推しの飯/絶望の未来から転生した戦士 作:Miurand
Lemonと推しの子の親和性が高過ぎる件。
あと、先ほど未完成なのに誤って投稿してしまいました。申し訳ございません。今回はちゃんと完成品でございます。誤字脱字はあるかもだけど()
有馬の提案によって、悟飯の頻繁な外出は家族達に怪しまれることはなくなった。しかし、有馬による演技指導は1年近く経った今でも続いている。
平日は幼稚園に通い、空き時間にイメージトレーニング等の修行。怪しまれた際は勉強。休日は、有馬の演技指導だったり、カカロット達との修行だったりと、悟飯は大忙しだった。
1年近く修行したことにより、エメ達は格段に成長していた。
エメの戦闘力は、おおよそ20万ほど。カカロットはそれに少し劣る18万。ラディッツは10万ほどにまで成長していた。
ラディッツ一人でも、ギニュー隊長以外ならギニュー特戦隊を壊滅に追い込めるほどにまで成長した。
だが、スカウターのように客観的に自分の強さを見る手段がなく、具体的にどれほど強くなったかまでは正確には分からなかった。
一方で、有馬による演技指導による効果は、実戦時には現れていない。というのも、悟飯は基本的に演技をしたり、嘘をつくということは苦手である。ただでさえ苦手なことを、戦闘時に実行するのは至難の業だ。
だが、ただ演技するだけならそこそこ結果を出しつつある。まだ芸能界で仕事はしてないものの、有馬の評価的には、脇役程度なら問題ないとのこと。ただ、悟飯の苦手意識を払拭できない以上は、役者を本職とするのは厳しいだろう。尤も、本人は仕事にする気はないのだが。
「あっ、カカオさん!またエメと遊んでくれたの?良かったらウチでご飯食べていきなよ!」
「あっ?」
そして、この1年で変わったことがある。カカロットがエメを家まで送る際に、アイがご飯に誘うことである。アイとしては、日頃からエメの面倒を見てもらっている大人として、一定の信頼を置いており、何の打算もない、ただの善意から来る誘いだった。
カカロットは最初こそ警戒したものの、結局は腹の虫に負けていただくことにした。
『……美味え』
ただの美味しい食事ではなかった。彼の母親、ギネが作ってくれた料理に似た温かさを感じた。ただ美味なだけの食事なら、フリーザ軍にいた時も何度も味わった。だが、こんなにも心が温かく感じる食事は久方ぶりだった。
『これは、お前が作ったのか?』
『うん。そーだよ?』
『……また、食ってもいいか?』
『もちろん!いつもエメの面倒を見てもらっているからね!』
というようなやり取りがあり、今はこうして星野家の食卓の常連と化していた。最初はその口の悪さから、アクアとルビーには無茶苦茶警戒されていたものの、今ではただの口が悪いだけのツンデレお兄さんという認識になっている。だが断じてツンデレではない。(客観的な事実)
「やっぱりお前の飯は美味えな」
「えっへん!私ってば、料理の才能もあるのかな?」
「思い上がるなよ小娘」
カカロットとしても、地球人の施しを受けるのを快く思っていなかった。だが、アイとその家族を見ると、どうしても自分の幼少期を思い出してしまった。その為、悪くないなと、サイヤ人らしくもなく、居心地良く感じていた。
「ところでさ、いつもエメと遊んでくれているみたいだけど、何をしてるの?エメは恥ずかしがっているのか、あまり教えてくれないんだ〜」
「!!?」
「うわっ!?エメ大丈夫!?」
「落ち着いて食えよ」
予想外の質問に、エメの方が咽せた。カカロットが正直に答えてしまえば、エメが心配され、修行が続行できない可能性がある。それだけはなんとしても避けたいところだ。
「ちょいと護身術を教えてやってるだけだよ」
「えっ?」
「てめぇらを守ってやりたいんだとよ」
「えっ?そうだったの?」
「な、何を言っているんだ!?」
カカロットは嘘をついたつもりはないし、事実を告げたつもりはない。ただテキトーに伝えたに過ぎない。それ故に、アイに嘘だと見破られることはなかった。
