推しの飯/絶望の未来から転生した戦士 作:Miurand
(……暖かい。ここはどこだろう……?私、何してたっけ……?
あっ、そうだ。今日はカカロットさんが来るんだった。早く夕ご飯の支度をしなくちゃ……。そういえば、途中で……)
アイの意識が覚醒した直後、鼻口付近についていた機械が外れた。自動でドアが開くと同時に、全身で空気を感じ取った。
「…………あれ?ここは確か……」
アイはその建物の中の光景をぼんやりと覚えていた。確か、息子が白と紫の宇宙人を倒した後に他の星に行った時に乗った宇宙船だ。
ここが天国でも地獄でもないことが判明し、安堵した。これでまた子供達に会える。子供達の成長を見届けることができると。
「……って、私素っ裸じゃん!?なんで!?」
メディカルマシンは基本的に服を脱いで使うものである。そうしなければ、治療薬が含まれた液体が肌に触れづらくなるため、効率が悪くなるのだ。
カカロットはめんどくさがって服を着たまま使用することがあるが、これはカカロットがサイヤ人特有のタフさを有しているからできるのであって、普通は適切な使い方ではないのだ。
「おう。案外早いお目覚めじゃねえか」
「…………えっ?」
そして、自分が全裸だというのに、堂々と治療室に入ってくるカカロットを見て、すかさず片手で上を、もう片方の手で下を隠した。
「か、かかか、カカロットさん……?これはどういうことなのかな……?」
嘘をつくことが得意なアイでも、流石にこの状態で羞恥を完全に隠すことは難しかったようだが、それでもなんとか取り繕ってカカロットに問いかけた。
「どうも何も、メディカルマシンは普通は服を脱いで使うものだからな。俺は面倒だからそのまま入るが……」
「じゃ、じゃあ私の時もわざわざ服を脱がせる必要ないよね……?もしかして、そういう目的で?」
「……??」
アイが意味深にそう言うと、カカロットは首を傾げてこう返す。
「そういう目的?どういう意味だ?」
「いやほら、服を脱がせる必要ないのに、わざわざ脱がせるということは……あ〜!カカロットさんも男だもんね〜!私みたいな超可愛い女の子の裸を見たいに決まってるよね〜!!」
精一杯冷静な態度を取り繕うが、最早それも限界に近い。というか、そろそろタオルだけでもいいので、身に纏える何かがほしい。
「はぁ?お前の裸なんか見て何が楽しいんだ?」
「…………えっ??」
その感性が普通だと言わんばかりの態度で、そう言い切った。
「つか、いつまで素っ裸でいんだよ。早く着やがれ」
そう言うと、カカロットはアイに向けてタオルと代わりの服となる戦闘服を雑に投げた。アイは見られたくない部分を極力隠しながら、身体にタオルを巻き、その後に戦闘服を着用した。
「……なんでサイズピッタリなの?」
「ああ、それは……」
「もういい。分かったから」
アイは心底恥ずかしかった。理由はいくつかあるが、主なものを取り上げると……。
1つ目。至ってシンプルな理由だが、カカロットに生まれたままの姿を見られたこと。例え心を許し、身体を許した関係だとしても多少の羞恥は感じるのだ。これは性別年齢問わず感じるものだろう。
そして2つ目。カカロットが女性……もっと言えば、自分の身体に興味がないということ。アイは、男は女の体に興味津々だから仕方ないと語るも、カカロットに言動と態度で真っ向から否定されてしまったから。とはいえ、一つ目の理由に比べたら、影響は微々たるものではある。
さらにもう一つ。カカロットが自身にピッタリの服を用意できたのは……。これはアイの防衛本能により深く考えることは不可能となっている。
「ね、ねえ?私が気を失っている間に変なこととかしてないよね?」
「あん?変なこと……?」
「た、例えば、ほら、女の子にしかない場所に……こう、ツンツン……とか、ぱふぱふ……とか?」
「何言ってるのか分からねえが、そんなことしてたら今頃お前は死んでるだろうが。治療が間に合わなくなる」
「そ、それもそうだよね……。で、でも!治療している間も私の身体見放題じゃん!!」
「お前の身体見たところで何にもならねえだろうが。腹は満たされねえし、別に戦ってるわけでもねえのに何が楽しいんだ」
カカロットは基本的に嘘をつかない。良くも悪くも正直者であることはアイも知っている。だからこそ、カカロットの言動に少し思うところがあるわけだ。いやらしい目で見てこないし、ただ自分を助けるために行動してくれるのはありがたいのだが、それはそれとして、女としてのプライドというものに傷がつきそうになった。
少しくらいは恥じらいというか、興味というか、そういうのも持ってもいいんじゃないかと思ってしまった。
(……あれ?私、なんでそんなこと考えてるんだろう……?)
