推しの飯/絶望の未来から転生した戦士 作:Miurand
しかし、前回圧勝だったはずのMEMちょもあかねに抜かれている……。なぜだろう。MEMもそんな出てないし、あかねに至っては全く登場してないのに。不思議なものですね。
「手入れされたツヤツヤな髪。あどけなさが残る童顔。ちょっと天然っぽいお馬鹿キャラ……。確かに、長年追ってきた私だから分かる。ああいうタイプはこってりしたオタの人気を獲得する……!!」
「視点も分析もなんか嫌だな」
エメの予想通り、アクアがメンバーとして打ち出したのは、有馬かな。確かにアイドルができるビジュアルもあるし、努力家な面もある。それを考慮すれば、アイドルに向いていることは間違いない。エメもその意見には賛同だ。
しかし、有馬は賛成するだろうか?役者として、仕事がないながらも奮闘している彼女にその提案をしてみるとする。
彼女にとっては、『もうお前は役者じゃやっていけねえよ』と言われるのと同義なのではなかろうか?実質役者としての死刑宣告に聞こえるのではないかと。
「それは違うぞ、エメ。今の有馬は才能のせいで仕事がなくなったわけではない。幼少期の立ち振る舞いは間違いなく悪影響を及ぼしているだろうが、一番は子役としてのイメージが強すぎることだろう。だから成熟した今となっては旬が過ぎた役者だと思われている。
そこで、アイドル有馬かなとして再出発することで、子役のイメージを脱却し、新たにアイドルしての印象を植え付ける。そこから役者仕事もこなしていけば、売れる可能性はあるだろう。有馬ならそれができるさ」
「うーん……。まあ、本人の了承を得てからだね。有馬さんのことだから、すぐには頷くとは思えないけど……」
「まずは話しかけてみればいい。それでダメそうならこの話はなしにすればいいし」
「……分かった」
ということで、放課後にルビー自ら有馬にお願いしてみることになった。セッティングしたのはアクアだが、有馬は詳細を伝えられていないために、アクアに告白でもされるのではないかと誤解していた。
いやいや、流石に浮かれすぎではないか?とツッコむ人も出てくるだろうが、顔の良い男から『大事な話がある。放課後時間ある?』とだけ来たらどう思うだろうか?期待するなという方が無理な話ではなかろうか?有馬に罪はないだろう。
これが、送信者がエメなら、『余程何かやばい問題にでも巻き込まれたのかしら?』と心配になるのだが、アクアとなると話は別。要は関係性による違いである。
「……お待たせ。待った?」
有馬はできるだけ身なりを整え、髪も軽く手入れしてきた。せっかく告白されるなら、綺麗な自分でありたいと。
「ロリ先輩遅いよ〜!私結構待ってたんだからね!」
だが、それに返事したのは何故かルビー。アクアに全然待ってないよと言われることを期待していた有馬は、数秒間宇宙猫状態だったが。
「はっ?永遠に待ってろ」
想像していた展開とはどうやら違うらしいことを理解し、一気に機嫌が悪くなった。
「それで?話って何?私忙しいから、手短にお願いね」
近くのベンチに座り、片手でスマホをいじりながらルビーにそう言った。
「えっ?私今からこの人をスカウトするの?やっぱり間違ってない?本当にこの人で合ってるのお兄ちゃん?」
「こってりしたオタの人気を掴むって言ったのはどこの誰だよ」
あまりの態度の豹変ぶりにルビーは今すぐにでもこの話をなかったことにしようと思ったが、アクアにツッコまれ我に返った。
「エメ。これどういうことよ?なんであんたの姉の方がココにいるわけ?私はアクアに呼び出されたはずなんだけど?」
「話があるのはルビーの方だよ。その為にアクアがここに有馬さんを呼んだんだよ」
それを聞き、有馬は紛らわしい真似しないでよ、と呟きつつ、先程の態度を変えることはしない。
「……有馬かなさん。私とアイドル、やりませんか?」
「…………えっ?」
まさかのスカウトに、有馬は驚きを隠せなかった。どうせしょーもない話だろうと思っていただけに、片手にあるスマホを落としてしまいそうになるほど。
「……これ、マジな話?」
「……うん。うちの事務所、そろそろアイドル部門を復活させるんだけど、まだメンバー募集中なの。有馬さんならルックスもいいし、知名度もあるから、有り体に言えばスカウト……ってことになる」
やたら具体的な話が出てきたため、有馬もマジな話だと理解した。だが、少し待ってほしいとルビーに告げ、有馬は考え込む。
