推しの飯/絶望の未来から転生した戦士 作:Miurand
有馬かな、もとい重曹を舐める天才子役がエメをドラマに出演させるように仕向けてきた!えっ?悪意のある文章だって?ちょっと何言ってるか分かんない。
有馬に誘われたドラマに出演することを決意したエメ。さて、オーディションに参加しよう……と意気込んだはいいのだが、事務所に所属していない子役を使うと色々と面倒なことになるようで……。
「有馬かなにスカウトされたぁ?あー、そういやお前、あの有馬かなと友達だったな」
身近にある芸能事務所と言えば、自分の兄と母が所属している苺プロしかなかった。ということで、壱護にお願いしている段階である。
「別に事務所に所属すること自体は構わねえが……。ホントに子役やれるのか?前に苦手だとか言ってなかったか?」
「僕もそう思ったんですけど、有馬さんが言うには問題ないそうで……」
「ほんとか?遠慮して言ってるんじゃねえのか?」
壱護の指摘はもっとも。普通の人物ならば、真っ正面から下手くそなどと言わない。
「いや、それはないですね。彼女は言う時は一切遠慮せずに言うので」
「……まあ、一応オーディションがあるみたいだし、受けるだけ受けてみるのもありだな。しかしお前がこういうのやりたがるのは意外だったな。確か、この前は学者になりたいって言ってただろ?役者なんてどう考えても学者と関係ないと思うんだが……」
学者とは言えども、心理学のような学問を専門とする者ならば関係あるかもしれないが、エメは生物系に興味を持っているようだ。そんな彼からすれば、確かに役者をやったところで学者になるのに役に立つとは思えない。壱護の指摘は何もおかしくない。
しかし、エメはそんな打算やメリットなど考えていない。この仕事を引き受けたのは、もっと単純な理由だ。
「……僕は、今まで時間が取れなかったけど、今は沢山時間を取れるようになったんです。だから、色々なことを試してみたいんです」
噛み砕いて説明すれば、ただの好奇心だった。しかし、子供が役者をやるのは大抵親の意向が強く、自分の意思で子役をやることは少ない。壱護はアイやアクア辺りに勧められたのかとばかり思っていたが、そうではないことを確認すると、曖昧だった態度は一変した。
「……まっ。確かに、小さいうちに色々チャレンジした方がいいよな……。上手くいけばウチの稼ぎ頭になってくれるかもしれねぇし、何よりお前はアイの息子でアクアの弟だ。才能は十分に期待できるだろう」
ということで、エメは無事苺プロに所属することになった。それを家族に報告すれば、驚かれるということはなかった。というのも、以前から有馬の家に遊びに行って、そこで演技のあれこれを学んでいることは報告済だった。そのため、寧ろやっと出演することになったのかと感じるほどである。
「エメもついに役者デビューかぁ。大丈夫!ちゃんと私の遺伝子を引き継いでいるんだから、演技の才能は抜群だよ!自信を持って!」
「これでエメが跳ねれば、いつか俺や母さんと共演することになるのかな」
「あ〜!いいねそれ!家族で共演!!絶対楽しいよ〜!!」
「みんなずるい!私だけなんか除け者にされている気がする!!」
ルビーだけまだアイドルになれないことで、仲間外れにされた気分になったようだが、アイが宥めたことによって早めに落ち着いた。
「ところで芸名はどうするんだ?俺は『星野アクア』にしているけど」
「えっ?芸名?本名じゃダメなの?」
エメが何故偽名を使う必要があるのだろうと疑問を込めてアクアに聞き返すと、代わりにアイが答えた。
「何かやらかしちゃって炎上しちゃった時は本名じゃない方がいいらしいね〜。私は気にしたことなかったけど。あとは私みたいに隠し子がいる時とか?苗字が同じだと変に勘繰られそうだしね」
「あ〜、それはあるかも……」
特に、エメの髪色はアイと同じである。アクアやルビーと家族関係にあることは、一部には既に知られているし、アクアも芸名で活動しているからそこまで気にする必要はないが、確かに偽名を使った方が何かと都合は良さそうである。
そう考えたエメは、早速偽名を考えることにした。否、正確には、もう既に思い付いている。
