推しの飯/絶望の未来から転生した戦士 作:Miurand
アクアが打ち上げに行っている間、星野家ではアクアを除いた家族で食事をしていた。
ルビーはみんなで食べたいとぼやいていたものの、アイは仕事だから仕方ないと宥めていた。そんな時、エメの携帯が震える。
画面を確認すると、アクアからの着信だった。何かあったのかと、エメはすぐに携帯を手に取って出た。
「もしもし、どうしたの?そっちは打ち上げの途中じゃなかったっけ?」
『食事中すまない。エメに提案があるんだが……』
アクアは今ガチのことについて詳細な説明を始める。炎上の危険性等のデメリットもしっかり言及した上で、出演する意思があるのかどうか聞きたかったようだ。
自分が出演するよりもエメが出演した方がメリットは大きい。自分と比べれば、エメが活躍している範囲は少々狭めだ。それによって知名度も多少は低い。と言ってもドングリの背比べ程度ではあるが。ここでこういったバラエティ番組にも出演し、成功を収めればエメは役者として更に邁進するだろう。
更に言えば、何年か前だっただろうか、エメはこんなことを呟いていた。
『……ねえ、アクア。恋愛って一体どういうものなの?』
『……なんだ?藪から棒に……』
『いや、アクアってなんというか、恋愛慣れしてそうだったからなんとなく…』
エメの前世は話に聞いているだけとはいえども、把握はしている。思春期に差し掛かる頃には既に戦士として、日々戦いに明け暮れていた。そんな状況では、恋愛などする暇もないし、知る暇もないだろう。
そして、芸能人とは非常に面倒なもので、例えお互いに同意を得ていたとしても、恋愛の気が少しでも見えるだけで炎上することがある。これが共演者が相手ならまだいいのだが、無関係となると話は別。更に相手が一般人ともなれば、そのリスクは更に高まる。ましてや、エメのような聖人として扱われているキャラなら尚更。
そこで、この今ガチが役に立つ。恋愛が如何なるものなのかを経験できるし、エメの気が乗れば恋人も合法的に作れる。いや、決して普通に恋人を作ることが違法というわけではないが。
「いいの?本来はアクアにオファーが来てるんでしょ?」
『俺はいい。だからこうしてお前に連絡を取っているわけだし』
「そういうことなら……、受けてみようかな?基本的に土日ならなんとかなると思うし」
『分かった。急に済まなかったな』
「ううん、全然いいよ。それじゃ、そっちも楽しんでね」
エメは通話を切り、席に戻って食事を再開した。
「ねえエメ。お兄ちゃんからなんでしょ?なんて言ってたの?」
「実はね、アクアが僕を推薦したみたいなんだよ」
「へぇ〜、次のお仕事は何?やっぱりドラマ?それともバラエティ系?」
ルビーとアイは次のエメの仕事に興味を持ったため、簡素な質問を投げかけた。
「バラエティと言えばバラエティだね。今からガチ恋始めますっていう、恋愛リアリティショーなんだけど」
それを聞いた途端、ルビーとアイが固まってしまった。
「あれ?おーい……?どうしたの?」
「え、エメが、恋愛……!?いや、確かにロリ先輩とは付き合ってないとは言ってたけど……」
「え、エメに彼女ができる……?同棲、結婚、出産…………。エメ?もしかしてもう家を出ちゃうの……?もっと一緒にいたいよ〜……!!」
「いやいや、話が飛躍しすぎだって。そもそも番組に出演したからといって必ずしも付き合うとは限らないんだからさ」
仮に付き合うとしても、形式的に付き合って数ヶ月後に別れたという趣旨の発表をするケースもある。要はビジネスの彼氏彼女の関係だ。無論結婚まで行くカップルもあるが、全ての組がそうなるわけではない。
