推しの飯/絶望の未来から転生した戦士 作:Miurand
目が覚めると、またあの空間にいた。
悟空と修行をしたあの空間だ。狭間の世界とかいう場所だ。この場所は謎が多いが、エメは悟空に会えるからそこまで細かい気にならない。
「よっ!悟飯!!」
「お父さん……!!」
頭に天使の輪っかを浮かべた悟空が現れた。いつものように明るい雰囲気で悟飯に話しかけてくる。
「まさかおめぇがフリーザを倒しちまうとはな。オラはあっちのオラかベジータが超サイヤ人になるもんかと思ってたけど……」
「あっ、そのことでお話が……」
エメは自分が変身したものについて悟空に尋ねた。純粋な地球人であるはずなのに、超サイヤ人に近い感覚。大幅なパワーアップ。フリーザを圧倒できるほどの力。超サイヤ人の特徴と一致するものが多くある。
「……正直、オラもよく分からねえ。なんでおめぇがあんな変身ができたのか。もしかすると、地球人にも超サイヤ人みてぇな変身があったのかもしれねえな」
絶対にないとは言い切れないが、悟飯はそれはどうも違う気がした。
「……まあ、おめぇの魂はそのままだし……。魂だけサイヤ人と地球人のハーフだからなんじゃねえか?まあなんでも良いじゃねえか!!フリーザを倒せたんだし!!」
「……そうですね」
確かにフリーザは倒した。思い当たるうちの一つの脅威は完全に消え去っただろう。しかし、犠牲は決して小さくなかった。東京という大都市の殆どが瓦礫の山と化してしまった。自分も途中からなりふり構っていられなくなってしまったのも一因だ。
また、何がきっかけで人造人間のような強敵が現れるか分かったものではない。エメは悟飯(戦士)としてまだまだ気を抜くわけにはいかなかった。
「あっ。そうだ。おめぇに見せてぇものがあるんだった。占いババから借りたんだけど……あったあったこれだ」
悟空はどこから取り出したのか、水晶玉を置き、ある映像を見せる。
そこに映ったのは、金髪になった最初で最後の弟子だった。彼は18号と17号二体を相手に圧倒し、あっという間に破壊してしまった。
「こ、これは……?」
「色々あって、トランクスは無茶苦茶強くなったみてぇだ。おめぇが身体を張らなかったら、きっとこの世界には平和は訪れていなかっただろうな」
悟飯はトランクスに希望を託した。自分よりも才能があると確信したから。
結果として、トランクスは本当に人造人間を倒してくれた。自分の行動に意味があったことを実感し、涙を流してしまった。
だが、この涙は嬉し涙だけじゃない。後悔も含まれていた。もう少し早く、自分を心配してくれる存在に気づいていたなら、もっと違う結果があったかもしれない。
孫悟飯として、実家に戻ることができたかもしれない。母に孫の顔を見せることができたかもしれない。学者になって母を喜ばせることができたかもしれない。
一度仮定の話を考えると、止まらなかった。結果的に良くても、最善の行動だったのか?もっといい方法があったのではないか?そんな思考が頭を支配してしまった。
「悟飯。しっかりしろ」
「お父さん……。僕の行動は本当に正しかったんでしょうか?あの時、一旦引いておけば、僕も生き延びることはできたんじゃないでしょうか?そうすれば、お母さんが悲しむ必要は……」
突然、頭に温もりを感じた。とても硬い手だった。だけど、とても暖かい手。この手が、今まで自分(悟飯)を守ってくれていたことを実感させられる。
「過ぎたことを言っても仕方ねえだろ。それに、おめぇはもう孫悟飯じゃねえんだ。星野アイの息子で、星野アクアマリンと星野ルビーの弟だ」
「でも、オレは転生して……」
「逆にこうとも考えられるぞ?孫悟飯の記憶を持った星野緑ってな」
星野緑に転生した孫悟飯。孫悟飯の記憶を持った星野緑。どちらも似たようなものだ。表現を微妙に変えただけに過ぎない。
