感がする。

オレは一介の中学生である。しかもそれだけではなく、プラスで『受験生』という肩書き付きだ。そして今現在、数週間後に本試験を臨む身分でもある。

この状況と、この母親の厳しい目つき。そしてここで出てくる担任の先生という単語……。オレの脳内で、ある流れと言うか……オチが思い浮かんだ。

その流れとは――

 

 

「あんた、試験終わるまであのゲーム機没収ね」

 

 

見事に、母親がオレの考えどおりの台詞を口に出してくれた。

 

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