嘘をつくことが苦手な自分でも、誤魔化すことができる名前。例えば、エメの芸名が『サイヤマン』だったとしよう。これがエメの場合、呼ばれてもすぐに反応ができないことが何度もあるかもしれない。
しかし、あの名前ならば、その心配もいらない。
「だったら芸名は『悟飯』にするよ」
「……えっ?」
「それって……」
家族には既に前世のことを話しているため、当然前世の名前も知っている。その為、アイ達には驚かれている。何故わざわざ前世の名前を使ったのかが分からないからだ。
「僕はもう小学生なったわけじゃん?あの戦いから何年か経って平和な日々が続いている。その生活に不満はないんだけど、平和な生活を送っていると、どうしても自分が孫悟飯だった自覚が薄れていくんだ……」
つまり、エメは自分が孫悟飯であったことを忘れたくないから。悟空やピッコロを始めとした仲間達と過ごしてきた日々を忘れたくないから、この名前にしようということだろう。
「無論、これからも星野エメラルドとして生きていくことには変わりないけど、やっぱり前世の自分もかつての自分だったことを忘れたくないんだ……」
「エメ……」
そんな深い理由があれば、当然反対などできるはずもない。少なくともこの場に於いては反対する者がいなかった。
「あと、悟飯って呼ばれる分には自分のことだと認識できてすぐ反応できるからね。他の名前だとどうしても反応が遅れちゃいそうで……」
「その理由を先に言った方が感動ものだったのに…………」
微妙に締まらないのがなんとも悟飯らしい。
ということで、エメの芸名は『悟飯』になった。語呂はいいし覚えやすい名前だからと特に反対されることはなかった。アクアと兄弟子役として売って行くのはどうだろうかと提案されたが、自分はそこまで芸能界に力を入れるつもりは今のところないので、それをする必要はないだろうと答えた。
オーデション当日。
「いい?この子供は突然力を得た上に責任感が強い。ここには敗北する描写があるでしょ?もしあんたが敵と戦って負けた時、何を思う?」
「……悔しい感情があるのは間違いないけど、多分それ以上に申し訳なく感じると思う」
「……誰に対して?」
「みんなに対して……」
「……そうね。その感覚を忘れさえしなければ、きっと上手くいくわ」
とはいえ、エメだけ良くても作品全体で上手くいくとは限らない。極上の素材を無駄にしてしまう映画やドラマもあったりするくらいだ。今回は完全オリジナルということもあり、エメだけ上手くやっても意味がない可能性もある。
だが、せっかくのデビュー作ならば、いい意味で爪痕を残しておくべきだろう。それに、有馬の弟子とあれば、下手な失敗も許されない。
エメが子役オーデションに参加してみて思ったことが一つある。それは、演技が上手な子供が多いこと。
ちゃんとした映像作品に出演する役なのだから、子供とはいえプロだ。ズブな素人が来るような場所ではないことは分かっていたものの、皆演技が上手なので、本当に大丈夫なのかと不安になってしまった。
有馬は仕事があるため、このオーデションの場にはいない。引率者として壱護とミヤコ、そして何故かアイもいるものの、エメとしては師匠に来てもらえないのはいくらか不安があった。
だが、有馬はありのままの自分を出してしまえばいいと言っていた。彼女が自分の前世を信じてくれたように、彼もまた、彼女を信じることにした。
「初めまして。苺プロの悟飯です。本日はよろしくお願いします」
まずは挨拶から始まり、幾つかの質問に適切に対応する。
担当者は、エメの語彙力や喋り方を始めとして、まるで大人と会話しているような感覚に陥るほど、エメのコミュニケーションは仕上がっていた。その時点で、聞いたことはない子役だが使えるかもしれないと思わせることに成功した。子役はその性質上、リスケすることはよくあるが、彼ならそのリスクも限りなく小さいと感じる。
さらに、あの有馬かなのお墨付きの子役でもあるし、伝説のアイドルグループを率いていた苺プロの子役でもあること。最近子役として邁進しているアクアと同じ事務所でもあることから、エメの注目度はかなり高い。
「では、今回は主役のオーデションということになるので、まずは主人公を演じてみてください。シチュエーションは自由に決めてください」