だが、悟空が言いたいのは、一言で纏めれば、過去に縛られる必要はないということだ。
「悟飯……。いや、エメラルド。おめぇは孫悟飯としてアイ達を守るんじゃねえ。星野エメラルドとして、お母さん達を守るんだ」
「お父さん……?」
「別に孫悟飯としての人生を忘れろって言ってるわけじゃねえさ。その時の記憶だって、楽しい思い出ばかりじゃねえかもしれねえけど、忘れたくねえことだってあるはずさ。でもな、いつまで経っても過去に縛られるのはよくねえ。おめぇはもう前に進め」
「お、お父さん?どこに行くんですか!!?僕はまだ、沢山話したいことが……!!」
悟空が徐々に離れていく。エメは走って追いかけようとするが、足も動かしていないのに、悟空の姿が徐々に小さくなっていく。
ここで別れてしまったら、もう二度と会えない。そんな気がした。だから悟飯は必死に追いかける。積もる話しもある。もっと沢山、話をしたい。一緒にいるだけでもいい。
「……エメ。おめぇのやるべきことはたった一つだ。悟飯の分まで幸せに生きろッ!!いつまで経っても
言いたいことは理解できる。もう孫悟飯として生き返ることはできないし、今は新しい家族がいる。そっちを大切にしろと言いたいのはだろう。だが、エメは孫悟飯のしての自覚が抜けていなかった。
だから、父と話すことを望んだ。もう少しだけ、語り合いたかった。
「……心配すんな。おめぇがどうしても望むっていうなら、会いに来てやるよ」
そう言われ、悟飯は安堵の表情を浮かべる。しかし、悟空はこうも言う。
「ただ、次会う時は…………」
「……(あれ?)」
目が覚めると、違和感があった。全身が微妙に生暖かい何かに包まれているような気がする。鼻と口付近に関しては、何故か何も触れてないような……。
もっと分かりやすく言えば、鼻と口以外は暖かい液体で覆われているような感覚だった。
しかし、エメが目覚めるとすぐに水位が下がり、まともに周りを視ることができるようになる。そして、自分を格納していたであろう扉が開かれた。
「…………これは?」
「メディカルマシンだよ。トレーニングの時も何回か使ったろ?」
既にメディカルマシンで治療済みなのか、カカロットの身体には傷一つなかった。相変わらず尻尾の再生はできなかったようだが。
「……そうか。他の人たちは?」
ラディッツの気は確認できたが、ベジータとナッパの気が感じられなかったため、主にその2人の所在を聞く意図を込めて尋ねる。
「ベジータ達は治療が終わったらそそくさとこの星を出ていっちまったぜ。お前がフリーザをぶっ倒したのを知って、自分を磨くための旅に出たってところだろうな」
恐らくナッパはベジータの付き添いとして同行したのだろう。別れる前に何か喋ろうかと思ったが、今世の関係を考えると、それも難しかったかもしれない。それを考えると、むしろこの状況は好都合だったかもしれない。
「……ところで、あんたは……?」
「……俺か?俺もまあ、この星でダラダラ過ごすのも悪くはねえが、やっぱり強えやつと戦わねえと身体が疼いちまうんだよ」
「……そうか」
「ああ。まあ、小娘の飯が食いたくなったらまたここに来るかもな。あとは、強くなったら定期的にお前と戦う。俺はお前を絶対に超えてみせるからな。お前がどんなに引き離そうとも、俺はそれをぶち抜いてやる」
エメの自己研鑽はまだ終われない。このサイヤ人が強くなってしまえば、守れるものが守れなくなってしまうかもしれないから。
でも、カカロットは不必要に他民族を殺すようなことはしない。そこまで気を張る必要はないのかもしれない。しかし、孫悟飯の記憶を持って生まれてきた以上は、最早それが使命なのだろう。少なくとも、エメはそう考えている。
「……言ったはずだぞ。お前が完全な善人になるまでは、絶対に超えさせてやらないってな」
