推しの飯/絶望の未来から転生した戦士   作:Miurand

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 お久しぶりです。関東の雪は凄かったですね。昔のように喜べなくなったのは何故なのだろうか……。
 ちなみに、今回戦闘が発生しますが、戦闘シーンはありません。物語においてそこまで重要ではないので。



第4話 油断大敵

少し飛び、エメは山の中に入っていった。エメがいつも使っている山は、滅多に人が来ない場所であるため、修行するのに好都合な環境だった。

 

「相変わらず修行に精が入っているようだね」

 

突如背後から声をかけてきたのは、エメよりも一回りも二回りも小さい銀髪の少女だった。その少女は餌でも持っているのか、カラスに懐かれているように見える。

 

「あれ?よく僕がここにいるって分かったね」

 

「カラスを使えばすぐに分かるよ。頼むから荒らす真似だけは絶対にしないでね?」

 

「だからしませんって……」

 

銀髪の少女……、ここではツクヨミと仮称しよう。ツクヨミとエメが初めて会ったのは、今から数年前のこと。エメがこの場所(高千穂)を見つけ、修行場所として愛用するようになって数ヶ月が経った時、ツクヨミの方から姿を見せに来たのだが……。

 

エメが大技を開発していたところに運悪く遭遇。その時、彼女は『あいつの魂を破壊してやろうかと思った』というコメントを残したとか残してないとか……。

 

以来、彼女はそのネタを今でも引きずっているというわけである。人が人なら小心者と言われてしまいそうではある。

 

ちなみに、エメが高千穂を見つけたのは偶然である。

 

「毎度思うけど、どうして君はそんなに自分を磨き続けるんだい?もう強敵はいないはずだよ?君の平穏を脅かす存在はいない」

 

「今いなくても、今後現れるかもしれないでしょ。それに、あなたなら、何故()()が修行を続けるか、分かっているんじゃないですか?」

 

少女は不適な笑みを浮かべつつ、それを肯定した。彼女はどうやら悟飯をこの世界に引き入れた存在のようで、悟飯としての人生もある程度は把握しているようである。そんな真似ができるのだから、恐らく神の類ではあるのだろうが、どうやって異世界にいるはずの悟飯の魂をこちらに招いたのかまでは分からない。

 

というか、本人も意図してこちらの世界に引き入れたわけではないらしい。何故か星の海に還らずに彷徨い続ける魂を見つけ、その魂の情報を見て、再度生を与えてみようと考えたらしい。

 

その結果、ツクヨミが把握していない凶悪な存在が地球に来襲したものの、エメがいたことによって、その脅威は排除された。

 

結果だけ見れば、無茶苦茶善良かつ有能な神様である。

 

「でも君がこっちに来てくれてよかったよ。そうでなければ、今頃私も宇宙の塵になっていたかもしれないしね」

 

「あはは……」

 

ツクヨミの言っていることは割と洒落にならない。もしエメがいなければ、いずれはフリーザ達に地球も狙われて大変な目に遭っていただろう。地球に住む人達はよくて奴隷。最悪星ごと壊滅していたことだろう。

 

しかも、フリーザ軍は実力主義の組織であるため、大した戦闘力を持たない地球人が仮に奴隷にでもなったりしたら……。最早説明するまでもない。

 

「ところで、今日君に会いにきたのは、こんな下らない話をするためじゃない」

 

その言葉を聞いた途端、エメは久方ぶりに戦士の顔を見せた。もしや強敵でも現れたのだろうか?そう思いながらツクヨミの言葉に耳を傾ける。

 

「どうやらもうすぐ彼が戻ってくるみたいだよ?あの時よりもだいぶ強くなっているみたいだ。油断はしないようにね」

 

「えっ?彼って……」

 

詳細を聞こうとしたが、その時には既にツクヨミの姿はなかった。恐らく、これから起こるであろう戦いに巻き込まれたくないから逃げたのか、或いは遠くから観察するつもりなのだろう。

 

例え互いに殺す気のない模擬戦だとしても、巻き込まれたらひとたまりもない。ツクヨミの判断は正しい。

 

「戻ってくるということは、まさかとは思うけど……」

 

つい先日も、家族で話題となっていたカカロット。エメが思いついたのは彼くらいだ。

 

案の定、少ししたらこちらに身に覚えのある気の接近を確認した。わざわざ荒らすなと、ツクヨミが忠告しに来た理由を理解した。

 