シチュエーションの指定すらもなかった。この場合はアドリブ力が求められる。本来なら子役に対してこんな抽象的な内容を提示することはないのだが、エメに可能性を見出した担当者が、どのように化けるものかと興味本位で言い出したもの。
「……」
エメは過去の記憶から、一番使えそうなシチュエーションを引っ張り出すことにした。幸いと言うべきか、自分はそういった経験が豊富であるため、想像することも難しくなかった。
「……どうして、街を壊すんだ。どうしてみんなを殺すんだ……?みんながお前に何かしたのか?」
子供として出てくるであろう、純粋な疑問。初めてサイヤ人と戦った時から感じていたことだった。何故暴れるのか。何故傷つけるのか。何故殺すのか。今でもそれは理解できていない。だからこそ、目の前にいる怪獣にそんな疑問をぶつけるように呟いた。
「……どうして、お前がこんなことをするのか分からないし、分かりたくもない。本当は生き物を殺すことはしたくない……けど……」
エメは目の前の面接官を怪物として見立て、睨む。
「……!!!?」
哀しみがいくらか含まれた強い殺意に近い表情に、面接官達は驚愕する。これはとてもじゃないが、子供が容易に出せるような表情ではない。なんなら大人でも難しいかもしれない。ただ殺意を剥き出しにするのではなく、そこに少量の哀しみを込めることなど至難の技と言っても過言ではないだろう。
「これ以上、お前が人を傷つけるっていうなら……。オレはお前を必ず倒す!例えオレが殺されたとしても、オレの意志を継ぐ者が必ず現れるッ…!!覚悟しろ…!!!」
「……………」
台詞選び自体は、神ががっているとは言えるかは分からない。しかし、子役では到底出すことのできない表情は、他にはない強みと言える。
何より、ある程度劣悪な環境にいる子供でも、強い殺意を抱くことなんてそうそうない。しかも、敵に哀れみを感じることもあり得ない。故に、このようなキャラを演じた子役は今まで見たことがなかった。
有馬が推すのも納得だと、面接官達はお互いを見合い、自然と頷いた。
「流石、苺プロの子役さんですね……。あの有馬かなさんが推す理由も十分分かりました。今回の役、是非あなたにお願いします」
「ほ、本当ですか?ありがとうございます!」
有馬の言う通り、エメはすんなりオーディションを通過した。エメの経験は他の子役では引き出せない味を持っているようだ。
そうして、本格的に子役として撮影をすることになったエメは、それから忙しい日々を送っていた。撮影するとなると、結構忙しいスケジュールが組まれるようだ。
最初は、初仕事で主役に抜擢されていることから、何かのコネかと同業者から疑われていたものの、いざ撮影が始まると、その考えは覆されることとなった。
小学生に入りたてとは思えない演技であった。別に評価の高い子役ならば、大人顔負けの演技をする者もいるとはいえ、エメは実戦経験や自身の考えを引き出すことによって、より戦士らしさを引き出していた。
子供ながら戦場に駆り出されていた経験。細かい説明もされず、いきなり死闘に駆り出された経験のあったエメにとっては、過去の記憶を掘り返すのと似たようなもの。加えて、有馬に演技のノウハウを教えてもらっているため、撮影は順調に進んだ。
さらに、アクションシーンの撮影に至っては、持ち前のフィジカルを活かしてシーン撮影に貢献。流石に全力を出すことはなく、あくまで一般人が理解できる程度にしか力を出していないが、それでも迫力は十分だった。
現場からは、まるで本物の戦士のようだと評されるほど、エメの演技は凄かったそうだが、エメにとっては、
加えて、大人と同等かそれ以上に気遣いもできて、途中で泣き出したり我儘を言うこともなかったため、他の子役のように気を遣わなくてもいいところが好印象だったようで、演者としての評価だけでなく、人としての評価も好評だった。
「あれ?有馬さんもこのドラマに出るんだね?」
「そうよ。一応私は幼馴染役として出てくるのよ。数少ない理解者枠ね」
まるで現実とリンクしているかのような設定だが、有馬の提案を基に作成されたものだから何もおかしくない。
有馬の演技は言わずもがな、天才子役に育てられたエメもまた、その演技力は目を見張るものがあった。