「じゃあ善人になる気はねえ。お前が気を抜いて、それを越してもつまらねえからな」
「……そうか」
一通り会話を終えた後、何故か用意されていた着替えを手に取り、新しい服に着替えた。今まで着用していたものは、戦闘によってすっかりボロボロになっていたので丁度良かった。
「……そういえば、アイさん達は?」
「ああ、あいつらなら寝室でぐっすりだろうぜ。碌に戦ってもいねえのに軟弱なもんだな。少なくとも、アクアとルビーはお前と同じ血を引いているはずなのにな」
「あっ、えーっと……」
カカロットがエメに対して疑いの目を向けている。恐らく、自分がサイヤ人の血を引いていないことをなんとなく察してしまったのだろう。さてなんと言い訳したものかと考えているところ、カカロットが口を開く。
「小娘に聞いたぞ。あいつの昔の男には尻尾なんて生えてねえし、フリーザと戦ったこともねえってな。お前がサイヤ人の血を引いてるってのは嘘なんだろ?」
「…………ああ。そうだ。僕は純粋な地球人だ」
そこまで知られているのなら、隠すこともできないため、正直に白状した。それに対し、カカロットは特に怒ることはなかった。
「……だが、フリーザの変身回数、最後の変身だけ桁違い……。これはお前の言った通りだった。恐らくお前の知識をベジータ達に信用させるために出た嘘なんだろうな」
しかし、それだとエメの異常な強さはなんだったのだろうかという疑問が生まれる。サイヤ人でもないのに、フリーザを倒せるまで強くなれるものなのか?サイヤ人としての誇りがあるカカロットにとって、ここは引っかかる部分があった。
しかし、カカロットはそれを聞くことはしない。聞いたところで、エメの方が自分より強いという事実は変わらないから。そんなことを考えるくらいなら、次の強敵がいる可能性のある星を探すのに時間を使うべきだ。きっとそういう考えなのだろう。
「…………そうだ。地球から出ていく前に頼みがあるんだけど……」
「なんだ?まずは聞かせろ」
数時間後。
アイ達も目を覚ましたようで、特にアイは駆け足でメディカルマシンの前まで移動してきたようだ。しかしマシンの中にエメの姿を確認できなかったため大慌て。
「エメは!?エメはどこにいるの!?」
「あっ、ここだよここ!!」
「エメ〜!!」
「わっ……!!」
エメの姿を確認するなり、真っ先に抱きつきに行った。しかし、ちょっとの刺激で痛みが走ることを忘れて、恐る恐る離れるが……。
「あっ、もう大丈夫だよ。あの中に入っていたお陰で今はピンピンだよ」
質問を先読みしたエメがそう答えると、遠慮なく抱きしめられた。泣き叫ぶわけでもなく、叱るわけでもなく、ただ無言で、笑顔で子供を抱きしめるだけであった。
「エメ!良かった大丈夫そう!本当にあの液体の中に入ってるだけで怪我を治せるんだね」
「どうなってんだよ。ゲームじゃないんだからよ……」
後からルビーとアクアもやってきては、メディカルマシンの凄さに舌を巻いている模様。
「いちいち騒がしい奴らだな」
「あっ、カカロットさん!」
「それじゃ、早速向かうとするか」
突然カカロットが言うと、操縦席と思われる場所に座り機器をいじり始める。
「えっ?向かうってどこに?」
「ナメック星だ」
「えっ!?なんで!?私達ここから出る気ないよ!?」
あまりにも唐突な状況に、エメを抱きしめていたはずのアイも反応してしまった。そもそも何故そんな場所に自分達も連れて行こうとするのかが意味不明だ。
「あの小僧……。エメラルド……だったか?そいつが言うには、ナメック星に行けば地球で出た被害を直せるかもしれねえんだとよ。本当は俺と小僧だけで行こうと思っていたんだが、どうせお前らが黙ってないだろ?っつーわけで、お前らも連れて行くことにする」
「え〜急だな〜。でも確かにエメ1人だけで遠出させたくないしな〜」
「いやいや、もうあんな風に命を賭けて戦うわけじゃないよ……?」