子供が死にかけたことをきっかけに、家族に対する愛というものを理解したアイだが、未だに異性に対する愛は理解していなかった。
例え理解していたとしても、カカロットがそれに当てはまるのかは分からないが。
「えっと……。カカロットさんって、もしかしてその見た目で女の人だったりする?」
「なわけあるか。地球人にはこんな筋肉質な女がいるのか?」
「いるにはいるよ?割合としてはかなり少ないと思うけど」
「いるのかよ……」
下らないやり取りをしていると、アイも少しは落ち着いてきたようだった。しかし、自分の身体を見られて何も感じず、自分だけ恥ずかしい思いをするのもなんだか負けた気分で悔しくなってしまう。
これは自慢ではないし、寧ろどちらかと言えばトラウマになるのだが、自分は幼少期から女性としての魅力に満ち溢れていたらしい。9歳になる頃には、母の交際相手に異性として目をつけられるほどにだ。例えどんなに紳士的な男性だとしても、一部の例外を除いて大なり小なりいやらしい目線を向けてくるものだった。
だから、いくら異性に興味のないそぶりを見せているカカロットでも、流石に今回は何かしらあるだろうと踏んでいたのだが、どうやらそうはならないらしい。
そんな物珍しい人物に、アイが興味を抱かないわけがない。カカロットの名前を覚えることができた一因には、そんな要素もあったのかもしれない。
「ああ、そういえばお前の身体のことについてだが、やっぱりお前小さくねえか?もっと食わねえと大きくなれねえぞ?」
「やっぱりガッツリ見てるじゃん!?」
せっかく忘れかけていたところに掘り返された上に、自分の身体についてのレビュー。しかもそれは子供を心配するかのようなコメント。
アイがこんな散々な目に遭うのは、初めてのことであった。
「……てな感じのことがあったが……。それからずっとあいつはこのままなんだよ」
「それはそうなるでしょ!!?何を考えてるの!!?」
そして、そんな出来事があって少し経ち、エメがこの宇宙船に到着したというわけである。
「お、お母さん、大丈夫……?」
「あはは……。心配かけてごめんね……。大丈夫、時間が経てば元に戻ると思うから……」
「ほ、本当に……?」
とはいえ、カカロットのこの行動は、最適解とまではいかないものの、アフターケアとしては十分だった。
そもそも、アイはつい先ほど殺されかけたのだ。例え生き残り、後遺症が残っていなかったとしても、殺されかけた記憶は残り続ける。
しかし、カカロットはそれを塗り潰すほどのインパクトのある記憶を植え付けたのだ。ある意味ではファインプレーである。
とはいえ、もう少しマシな方法はあるはずだが、そもそもカカロットはメンタル面でのアフターケアは考えておらず、身体さえ治れば問題ないという考えだった。
「だから戦闘服を着てたんだ……。って待って?そもそもなんでメディカルマシンを使う事態になってるの?」
「それはコイツがブッ刺されていたからだ。それで死にかけていたから、俺がここまで運んできたってわけだ」
「えっ…!?」
以前にも、アイはストーカーに襲われたことがあった。その時はエメの活躍によってアイは助かった。しかし、そのストーカーを焚き付けた人物は未だにアイを狙っているため、今回もアイのところに来た、というわけである。
たまたまカカロットが通りかかったからよかったものの、もしカカロットがいなければ、アイは今度こそ殺害されていただろう。そう思うと、エメはゾッとしてしまった。
「……昔、お母さんが僕を心配していた気持ちが分かった気がする……」
しかも、タイミングがタイミングである。先ほど、アイが買い物に行く前にルビーとエメが心配していたが、変装すれば大丈夫だとアイは返した。その後にこれである。エメが心配するのも無理はない。ルビーやアクアが聞けば卒倒ものだろう。なんなら、アクアに関しては今度こそ復讐を決意してしまうかもしれない。
「……ねぇ?」
「なんだ?」
「まだここにいるつもりなの?」
エメがそう問いかけると、カカロットはそれを肯定した。
「まあ、この数年で目ぼしい奴らとは粗方戦ったからな。しばらくここで過ごすのも悪くないだろう」
もう強い相手とは粗方戦ったので、後は定期的にエメと戦えればそれでいいという発想なのだろうか、しばらくは地球に留まるつもりのようだ。