ちなみにアクアの帰宅後。星野家はプチ修羅場と化していた。原因はアクアがエメを今ガチに推薦したことのようだった。
「お兄ちゃん?エメが今までどんな目に遭ってたか分かるよね?中学生の時なんかは、女子大生にホテルに連れて行かれそうになったこと覚えてないの!?」
「勿論覚えているが、エメは自衛できるだけの力がある。心配いらないだろ」
「分かってないッ!!エメは同年代と比較しても純粋なの!!ピカピカの小学1年生レベルなんだよ!?そんな無知なエメが男に飢えた猛獣の群れの中に放り込んだら……」
「お前流石にエメを馬鹿にしすぎだろ。あと大半のまともな女性に謝れ」
そもそもの話、番組内で強姦紛いのことが起これば、番組側が責任を追及されるリスクもある。それを考えれば、万が一そうなっても番組側が止めるだろう。
「あと、現時点での出演者、その関係者を調べたが、黒い噂や情報は出てこなかったぞ。だから心配いらない」
「うわ〜出たよブラコン」
「お前がそれを言うか……?」
何がともあれ、星野兄妹のプチ喧嘩はなんとか沈静した。それはいいのだが……。
「あ〜……。昔のエメはこんなに可愛かったのに……。大きくなっちゃって…。もうすぐ結婚かぁ……。それはそうだよね〜……。もう16歳になるんだもんね〜……。私だって16で産んだし……」
「いやいや、僕はまだ結婚できる年齢じゃないし、そもそも付き合うかどうかすら分からないって」
アイは現実逃避するように、虚な目で子供達が写っているアルバムを眺めていた。
「ということは、ルビーとアクアももうすぐ……。私は独り身……?もう孫が生まれるのかな……?16歳だから子供ができてもおかしくないかな……。私がお婆ちゃんかぁ……。あはは…………」
「お、おい……。母さんはどうしてあんなことになってるんだ……?」
「それもこれも全部星野アクアマリンってやつの仕業だよ」
「俺はただエメを推薦しただけなんだが……?」
アイが正気に戻るまでは時間がかかりましたとさ。仲がいい家族で何よりですね。
そんなこともあったが、相変わらず平和な日々を過ごしていた。
幼少期から続けている、有馬かなとの演技修行。カカロットとの実践形式での修行。自学自習。役者仕事。
同年代と比べたら遥かに過密なスケジュールだが、前世は常に望まない戦いで予定が埋まっていた彼にとっては、ほぼ苦にならない。寧ろ、この忙しくも平和な生活を噛み締めている。
そして、とうとう陽東高校に入学する日がやってきた…………。
「おいルビー。まだ時間かかるのか?」
「ちょっと待ってってばお兄ちゃん。この制服可愛いけど複雑なんだよ」
アクアとエメは既に身支度を済ませており、あとはルビー待ちだったが、そのルビーも準備を終えた。
「うちの子たちはやっぱり可愛いしカッコいいね!お揃いの制服似合ってるよ!」
「ありがと〜ママ!!」
「ありがとう、母さん」
「うん、ありがとう」
三者それぞれが礼を言うが、そろそろ出発しなければ時間が危うい。
「じゃ、そろそろ行かなきゃだから。母さん」
「ママ」
「お母さん」
「「「いってきます」」」
「うん。いってらっしゃい!私も絶対後で行くからね!」
本当ならば一緒に高校に行きたいところだが、ここで血縁関係を露呈させるわけにはいかない。あくまで表向きは斎藤夫妻の子供ということになっているため、書類上はアイは義理の姉という扱いになる。その設定を守るため、アイは後から斎藤夫妻と共に入学式に行くらしい。
本来なら斎藤夫妻も仕事に追われるはずだが、苺プロの稼ぎ頭が我儘を言っているので、今回は仕方なく付き合ってる……ということもなく、普通に彼らも入学式に行きたかったようだ。なんだかんだでアイの子供達は親戚の子供のような立ち位置になっている。