また、エメは戦士バレをすることを恐れて声を少し荒げたものの、ただの照れ隠しだと誤認され、アイ、アクア、ルビーの3人から愛でられる始末だった。
「エメは偉いね〜。でも無理だけはダメだよ〜?いざという時はママが守ってあげるからね〜」
「はっ……!!もしや、親孝行をしてママに好かれようと……!!?」
「エメに限ってそれはないだろ(やるとしても無意識に親孝行しそうだけどな)」
そんな光景をカカロットはただぼーっと観察する。流石に毎日とはいかないが、割と頻繁にこの光景が見られるようになった。
だが、カカロットの何気ない一言によって、エメは修行しやすくなった。しかし、エメとしては複雑な気持ちだった。
「最近、アイさんの料理を食べて幸せそうにしているよね」
修行の合間に、悟飯はカカロットにそんな話を振った。
「あっ?なんだいきなり?」
「いや、なんというか、サイヤ人らしくないなって思っただけだよ」
「……まあ、親が親だったからな。そりゃサイヤ人として異端だとしてもおかしくはないだろうよ」
カカロットと一時的に同盟を組んでからというもの、ラディッツも含めて地球人を無闇に殺すことは全くなかった。それは自分との同盟関係を維持するためのものだと思っていたが、最近はそうでもないのではないかと考えている。
カカロットは、戦いを楽しみたいだけで、相手を殺したくないのではないか?少なくとも、殺すという行為を好き好んでいるわけではないことは分かる。
それに、自分達星野家を見るカカロットの顔は、やはり悟空を連想させるような、優しさを感じる表情だった。本人に自覚は全くないらしい。つまり、無意識にその表情を出していることになる。
「あいつの飯は、なんというか、母ちゃんの飯を思い出すんだよ。だから、なんだ?ただ美味いだけの飯よりも美味く感じちまうんだよ」
「……そうか」
「おい、笑うんじゃねえ。ぶっ殺すぞ」
サイヤ人がそんな台詞を述べたと思うと、悟飯は思わず頬が緩んでしまった。サイヤ人にも、ちゃんと家族想いの人がいるのだと分かると、心が温かくなった。
「ちっ。そんな無駄話をする為に休憩時間を取ったのか?ならとっとと本題に入らせてもらうぞ」
カカロットは恥ずかしくなったのか、はたまた悟飯が微笑むのが気に食わないのか、強引に話題をすり替えた。ちなみにラディッツは今日もカカロットにこってり絞られたため、少し離れたところで休息を取っている。
「さて、俺達は1年前に比べてだいぶ強くなったはずだ。だが、フリーザを倒すレベルにまでは至ってねえ。多分な」
スカウターという、客観的に自分達の強さを計測する装置がない以上、明確な強さは分からないし、比較もできないので、どこまで強くなればいいのか分かりづらい。だが、それでも、自分達はまだフリーザを倒せるレベルではないことはなんとなく分かっていた。
「しかしだ、フリーザの側近や、ギニュー特戦隊とはいい勝負ができるはずだ。いや、もしかしたらそいつらは余裕かもな」
実際、カカロットは18万。エメは20万、ラディッツは10万と、最早フリーザ以外の軍の者を相手にする場合は過剰戦力と言っても申し分はないので、カカロットの言動に間違いはない。
「だが、フリーザをぶっ殺しに行こうにも、移動手段がねえ。あるのはラディッツが乗ってきた一人用のポッドだけだ」
カカロットかラディッツのどちらかの大人のサイヤ人と、子供のエメなら乗ることはできそうだが、それでも二人だ。カカロットとしては、できれば全員で戦いに臨みたかった。
「じゃあどうするんだ?この星には宇宙船を作れる科学力はないし……」
「いや、ラディッツの宇宙船を使えば呼び出すことはできる。とはいえ、フリーザ達をここに呼び出すのは得策じゃねえ。だから、俺と同じサイヤ人の生き残りをここに呼び出す」
それはつまり、ベジータとナッパを地球に誘き寄せるということだ。
「……!!」
「……こいつは」
タイミング良く巨大な二つの気を感じ取った。
「この気は、まさか……」
「ああ。俺達の同胞のご到着のようだぜ。丁度いいじゃねえか」