少し離れた所で見覚えのある宇宙船が着地した。1人用ポッドのように墜落するような着地ではなく、ゆっくり着地するので、そこまで大きな音は立てていない。大きな扉が開かれると、そこには見覚えのある特徴的な髪が……。

 

「……地球も久々だな。あの時から何も変わっちゃいねえ……」

 

間違いない。10年ほど前、フリーザを倒した後に地球を去った。それからは一度も戻ってこなくともおかしくないと思っていたものの、案外早い帰還だった。

 

「……よう。お前はあの時の小僧だよな?戦闘力は抑えているようだが、潜在パワーですぐに分かった」

 

「……久しぶり」

 

「ちょうどよかったぜ。お前に用があるからこの星に来たんだからな。早速だが、準備はできてるよな?」

 

「……ああ。問題ないが、ここでおっ始めたら騒ぎになる。少し移動するぞ」

 

「ふっ…。やるからには思いっきりやりたいからな。いいぜ」

 

先程のツクヨミの忠告もそうだが、エメはこの高千穂の自然を気に入っている。恐らく強くなっているであろうカカロットと戦おうものなら、その自然も台無しになってしまうかもしれない。それに、一応無人の地域ではないため、色々考慮した結果、ここを戦場にするのはよろしくないと判断した。

 

 

 

しばらく飛び、草木も生えておらず、生き物が存在しない荒野までやってきた。ここならば、惑星が壊れる規模で戦わなければ問題ないと判断し、エメが着地した。それを見たカカロットもまた、エメのすぐそばで着地した。

 

「……よくこんな場所を見つけたな。地球人ってのは数が多いイメージだったが……」

 

「ここは雨が滅多に降らないし、作物も育たないからね。そもそも生き物が住むのに適してないんだ」

 

「なら、ここなら思う存分暴れられるわけだな」

 

そう言うと、カカロットは戦闘力を一気に引き上げた。それと同時に自身の髪が逆立ち始めた。

 

はぁあああああッ!!!!

 

雄叫びを上げると同時に、逆立っていた髪が金髪に変化し、瞳がエメラルドグリーンに変化した。

 

例え気を読めない者でも、その強さを理解できるほどのオーラを放っている。普通の生き物ならば、その威圧感に耐え切れずに失神してもおかしくない。

 

「それは…………」

 

「ああ。多分これが伝説の超サイヤ人ってやつだろうな。フリーザの兄貴と戦っている時に初めて成ることができた」

 

「フリーザの兄……!?」

 

「安心しろ。俺が始末してやったから、ここに来ることはない」

 

カカロットとラディッツは、しばらく自分達を鍛えるために宇宙を放浪していたが、途中で運悪くフリーザの兄、クウラに遭遇してしまった。

 

兄のクウラはフリーザと違い、相手を痛ぶる間もなく始末しようとしてくる残忍で冷酷な性格をしていたが、その戦闘スタイルは見覚えがあった。なんなら、フリーザを殺そうとしていた時のエメ(悟飯)よりかは幾分かマシだった。

 

詳細を語ると非常に長くなってしまうが、色々あってカカロットは超サイヤ人に見事に覚醒し、その後も苦戦しながらも勝利を収めた。

 

「だが、ただ超サイヤ人になっただけでお前に勝てるとは思わなかった。だから、俺は超サイヤ人を超える必要があると考えた」

 

「超サイヤ人を、超える……!?」

 

かつて悟飯が一度も考えることがなかった発想だ。何度も人造人間に敗北しようとも、強くなることは考えていたものの、超サイヤ人を超えるという発想には至らなかった。

 

今回、エメは潜在能力を引き出してもらったこと、存分に修行ができるだけの平和な環境があったことから、実力を伸ばしたり、新技開発に時間を使えたとはいえ、今でも超サイヤ人を超えようという発想は出てこなかった。

 

「ああ。色々試してみたが、結局一番いい方法は、超サイヤ人に慣れることだった」

 

そう言うと、カカロットは更に戦闘力を引き上げた。それに加え、先程よりも更に威圧感が増した。まるで初めて悟空が超サイヤ人に覚醒した時のような感覚を味わっていた。

 

「へへっ。流石のお前もビビっているようだな……。今回の勝負はもらったな」

 

エメは、超サイヤ人になることは想定内だったものの、超サイヤ人を超えることは予想外だった。とはいえ、自分もあの時から何もしてこなかったわけではない。

 

はぁッ!!!!