「それでも!エメが勝手に外出して無事で帰ってきたことがないから心配になるよ!!」
「そーだよ!お姉ちゃんだって心配したんだからね!」
というわけで、過保護二人組の賛同も得たということで、星野家はカカロットの操縦の下でナメック星へ向かうことになった。
えっ?斉藤夫妻の意見?そんなものは通ってないようです。なんとアイ達の承認を得るなり、カカロットはさっさと発進してしまったのだ。事後報告をしたら、2人に呆れられるも、東京があんな状態ではしばらく行方不明だとしても何ら不思議ではないし、本当に元に戻せるならそれでいいやと、若干思考を放棄しているようにも思えるが、なんとか承認は得た。
ちなみに本当に意見を聞かれていないのはラディッツである。
ナメック星に着くまでの数日間。エメ達は久しぶりに穏やかな日々を過ごしていた。宇宙船内は食料が充実していたのだが、サイヤ人用に高エネルギーの食事が多かったためか、女性陣はその辺はだいぶ気にして食べていた。一方で、エメは良識の範囲内で、サイヤ人二人組は、大食い選手も泣いて逃げ出すほどの食欲を披露することとなった。
あとは、この宇宙船には豪華にも風呂場が用意されており、アイは当然のように家族全員でお風呂に入ろうと提案し、アクアとエメはなんとか避けようとするも、結局はアイに押し負けて一緒に入ることとなったり…。
全員が寝た隙を見計らって、戦士組3人でトレーニングルームにてこっそり修行をしていることもあった。しかし、徐々に内容が過激なものになっていくため……。
「エ〜メ?何をしているのかな?」
顔は笑っているが、目は笑っていないアイが登場。エメは強制連行されて、以降はアイの抱き枕となる形で就寝することが強制された。
アクアとルビーには羨ましいと言われたが、エメは寧ろ変わってくれと願うばかり。実際にそれを言えば無理だと言うファン2人。では先程の発言はなんだったのやら……。
そんな生活を送っていると、いつの間にかナメック星に到着した。カカロットとラディッツは、過去に異常気象が発生したという情報を耳にしていたため、もしかすると生き物がいないのではないかと思っていたが、数は少ないながらも原住民はきちんといた。
エメはナメック星のドラゴンボールのシステムは知っていたため、カカロットとラディッツは奥に引っ込めて、エメが各地の村に挨拶回り。叶えたい願いを言ってそれぞれの村長にドラゴンボールを渡され、順調に6つが集まったところだ。あとは最長老のところで最後の1個が手に入り、7つ集めることができるというわけだ。
「ようこそ旅のお方……。あなた達が、つい先程この星に降り立った方達ですね?村の者達から聞いております」
「…………」
エメはアイ達地球組は歓迎されているようだったが、最長老の側近、ネイルはカカロットとラディッツを警戒しているのか、睨んでいた。
「……お前達2人からは邪悪なものを感じる。地球人の旅人だったな?あなた達はこいつらに利用されてドラゴンボールを集めている……ということはないんだな?」
「ええ。これはあくまで僕達の意思です。それに……」
エメが気を解放し、サイヤ人達に利用されないだけの強さを持っていることを証明すると、ネイルは納得した。
「一応願いの内容は把握しておりますが、念の為あなたの記憶を探らせてください」
「……(きたか)」
いずれは前世のことについて話さなければならない時がくるとは思っていたが、なかなか踏み出せずにいた。今話してしまうのがちょうど良いのかもしれない。恐らく、最長老に記憶を読まれれば、前世の記憶を持ったまま転生してきたこともバレてしまうだろう。ただ、それを口外するのかどうかは分からないが……。
「……なんと、これは……」
最長老はエメの頭に触れ、しばらく黙り込んでいたが、口を開くと、本当に短い言葉だったが、その中には、憐れみ、悲しみ、同情等などさまざまな感情が含まれていたに違いない。