悟飯の記憶が正しければ、この気はベジータとナッパのもの。この時のベジータは同じサイヤ人だからと言って、決して仲間思いというわけではなかった。もしかすると、カカロットを倒した地球人に興味を抱いたのかもしれない。とすれば、街に多大な被害を出す可能性がある。
「この位置からして……。人のいないところに着陸しそうだな」
「ならお前としても不都合はねえな。おらラディッツ。休憩は終わりだ」
「そのようだな……」
3人はベジータ達が着陸するであろう土地にまで移動し、数分待機した。すると、宇宙船が見えてきたかと思えば、あっという間に大気圏に突入し、地面に落下した。宇宙船が着陸した部分には、大きなクレーターが出来上がった。まるで隕石が落下したかのような惨状だ。これが街だったら大惨事である。
球型の宇宙船の扉がゆっくりと開き、そこから二人の人間と思わしき人影が姿を現す。その二人の容姿は、悟飯の記憶と一致している。間違いなくベジータとナッパだった。
「よう、カカロット。まさか生きているとは思っていなかったぜ」
「俺は運がいい方なんでな」
「貴様は地球人如きに負けたと聞いたが、まさかそのガキにか?下級戦士の筆頭も堕ちたものだな」
ここでカカロットの顔に青筋が浮かび始めた。潔く負けを認めたものの、それを他人に指摘されると流石に苛立ちを覚えるようだ。戦闘民族としては、できるだけ敗北したという事実を公に晒したくないものなのだろう。
「はははっ!!てめぇこそ、いつまで奴隷でいるつもりなんだ?サイヤ人の王子ともあろうものが、無様なもんだぜ」
補足しておくと、カカロットは仕事こそ卒なく熟していたものの、上部の忠誠心すらなかった。だが、ベジータは上部だけでも忠誠心があるように取り繕っていた。これは来る時が来るまで、できるだけフリーザの機嫌を損ねないようにするための自衛手段だった。
だが、それを他人に指摘されると苛立ちを感じる。自覚しているからこそ、余計にタチが悪かった。
「貴様はなんだ?地球人の奴隷にでもなったのか?それとも、ガキと仲良くおままごとでもしているのか?」
「馬鹿言えよ。てめぇらが宇宙船の中で呑気に寝ている間に、俺達はこいつを利用してトレーニングを続けていたんだよ」
それを聞くと、ベジータは急に真剣な顔つきになった。カカロットとベジータによる煽り合いが繰り広げられるのかと思っていたナッパとベジータは、取り敢えず修羅場は回避したと安堵した。
「……その地球人と?何を企んでいやがる?」
「そいつを今話すわけにはいかねえな。まあ、俺の成果をそのスカウターでよーく見やがれ」
そう言われた直後、ベジータがスカウターを操作して戦闘力を計測した。結果は、エメが5、カカロットは8、ラディッツは10と、散々な結果だった。
「ふはははっ!!!随分と堕ちたものだなカカロット!!!戦闘力8だと?軍の雑魚兵士にも満たない戦闘力じゃないか!!!」
あまりの落胆ぶりに、ベジータはただひたすらに高笑いをあげる。ナッパも自身のスカウターで計測し、同じ結果が出ては馬鹿にするように笑う。するとカカロットは不適な笑みを浮かべると同時に、静かに笑い出した。
「どうした?何がおかしい?」
「ラディッツ。見せてやれよ。今のお前のフルパワーを」
「ああ……」
そう言うと、ラディッツは徐々に気を高めていく。スカウターの数値は1000、2000、4000、8000と、徐々に上昇していく。以前のラディッツの戦闘力は1500だと認識していたベジータとナッパは、驚きのあまり声が出ない状態だった。
そして、最終的には、戦闘力30000程度を計測したところで、キャパオーバーで爆発した。
「ば、馬鹿な……!!あの弱虫ラディッツが、戦闘力30000超えだと……!?きっとスカウターが故障していたに違いない……!!」
「ほう?この程度でも30000はあるのか。とすると、俺のフルパワーはその倍以上になるな」
「な、なんだと……!?」