いや、なしでしょ。と、有馬は断る方向で話を進めようと考える。役者からアイドルに転身すれば、確かに仕事が舞い込んでくるかもしれない。とはいえ、失敗したらもう役者としてもやっていけなくなる。苺プロはあの伝説のグループ、B小町を育て上げた事務所ではあるが、あのグループが伝説と化したのはアイがいたからこそ。アイがいなければ、そこそこの人気はあっても伝説となることはなかっただろう。
それに、苺プロは大手ではない。大手との競争に負けて普通に失敗する可能性もある。
だが、有馬の芸能人としての嗅覚が、ルビーに強く反応する。あのアイに近いものを感じる。彼女はアイドルとしての、芸能人としての才能があると、嗅覚が告げている。
だが、才能だけでやっていけるほどこの世界は甘くない。アイドルとなれば尚更だ。故に、有馬は断ることを選択しようとした。
「有馬、頼む。妹とアイドルやってくれ」
しかし、有馬は断る前にアクアが懇願する。それに押されそうになるも、有馬は断ろうとする。そもそも自分の顔は可愛い方だが、アイドルとして光るほどではない。
そう言えば。
「いや十分可愛いだろ、有馬は」
「……!!?」
アクアはそれを否定した。
「俺も酔狂でアイドルやってくれと言っているわけではない。有馬は、そこらのアイドルよりもずっと可愛い。芸歴の長い有馬になら、大事な妹を安心して預けられる」
しかも、ビジュアルだけでなく、芸能人の先輩として、妹を任せることができるとも言ってきた。可愛いし頼りになるからアイドルをやってくれ。超噛み砕けば、アクアはこう言っているのである。
「えっ、でも……」
「頼む、アイドルをやってくれ」
「む、無理!」
「有馬」
「や、やらないって!」
「頼む。有馬を信頼しているから頼んでいるんだ」
「ちょちょちょ、ストップストップ!」
エメが突如静止させる。アクアの魂胆が読めてしまったからだ。有馬は共感性が高く、流されやすい傾向にあることは、エメも知っている。褒めて、頼りにすれば流されてやってくれるとでも考えているのだろうが、それでは本人の意思はどうなるのか?
そんな疑問が頭に浮かんだ段階で、エメはそのやり取りを中止させた。
「……なんだよエメ。もう少しだったのに」
有馬に聞こえない程度の声量でエメに言った。それを聞いたら、思わず溜息が出てしまった。
「……アクア。ルビーを早くアイドルデビューさせたいのは分かるけど、無理矢理は良くないよ……」
「いや、脅迫しているわけではないぞ?あくまで俺は頼んでいるだけだから」
「今の状況じゃ似たようなものだって」
アクアは家族のこと、特にアイやルビーのこととなると、多少ポンコツになる節がある。普段は基本的になんでも熟せるオールマイティタイプなのだが、シスコンでマザコンなのがたまに傷だ。
「……有馬さん。本音を言えば、僕も有馬さんにアイドルになって、ルビーと一緒に活動してほしい」
「……じゃあなんでアクアを止めたのよ?あんたもルビーがアイドルデビューすることを望むなら、そのまま静観した方が都合良いでしょ?」
確かにそうかもしれない。だが、これはエメの……孫悟飯の人間性も関わっているのかもしれない。孫悟飯の人格がほぼそのまま受け継がれたエメは、超がつくほどのお人よしと言っても過言ではない。
「……僕は、有馬さんに充実した人生を送ってほしいと思っている。全く後悔のない人生を歩むことは難しいけど、できることなら、後悔はしてほしくないんだ。だから、誰かの情に流されて決めるんじゃなくて、あくまで自分の意思で決めてほしいんだ」
(……ああ。そういえば、エメはこういうやつだったわ)
有馬がエメに対して心を許している理由は、この綺麗な性格。芸能界に限らず、現実には表面上は取り繕っていても、中身が黒い人、グレーな人は五万といる。芸能界にいればそれが顕著になるので、心の底から信頼できる人はなかなかいない。
でも、本来なら信頼できるはずの家族もいない。しかしあの日、エメが弱い自分を受け入れてくれた。それこそ、愚痴の一つも言わずに。それは彼の善人性からくるもの。そんな彼だからこそ、有馬は気兼ねなく接することができたのだ。
「……私はね、正直迷っているのよ」
「えっ?でもさっきは……」
「アイドルってのはね、新陳代謝が激しい仕事なのよ。成功しなければすぐに淘汰される可能性があるの」
つまりこうだ。今の有馬は、このまま元天才子役のイメージを払拭しないまま、細々と活動を続けるか、アイドルになって一発逆転を狙うか。その2択なのだ。アイドルになって成功すれば、元天才子役から天才役者に昇格できるかもしれない。しかし、失敗すれば役者生命が終わる可能性がある。
