「...ん」
闇に突入し、どれだけの時間が経ったのか。少女にその記憶はなく、肌に冷たい感触を覚え目を覚ました。
辺りは石でできた狭い小部屋のような所で、冷たいと感じたものは地面に直接倒れていたせいだと少女は理解した。感覚があり、決して夢ではないと悟る少女には、小さく空いた天井から見える微かな光も、心を照らすには程遠いものだった。
目の前には鉄格子の扉がある。しかし鍵がかかってあり、壊すにも手ぶらの少女には荷が重過ぎた。一通り策を考えたが、闇へ入る際持っていた箒も魔法道具もなく、結果目を閉じ座り込むことしかできなかった。
どのくらいそうしていたのか。退屈とわずかな空腹に嫌気が指した時、少女はどこからか声を聞いた。すぐさま目を開き扉を見たが、何の影もない。残るは小さな天井だがーーーそこに人がいた。
兜を被ったその者は、突然こちらに何かを放り投げてきた。驚く少女がそれに目をやり、文句を言おうと見上げたが、そこにはただ光が見えるだけだった。
抑えきれない不満をなんとか堪えながら、落ちてきたものをよく観察する。ーーーミイラか、と少女は結論を出したものの、それだけではこの状況を打開することにはならない。ここに落としてきたのにも何か理由があると、藁にもすがる思いでミイラに近づく。すると、鈍く光る物が目に入った。
「鍵だ!」
目の前にある扉のものと決まったわけではないが、他にすることもないので鍵へと手を伸ばした。そこで少女は、自分の体に更なる異変が起きていることを知る。
「うげっ、なんだこのしわくちゃな体は・・・!」
先程までは目覚めたばかりということもあり、あまりはっきりとしていなかったが、驚きで目がよく活動している今なら少女の体がミイラのようになっていることがよくわかる。そこの動かぬ者のように。
自分の体に戸惑いを感じながらも、鍵穴にそれを刺すとしっかりと回すことができた。閉鎖された空間から解放されたので少しは気が楽になる少女だが、その頭にはやはり不安があった。
兜を被ったあの人どうに文句を言おうか、またどう感謝を言おうか悩みながら歩いていたら、あることに気がついた。少女が入っていたような小部屋に、ミイラのような者たちが閉じ込められていることだ。
小部屋以外にもその者たちはいたが、座り込んで動かなかったり、嘆くようにあらぬ方向へ頭を振っていたりと、みな心ここに在らず、という言葉がぴったりと当てはまるようだ。
彼女を気にするような者は全くいない。不気味に思いながらも、壁に掛かった梯子を昇りきるとそこには大きな扉があった。
「おお、大きいな。開けてくれと言わんばかり、ってやつか」
大きな扉自体は幻想郷でいくらでも見てきた。少女にとって特別なわけでもないその扉へ向かう際に、一つの存在に目をやる。
「・・・篝火、か?」
剣が刺さった特徴的なその篝火は、少女が手をかざすと炎を取り戻した。まるで少女を待ち望んでいたかのように。
何気なく、軽く火に当たろうかなという考えで手を伸ばしただけであったが、少女はしばらくその場を動かない。その火が与える暖かさは、不安な心を燃やしいくらかの安堵をもたらしたからだ。
美しく揺らぐ火をいつまでも見ていたい気持ちになったが、先程の者に会うために残念だが少女はそこを後にした。
「さて、どんな景色が待ち構えているのかな、っと・・・重い」
少女より大きいその扉を小さな体で精一杯押すと、かなり開けた場所に出た。
「私を閉じ込めるならこういう場所のほうがいいと思うな、やっぱり」
あんな場所じゃ苔が生えるぜ、と悪態をつく少女はまた現れた正面の大きな扉へ向かって歩き出す。
ーーーそれを待ち構えていたのか。そのモノは突然姿を現した。
少女の上から。
「な、なんだ?!」
咄嗟に後ろへ飛び跳ねたものの、その姿に驚きを隠せない。少女の何倍も大きい「それ」は、少女を叩き潰そうと手に持った棍棒を振り回した。
慌てて逃げる少女は、回りを急いで確認する。
弾幕か?いや、あんなのに勝てるわけがない。ましてや魔法すらないのに。ーーー隠れられる場所はないか。いつの間にか入ってきた扉は閉ざされている。
しかしそういった考えも、次々と襲う「それ」によって邪魔される。
「くっそー、一か八かだ!」
広い部屋の隅へと追いやられた少女は、その巨体に向かって走る。当然その行為を咎めるために、「それ」は棍棒を振り上げ、少女目掛け叩きつけた。
間一髪で「それ」の足元をくぐり抜けた少女は、入ってきた扉とは別の大扉へ向かう。
「なんでだよ、開いてくれよ!」
固く施錠されたその扉に絶望を覚えながら、少女は後ろを振り返る。どこか余裕すら感じられる足どりの「それ」は、ゆっくりと少女へ近づいてきた。
魔法さえあれば、こんなやつーーー近づいてくる死期を目の前に、ふと楽しかった幻想郷を思い出した。弾幕ごっこと呼ばれる勝負を楽しんだり、神社で人も妖怪も混じった宴会をしたりーーーこれが走馬灯か、と思いながら現実を見る。やはり、巨体がこちらへ近寄ってくるだけであった。
絶望で動かなかった体だが、楽しかった幻想郷へ戻るために、そしてこの体の謎を知るまでは倒れない。そう、倒れることなんてできないーーー。その思いが少女に小さな力を与えた。
「いつでも来い・・・ん?」
その巨体に目が行き過ぎて、今まで気がつかなかったが、右手側に小さな穴が、道が見える。何故気付けなかったか自分を呪いながらも、少女はそこへ向かい全速力で走った。
「頼む、こっち来るなよ・・・来ないで・・・!」
開いた距離を持て余して近づいていた「それ」は、咄嗟の行動に対処できず、棍棒を振りかざすが間に合わない。
狭い道をまだ走り、少女はなんとかその場を切り抜け、再び目にした篝火に安心感を得ながら座り込んだ。
「やれやれ、だぜ・・・」