「スカウターの故障なんかじゃねえさ。俺達はこの小僧に戦闘力のコントロールを教わったんだよ。だから戦闘力が低く表示されたんだよ」
混乱している二人に、カカロットが懇切丁寧に説明するが、二人は、特にベジータは納得していない様子だった。スカウターの数値が正しいと認めてしまえば、今まで弱虫と見下してきたラディッツに圧倒的な差をつけられた上で追い越されたことになる。ラディッツでこれほどなのだから、カカロットと地球人の子供はそれ以上だろう。
ベジータが頭が良く、プライドが高かった。そして、自分が王子であることと、サイヤ人の中でもトップのエリートであることを誇りに思っていた。だからこそ、尚更認めるわけにはいかなかった。
「ったく、しょうがねぇな……。ラディッツ、思いっきりやっちまえ。今までお前を弱虫と見下してきた奴らを見返してやれ。下剋上の時間だぜ」
その言葉を合図に、ベジータとラディッツの戦いが始まった。
だが、戦いと呼ぶのは難しい展開になった。
戦闘経験だけなら、まだベジータの方に按配が上がったのだが、それ以外の主にスピード、パワーに関してはラディッツが圧倒的だった。いくら経験が豊富だろうと、戦闘力に大きな差が生じていては、生まれながらに天才と評されていたベジータでも勝利を収めるのは非常に困難だった。
そして、ラディッツもこの戦いを機に自信を身につけることになる。自分は下級戦士だから、強い相手には敵わないという先入観があったからこそ、強者相手には逃げ続けていた。強者はナッパやベジータに任せればいいという考えだった。だが、今はベジータを自分の手で負かしている。その事実に、自分もまた、ちゃんと戦闘民族だったことを再認識した。
あまりにも一方的な勝負に、悟飯はベジータに同情してしまった。前世の時と同じ性格ならば、きっとこのベジータも強さに執着がある。今まで自分より下だと思っていた者達が、突然圧倒的な差を見せつけてきた時の気持ちを考えると、流石に同情せざるを得ない。
「あ、ありえん……!!俺が、この俺がラディッツ如きに……!!」
ベジータは、認めたがらない。あれだけ前線に立つことを拒んできたラディッツが、自分より強くなっているなど。自分より戦闘経験が浅く、臆病なやつが強い戦闘力を持っているという事実に。
「何故ラディッツがここまで強くなれたか、分かるか?」
「……」
カカロットの問いかけに、ベジータは沈黙する。なんとなく分かっているが、口に出したくない。そんな様子が見て取れる。
「俺は初めて地球に訪れた際に、この小僧と戦った。そして敗北した。だが俺はこいつと実戦形式のトレーニングをすることによって、戦闘力を飛躍的に伸ばせるんじゃないかと考えた」
ベジータとカカロットは、同じ強者と言えども、決定的な違いがあった。
ベジータは、生まれた当初から持て囃された。潜在能力は優秀で、当然のようにエリート扱いされた。実際、幼少期の時点で、父親のベジータ王の戦闘力を上回っていた。そんな環境で育った彼は、自分はエリートであること、戦闘民族であることを誇りに思っていた。故に、エリートとしてのプライドがある。
だが、カカロットは下層からのし上がった戦士だ。戦闘民族としての誇りはあれど、エリートとしてのプライドというものは存在しない。故に、敗北してもすぐに相手の強さを認め、良い部分は吸収しようとする。そういう素直な性格だからこそ、下級戦士でありながら、ここまで成長したとも取れる。
「こいつとトレーニングすれば、フリーザをぶっ殺すのも夢じゃねえ。お前だってフリーザをぶっ殺してえんだろ?」
「なっ……!!」
カカロットの言葉を聞き、ナッパが驚きながら、ベジータの方に顔を向けた。
「……確かにな。サイヤ人の王子ともあろう者が、いつまで経ってもフリーザの野郎にこき使われるのは気に食わん」
ベジータは、フリーザ軍に所属してから、常に考えていた。どうすれば自分はフリーザを超え、宇宙の頂点に立つことができるのかを。
ベジータの今の戦闘力は、約24000。少し前までは18000だったが、カカロットの戦闘力が15000を超えたことを知った辺りで、自分も負けてはならないと対抗心を燃やし、自己研鑽をしていた。