入学式を終え、その後にロングホームルームや教材の購入等があるので、まだまだアイ達とは再会しない。芸能科はF組だけのようで、血縁関係にあるアクア達も同じクラスに纏まっている。
共にF組に向かおうとした時、エメにとっては聞き慣れた声がする。その声に引き留められて振り返ると。
「入学おめでとう、エメ、アクア!あとついでにルビー」
別学年だというのに、有馬がわざわざ祝いに来てくれたようだ。何故かルビーに対してはテンションが低かったが、多分気のせいだろう。
「この陽東高校は芸能科のある珍しい学校よ。芸能科はある程度融通が利くようになっているけど、普通に成績不振だったり出席日数が足りなかったりすれば落第だから気をつけるように」
頼んでもいないのに有馬は後輩となるアクア達にこの学校の特徴を説明していく。一般科の方が割合が高いとはいえ、やはり芸能関係にいる人物は多いようだ。
大手アイドル、モデル、グラビア。有馬は代表的な職に就いている人を挙げるが、他にも様々な職に就いている人がいるだろう。
それを聞くと、ルビーは普通の学校とは違うことを実感し、らしくもなく緊張してきてしまった。そのことを呟けば、有馬からは、養成所でもスタジオでもない、普通の学校だから何も心配いらないとのこと。
先輩である有馬とは別れ、自分達の教室に入れば……。
「……!!!!」
ルビーが思わず目を見開いた。右向けば美人。左向けばイケメン。顔面偏差値が地元の目黒川中学とは明らかに違った。
顔面偏差値の高い星野家だが、流石にこの空間には驚いてしまった。それはアクアも同様だが……。
「へぇ〜、もうみんな喋ってるよ。流石撮られる側の人達だね」
1人だけ視点の違う子がいた。面食いが食いつきそうな顔をしているのに、当の本人は全くその気はないので面白い。
「……えっ?おいあれ見ろよ」
「あれって星野アクアだよな……?」
「マジ……?」
クラスメイト達は、アクアの顔を見るなり各々の反応を見せる。役者としてそこそこ成功の道を突き進んでいるため、知名度もそれなりにあるのだ。
単純な演技力はアイには遠く及ばないものの、裏方の意図を把握し、それに合った演技をすることができる役者は貴重なようだ。その場面にぴったりな演技をすることから、アクアは演技が上手だと認識する人が多い。
当の本人はそんなことを思っていないわけだが。
「ね、隣を見てみて」
「あっ!孫悟飯だ!」
「マジか!じゃああのアクロバティックな動き見れるのかな!」
「この学校の体育成績トップ確定じゃん」
また、エメは『孫悟飯』として認知されていた。彼の知名度はアクアに一歩及ばないものの、それでも知る人ぞ知るアクション系俳優である。
彼はアクアとは違い、裏方の意図を読むスキルはないものの、演技力が単純に高い。特に感情演技、英雄や勇者と言った、所謂ヒーロー的な役を得意としている。
また、迫力あるアクションシーンはまさかの実写。CGやカラクリは一切ないのだ。常人ならできない動きをやってのけてしまうので、主に青少年の心を掴んでいる。
また、これはアクアにも言えることだが、面食いの女性層にも人気がある。
結構な大物が入ってきた。そんな話題でクラス中が盛り上がってしまう。だが……。
「真ん中にいる子の顔もすごいね……」
「あの2人に引けを取らないレベルだ……」
ルビーも容姿については言及され、高評価は得たものの……。
芸能人としての評価は得られなかった。それは当然。だって芸能人としてまだ活動してないんだもん。
ルビーは少し肩身の狭い思いをしつつ席に座る。すると……。
(デッッッ……!!!!)