「そうか……。なら提案があるんだけど、ちょっと付いてきてもらってもいい?」
「まあ、今は暇だから問題ない」
カカロットの了承を確認したエメは、2人でどこかに向かうらしい。本当ならばアイも連れて行きたいところだが、下手に連れ回すよりもここにいてもらった方が安全だと判断した。
ラディッツもフリーザ軍を抜けてからは大人しくなっているようだし、何よりエメの家族に手を出すはずがない。エメの強さはその目で見てきているのだから。なんなら、何かあってアイを守り損ねれば、それこそカカロットに大目玉を喰らうかもしれない。
というわけで、ラディッツにいてもらえば問題ないと判断し、エメとカカロットは宇宙船を出た。
「…………大丈夫か?」
2人が行った後、ラディッツはアイにそう問いかけた。
「…………あなたは、自分の裸が見られても平気なの?」
「……すまん」
しばらくは気まずい雰囲気が流れたとか流れてないとか………。
場所は変わって、エメはカカロットを連れて苺プロに訪れていた。
「おお!あんたは確かカカロット!!久しぶりだなぁ!!」
「おう。久々だな」
「あら?あなたは確か宇宙を旅していたんじゃないの?」
「ついさっきここに来たところだ」
「ところで、本題なんですけど……」
エメがそう切り出した。カカロットの補足も交えて、今日アイの身に起きたことを話した。
「なっ……!?またアイにストーカーが!?」
「今回の場合は、ストーカーというよりは通り魔じゃないかしら……?」
「もうアイドルを引退したし、随分年数経ったから大丈夫なものとばかり……」
そう言うと、壱護は頭を抱えてしまった。いくら有名人かつ元アイドルと言えども、流石に10年以上経ってまた命の危機に晒されるとは思ってもいなかったようだ。
「それに、今回の犯人もお母さんに
「……なに?」
「なんでかしら……?ネットでもそんな噂は経ってないはずよ?」
ミヤコが言った通り、アイに男がいるとか、子供がいると言った情報は出回っていない。ワンチャンいるかもな、程度の呟きしか転がっていないのだ。そんな中で、犯人が子供もしくは男がいることを確信できるものなのだろうか?
「……僕が思うに、多分アイさんを殺そうとしている人が裏にいるんだと思います」
「……黒幕ってことか?」
「ええ……。それが誰なのかは正直分かりません。ただ、2度もアイさんの秘密が漏れているのは不自然ですよ。アイさんの秘密を知っている誰かが唆したとしか思えません……」
「……確かに、ネットでも碌な噂すら経ってないのに漏れているのはおかしいな……。って、まさか俺を疑ってるわけじゃないよな?」
「まさか……。壱護さんがやるわけないでしょう……。流石に僕も分かってますよ」
アイの秘密を知っている者はかなり限られている。自分たちアイの子供は勿論のこと、身元引受人となっている壱護とミヤコもそれに当てはまる。後はアイの出産担当医の雨宮吾郎くらいだろう。
しかし、この担当医はアイの出産直前で行方不明になったようだ。噂によれば、夜逃げだの、女遊びのツケが回ってきただの色々言われているが、真相は分からない。もし、その担当医がアイのファンだったとすれば、もしかすると真犯人なのかもしれない。だが、それならわざわざまわりくどいことをしなくても、身重の時を狙えば済む話だ。
そもそも、その雨宮吾郎も殺害され、エメと同じくアイの子として生まれ変わっているので、その可能性はない。が、エメはアクアの前世を知らない。
自分達子供が漏らすのはあり得ないし、斎藤夫妻もほぼ同様の理由であり得ない。となると、アイの秘密を知っていて、かつアイを殺害するように唆かす人物はかなり限られてくる。
「なあ?それってあの小娘……。いや、アイの昔の男じゃねえのか?昔の男なら、流石にアイに子供がいることくらい知ってるだろ」
「「「!!!!?」」」
盲点だったと言わんばかりに、三人はカカロットの顔を見た。
「……確かに、アイとその男は既に別れている……。アイも相手のことは話したがらなかったし、何か理由があって破局して、その後お前含めたあいつらを産んだってことか……」
「別れた際にいざこざがあって、その時のことを今でも恨んでいる……と言ったところかしら?」