それによって、多少の成長は達成した。
しかし、それでもフリーザの53万には程遠い。伝説の超サイヤ人に覚醒できれば話は変わるかもしれないが、成り方など分かるはずもない。そう簡単に成れるものが、伝説として語り継がれるはずがないのだ。
しかし、弱虫と見下していたラディッツが最低3万。1500だった彼が、僅か1年弱でこれほどまでに伸びたのだ。実際にはもっと伸びているが、ベジータ達は気の概念を理解していないため、スカウターがないと戦闘力を測ることはできない。
ラディッツが成長したのは、地球に来てからなのは間違いない。そこにいる地球人の子供が関わっていることくらい、想像することは容易い。
「なら話は早いぜ。この小僧も俺も、お前もフリーザを倒そうとしている。利害が一致してるんだよ」
「その地球人と協力しろということか?」
不機嫌そうにそう言う。恐らく、プライドが地球人と協力するのを許さないのだろう。
だが、ベジータは賢い。単独でフリーザに挑んでも勝てるわけがないし、一人でトレーニングするより、実力が近い相手がいる状態でトレーニングした方が、遥かに効率がいいのは理解している。
「……ふざけるな!!何故俺が地球人と協力しなければならん!!俺はサイヤ人の王子、ベジータ様だぞ!!貴様らの手など借りずとも、フリーザの野郎は俺様の手で葬ってやるッ!!」
しかし、提案者が気に食わなかった。同じサイヤ人と言えども、下級戦士の手に踊らされているようで、王子としてのプライドが許さなかった。
「頑固なやつめ…!!」
カカロットは分からせるためにフルパワーを引き出そうとするが、それよりも早く、ベジータがパワーボールを生成した。
「なっ…!!待て!!」
カカロットは慌ててベジータを静止しようと試みるが、頭に血が昇ったベジータには、中断するという選択肢は完全に消されていた。
「俺様は!貴様らと群れずとも、フリーザを葬ることができる!それを証明してやろうじゃないか!!!」
「……くっ!!」
カカロットは叩きのめすしかないと覚悟を決めるが、それよりも早く、悟飯が動いた。
「っ!!!!」
ベジータの目では悟飯の動きを捉えることができなかった。せっかく生み出したパワーボールも、星の酸素と混ぜることなく消滅した。
ベジータは腹部を抑えて悶えていた。悟飯の攻撃が効いたらしい。悟飯は取り敢えず災難は逃れたと安堵した。
だが、前世の知識があることが、逆に仇となってしまった。
パァッ‼︎
「!!?」
何かが放たれた音がしたかと思えば、空中にベジータが先程生み出したものと同一の物が浮かび上がっていた。
「少し戦闘力が上がったくらいで、思い上がるな下級戦士共ッ!!!」
なんと、2発目のパワーボールを生み出したのは、ナッパだった。悟飯の前世の記憶では、パワーボールを生み出したのはベジータのみだった。だからベジータさえ無力化すれば、どうにかなると思い込んでいた。パワーボールを生み出せる者がいるという知識だけあれば、この油断はなかっただろう。ベジータがパワーボールを生み出せることを知っていたからこそ、油断してしまったのだ。
「弾けて、混ざれッ!!!」
悟飯はパワーボールを消し飛ばそうとしたが、気弾を放つ前に、ナッパが星の酸素と融合させる。それによって、パワーボールは1700万ゼノもの光エネルギーを放つ物体に変貌した。
ナッパとベジータの尾が反応し、戦闘服ごと巨大化した。だが、大猿になっても、カカロットの時のように大暴れすることはない。
大猿は、隙が多い変身とされており、あまり有用ではない変身扱いを受けているが、その主な理由が、理性を失ってしまうから。それによって、あっさりと尻尾を切り落とされてしまうことがよくあったから。しかし、ベジータとナッパは理性を失っていない。変身前と同じように振る舞えている。
ベジータとナッパがエリートと呼ばれる由縁はここにあるのだ。