第一話放送日。アイはなんとか仕事を終わらせ、帰宅しては早速テレビ前のソファに座って待機していた。
「エメの初ドラマ、楽しみだね〜!」
「さっきドラマのあらすじを見たが、大体は過去のエメだったぞ」
「確かに!でも初仕事ならやりやすかったんじゃない?」
「うん。そうだね」
実際、演技そのものに集中する必要はあまりなかったため、撮影する際はどこに気をつけるべきなのか、どう進行するのかなど、仕事に関する知識を深められたのは大きな進歩と言えるだろう。
そんな話をしていると、ドラマが始まった。それと同時に雑談した。アクアがドラマ出演した時も同じような状態になっていた。余程子煩悩になっていると見える。
表示されたタイトルは、『孤独の戦士』というもの。エメもトランクスという弟子がいたとはいえ、彼は当時は実力不足だったこともあり、長いこと1人で戦っていたことから、エメの記憶をそのまま表したものと言っても差し支えがないだろう。
『被験体5番。食事の時間だ』
はじめに、無機質な部屋に1人の子供がいる場面が映し出された。そこには感情というものがまるでない子供、エメが役を務めた主役がいた。
彼は、謎の施設に保護されている設定のようだが、定期的に検査を受けたり、番号を名前代わりされているところなど、不自然な箇所がいくつも見受けられた。
その主役は、自分がどんな名前だったのか、自分は何者なのかも思い出せずにいた。家族も、友人も、何もかも覚えていないという設定だ。
そんな彼が、無機質な日々を過ごしていると、唐突に異変が起きた。施設が半壊し、主役の部屋も外から剥き出し状態になる。すると、その部屋を覗き込むような、大きな猿……。それも、怪獣と言っても差し支えがないほどに、凶悪な見た目をしており、巨体を有していた。
「わあっ…!!あああ…!!!?」
普段は感情を出さなかった少年も、死を感じ取って叫び出す。逃げ出そうとするも、扉は
確実に死ぬ。誰もがそう思ったとき、エメが役を務める少年に異変が起こった。
頭を抑え、苦しみ出す。鼓動の効果音が響く。それが徐々に速くなる。次第に音が大きくなり、周りの音が聞こえなくなってきた頃に、怪獣の手によって捕えられた。
ところが、少年はその猿の手をへし折った。怪獣は痛みに悶え、その場で尻餅をついた。そして、手から離れた少年が怪獣を睨みつける。
「……!!!」
その瞳から感じ取れるものは、殺気。目の前の敵を確実に仕留めようとするほどに強いもの。これには、テレビの前の3人も腰を抜かしそうになるほどだった。
そして、睨みつけながら怪獣の方へとゆっくり歩くエメ。そこで画面が暗転する。
暗転から立ち直った際には、既に怪獣の姿はなく、ただ崩壊した姿勢を無感情に眺めるだけのエメが映し出される。もうここには住めないと確信した少年は、目的地もなく歩き出す。そうしようとしたところ……。
『待ちなさい』
幼い声に呼び止められた。
『あなたが被験体5番……よね?』
『……そうだけど、君は?』
『私はあの施設で研究員を勤めていた、入江真希よ。行く当てもないんでしょう?なら私についてきなさい。美味しい食べ物もあるわよ?』
美味しい食べ物に釣られた少年は、その少女について行くことにした。その少女は幼いながらも優秀な研究員だったとナレーションで語られる。
最初は無感情だった少年も、入江真希と生活を共にすることで、徐々に年相応の少年らしく育っていった。しかし一緒に住んでいた入江が早熟の子であったことから、少年も必然的に早熟となった。
数年が経つ頃には、彼は早熟ながらも年相応の子供らしく、感情豊かになり、普通の人生を送っていた。
冷め切っておらず、出来立ての料理が出てくる。
自由に外に出て、太陽の光を浴びることができる喜び。
同年代の子と、ただ遊ぶことだけを考えればいい日々。
施設では到底満たされなかった感情が、新しい生活では満たされるような気がした。その生活を少年は満喫していた。
そんな生活が続いたある日……。
『グォォオオオオッッ!!!!』
あの時の化け物が、今度は街に現れた。
そこで第一話が終了し、CMに移った。
「「「……………」」」
「あ、あれ?どうしたの?」