デカいと思わず叫びそうになってしまった。隣の女子がデカいらしい。何がとは言わないが。
一方で、隣の女子は女子でルビーの顔面をじーっと見ていた。お互いに失礼であるが、お互いにやっているのでセーフ。多分ね。
「あっ、すんませんジロジロ見てもうて。めっちゃ美人おるやんおもて……」
「あ、いえいえこちらこそ。なんというか、スゴイね?モデルさん?」
ルビーの隣に座った少女は『寿みなみ』と名乗った。するとすかさずルビーはその名前を検索し、彼女がただのモデルではないことが発覚する。どうやらグラビアアイドルをやっているようだ。道理でグラマスな体型だと、ルビーは勝手に納得していた。目の前でその人物を検索する度胸はなかなかである。
「えっ、G!?えちえちじゃあ……」
「も、もうやめて〜……!」
「G……?何が?」
「わっ!!な、なんでもない!!」
少しすると、ある程度会話を済ませてきたエメがこちらに来たようだ。最初の席は基本的に名前順になり、このクラスは男子列女子列とかそういう概念がないようだ。故に、名字が同じ星野家三人は縦に1列並ぶようになっている。
「わぁ……。めちゃイケメンおるやん。というかこの人ってもしや、孫悟飯さんやない!?」
「あれ?僕のこと知ってるんだ。芸名は確かにそうだね。でも本当の名前は星野エメラルドって言うんだ。そこにいるルビーとあっちにいるアクアの弟です。よろしく!」
みなみもエメのことを知っていたようだ。アクアよりかは活動範囲は狭いものの、やはり高校生ぐらいの男女にはちょうど刺さるものがあるようだ。
「あ、うちは寿みなみって言います。よろしゅう」
孫悟飯という有名人を目の前にして、みなみは少々緊張しているようだ。それを察したエメは……。
「あはは。緊張しなくても大丈夫だよ。僕達はただの同級生なんだから。これから仲良くしようね!ところで、さっきのは関西弁かな?じゃあ出身も関西なのかな?」
「いえ、うちは生まれも育ちも神奈川です」
「えっ?じゃあなんで関西弁を使ってるの?」
ルビーの疑問は最もである。神奈川なら基本的に東京と同じ標準語を話すようになるはずである。もしかすると、両親が関西出身で、後から神奈川に引っ越してきた可能性はある。だが。
「関西弁は……なんていうか、ノリ?」
案外テキトーな理由だった。ノリで関西弁を喋る人はネットではよく見かけるものの、リアルとなると珍種になるのではないだろうか?
「という感じでお友達になったみなみちゃん!」
「どうも〜」
「いやどんな感じだよ」
自由時間になった後、さっそく友達になったみなみを紹介するルビー。しかし、アクアにとってはそれくらいのやり取りで友人関係になっていることに思わずツッコんでしまった。
「まさかルビーちゃんのお兄さんがあの星野アクアさんだなんて……。弟はあの孫悟飯君で……。ルビーちゃんとこって芸能一家なん?」
「あ〜、否定はできないかも?」
実際、表面上の母、ミヤコは苺プロの現副社長*1、実の母であるアイは元アイドルにして、現マルチタレント。誰が見ても明らかなほど、立派な芸能一家である。
「まあ、友達ができているようで何よりだ」
「お兄ちゃんは友達できた?」
「いや別に。そもそも、この学校には友達作りに入ったわけではないからな」
話し相手くらいならできたのだが、いきなり友達認定はしない。アクアなりの考えはそんな感じだったが、この発言によって、ルビーは友達ができなかったのかと受け取ってしまう。下手なフォローをされ、アクアは饒舌に男はいきなり友達認定しないと語る。
「ふーん?男はいきなり友達認定しない……ねぇ……」
「……?」
ルビーはエメの顔を見ながら意味深に呟くが、当の本人は何故自分が見られているのか全く分からない様子。
「つか、人の心配よりも自分の心配をしろよ。この学校は普通のとことはちょっと違うから、勝手が違うだろ?」
「そうなんですよね〜。周りもプロだと思うと、結構緊張しちゃうっていうか……」
ルビーを心配するようにアクアが言うと、みなみがこう答えた。アクアやエメはメディアでよく見かける有名人。そんな人と同じクラスとなると、やはり緊張してしまうものらしい。
「そんな必要ないわよ!ここは養成所でも撮影所でもなくて、普通の学校なんだから!普通にしてればいいのよ!」
「ルビーちゃん……!」
そんなみなみに、ルビーは少しでも気楽になってもらおうと、フォローの言葉をかける。しかしその言葉は、どこか既視感のあるものだった。
(さっき有馬さんが言ってたこと、ほぼそのままだなぁ……)
そう思いはしても、エメはそれを口に出さなかった。