アイの秘密を知り、かつアイの殺害に積極的になり得そうな人物と言えば、真っ先に候補に上がるのはアイの元交際相手しかいなかった。真犯人はもしかしたら他にもいるかもしれない。あくまで可能性の話になってしまうが。
「……じゃあ、まずはお母さんに聞いてみないと……。でも必ずしも僕達の父親が犯人とは限らない……。そこで……」
「……なるほどな。お前の意図は分かった。要するに、今度は
「はい。話が早くて助かります」
斉藤夫妻にも既にエメが戦士としての力を持っていることはバレているので、エメが担当しても良かったのだが、それではエメが勉強や仕事、学校にも行けなくなってしまうだけでなく、最悪アイの子供だとバレかねないのだ。そもそも三つ子の中で唯一アイと髪色が一致しているだけでなく、顔もアイの面影がある。エメをボディガードに置くのは色々とリスクが生じるのだ。
カカロットをボディガードに置いたとしてもリスクがなくなるわけではないが、エメよりかは圧倒的に条件が良かった。
「はっ?またアイツの護衛をしろってのか?」
「でもそうしないと、今度こそお母さんのご飯が食べられなくなっちゃうかもよ?」
「…………」
エメがそう言うと、カカロットは考える素振りを見せた。
もう強敵はほぼいない。故郷もないから、帰ることもできない。しかし、ここに留まるのにも、ある程度の金銭は必要だろう。そう判断したカカロットは、最終的に提案に乗ることにした。
「ほ、本当にいいのか?」
「ああ。しばらくは地球に居続けるつもりだからな。それに、ここで生活するのにも、ここの通貨があった方が色々と便利だろ」
「よし!これでアイの命は保証されたも同然だな!!」
「あまり浮かれない方が……」
こうして、カカロットは数日後にアイのボディガードとして、正式に働くことになった。2度もストーカーに襲われたとなれば、ボディガードの1人や2人はつけても何もおかしくない。
ましてや、護衛対象が元国民的アイドルで、現スーパーマルチタレントならば尚更だ。
約束を取り付け、安心要素を一つ増やしたエメは、2人で宇宙船に戻り、先程のことをアイに説明した。
「そっか〜。カカロットさんが正式に私を守ってくれることになったんだ。私のこと好きすぎじゃない?」
「寝言は寝てから言え」
「ぶー。少しは素直になればいいのに」
あれから小1時間ほど経過したが、どうやらアイは持ち直したらしい。完全に持ち直したかどうかは、アイは嘘をつくことが上手であるため分からないものの、少なくとも演技できるくらいには回復したと言える。
「それで、お母さんを殺そうとしている人のことなんだけど……」
「あー、エメ達の父親が私を殺そうとしているんだってね?」
エメ達はまだ自分達の父親が真犯人の可能性があることを話していない。それにも関わらず、アイが先にそれを述べたということは、心当たりでもあるのか?そう思って聞き返したが、どうやらそうではないようだ。
「ほら、エメが5歳の時に刺されて長い間意識なかったじゃん?あの時にアクアが言ってたんだよ」
「アクアが……?」
自分が記憶を失っている間は、あの世とこの世の狭間の世界で悟空と修行していたので、それは知らなかった。実はそれを聞いてアイ自ら父親を殺そうとしたとまでは思うまい。
「でも本当に僕達の父親がお母さんを狙っているかどうかはまだ分からないんだ……。できれば本人に直接会って真意を聞ければいいんだけど……」
エメがそう呟くと、アイは心配そうな表情になってエメを見る。
しかし、エメがたかが一般人に殺されるほど柔な存在ではないことは、この目で見てきた。とはいえ、心配なものは心配なのだ。
「心配するな。コイツがただの地球人に殺されるようなやつじゃないことぐらい、分かってるだろ?」
「それは、そうだけど…………」
「大丈夫だよ。僕は何も復讐しようってわけじゃないから」
とはいえ、エメは前世の経験から、敵と判断すれば容赦なく抹殺するかもしれない。相手が地球人と言えども、その犯人が大勢の脅威になると判断すれば慈悲はないだろう。
それこそ、フリーザや人造人間クラスの脅威になると判断されればの話だが……。
「あと、今日あったことはアクアとルビーには内緒にしてね?」