「事情は理解致しました。是非使ってください。あなたのような心優しき人にこそ、このドラゴンボールは使われるべきでしょう」
特に前世のことについて言及することはなく、最長老はドラゴンボールを差し出してくれた。しかし、自分達だけではどうしようもなく、ナメック星人だけが扱える言語で合言葉を言う必要があるのだが……。
「それならば私が代行しよう。確か、フリーザ軍一味に壊された街を元に戻す。次にフリーザ軍に殺された人達を生き返らせる。そして最後に、今回の出来事の記憶を関係者を除いて消す……。これで良かったな?」
「はい。でも、一度に沢山の人を生き返らせることってできましたっけ?確か僕の記憶が正しければ、一回の願いにつき1人しか生き返られなかったような気が…………」
「よく知っているな。だがそこは問題ない。つい最近はその辺の修正を最長老様がされたのだ。お前達は運がいい」
3つの願いを使って、地球をフリーザ軍襲来前までの状態に戻すことができるようだ。1つ目と2つ目は言うまでもないが、3つ目の願いに関しては、人々の混乱を避ける目的と、アクアに指摘されたことへの対処を目的としたものだ。
アクアが指摘した内容としては……
『今回の戦いで、宇宙人の存在やエメの存在が多くの人に知れ渡ったことだろう。カカロットさんやラディッツさんはまだいいが、これからも地球で暮らすエメにとっては不都合が多い。たった1人の人間が地球を壊滅に追いやるほどの力を持っていることを知られれば、何をされるか分からない。脅威として殺されそうになるかもしれないし、逆に武器として利用されるかもしれないからな』
要は、今後も平穏な生活を送るためには記憶消去も仕方ないということだ。関係者の記憶を残す理由としては、家族、もしくはそれと同じくらいに親しい人達にはエメの事情を理解してもらったままの方が都合がいいということになったからである。
外に出て、ネイルがナメック星の神龍(ポルンガ)を呼び出すと、日が沈まないはずのナメック星が突如暗闇になり、7つのドラゴンボールが光る。強く発行すると同時に、ポルンガが出現した。
『さあ、願いを言え。どんな願いも可能な限り3つだけ叶えてやろう』
いきなりでかく、しかも筋肉質な龍が現れたため、サイヤ人二人組もかなり驚いている。が、その2人だけそれだけ驚いているので……。
「な、なにこれ……?デカっ。怖っ」
「龍って実在したのか?」
「喋れるんだ……」
「本当に願いなんて叶えてくれるのか…?俺達食われたりしないよな…?」
終いには、その見た目からポルンガを敵だと誤認してしまう者まで現れてしまった。が、ネイルが聞き覚えのない言葉を述べ、ポルンガが願いを叶える。そのやり取りが3回行われ、全てを終えるとポルンガは消え、空が明るさを取り戻し、上空から7つのドラゴンボールだった石が落下した。
「えっ?さっきまであんなに綺麗な色をしてたのに……」
「今はどう見てもただの石だな……」
「そうだ、星野エメラルドさん。ちょっとこちらに来てくれませんか?」
「……?」
最長老に呼ばれたため、エメは再び最長老の前に立った。
「どうやらあなたには二度もナメック星を救われたようですね……。感謝してもしきれません……」
「……えっ?いえ、前回はまだしも、今回は何もしていないですよ?」
「そうでしょうか?もしフリーザがドラゴンボールの存在に気づけば、きっとこの星は地球よりも悲惨な状態になっていたことでしょう。あなたが倒してくれたことで、ナメック星は救われたも同然です」
「そ、そうなんですかね……?」
「ええ。ですから自信を持ってください。あなたの行動は、多くの命を救っています。決してあなたは逃げてこの世界に生まれ落ちたわけではありませんよ」