これは賭けもいいところだが、今まで自分は色々な方向に挑戦してみた。有馬かなという知名度に目を惹かれ、投資をしてくれた人はいたものの、結局失敗続き。今度も失敗するかもしれない。しかも、そのせいで本来なら成功するかもしれないルビーを巻き込むかもしれない。
そう考えると、アイドルにならずにこのまま細々と活動した方がまだ勝機があるのではないかと思ったのだ。だからこそ断ろうとしたのだ。
「でも、このまま細々と活動を続けても、多分子役時代みたいに輝けることはない……。なら、ここでアイドルになってみるのもあり……。でも、転べば今度こそ復帰不可能になるわ。そう考えちゃうとどうしてもね……」
「……そっか……。分かった」
「お、おいエメ」
あっさり引き下がろうとするエメに、抗議の視線を送るアクア。このままではルビーのアイドルデビューが遠のいてしまうではないかと。だが……。
「無理にとは言わないよ。僕は有馬さんの意見を尊重する」
エメは少し名惜しそうにそう言った。その表情に有馬は罪悪感を抱いてしまうが、これで良かったのだと自分に言い聞かせた。
天才元アイドルのアイを彷彿とさせるルビーは、間違いなくアイドルとして成功するだろう。しかしそこで私が入ったら?芸能界のボンビーと言っても過言ではない私が入れば、ルビーも巻き込まれるかもしれない。そうなった時の……エメの落胆した表情……。
そんなものを見てしまえば、自分はもう立ち直れないかもしれない。エメが直接失望の言葉を言うことはあり得ないだろう。なんなら思いもしないかもしれない。
「……でも、あの頃みたいな、キラキラした有馬さんをもう一度見たかったな……」
小さな声で、独り言のようにエメは呟いた。決して誰かに聞かせるつもりはなく、本当に無意識に出た言葉だったが、もうすぐ日が暮れる公園は静かだったため、よく聞こえた。
その瞬間、有馬は決意した。
「……やるわ」
「えっ?」
「アイドル。やるって言ってるのよ」
「えっ?ど、どうしたの急に……?」
「弟子がこうして確実に成功の道を進んでいるのに、私は保身に走る?弟子が私に期待しているのに、それに背いて保身に走るの?そんなの、師匠として面目が立たないじゃない!」
「も、もしかしてさっきの聞いてた?別に無理しなくても……」
「私があんたを育てた理由、知ってるわよね?」
「えっ?うん」
アクアを見返したい。自分が演技できるのはもちろんのこと、役者を育てる能力があることも誇示して、驚かせたい。その一心で、自分磨きをしつつもエメを育ててきたのだ。だというのに、最近はエメの優しさに甘えてばかりだった。
「私はあんたを育ててアクアを見返したいって目標を立ててた。それなのに、今保身に走っているような私じゃ、堂々とあんたの師匠を名乗れないじゃないの!!」
「あっ……」
「だから、さっきの話、受けさせてもらうわよ。いいわね?」
有馬は決意した強い眼光で、アクアを射抜く。それはまるで、エメがあの
先程までの流されて話を受けようとしていた有馬とは違う。今はなあなあでアイドルになろうとしているのではない。自分の意思で、しっかりとした目標を持ってアイドルになろうとしている。
「……ああ。さっきからそう頼んでるだろ。うちの妹をよろしくな、有馬」
こうして、有馬のメンバー加入が確定した。早速苺プロの事務所に赴き、有馬は契約を済ませ、正式に苺プロ所属のアイドルメンバーとなった。
「……にしても、まさか本当に引き入れてくるとは思わなかったわ。アクアは役者よりもスカウトマンに向いてるかもしれないわね」
ミヤコは冗談混じりにアクアにそう言った。あの有馬かながまさかアイドルに、ましてやウチのようなそこまで大きくない事務所に所属してくれるとは思っていなかったからだ。余程アクアの口が上手だったに違いないと思っていた。
「いや、俺じゃない。有馬を引き入れたのはエメだ」
「えっ?」
「俺は、有馬の共感性、感受性の高さを利用して、押してアイドルになってもらおうとした」
「あんたね……」
「……だけど、エメはそれを拒否して、有馬の意見を尊重した。結果、こうしてやる気のあるアイドル志願者を連れて来れたってわけだ」
「……本当に、昔からあの子は真っ直ぐで純粋な子ね」
「ああ。芸能界でやっていけているのが不思議なくらいにはな」