「それは分かってるよ。余計な心配はかけたくないから……」
アイの服の洗濯が終わり、乾かしたところでカカロットを連れて自宅に帰宅した。エメが突然飛び出したのを目の前で目撃したルビーは、帰宅した途端にエメに問い詰めるも、何もなかったと伝えるだけ。
アクアにも勘付かれることはなく、久々にカカロットも交えて賑やかな食卓になった。
その後の日々は、特に異常もなく平和な日々が続いた。
あの日以来、ストーカーらしき人物が何人か見えるようになるものの、護衛についたカカロットによって半殺しにされ、あとは警察に丸投げ。
過剰防衛を疑われるも、犯人の自滅だとシラを切ってその場をやり過ごした。実際、武器もないただの人間が、短時間で凶器を持つ人を半殺しにすることは、普通ならば不可能だ。
そうこうしている間に、あっという間に受験日を迎えた。
アクアとエメも芸能活動を続けていることから、ルビーと同じく芸能科を受験した。
「苺プロ所属、星野
「えっ?エメラルド……?ミドリではなく…?」
「あはは……。よく間違われます……」
名前以外に関しては、難なく突破した。実を言うと、エメは別の学校への受験も考えていたのだが、最終的にはルビーやアクアと同じ陽東高校に通うことにした。理由は至って単純。
もしも犯人が自分達の父親ならば、アクアやルビーも狙われる可能性があるから。犯人の真意が分からない以上、その可能性を捨てきれない。
もし、アイを殺害する目的がアイを苦しめることだとすれば、アイが
カカロットがアイ専属のボディガードだとするなら、エメはアクアとルビー専属のボディガードというわけだ。
無論、2人にはそのことを話していないが……。
「お兄ちゃんとエメお疲れ〜。そっちはどうだった?」
「俺は問題ない」
「僕も問題ないよ。ただ、名前を言った時の反応が心配だったけど…………」
「あはは!まあお兄ちゃんはアクアマリン、エメはエメラルドだもんね〜!」
そんな話をしていると、アクアとエメの背後から一つの影が近づいてきた。エメは気配を察知して、挨拶した。
「あっ!エメじゃない!話には聞いていたけど、本当にここを受けたのね」
「あれ、有馬さん?今日は授業ないんじゃないの?」
「ちょっと学校に忘れ物したから取りに来たのよ。それよりそこの2人って……」
有馬が聞く前に、アクアとルビーが自分の名前を名乗った。
「やっぱり…!あんたが星野アクアね!!」
「あ、ああ。そういう君は……有馬かなだよな?弟がいつも世話になっている」
ルビーのことには目も暮れず、エメを引っ張って2人だけの状況を作り出すと、ヒソヒソと話を始めた。
「ねえちょっと、あれ本当に星野アクアなの?昔は可愛かったじゃない。なんであんなイケメンになってるのよ?」
「なんでって言われても……。遺伝かな?」
テレビでもアクアのことは見ているはずなのに、実物は想像以上にイケメンだったらしい。そのことをエメにも共有したかったのだろうか、エメの家族には美男美女しかいないため、感覚がバグっている。
「ちょっとロリ先輩」
「は?ロリ先輩……?それ私のこと?」
「あっ、重曹先輩の方が良かった?」
「はっ倒すわよあんた……」
いきなり失礼な呼び方をされたので、有馬は怒りを隠さずにルビーにツッコむも、ルビーは真剣な表情だった。
「私はね、一応アクアの妹だけど、エメのお姉ちゃんでもあるの」
「はぁ?それがどうしたっていうのよ?」
「エメから聞いたよ?先輩の家にエメがよく泊まってるって」
「ええ。それがどうしたのよ?」
普通ならば、若き男女が同じ屋根の下、それも2人きりとなれば、何も起きるはずもなく……、と考えるのが自然である。エメは基本的に嘘をつくのは苦手だから、有馬とは恋愛関係にないという証言は恐らく本物だろう。しかし、エメが本物だとしても、有馬にとっては分からない。
そもそも、今までの生活でエメが恋愛方面に鈍感であることはよく分かった。エメが表立ってモテない理由は、過保護なルビーと、会話の中に出てくる有馬によるものも大きいが、一番は本人の鈍感さだ。
勇気ある女子も、この鈍感さによって正面から大破。真っ白になって帰ってくることはザラにあったという。
だから油断ならない。エメにその気はなくても、有馬にはその気がある可能性があると。そして幼少期にアイのことを貶した記憶もあり……。