「あっ……」
最長老は自分の記憶を一通り読んだ。それならば、自分がこの世界に転生して悩んでいたこと、後悔していたことも当然知っているわけだ。
「……私はあなたの記憶を読んで戦慄しました。まさかあのような悲惨な目に遭っていたとは……。悪人というものは基本的にどの星にも一定数存在するでしょうが、あそこまで悪意に満ちた者は、私が知る限りでは初めてです。あなたには二度も救われた身です。命の恩人と言って差し支えがないでしょう。ですから、そんなあなたには、あなたの望む平穏な生活を送ってもらいたいと願うばかりです」
そう願ってくれることは非常にありがたいのだが、エメ達が望んでも、悪人というものは平気でそれを踏み躙ってくるのだ。
「ですから、あなたに宿る潜在能力を、私に引き出させてほしいのです」
「えっ……?僕の……オレの中にある潜在能力……?」
「ええ。あなたにはまだ目覚めていない膨大な潜在能力があります。それを引き出せば、恐らくあなたは人造人間にも負けない強さを手に入れることができるでしょう」
「そんなことができるんですか……?でも前に一度引き出してもらった時はそこまでは……」
「あの時……いえ、あっちの私はただきっかけを与えただけに過ぎませんが、もう少しお時間をいただければ、潜在能力をちゃんと引き出すことが可能です。流石に潜在能力以上に引き出すことは不可能ですが……」
「本当にいいんですか?そんなことしては、寿命が……」
「大丈夫です。あくまであなたの中に眠る力を呼び覚ますだけですから」
つまり、前世の時に最長老にしてもらったのは、あくまで起こすだけで、まだ寝ぼけていた状態だったが、今回はしっかりその寝ぼけも取れるまで起こしてくれる……というようなイメージのようだ。
「むっ……」
「……!!!!」
しばらくすると、自分の力だと信じられないほどのパワーアップを成し遂げた。確実に前世の時よりも強くなっている。恐らく今の自分ならば、人造人間17号と18号を纏めて相手しても余裕だろう。
「……本当にありがとうございます。ドラゴンボールを使わせていただいただけでも助けていただいたというのに……」
「構いませんよ。これから先は、お互いに平和な日々が続きますように……」
ナメック星人達にお礼を言って、宇宙船に乗り込んだ。全員が乗ったことを確認して、宇宙船は再び地球に向けて発進した。
「……ねぇ」
「あん?」
「……オレが願いを3つも使っちゃったけど、本当に良かったのか?一つくらいは……。それこそ、あんたのお母さんやお父さんを……」
エメはカカロットに言った。元々フリーザを倒す目的は復讐にあったと。結果として、自分が倒してしまったので、その復讐も成し遂げることができたのかは曖昧だ。ならばせめて、願いを一つだけ譲ってもよかったのではないかと思ってしまう。
「……ああ。別にいいさ。母ちゃんはまだしも、父ちゃんはきっと生き返ることを望んでいない。フリーザの話では、惑星ベジータが滅んだ日、命をかけてフリーザにたったひとりで挑んだらしい。きっと父ちゃんは、カッコよく散ったままの状態を望むだろうさ」
それに、とカカロットは続ける。
「今の俺に生き返らせられたところで、きっと惨めな思いをするだろうさ」
「そんなことは……」
エメが否定しようとするが、カカロットがそのフォローをすぐに否定する。
「んなことはねえ。俺自身の力でフリーザを倒せたならまだしも、他人、ましてや自分より年下の地球人のガキに負けているようじゃな……」
「……」
「だから、もし生き返らせるとしても、超サイヤ人になってからだな」
「……そうか」
カカロットの目標に、エメは特に驚くことはなかった。
ナメック星から地球に帰ってきた。東京の山奥に宇宙船を止めると、確かにいつも通りの光景が戻っていた。ドラゴンボールの願いは本当に叶ったようだ。