3人はしばらく固まったまま動けずにいた。エメが声をかけたことで、ようやく現実に引き戻されたようで……。
「お前、いつからあんな演技ができるようになったんだ……?」
「凄かったよ〜。私自身が睨まれているかと思っちゃったよ……!」
「あれ?エメって昔は演技苦手だって言ってたような……」
三者それぞれ異なる反応を見せていたが、誰もがエメの演技力に舌を巻いていた。
「ほら、有馬さんの家に遊びに行く時があるじゃん?その時に演技のアレコレについて色々教えてもらったんだけど……その話してなかったっけ?」
「いやいや、聞いてねえよそんなの。あの子役のところには単に遊びに行ってたんじゃないのか?」
「私も聞いてなーい!!」
アクアとルビーは何故教えてくれなかったのかと詰め寄るが、アイが思い出したかのように呟いた。
「そういえば前に言ってたね。色々有馬かなちゃんに教わってるって」
「母さん知ってたのかよ!?なんで俺たちには教えてくれなかったんだよ!?」
「なんか、かなちゃんがアクアを驚かせたかったらしくてさ〜。えーっと、なんだっけ?」
「ほら、アクアは昔有馬さんと共演したでしょ?その時、有馬さんは自分が演技で負けたと思い込んでいるみたいで、どうしても見返したかったんだって」
「……?それとエメを育てることに何の関係があるの?」
イマイチ有馬の意図が分からず、ルビーはつい聞き返してしまった。
「なんでも、ただ演技ができるだけじゃなくて、実際に育てることで師匠としての才能も見せたかったとかなんとか……」
「あいつ負けたと思ってるのかよ……。別にそんなことはないのにな」
とはいえ、有馬に驚かされたのも事実だ。共演した際には、確かに演技力は凄いと感じたが、まさか師匠としての才能もあるとは思いもしなかった。
「有馬かな……。ただの天才子役ってわけじゃなさそうだな……」
「というか、エメの過去ってこんな感じだったっけ……?なんか最初の展開を見ると、改造人間なのか孤児が実験体になってるのか分からないけど、どうもエメの前世の円満な家庭とは程遠いような……」
「あらすじ詐欺じゃないか……?」
まあ、世の中には普通の魔法少女ものかと思いきや、無茶苦茶シリアスかつ曇らせ要素の多い作品もあったりするので、問題ないのだろう、多分。
時は少し進み、ドラマが始まってからもうすぐ2ヶ月が経つ頃。
そのドラマが最終回を迎えた。初手から怒涛の展開だったことから、多くの視聴者を獲得した。おまけに、出演した主役とも言える子役の演技力が上澄も上澄であり、最終回後のインタビューの有馬の発言が更にこのドラマの注目度を上げた。
『私と共演した悟飯君ですけど、彼の演技は私が指導したんですよ』
その発言から、有馬かなは演じるだけでなく、演じることを教えることもできる天才として注目を集めた。また、ドラマの最終回の内容が内容だったため、続きを求める声が多数寄せられたという。特に、救いを求める声が多かったとのこと。
詳細は別で語ることとするが、このドラマはとてもではないが、子供向けと言える内容ではなく、所謂『曇らせ』要素が多い作風となっていた。
また、作品の内容が内容であるため、CGが使われるシーンも多かったのだが、エメのアクションシーンに関しては実写だということが判明し、それも併せて話題となった。
それに加え、エメの身体能力が大人と比較しても高いことが判明したことにより、主にアクション系での撮影に重宝される存在となった。天才子役有馬かなの弟子というレッテルも貼られたことによって、悟飯という子役に注目する業界人は多かったという。
こうして、エメは芸能界でもいいスタートダッシュができた。月日が経つにつれて、子役としての仕事が徐々に増えていった。何度かアクアや有馬とも共演する時があった。
そんな順調な日々が続き、気づけば小学校高学年になったある日のこと…。
「お邪魔しまーす」
いつも通り、エメは有馬の家を訪れた。いつもならば玄関を潜ればご両親が挨拶に来るのだが、今日はそれがなかった。エメはそれに違和感を覚えつつも、有馬の自室へ向かおうとするが、リビングから有馬本人と思わしき声が聞こえた。
家族全員でリビングにいるのかと思い、そこに向かってみれば……。
「…………えっ?」