「お姉ちゃんは認めません!!エメがロリ先輩と付き合うことは!!」
漫画ならば『ドーン!!』という効果音が似合うだろうか。それくらいに大声ではっきりと宣言した。
「……はっ?あんた何言ってんの?」
対して、有馬は困惑した様子でルビーに聞き返した。
「私は分かってるからね。そのうちエメを取って食おうとしてるんでしょ?エメは過去に何度もそういう目に遭いそうになったんだから!!」
「いや、マジで何言ってんの?私はただ……」
「じゃあそのスキンシップはなんだ!!どう見てもただの友達同士の距離感じゃないでしょうが!!」
有馬はエメを見つけ次第、そちらに駆け寄ってさりげなく手を繋いでいた。エメは有馬以外にも過去にそういった軽めのスキンシップを女子にされたことがあるが、本人は鈍感故か、それがよく分からず、ただ親しい仲ならおかしくないかな、程度に考えていた。
しかし、有馬がそういった軽めのスキンシップを行うのは、あくまで異性にするものとしてではなく、家族にするものとしての行為。どちらかと言えば、エメのことは兄もしくは弟として見ているのである。
父も母も離れてしまった今、本心を隠さずに甘えられるのはエメくらいなのである。
「はぁ?これくらい普通じゃない?私達は子供時代から共演してきた仲なんだし。ねぇ?」
「うん。僕も特におかしいとは思わないかな……」
有馬とエメは子役時代によく共演しており、友達役、幼馴染役をやることもしばしばあった。そのこともあって、2人の距離感は幼少期から変わっていないのである。
「ルビー、その辺にしてやれ。エメが心配なのは分かるが、有馬にその気はなさそうだ」
「でもでも、この人は元天才子役なんでしょ!?なら演技も上手なんでしょ?この場を切り抜けるための演技かもしれないんだよ!?」
「ゴフッ……」
元天才子役。この肩書きを指摘されたことによって、有馬はさりげなくダメージを受けていた。しかし演技面で褒められたので、一概に悪いとは言えないので複雑な感情だった。
「そもそも、本当にその気があるならとっくにそうなっているはずだ。今日まで健全な付き合いを続けてこれたのなら、寧ろ信用できるだろ?」
アクアもルビーと同じく、過去にアイを貶されたことを覚えているものの、彼は冷静だった。
有馬も長いこと芸能界に所属しているのだ。大人になれば話は別だが、学生なら歳上の方が非難されるリスクは高い。芸歴が長い有馬ならば、エメに手を出すことのリスクも承知しているはずだ。それも考慮すれば、エメに手を出す可能性は極めて低いと判断した。
「そうだよ。途中何を言っているのかよく分からない部分もあったけど、有馬さんとは特に何もないよ。僕にとっては友達でもあるし、師弟関係でもあるから」
「むむむっ……」
「あっ、そういえばこの辺に美味しいケーキ屋さんがあるって話だったよね。せっかくだし食べに行こうよ」
「行くっ!!」
エメはルビーの気を紛らわせるためにそう言うと、二つ返事でOKした。受験して疲れたこともあったのだろう。ルビーの脳は糖分を欲していた。
「そういうことだから、またな」
「ちょっと待って!」
アクアもルビー達に同行するためにその場を去ろうとするが、有馬に引き留められた。
「ちょっと話したいことがあるんだけど、この後どこかで2人きりになれる場所……ないかしら?」
「」
エメの危機が去ったかに思われた直後、今度は兄のアクアに身の危険が迫っていると感じ、再び有馬の方に向き直した。
「ま、まさか……!!狙いはエメじゃなくてお兄ちゃんだった……!?」
「違うわよ。単純に仕事の相談をしたいだけよ。どんだけむっつりなのよアンタは」
「あっ、ルビー!早くしないと売り切れちゃうかもよ、確かあのメニューは数量限定品だから!」
「えっ!?それはいけない早く行かないと!!じゃあねお兄ちゃん、また後でね!!」
「ああ」
ルビーは兄のアクアなら危機管理能力があるだろうと判断し、エメと共にスイーツを食べに行くことにした。
ちなみにだが、エメは変に気を使ったわけではない。単にエメもグルメなだけである。ただ、ルビーの気を紛らわせるためにそれを釣った事実はあるのだが……。