「す、すげぇ……。あれだけ悲惨な状態だった街がすっかり元に戻っていやがる……」
「あの龍って本当にいい人だったんだね」
「ねえ、カカロットさん。本当にどこか行っちゃうの?」
「ああ。俺とラディッツは強くなる為に修行の旅に出ることにした。それにフリーザだけで終わりじゃねえしな。あいつには父親と兄もいるって噂だしな」
「……あっ」
エメはフリーザを倒してすっかり安心しきっていたが、父親コルドの存在をすっかり忘れていた。兄というのは聞き覚えがないが、恐らくフリーザと同等かそれ以上の強さを持ち合わせていると見てもいいだろう。
「ま、待ってくれ!!それならオレが……!!」
「いや、いい。俺達ももうお前に頼らずともやっていける強さを身につけた。そう何度もガキに復讐代行してもらうようじゃ、サイヤ人の名が廃れるってもんだ」
確かに、カカロットやラディッツもフリーザとの戦いで死にかけ、そのあと回復したため強くなってはいる。それでも、フリーザの父親達がフリーザと同等の強さを持っているとすれば、カカロット達だけで倒すことは困難だろう。
「てめぇらに心配されるほど俺たちは柔じゃねえ。もうラディッツ……いや、兄ちゃんも弱虫なんかじゃねえしな」
「カカロット……」
「つーわけだ。色々と世話になったな。次会う時は、恐らくフリーザの兄と父親をぶっ殺した後になるだろうな」
次はいつ会えるか分からないというのに、カカロットは簡素な挨拶だけで宇宙船に乗り込もうとする。
「カカロットさん!」
だが、アイに呼び止められたことによって、足を止めた。
「せっかく平和になったんだから、偶にはご飯を食べにきてよ。カカロットさんもいると賑やかになるし!」
「………あぁ。そうだな。気が向いたらまた食いに行ってやるよ」
「素直じゃないな〜。そこは素直にまた食べたいって言えばいいのに」
「ちっ。相変わらず口数の減らねえ小娘だな」
「小娘小娘って言うけど、私だって立派な大人だよ?もう20歳過ぎてるし」
アイがそう告げると、カカロットは目を見開いて固まってしまった。
「えっ?えっ……?まさか本当に子供だと思われてたの、私?」
「……ああ。てっきり15くらいかと思ってたぜ……」
カカロットはこう言うが、もしアイの年齢が本当に15歳ならば、エメ達を産んだ時の年齢は……。考えたくもないことである。
「……マジかよ。俺とそんなに変わらねえじゃねえか」
「……ん?何か言った?」
「なんでもねえよ。またな」
長い間離れ離れになるとは思えないような軽いノリで別れの挨拶をし、カカロットとラディッツは宇宙船に乗り込んだ。少しすると、宇宙船は宙に浮き、ある程度の高度にまで上昇すると、一瞬にして大気圏に突入して姿を消した。
「あーあ。行っちゃったね」
「……ママ。もしかして、カカロットさんのこと……」
ルビーが若干心配するような、しかし期待も込めるような複雑な感情を持ちながらアイに問いかける。すると、アイは頬に手を当てながらこう答える。
「うーん……。分かんないや」
「分かんないって……」
「確かに、カカロットさんは口こそ悪いけど、きっと悪い人じゃないと思うんだ。でもね、私は今は子供達だけで十分なんだ」
まあ、私は欲張りだからそのうち女としての幸せの欲しくなるかもしれないと付け足すと、壱護は「せめてアイドル卒業してからにしろよ」と釘を刺す。
アイもまた、子供達がいるから変なことはできないと話す。まあ仮に男ができたとしても、これまで社長達のバックアップありとはいえ、隠し続けることはできたのだから、案外なんとかなってしまうのかもしれない。
が、今は子供達との時間を大切にしたいのだろう。
「じゃあ、どうやら世界もすっかり平和に戻ったことだし帰ろっか!」
「うん」
「そうだね〜!あ〜死ぬかと思った……」
「私もだよルビー」