ただ1人で寂しく、ソファの上で縮こまっている有馬の姿があった。
「(ご両親がいないのは……。きっと買い物に行ってるんだよな……?)」
しかし、それならば有馬が縮こまっている理由が分からない。エメはそっと近づき、優しく声をかけるが、反応はなかった。
「あ、有馬さん……?どうしたの……?」
何度呼びかけても反応がない。不思議に思って耳を澄ませてみると、啜り泣くような声が聞こえた。
「(……えっ?僕何かしちゃった…?)」
必死に自身の行動を思い返すも、有馬を泣かせるような行動をした覚えがなかったため、ますます有馬が泣いている理由が分からなくなってしまった。仕方ないので、エメは本人に聞くことにした。
「……エメ?いつからそこに……?」
「えっ?今気づいたの…!?もうここに来て10分は経つと思うけど……」
何か考え事をしていたのか、有馬はエメの存在に気づかなかったらしい。顔を見れば先程まで泣いていたのが見て取れるが、敢えてそこに言及するような真似はしない。有馬の性格上、こちらから指摘するのではなく、相手が吐露するのを待った方がいいことをエメは知っているのだ。
「えっ?あの……?」
「ごめん。今はこのままでいさせて」
泣いているせいか、不安定かつ弱い声でそう懇願する。エメは唐突に有馬に抱きつかれたことに動揺するも、きっと有馬が傷付くような何かがあったに違いないと確信し、有馬の要求通りそのままにする。それに加えて、抱きしめ返して背中を優しく叩いてあげる。少し前まで自分が母(アイ)にされていたものだ。
そんな状態が数分、数十分、数時間。どれだけ経ったか分からない。長かったようにも感じるし、短かったようにも感じる。時が経ち、有馬は少し落ち着いたのか、離れてエメに事の経緯を説明した。
エメと有馬がこうして会う機会は極端に減っていた。というのも、有馬もエメもお互いに忙しくなっていたから。エメはセーブしていたからいいとして、有馬は子役仕事に力を入れていたために都合が合わなかったのだ。その為、エメは有馬の近況を知らず、最近の有馬の両親の不仲を知らなかったのである。
有馬の仕事が減り始めたことに焦った母が営業に進んで出て、そこで無理な営業を持ちかけて現場に迷惑をかける。そんなことをする母に父が苦言を申し、そこから喧嘩が起きる。
喧嘩が頻発するようになり、父と母は離婚。母はその後も営業を続けるも、とうとう実家の母(祖母)の面倒を見るという建前で、実家に帰ってしまったのだそう。まだ義務教育課程を終えていない幼い娘を1人残して。
「なっ…………」
あまりに理不尽な状況に、エメは言葉を失ってしまう。有馬が何か悪いことをしたのか?彼女が努力を怠るような人間ではないことを知っている。本当に祖母の面倒を見る為に帰省したのだろうか?仮に本当に面倒を見ることになっても、幼い娘1人を残して行くものなのか?
正直、有馬の母のことを詳しく知っているわけではない。だから変に彼女を批判することもできないし、肯定することもできない。が、確実に分かるのは、1人にされて悲しんでいる少女がいること。しかし母に迷惑をかけたくないという一心で、我儘を言わずに母を送り出したのだ。
有馬かなは、今まで母を喜ばせるために子役の活動を頑張った。母に褒めてもらうために。母に自分がいることを誇りに思ってもらえるように。
しかしその母が娘を置いて実家に帰ったとなれば、娘はどう思うだろうか?
呆れ。失望。恐らくこのような類の言葉が出てくるだろう。実の母に見捨てられた時の心情は、とてもではないがエメには想像できない。
「有馬さん……」
どんな言葉をかければいいのか、瞬時に判断することができなかった。戦闘なら、どのように防御すればいいか、攻撃すればいいのか分かるのだが、それは経験からくるもの。エメはこうした問題に直面したことはなく、素人と言っても差し支えがない。しかも、気遣いができる。できてしまうからこそ、気安く言葉をかけるべきではないことも分かっているのだ。
とはいえ、このまま無言でいていいはずもない。しかし下手に慰めの言葉や同情の言葉をかけるわけにもいかない。こんな時、彼女なら……アイならなんと言うだろうか?ルビーなら、アクアならなんて言うだろうか?