 

一瞬だけ力み、一気に気を解放した。瞳の星が、薄いエメラルドグリーンから強い金色に変わり、その瞳の星と同じ色のオーラがエメを纏った。

 

そう。これは、孫悟飯の魂を持って生まれたからこそ成ることのできる変身、超サイヤ人アース。彼もまた、修行の過程で自在に変身できるように仕上げてきたのだ。

 

「……やはり一筋縄ではいかないか……。だが、その方が面白え……!!」

 

「言っておくが、加減はしないぞ?死力を尽くさなければ、死ぬぞ?」

 

「はっ!誰に言ってんだお前?俺は伝説の超サイヤ人を更に超えたサイヤ人、カカロット様だぞッ!!!!」

 

その言葉を合図に、2人は地面を蹴る。その衝撃で2人がいた場所には巨大なクレーターが発生する。こぶしと拳がぶつかり合い、そこを視点に衝撃が発生し、先程できたクレーターよりも更に巨大なクレーターが発生した。

 

カカロットは、久々に拮抗した相手と戦えることに喜びを感じていた。しかし、この戦いを終える頃には、エメの言葉の意味を理解する。

 

しかし、気づいた時には既に手遅れだった。

 

 

 

 

 

 

数十分が経った。

 

結論から言えば、カカロット対エメの対決は、後者が勝利を収めた。と言っても、圧勝したわけではない。ある程度は拮抗していた。

 

だが、終盤になり、エメの新技が披露されたことにより、一気に天秤が傾いた。

 

「あちゃ〜……。加減してもここまでの威力が出るとは…………」

 

エメ本人は、新技を放つ際に加減したつもりだった。というのも、この新技を全力で放てば、被害は荒野に留まらないから。それほどまでに強力な技となっているのだ。それに、全力で放てばカカロットは肉片一つ残さずに消滅してしまう。それを防ぐための加減だったのだが……。

 

2人が戦っていた場所は、既に一つの巨大なクレーターとなっていた。中心から少し外れたところにカカロットが横たわっており、起き上がる気配はない。

 

「よいしょ……」

 

エメはカカロットを抱え、恐らくメディカルマシンがあるであろう宇宙船の場所まで戻ることにした。

 

 

 

「……随分派手にやったようだな」

 

「ははは………」

 

宇宙船内でラディッツと会い、開口一番がこれだった。ラディッツの認識としては、ちょっと手合わせした程度だったはずが、死闘を繰り広げたであろう負傷をしているのだから、こんな反応になるのも仕方ない。

 

「マシンには俺が運んでおく……。しかし、超サイヤ人を更に超えたカカロットをここまで……。お前は本当に地球人なのか?」

 

「まあ、純粋な地球人……だと思う」

 

「何故曖昧な返事になるのだ……」

 

ラディッツによれば、この負傷ならば半日程度で治るとのことだ。

 

「あっ……!いけない!!もうすぐお昼ご飯だ!!急がなきゃ!!」

 

緩くなったとはいえ、星野家はまだ過保護体質だ。それはエメも例外ではない。連絡もなく帰宅が遅くなっては、アイやルビーが心配するのは言うまでもない。例え地球や銀河を破壊できるほどの力を持ち合わせているとしても、アイにとっては息子、ルビーにとっては弟であることには代わりないのである。

 

ちなみに、アクアもアイやルビーほどではないが、エメに対しては心配性を発揮する。とはいえ、持ち前のフィジカルがあるため、余程のことがない限りは大丈夫であろうと、ある程度は信頼している。

 

「……あれが孫悟飯の新技か……」

 

銀髪の少女、ツクヨミは先程の2人の戦いを遠くから見ていた。普段からエメの修行光景は見ていたものの、実戦を見るのは初めてだったが、実際に見てみれば想像を遥かに超える規模の戦闘だった。

 

さらに、新技がおっかないという一言が似合うほどに無茶苦茶な技だった。あんなのが高千穂で使われていたらと思うと……。考えたくもない話である。

 

「……彼が善人で良かったと心の底から感じるよ。あんなのが悪行を働こうものなら、地球はおろか銀河はひとたまりもない……」

 

 

 

カカロットと戦ったことによって予定の時間より遅れてしまったが、爆速で帰ってきたため、大幅に遅れることはなく戻ってくることができた。

 

「ただいま〜!!」

 