「まあ、入学式見た感じ、容姿が整っているやつはいても、媒体とかで見たことあるやつはほぼいなかったから、そこまで緊張する必要ないだろ」
「いやいやいたじゃん!めちゃくちゃスゴイ人!!」
ルビーが少々興奮気味に話すと、アクアは思い出したかのようにそれを肯定した。
「あの不知火フリルが同じクラスなんだよ!みなみちゃんが緊張するのも無理はないって!!歌って踊れて演技ができるマルチタレントだよ!!?日本人で美少女と言えば殆どの人が思い浮かべる、あの不知火フリル!!」
「いやいや何言ってんだよ。アイだって歌って踊れて演技ができる日本を代表する美少女だろ。なんなら世界を代表するまであるだろ」
何故かアクアは変なところに対抗心を抱いてしまったようで、アイの魅力について語り出すも……。
「あ〜、あの元アイドルのアイさんよね?あの人も確かに綺麗やけど、アイドルやってたのが10年くらい前だから、美……少女?」
「うーん、マ……アイはどちらかというと美少女というよりは、沢山の人を魅了する魔性の女って感じだよね〜。不知火フリルは清純派だからちょっと違うっていうか……」
アイもお馬鹿キャラながらも、一応は清純派な方で売っているのだが、長年アイと生活を共にしてきたルビーにとっては、単純に比較できるものではないようだ。
最も、アクアもルビーも今も昔も最推しは変わることはなく、アイである。母として接するようになったとしても、そこは揺るがない。
とはいえ、
「俺の最推しは今も昔もこれからもアイだ。例え天変地異が起ころうともそれは変わらない」
「それは私もだけど、それはそれ!これはこれなの!!」
「アクアさんってそこまであのアイさんに沼ってたんやなぁ。印象がガラッと変わるわぁ」
アクアのギャップに驚くみなみに、デザートは別腹みたいな感じで抗議するルビー。
「あれ?ところでエメ君はどこに行ったん?」
「あれ?エメ〜?」
「あっ、あっちにおるよ」
三人で会話をしていたら、一緒にいたはずのエメが近くにいない。少し辺りを見回すと、見つけた。みなみは一足早く見つけていたようだ。
「久しぶり。話には聞いていたけど、エメもこの学校にしたんだね」
「あ、不知火さん久しぶりだね!あのドラマで共演して以来だもんね〜。これからよろしくね!」
「なんかエメがあの不知火フリルと普通に喋ってるんですけど!?」
「別にクラスメイトなんだから普通だろ」
「いやそうじゃなくて!!?」
ルビーが言いたいのは、何故かエメがあのフリルと以前から知り合いっぽいこと。別にエメなら、例え超有名人だろうがいつもの調子で話しかけることは想像できた。だが、まさか共演したことがあるとは思わなかったのだ。
「そういえば、鏑木Pに聞いたけど、次は今ガチに出るんだってね?」
「随分情報が出回るの早いね?」
「そこでお願いがあるんだけど、出演者の中にMEMちょがいるでしょ。知ってる?」
「メムちょ……?ああ、不知火さんが推してるっていうYouTuberの人だっけ」
「うん。だからできればサインをもらってきてほしい」
「それは不知火さん本人が頼めばいいんじゃないかな?」
「それはダメ。向こうも忙しいからだろうから、わざわざサインをもらうためだけに会いに行くことなんてできない」
「それもそうか。できるか分からないけど、頼んでみるよ」
「ありがとう」
フリルは表情にこそ出さないものの、どこか嬉しそうだった。彼女の現在の最推しは、インフルエンサーのMEMちょ。現役JKというキャラを売りにしているYouTuberである。
「……ところで、さっきからこっちの方を見てきてるあの人達は?」
「あっ。紹介するよ。こっちが兄のアクア、こっちが妹のルビーで、その隣にいるのが友達の寿みなみさん」
「初めて不知火さん。これからよろしく」
「「は、初めてまして!」」
エメに紹介され、いつもの調子で挨拶するアクアに、緊張気味に挨拶するルビーとみなみ。アクアは芸能界慣れしているからか、緊張は読み取れない。
「話には聞いていたけど、アクアさんも同じ学校なんだね。この前の今日あまも見たけど、良かった」
「……!!あのドラマのこと知ってたんだ」
アクアは意外に思う。彼の出演するドラマならば、他にもいくらでもある。それこそ、今日あまよりも高評価を得て、知名度のある作品が。
しかし、フリルがわざわざ今日あまの名前を出したのは、単純な知名度や人気の話ではない。現場でアクアの活躍が評判になっていたからである。今までは原作泣かせとも言わんばかりの雑な展開が続いていたが、アクアのアドリブによって一気に原作に近づいたと、演出陣も視聴者も言っている。