後で判明した話だが、有馬がアクアを誘った理由は本当に仕事関係のことだった。どうやら今やっている実写ドラマ、『今日は甘口で』のストーカー役が突然降りてしまったらしい。そこで代役が欲しかったとのこと。
演技力ならばエメも申し分ないのだが、彼は完全無欠の善人、聖人というイメージがファンを中心として根強く広がっており、ストーカーという悪役の象徴たる役目は良くないと判断し、エメに頼むのは最終手段として考えていたのだ。
一方で、アクアはどんな役でも器用に熟せる万能型の役者として有名だったこともあり、善人役から悪役まで幅広く経験がある。だから有馬はアクアをスカウトしたというわけだ。
そこから更に数日が経ち、アクアが出演した話が放映された。
アクアの機転によって、メルトも本来以上の演技力を発揮し、それによって有馬も実力を出すことができた。それによって、最終回だけはまるで今日あまだったと、ひっそりと評判になった。
そして今日あまの打ち上げの日。アクアは今日あまのプロデューサーである鏑木雅也と話をしていた。
幼少期にアイの携帯を借りた時に、連絡先の中に鏑木の名前があったが、彼のタバコの吸い殻を採取し、DNA鑑定に出したところ、赤の他人であることが判明した。
アイは何故か自分にも父親の名前を教えてくれない。アイ自身が復讐しようとしていたことから、恐らくアクアもそれに似たようなことをしようとしていると察したのだろう。アクアはただ自分の父親を特定したいだけなのだ。別に自分の手で殺そうなどとは思っていない。
「そうか。そんなにアイのことを知りたいのか……。でもタダでってわけにはいかない。君は顔も整っているし、何よりアイの面影を感じる」
そう言うと、鏑木は一息置いて、アクアにこう提案した。
「恋愛リアリティショーに興味はないかい?」
アクアの芸歴も決して短くない。その恋愛リアリティショーが、『
だが、それはまだ知名度がない役者を発掘させる性質も兼ねている。役者として普通に成功しているアクアにとっては、出演しても大したメリットは普通ならばない。寧ろ炎上する可能性すら孕んでいる。
だが、ファンのお陰でその炎上とはほぼ無縁な人物が近くにいた。一部の界隈では、彼は聖人として持ち上げられている。本人が聞けば否定するだろうが、アクアも決して大袈裟な表現ではないと感じている。
「……僕よりも適任がいますよ。その人を紹介する代わりに……というのはどうです?」
「ふーん?僕、顔にはうるさいよ?」
「そこは問題ありません。僕と同じ……いや、それ以上に整った顔立ちをしていて、一部の界隈では善人とか、聖人としてのイメージを持たれている。番組の炎上対策にも一役買うと思いますよ」
「……ほう?一応僕にも聞き覚えがあるけど、とりあえず聞いておこうか」
「……孫悟飯。僕よりも彼の方が適任だと思います。彼も僕と同じ苺プロの役者ですから」
星野アクアは、
ラディッツは仲間になったら苦労人になる気がするのは自分だけかな?
今回の、エメの扱いについて。エメは孫悟飯(ファンの間ではよく悟飯と呼ばれている)という名前で活動しているが、演じる役やその人柄から聖人扱いを受けている。例えるなら、Youtuberの眼鏡をかけたビートボックスのあの人みたいな感じの扱いを受けている。故に炎上が発生したとしても、その内容はそもそもしょぼかったりする。アクアが何故自分ではなくエメを推薦したのか、その詳細は次回出てきます。
ちなみに、実写今日あまの件ですが、あれはほぼ原作通りに進んだので、こちらでは細かい描写はしておりません。
また、カカロットは相変わらず異性には興味がなく、戦うことと食べることにしか興味がないご様子。男を惑わす容姿を持つアイでもそれは変わらず。故に、大きさの心配をしているのは身長の話です。他意はありません。あと、アイは全然小さくない。何がとは言わないけど。
あと、気分転換にシリアス物を書くかもしれない。単刀直入に言えば、アイ死亡ifというやつです。分岐点は初ドームライブのあの日。……原作も死亡がifだったらと何度も思いましたが、原作で死亡してるからこそ、生存ルートに大量の需要が出たと考えると、少々複雑な気分になりますね。ちなみに死亡ifの方はDB要素が強くなる予定。まだ書き始めてすらいないし、基本は本編優先で話を進めますけどね。