「お帰りエメ。少し遅かったね?」

 

「まあ、色々あって……。それは後で話すとして、お腹空いちゃった……」

 

玄関を開ければ、そこにはたまたま玄関に様子を見にきたアイがいた。エメの帰りが遅いので、ふと玄関に行ってみたら、そこにちょうどエメが帰宅したのだ。

 

「お昼はもうできてるよ〜。でもその前に手洗いうがいはしてね!」

 

「一体僕を何歳だと思ってるのさ……」

 

と言いつつも、エメは別に反抗期ではないし、元から素直な性格のため、その忠告はきちんと聞き受けるのであった。

 

そして、隠し事が通用しないため、昼食を取りながら、正直に遅れた理由を話した。

 

「へぇ、やっとカカロットさん帰ってきたんだ〜!でも会って早々バトルって……」

 

「血気盛んだね〜……」

 

流石のルビーとアイも少し引き気味に話している。まあ、サイヤ人の価値観は地球人のそれとはだいぶ違うので、そこは仕方ない。

 

「でもエメもエメでしょ。敵じゃないことが分かっているのに新技を撃って半殺しにするなんて」

 

「いや〜、実戦で使うのは初めてだったから……。一応加減はしたんだよ?だけど想定外の威力だったから……」

 

「まあカカロットさんなら死なないでしょ。現に生きてるんでしょ?」

 

「まあ……」

 

ルビーはエメの新技に舌を巻きつつも、なんだかんだでカカロットがそう簡単に死なないことは分かっている。これはアイも同様で、そこまで心配はしていない。

 

「よーし!それなら今日の夕ご飯は多めに作らないとね!ちょっと買い物に行ってくるよ!」

 

アイはカカロットが帰還したことを知り、夕飯にはここに来ることを予測して、今のうちに食材を買いに行こうと思い立つ。しかし、普段はエメやアクアが率先して買い物に行く。そのことをエメが話せば……。

 

「ダメだよ。アクアは今監督のところに行ってていないし、エメとルビーは勉強してるんだから。暇なのは私くらいだし、変装すれば問題ないって!」

 

「でも分からないよ…?今のお母さんは昔よりも有名になったんだから……」

 

「大丈夫大丈夫!いくらなんでも白昼堂々襲いにくる人なんていないって!それに、そんなこと言ったらエメやルビー、アクアだって狙われる可能性があるんだからね?みんな顔がいいんだから!」

 

「うーん……。でもなぁ……」

 

「じゃ、いってくるね〜!」

 

ルビーはまだしも、未だに納得する素振りを見せないエメを見て、アイはさっさと変装して外に出た。エメはいくら心配性と言えども、押しに弱い。そしてルビーやアクアは推しに弱いのだ。今回はアクアが不在だったが、恐らくアクアがいても結果は変わらなかっただろう。

 

 

「ふふーん♪カカロットさんが久しぶりに来るから、ちょっと張り切っちゃおうかな?」

 

アイは誰が見ても明らかなほど、機嫌がいい様子を隠さずに街を歩いていた。変装していたとはいえ、整った顔立ちまでは隠すことができず、人々の視線を引き寄せてしまう。

 

(あちゃ〜、変装してても注目を浴びちゃうか〜。まあ私は子供達に似て可愛いから仕方ないけど)

 

一応、誰もが知るタレントのアイだとバレていないが、このままではバレてしまうのも時間の問題かもしれないと判断したアイは、さっさと用事を済ませて帰宅しようとした。その時……。

 

「あなた、もしかしてアイさんですか……?」

 

周りに聞こえない程度の声で男性が話しかけてきた。

 

「えっ?いや〜……」

 

アイは否定しようとするが、男性はアイドル時代からのファンのようで、流石に誤魔化しきることはできなかった。

 

「あちゃ〜。やっぱり溢れ出るオーラは隠せないか……。サインあげるから、静かにしてくれると嬉しいな!」

 

「ほ、本当ですか……!?」

 

「どこにサイン欲しい?」

 

「その前に、握手いいですか?」

 

「え〜?欲張りさんだね〜。いいよ!」

 

アイドルは引退してしまったため、このようなファンサービスは久々だったためか、何かとアイはノリノリになってしまった。一旦は本来の用事を忘れてファンとの交流を楽しんでいた。

 

「…ありがとうございます。もう悔いはありません

 

「……えっ?」

 