「小僧……。さっきはよくもやってくれたな。たっぷり礼をしてやるぜ…!!」
「くそ……!!」
「小僧!!パワーボールで大猿になった場合は、アレを壊してもしばらくは効果が持続する!!無力化したいなら、尻尾をやるしかねぇ!!!」
カカロットがベジータを大猿にしたがらなかった理由は、何も勝てないから怯えていた、というわけではない。尻尾がなくなってしまった場合は、メディカルマシンでも治療することが困難だからだ。特に、ベジータのように理性を保てるタイプなら、大猿変身は強力な武器となる。フリーザと戦うまでその武器を失いたいたくないから、大猿化を阻止したかったのだ。
「……しばらく?ということは、時間が経てば変身は解除されるのか?」
「ああ……。だが現実的じゃねえ。ナッパはともかく、今のベジータの戦闘力、感じるだろ?油断すると殺されるぞ?」
「……いや、なんとかなるかもしれない」
「なに?」
悟飯としても、ベジータのように理性を保てるならば、大猿という手札を残しておきたいと考えていた。戦闘力が10倍になるというメリットは大きい。フリーザと戦う時は有効な武器になる可能性が高い。
「ラディッツ!!大丈夫か!!」
「ああ、問題ない!!」
カカロットは、ラディッツが大猿になって理性を失っている可能性を危惧したが、本人も理性を失う危険性が分かっているようで、人工の月が形成されてからは、目を閉じていた。今のラディッツは気を認識できるため、目を閉じていても相手の位置は手に取るように分かるのだ。
カカロットの場合、一年前の悟飯との戦いで尻尾を失っているため、これを考慮する必要はない。
「はぁ!!!!」
「なに?」
悟飯はまず、人工の月を破壊した。しかし、破壊したところで、大猿の効果はしばらく持続する。
「この月を壊せば解除されるとでも考えていたのだろうが、そうはいかんぞ。カカロットの話を聞いていなかったのか?」
「いや、聞いてたさ。聞いた上で、この方法が一番いいと確信した」
しかし、カカロットは不安だった。エメの台詞から察するに、自分と同じく尻尾をどうにかして残したいと考えているらしいことは分かる。だが、エメのフルパワーを把握しているカカロットは、本当に勝てるのかと不安だった。尻尾を残したまま勝利を収めるには、大猿と真っ当に戦って勝つしかない。力尽きるまで追い詰めるか、気絶させて効果切れを狙うしかない。
「はぁぁぁ……!!」
悟飯は一気にフルパワーを引き出すが、やはり大猿ベジータには一歩及ばない戦闘力だ。尻尾を切るという形で無力化するならなんとかなるかも知れないが、やはり真っ当に戦って勝てるとは思えなかった。
だが、カカロットは知らない。エメには、前世の父から教わった技があることを。子供の身ではリスクが高まるが、今のエメならば、多少の引き上げなら問題なかった。
「界王拳ッ!!!!」
悟飯がそう叫んだ途端、周りに赤い炎のようなオーラが纏われる。それと同時に悟飯の戦闘力が急上昇していく。
「な、なんだそれは……!?」
一応、カカロットとの戦闘時に界王拳を披露したことはあるが、理性がない時の記憶はない。よって、カカロットがこの技を目にするのは、実質初めてだった。
「……!!(界王拳2倍!!)」
大猿のベジータを確実に無力化するために、悟飯は2倍まで引き上げる。いくら子供の体と言えども、一年前に比べて丈夫になっているし、気のコントロール技術も仕上がっている。それによって、3倍程度までなら、大した負担なく使用できるようになっていた。
だか、少しでも精神の乱れがあれば、想像を絶する負担に襲われることになる。悟空は界王拳を多用してもケロッとしていたが、それは天才的な制御技術とサイヤ人のタフな身体があったからだ。悟飯は肉体としては純粋な地球人で、制御技術も悟空未満。それ故に、より注意しなければならないのだ。
「隙だらけだぞッ!!!!」
気を読めないベジータは、悟飯が戦闘力を引き上げていることなど知らず、口からエネルギー砲を放つ。
「……!!」