先程までは死を覚悟していたというのに、今はすっかり見慣れた光景が広がっている。悟飯の好きな平和な日々。平穏な日々が広がっていた。
友人同士で楽しそうに語り合う人達。
付き合いたてなのか、初々しい雰囲気を出しながらも、幸せなのが見て取れるカップル。
ゆっくりと歩きながら、2人で何の変哲もない会話をしている老夫婦。
公園で、子供達で元気いっぱいにはしゃいでいる姿。
「うわぁ!俺もB小町のドームライブ行きたかったぁ!!!!」
「うひゃひゃ!ごめんな!俺が抽選に当たったばっかりに!!」
「てめぇぶっ殺す…!」
そして、今日も推しに貢いでいるファンなど……。
そこには、強大な何かに苦しんでいる表情は見当たらない。死を覚悟している者、パニックに陥っている者。既に死にかけている者などは、一切存在しない。
悟飯が望む世界が、目の前には広がっていた。
「アクア、ルビー。先に上がって」
アイが2人を呼ぶ。言われた通りに、アクアとルビーは一足先に玄関から上がる。アイもまた、エメより先に上がって、こちらに向き直した。
「お帰り、エメ」
「エメお帰り!!」
「エメ、お帰り」
「……うん。ただいま」
こうしてまた星野家の一員として過ごすことができるようになった。エメは世界の平和と自分の人生の両方を獲得することができた。まだ前世に区切りをつけることはできていないものの、あとは時間が全て解決してくれるだろう。
「ふぁ〜……。お休み〜……」
そして、いつも通り抱き枕にされる形で就寝に入った。エメとしても、修行相手もいないのにわざわざ修行する必要もないと考え、そのまま意識を落とした。
「……ん〜?」
何かが聞こえたような気がしたため、エメは目を覚ました。しかし3人ともぐっすり寝ている。気のせいだと決めつけ、眠気がまだ残っていたので、そのまま二度寝をした。
こうして、孫悟飯は見事に戦士としての役目を果たした。まだ前世に対して未練は残っているものの、トランクスが人造人間を片付けてくれたことを知り、最長老や悟空が転生を逃げではないと認めてくれたことなどが起因して、以前よりも明らかに未練が薄くなっている。
悟空は『悟飯の分まで幸せに生きろ』と言ってくれた。その願いを無下にして後悔し続ければ、それこそ悟空やピッコロにも叱られてしまうかもしれない。
だから、これからは星野緑として、普通の人間としてこの世界を生きていくことになるだろう。
孫悟飯の夢を叶えるのか、それとも新たな夢ができて、それを叶えるのかはまだ本人にも分からない。
「……ん?」
また誰かの声が聞こえたような気がした。夜中に夢から目が覚めた時にも似たような声が聞こえたような気がする。悟空やピッコロの声でもなければ、アイ、ルビー、アクアの声でもなく、幼い少女のような声が聞こえる。
しかし、やはり気のせいだったようだ。寝ているアイ、アクア、ルビーと自分以外にはこの家にはいない。声が聞こえるはずなどない。まだ寝ぼけているようだ。
「ふぁぁ〜…………。久しぶりによく寝たなぁ」
はい、これで一区切りになります。結局ナメック星のドラゴンボール使ってるやんという突っこみが来そうではありますが、このドラゴンボール使用は実質1回限りの使用です。というのも、未来悟飯の記憶を最長老が見たことによって、ドラゴンボールの存在を隠すことになるし、描写されていませんが、エメが場合によっては移住することも勧めているので、次来た時にはナメック星人がいない可能性もあるわけです。
おはようとおやすみには結構大きな意味が込められていたりします。
というわけで、次はいつになるか未定ですが、推しの子メインパートに移り変わります。今までは未来悟飯が前世の未練を断ち切るための話だったので、これからが実質本編になります。
結構駆け足で仕上げたので、後日多少は修正があるかもしれません。内容自体は変えるつもりはありません。