ファンを名乗る男性が意味深な発言をした後、突如握手していた手が必要以上に強く握られた。その直後、どこかに衝撃を感じた。その部分はじんわりと熱を帯びているように感じる。

 

「…………えっ?」

 

その部分に目をやってみれば、服に赤黒いシミが発生していた。それだけでなく、ジワジワと広がっていく。しかも鉄臭い。

 

アイはこの色、匂いに身に覚えがあった。嫌でも忘れるわけがない。最愛の息子が殺されかけた時と同じ状況なのだから。どれだけ自分の中でトラウマになったことか。何故自分が子供達、特にエメを必要以上に心配していたのか。

 

「うそ…………」

 

アイは自分にされたことを認識した。それと同時に腹部に強烈な痛みが走る。大量の出血に立つことも難しくなり、少しふらついた後に倒れ込んだ。

 

突然起きた惨状に、周りの人達は悲鳴を上げた。中には冷静に110番通報や119番通報をしている者はいたが、凶器を持った者がいるためか、誰1人としてアイを助けようとはしなかった。

 

近づけば、次にやられるのは自分かもしれないから。刺された人は気の毒だが、自分が同じ目に遭うのは嫌だ。だから、遠巻きに見ることしかできなかった。

 

「アイさん。あなたは大勢のファンを失望させるほどの罪を犯したんですよ?」

 

「つ……み……?」

 

「我々に内緒で男を作り、子供を作ったそうですね。私はあなたのことが好きだったのに……!」

 

裏切られたような気分です、と男は続けながらアイに近づく。リョースケの時のように簡単に引いてくれる気はないようで、確実にトドメを刺しにきている。アイを推すあまりに狂ってしまったのか、元来の性格なのかは分からないが、これでは助かる可能性が0に等しい。

 

「(やだ……。やだやだやだ……!もっと子供達と一緒に過ごしたい……!子供達が成人する姿を見てみたい……!アクアやエメと共演したい……。ルビーがドームライブを達成する姿を見届けたい……!)」

 

あの時のアイならば、多少の後悔はあっても、子供達に愛を伝えて満足して死んだかもしれない。だけど、あんな幸せを知ってしまったら。愛を知った上での幸せな生活を知ってしまったら。とてもじゃないが死にたくない。少なくとも、しわしわのお婆ちゃんになるまでは死にたくない。そう強く願う。

 

「さようなら、アイさん。一緒に死にましょう」

 

どうやら男は最初から自死する気満々だったらしい。だからこんな白昼堂々殺人行為をすることができたようだ。それだけ、余程アイに子供や男がいたことがショックだったのかもしれない。

 

その気持ちは分からなくもない。だけど、今はアイドルではない。一般人とまではいかないけど、30代にもなれば子供や相手ができるのはごく自然なこと。一度でもアイドルを経験すれば、万人が当たり前に享受できる幸せを許されないのか?やはり嘘をついてみんなを騙していたから?嘘でお金を稼いでいたから?

 

や……だ……。しにたく……ない……

 

もう声を出す力も殆ど残っていない。しかし、少しでも遠くに逃げようと這いずってでも移動しようと試みるが、殺人犯は普通に歩くことも走ることもできる。やるだけ無駄だった。

 

せめて最期に、子供達に……

 

ナイフが振り下ろされた。アイの背中目掛けて。

 

 

 

 

次の瞬間、ナイフを持っていた腕が吹き飛ばされた。

 

「…………はっ??」

 

犯人も訳が分からずに、そんな声しか出せない。それもそうだ。刃物もなしに人の腕を引きちぎるどころか、吹き飛ばすことなんてできるはずもない。現実を認識するのに時間がかかった。

 

「……地球人は平和ボケした種族だと思っていたが、どうやらそうでもないみたいだな」

 

「カカ……ロットさん……?」

 

カカロットがここに来たのは本当に偶然だった。メディカルマシンでの治療が想定より早く終わったので、文句の一つでも言ってやろうかとエメを探していたところに、先にアイの気を見つけた。だから久々に会ってやろう。それくらいの軽い気持ちだったのだ。

 

カカロットが腕を吹き飛ばした速度があまりにも速かったためか、犯人や周りの人もカカロットが吹き飛ばしたとは夢にも思っていないようだ。

 

「がぁあああああッ!!!!ああああっ!!!!!」

 

犯人の脳がようやく現実を認識したようで、激痛が一気に襲ってきた。その場に蹲って動かなくなった。

 