いくら戦闘力を引き上げているとはいえ、流石に無傷では済まないかも知れない。そう考えた悟飯は……。
「だあッ!!!!」
ベジータが放ったエネルギー砲を、片手で弾き飛ばした。
「あ、あれを、片手で……!?」
同盟相手であるはずのカカロットも、これには流石に驚きを隠せなかった。まさか大猿になったベジータの攻撃を弾くとは。ラディッツは最早言葉も出なかった。
「ふん。今のはウォーミングアップだ。これで思い上がっているようでは、俺には勝てんぞ!!」
巨体とは思えない猛スピードで悟飯に接近し、拳を振るった。
「……はっ?」
ベジータは、悟飯が避けることを確信していた。避けたところを狙って、エネルギー弾で追撃するつもりだった。
しかし、悟飯は大猿の拳を片手で受け止めた。まさか回避という行動に出ないとは思わなかったようで、ベジータは呆気を取られてしまう。
「はぁっ!!!!」
「うごっ!!?」
すかさず、悟飯は反撃をした。またしても鳩尾。ベジータが苦しんでいても、悟飯は手を緩めることはない。
顔面、足、鼻、顎。あらゆる部位に、悟飯の拳、足、膝、肘を叩き込む。
一方的にやられるベジータを見て、ナッパは言葉を失った。自分もカカロットかラディッツに食ってかかろうかと考えていたが、その思考は一瞬にして吹き飛ばされた。大猿になってでも、あの地球人の子供にサイヤ人の王子が負けているという事実は、それだけナッパにとっては衝撃的かつ受け入れ難い事実だった。
醜い姿になってでも、自分の方が強いことを証明しようとしたのに、さらに圧倒的な力で一方的にやられている事実は、ベジータにとっても到底認められるものではない。
「こ、この野朗…!!地球人風情が、頭に乗ってるんじゃ……」
「魔閃……!!」
「なっ……!!」
ベジータは、怒りのあまり地球ごと目の前の地球人を葬ってやろうという思考になったが、悟飯はそれよりも早く仕留めにかかった。
「光ッ!!!!!」
「……!!ギャリック砲ッ!!!!」
だが、ベジータもエリート戦士。悟飯の攻撃に対抗するために、速やかにギャリック砲を放った。
だが、1秒たりとも拮抗することはなく、大猿ベジータのギャリック砲は、悟飯の魔閃光に押し負けた。
「ぐわぁあああああああッッ!!!!!!!」
悟飯の巨大な魔閃光に飲み込まれた後に、ベジータはその場に倒れ込んでしまった。
それと同時に、悟飯は界王拳を解除した。大した負荷がかかっていなかったことを確認すると、悟飯は安堵して息を吐いた。
悟飯の圧勝。その結果は、誰の目で見ても明らかだった。言い訳をする余地も与えない、圧倒的な力を見せつけた悟飯に対して、ラディッツとナッパは恐怖の感情を覚えた。
対して、カカロットは口角が上がる。やはり俺の目に狂いはなかったと。コイツがいれば、フリーザを倒せる可能性が更に上がると確信した。地球人より自分が劣っているのに思うところはあるが、今は後回しだった。それを気にするのは、フリーザを倒した後だ。カカロットは自分自身にそう言い聞かせた。
「流石だぜ小僧。やはりお前と俺達が組めば、フリーザをぶっ殺すのも現実身を帯びるぜ」
「き、貴様らぁ……!よくもベジータを!!!!」
カカロットは、悟飯に賞賛の言葉を贈ったが、諦めの悪いナッパは、それでも悟飯達に対して牙を向く。
「……馬鹿が。まだ実力の差が分からないのか」
一瞬にしてナッパの背後を取ったカカロットは、黙らせる為にスピリッツキャノンを繰り出そうと力を込めるが、これを十分な威力を含んで放つには、少し時間がかかる。
「下級戦士に怖気付くほど、腐ってないわッ!!!!」
その為、ナッパに反撃の隙を与えそうになるが、ラディッツがナッパの背後から援護射撃をしたことによって、一瞬怯んだ。その一瞬が命取りとなった。
「オラっ!!これでフィニッシュだッ!!!!」
「がぁっっ!!!!!」
背後からスピリッツキャノンを食らったナッパもまた、その場に倒れて気を失ってしまった。
「
しばらく待機すると、ベジータとナッパの変身が解除された。見事に尻尾を残した状態で無力化することに成功した。