「……大丈夫。僕が側にいるから。今は僕以外誰も見てないよ。だから、思う存分、甘えていいんだよ」
その直後、静かに泣いていた有馬が、大声を出して泣き始めた。しかし、エメは嫌な顔を一つせず、有馬のことを抱きしめ続け、背中を優しく撫でる。
慰めるわけでもなく、同情するわけでもなく、ただその場に一緒にいることを選択した。1人でいることに寂しさを感じているのなら、自分も一緒にいればいい。
無論、一番は親が帰ってくることだろうが、恐らくそれは難しい。なら、家族を除けば一番親しい関係にある自分が一緒にいることが、有馬の心労をいくらか和らげることに繋がるのではないか。
これが正しいのかは分からない。他にもっといい方法もあったかもしれない。だが、エメ自身がこうしてあげたかった。有馬が泣き止むまで、彼はただその場に一緒にいるだけだった。
その行動が、少しでも有馬の救いになればと願いながら。
更に時間が経った。今度こそ有馬は泣き止んだようだ。
「…………ありがと。ちょっとスッキリしたかも……」
「それならよかった」
泣き止んだはいいのだが、正気に戻った有馬は自分のしたことに気づき、急いでエメから離れた。
「ご、ごめん……。いきなりあんなこと……」
「ううん。僕は大丈夫だから」
自分と同年代のはずなのに、どことなく歳上の雰囲気を感じる。以前に前世の記憶があると聞いたが、それが事実なのかと感じてしまうほどだ。
今でも、前世の記憶があるなど馬鹿馬鹿しいと思っている。しかし、それ以上に彼には常人離れした身体能力を有しているし、実際に宇宙人を倒してしまうほど。その常識離れした実績と先程までのエメの様子を見ると、その事実にも説得力が出る。
……もし、自分に兄か弟がいたらこんな感じなのだろうか。有馬はふと思った。
「……あっ。もうこんな時間じゃない!あんた、帰らないと親御さんが心配するわよ?」
「大丈夫。今日は僕も一緒にいるよ。お母さんには既に連絡したから」
「……えっ?」
有馬は、エメの母が過保護であることを知っているし、エメ自身も基本的に母の言うことを聞くようにしている。そのため、エメがこんな独断を取ることが予想外だったのだ。
「い、いいの?そんなことしたら、後で怒られるんじゃ……?」
「あはは。気にしないで。怒られるだけで済むなら問題ないよ。むしろ、今の有馬さんを1人にしたくないし」
「……ばか。ありがとう」
「ええ!?ちょっと酷いよ〜……」
後半のお礼は小さい声で言ったため、エメには聞こえなかったようだ。
父親が離れ、母親が実家に帰ったことで、失望され自分に価値がなくなってしまったのではないかと危惧してしまい、今まで溜めていた感情が出てきてしまった有馬だったが、エメがその感情を受け止めてくれた。しかも嫌な表情一つせずに。
その事実が、有馬にとっては、自分がここにいてもいい。自分のことを見返りなく見てくれるのだと、不思議と確信できた。
こんな弟、もしくは兄がほしい。そんなことを考えながら、この日は一日中エメと過ごした。
お久しぶりです。明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
今回はエメの芸能界入り&有馬かなの掘り下げでした。特に有馬の両親に関してですが、正直正しく解釈できているのか分かりません()。ただ、原作見る感じ、多分こんな感じだろうなという推測も込みで書いております。かなの幼馴染なら、このエピソードは見逃せないと思いまして、エメが高校生になるまでにはこれをやりたかったんですよね。
なんか、かなが思いっきりエメのヒロインになるフラグにしか見えませぬが、以前述べた通り、かなにはあくまでも距離バグ幼馴染になってもらう予定です。アニメ段階のアクルビをもうちょっとバグらせたイメージ。予定というか、そんな展開を書きたいw
次回からはいよいよ高校生直前、アニメで言うと2話、原作で言うと2巻部分に差し掛かります。また、エメの出演したドラマの詳細は、気が向いたら番外編として出すかも。
・補足
アクアが原作よりも上手くいっている理由としては、アイが死んでないため、感情演技をしても原作のようにPTSDを発症することはない上に、演技そのものを楽しめているからです。今作のアクアもまた、実の父親を見つけるために芸能界に入ったのは原作と同じですが、別に復讐とまではいきません。特定してエメに協力を仰いで、アイやルビーを守りたいという意図がほとんど。ただし演技は楽しいので、何も打算だけで芸能界入りしたわけではない。
そういえば、この作品ではありませんが、どうやら私の作品が無断転載(引用?)されていたようです。無断転載と言っても、冒頭部分だけでしたが。一応こちらでもご報告させていただきました。