「誰なんだ、お前はぁあああッ!!!」

 

アイを庇うようにして現れたカカロットを、アイの男だと確信して、叫ぶようにそう問いかける。だが、律儀に答えてやるほどカカロットは優しくない。優しくなるのは、気に入った相手か強い相手のみだ。

 

「知るか。うるせえ」

 

そう言って、カカロットは目を見開いた。すると男は次第に肥大化して、爆発した。

 

「えっ……?!」

 

「きゃああああっ!!!人が爆発した!!?」

 

近くにいたアイは、カカロットがいたから無事だ。周りの人も遠くから見守っていたこともあり、少なくとも致命傷はないだろう。

 

爆発による煙が宙を舞っている今がチャンスだと判断したカカロットは、アイを抱えて飛び出した。途中で超サイヤ人に変身し、更にスピードを上げた。

 

「かか……」

 

「喋るな。死なれたらてめぇの飯が食えなくなるだろ。生きたきゃ黙ってろ」

 

「…………うん」

 

今はただ生きたい。他のことは何も考えられなかった。カカロットに身を任せ、アイは目を瞑った。

 

「……このペースなら間に合うな。メディカルマシン付きの宇宙船をもらえてラッキーだったぜ。なんせナメック星人の居場所は()()()()()()()からな」

 

 

 

 

場所は移って、星野家。ルビーとエメは2人で勉強していた。と言っても、ルビーはへたり込んで駄々をこねている。もう遊びたいと言っているようだ。

 

「うーん……。まあ、今日のところは一旦これくらいにしようか」

 

「やった〜!!」

 

勉強が終わりだと分かった途端に分かりやすく態度を変えてはしゃぐ。そんなルビーを見て、エメは微笑ましくも複雑な感情が渦巻いていた。

 

(もし、あの世界で人造人間が現れなければ、トランクスもこんな風に……)

 

悲観していたところで、頭を振った。それはもう過ぎたこと。それに、トランクスが自分の意志を継いで人造人間を倒してくれたのだ。トランクスの努力は否定したくない。

 

「……あれ?」

 

「どうしたの?」

 

瞬間、莫大な気を察知した。この気は恐らく超サイヤ人。そして、地球の中に超サイヤ人になれる者はただ1人。カカロットのみだ。

 

しかし、それに匹敵するもう一つの気は存在しない。戦うわけでもないのに超サイヤ人に変身することに疑問を持ってしまった。

 

「……ごめんルビー。急用ができた」

 

「えっ!?ちょっと!!?」

 

エメは慌てた様子でドアを開け、そこからドアも閉めずに飛び立ってしまった。

 

「えっ?なにしてるの?」

 

人目につく可能性のある場所で力を使うエメを不思議に思いつつも、ドアを閉めるルビー。

 

「一体どうしたんだろ……?エメがあそこまで慌てるなんて……。もしかしてママの身に何かあったり……?」

 

適当に言ってみたが、それが正解だとは露知らず、ルビーは勉強から解放された高揚感で、そのまま遊ぶことにした。

 

 

 

 

 

「ちょっと!何があったの!?」

 

カカロットが超化した原因を知るべく、エメは直接宇宙船に乗り込んだ。そこにいたのは……。

 

「もうお嫁に行けない…………」

 

「ガキ三人も産んでるやつが何言ってんだ?」

「…………なにこれ?」

 

何故か戦闘服着用し、その場で塞ぎ込んでいるアイと、呆れるようにアイを見るカカロットがいた。

 




 私もまた、アイが生存するifは大好きなので、沢山のアイ生存ifを見てきたのですが、それらを見て疑問に感じたことがありまして……。それは、果たして黒幕がそう簡単に諦めるのかと。ただし大半はその黒幕さんは死亡したり逮捕されたりと、あっさり退場するケースが多いので、物語の矛盾にこそないものの、黒幕もアイも自由の身であり続けるifは見たことないなぁと(もしかしたらあるのかもしれないけど)

 というわけで、今回はアイが生きているとはいえ、油断はできないということを伝える回でした。ここにおいてメディカルマシンが有能過ぎる件。メディカルマシンで治療されたため、傷は完璧に治っております。

 また、スキップリンクに関してですが、想像以上に物語に重要な要素をバトルパートに盛り込んでしまったため、作っても意味があるのかどうか絶賛迷っているところです。

 次回はToLOVEる的な展開になる……かもしれない…。
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