「……しまったな。ちょっとやりすぎたかも知れない……」
悟飯は、ベジータ達を仲間にして修行に加えるなら、多少は動ける程度に加減するべきだったと後悔するが、カカロットは逆にこの状態が良いと言う。
「俺達サイヤ人は、死の淵から蘇る度に戦闘力が急激に増す。フリーザとやり合うつもりなら、できるだけこの特性を使うべきだ」
「だが……」
「問題ない。ベジータ達が乗ってきたあの宇宙船は、メディカルマシンもある上位グレードの物だ。何故特戦隊でもない、ただの戦闘員があんな高価なものを扱えているのかは疑問だが、この際だ。使えるもんは使わせてもらうぜ」
こうして、カカロットとエメは、目標に向かって確実に進んでいた。二人が目覚めた後、説得できるかどうかは不明だが、理性ある大猿相手に勝利を収めたという事実は有効な説得材料になるはずである。
「せ、戦闘力……40万……!?」
一方で、フリーザのいる母船では、エメの戦闘力を測定して驚きを隠せずにいる二人の側近と、一見冷静なフリーザがいた。
ぱっと見は冷静だが、フリーザとよく行動を共にする側近二人なら分かっている。今のフリーザの機嫌は悪い。大猿のベジータの戦闘力も計測されたことから、勧誘に失敗して敵対したということだろう。
そして、ラディッツの戦闘力は最低でも3万程度。カカロットに関しても、一瞬だけとはいえ、10万に迫る戦闘力を記録していた。
「さ、サイヤ人の奴ら、短期間でここまで……!!」
「何故ここまで伸びているんだ……?もしや、地球には戦闘力を効率良く伸ばす何かが存在するとでもいうのか……?」
「……ザーボンさん、ドドリアさん。この船の目的地を地球に設定してください」
「フリーザ様……」
ベジータ達を派遣したのは、あくまで念の為の備えだった。だが、噂の地球人の戦闘力は40万に達していた。これなら、大猿になったカカロットを撃破できたのにも納得がいく。また、カカロットとラディッツがどういうわけか地球人と手を組んでいるらしい。
ラディッツはともかく、カカロットが自分に対して恨みを持っていることにはなんとなく勘付いていた。だから、カカロットがいずれ裏切ることは想定内だったが、予想以上に成長が早い。大猿なしで10万以上に成長していることを考えると、どうもあの伝説の存在に近づいているような気がしてならない。
「フリーザ様。ギニュー特戦隊は?」
「いいえ、ギニューさん達には別の星で任務を続行してもらいます。地球に全勢力を集中させては、他の敵対勢力に何されるか分かったものではありませんからね」
そもそも、ギニュー特戦隊は、地球から遥かに離れた惑星で任務を遂行しているため、仮に今から地球に向かわせたところで、自分達の方が到着が早い。それに、戦闘力40万の敵がいるなら、自分自身が戦闘の場に出た方が、軍の被害を最小限に抑えることができる。
「まあ、運動不足解消には丁度いいでしょう」
とはいえ、フリーザ自身にとっては、戦闘力40万はそこまで脅威ではない。一度も変身しない場合は、敵が成長することを考慮すれば、脅威になり得る存在だが、フリーザは3回も変身することができる。その度に大幅なパワーアップをすることもできるため、40万なら一度変身しただけでも難なく無力化できるだろう。
地球に宇宙の帝王が到着するまで、残りおよそ半年……。
展開を急ぎ過ぎているように感じる方が多いかと思われますが、安心してください。フリーザ戦では密度が濃くなる予定です。今回はエメ達が成長していること、エメが界王拳を徐々に使いこなしていることによって、大猿ベジータも正攻法で撃破。ちなみにナッパも微妙に戦闘力が高くなっています。具体的には8000ほどです。
やっぱり地の文を主力に表現する戦闘描写ってむずいなぁ。でも今更方式を変えるわけにも行かないですね。何事も挑戦が大事。
なんかカカロットがサイヤ人らしくないなぁ。一応性格は超のバーダックを参考にしているつもりなんですけどね。え?バーダック本人?彼はZの方がカッコいいと思います。異論は認める。