「そっちの方……みなみさんは、確かミドジャンの表紙に載っていた方ですよね?」
「え、ええ!そうです!」
みなみもまた、フリルに認知されていたことを知って喜びを隠しきれなかった。エメだけでなく、アクアやみなみも向こうに認知されていることには素直に感心するルビー。
「それで、ルビーさんは……。何をやっている人ですか?」
しかし哀しきかな。芸能人としての活動を始めていないから当たり前ではあるのだが、ルビーは認知されていなかった。
「い、今のところ、特に何も……」
「そう。……頑張ってね?」
その後、保護者枠で入学式に訪れていたアイ達と合流した。祝辞を送られるのだが、今のルビーにはそんなことなどどうでも良かった。
「ミヤえもーん!早く私をアイドルにしてよ〜!!」
「そんなすぐにグループを立ち上げられないって前にも言ったでしょ?まずメンバーが集まってないんだから……」
「いやいやメンバーならいるよ!芸能科に寿みなみちゃんって言う胸がバカデカくて可愛い子が……」
「他所の事務所はダメだ。面倒ごとはゴメンだぞ」
ルビーは早速友達になったみなみを推すが、壱護に拒否されてしまった。確かに、あのみなみならビジュアル的には問題ないのだが、他所の事務所に所属しているとなると、不要な問題を引き起こしかねない。避けられるリスクをわざわざ踏む必要はないのだ。
「でもそんな子いるかな……。芸能科は基本的に芸能事務所に所属していることが入学条件だし……」
フリーで芸能活動できる人といえば、昔から芸能界にいて、なおかつそこそこ知名度がある人だ。しかし、陽東高校にはこれから仕事を始める人、まだ始めた人ばかりだ。そんな都合のいい人物など……。
「もういっそのことママがアイドルに復帰すれば良くない?ママ、私とアイドルやろうよ!!」
「引退してから結構時間経ってるから、流石に厳しいんじゃないかな〜……」
ルビーは他に思い当たる人がいなかったため、近くにいる元アイドルに頼むも、アイも自分の年齢は把握しているし、そもそも引退してまた復帰します、だと引退詐欺もいいところだ。しかし、引退してそろそろ10年というところでの復帰ならば、詐欺とまではいかないだろうが、やはり年齢の壁は高い。
やるとしても、ルビーのアイドルグループがある程度大きくなり、ゲストとしてステージに出るとかそれくらいだろう。
「いや、いるぞ。フリーで知名度の割には売れてなくて、顔が可愛い子」
「えっ?まさかその人って……」
エメはアクアに問う。知名度の割に売れず、顔が良い子。心当たりがありすぎて逆に違う人なのではないかと疑いたくなるくらいには、その特徴にピッタリ当てはまる人がいた。
「ああ、そのまさかだ」
エメがさりげなく女子大生に持ち帰りされそうになった過去がありますが、本人は未だにそのことに気づいておりません。しかし、その過去が原作の例の彼と重なる可能性が出てきたのがまた……。しかもエメの場合は演技ではなく素で純粋少年だったので……。
何気にフリルと共演したことがありますが、流石にエメは主演ではありませんが、普通にレギュラーキャラを演じていました。そこで知り合った感じです。フリルがエメを初めて見た感想は、『外も中身も綺麗な人』だそうです。今ガチ以前からMEMのファンだったかどうか分かりませんが、ここではとりあえず以前からファンということで。
またアンケートです。いつもの要領で、暇つぶし感覚で。
やっぱりお姉ちゃんとしては、安心して任せられる人にエメの恋人になってもらいたいの!だからエメの彼女候補は私が厳選してきたよ!大丈夫!私、人を見る目はあるから!!
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黒川あかね!
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MEMちょ!
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不知火フリル!
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寿みなみ!
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え?ロリ先輩?やっぱり付き合ってたんだ!
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え?ママ?それはインモラル過ぎてちょっと