ミヤコとアクアは、エメの真面目で真っ直ぐな部分には素直に感心してしまった。
「それにしても、あんなに乗り気じゃなかった先輩が急にやる気を出してくれるなんて、エメには感謝しなくちゃね♪」
「……まあそうね。エメがいなかったら、例えアイドルになったとしても、今ほどのモチベーションはなかったでしょうね」
「うわ〜正直だね〜」
「仕方ないじゃないの。今まで色々と新しい方向に挑戦したけど、どれも上手くいかなかったんだから。消極的になるなってのは無理な話よ」
「えっ?先輩って役者以外にもやってたの?」
「ええ。でもあれは黒歴史よ。有馬かなが売り方を迷っていた時のね……」
「ふーん?」
ルビーは好奇心旺盛な方だが、人の黒歴史をわざわざ掘り返すようなことはしない。有馬がアクアに押されながらも、あれだけアイドルをやろうとしなかったのにはそれ相応の理由があるとなんとなく察していたというのもあるが、そもそもルビーはそんな悪い性格をしていない。
「そうだ。次のエメの仕事とかって決まってるの?最近エメが忙しくなってるみたいで、なかなか会えてないからあまり聞けてないのよ」
有馬がそう言えば、ルビーは複雑そうな表情を浮かべる。それに気づいた有馬が問うと……。
「うーん……。私としては気乗りしないんだけど、次のエメの仕事は……」
そう言いながら、ルビーはタブレットを操作して、次のエメの仕事となる番組を出した。その画面を見せれば……。
「……はぁ!!!?エメが恋愛!!?」
今期の『今からガチ恋始めます』の人物紹介の映像だった。その中にエメもしっかり入っていた。
今ガチは基本的に男女比が1:1になるように調整されており、3対3の計6人になるのが通例だが、稀に増えることもあるらしい。だが、今期は6人。その中にエメも入っているわけである。
『鷲見ゆきです。高1です』
まず出てきたのは、ファッションモデルの鷲見ゆき。高校1年生で、上から下まで整った容姿をしている。外見を見るだけで、ファッションモデルという肩書きに説得力を持たせるほどだ。
『熊野ノブユキです。ダンスが得意です』
次に紹介されたのは、熊野ノブユキ。高校2年生でダンサーをしているようだ。人と接するのが好きなのか、はたまた撮られ慣れているのか分からないが、特に緊張した様子は見られない。
『黒川あかね、高校2年生、役者です』
「うわ出た…!」
次に紹介されたのが、黒川あかね……その名を耳にした時、有馬が他とは明らかに違う反応をする。
「知り合いなの?」
「……まあね」
『高3のMEMちょです!YouTubeで配信してます。よろしくね!』
話を深掘りする前に、次は配信者のMEMちょが紹介された。知る人ぞ知る人気YouTuberで、登録者は二桁いっているため、十二分に成功者の部類に入るインフルエンサーである。
『森本ケンゴです。バンドやってます。よろしく』
そして次に紹介されたのは、バンドマンの森本ケンゴ。先程のMEMちょは活発なイメージが強かったのに対し、こちらは落ち着いた印象を受ける。普段から人前で演奏する機会があるから、大勢の人に見られることにそこまで抵抗がないのだろう。
と言っても、ここに集まるのは芸能活動をする高校生。皆大なり小なり見られ慣れている者達の集まりだ。カメラを向けられた程度で緊張してしまうようでは、恐らくこの番組に呼ばれることはないどころか、鏑木Pの目を惹くこともないだろう。
「あっ、エメだ!」
『初めまして。役者の孫悟飯です。これからよろしくお願いします』
エメは、一切飾らないスタイルで出演するようだ。無難に丁寧に自己紹介をしただけだが、彼のイメージ戦略を考えれば、この行動は最適解と言える。
『えー、かっこいい…!役者さんって、憧れる……!』
エメが出てきたタイミングで、メムはわざとらしく褒める。この露骨なぶりっ子には流石のエメも相性が悪いのではないかと思うも……。
『いやいや、僕よりもMEMちょさんの方がすごいですよ。撮影して投稿するだけでなく、自分で編集もしているんですよね?僕は不器用なので、とても真似できそうにありませんよ。羨ましい限りです……』
「いやむっちゃ丁寧だな。いつにも増して丁寧だな」
普段から真面目な性格をしているエメだが、今回は更に磨きがかかっているように感じたようで、有馬も思わずツッコミを入れてしまった。
「確かに、いつもより更に丁寧かも。多分あれじゃない?初回だから、むっちゃ丁寧にして印象よくしようとしているとか?」
「まあ、エメのキャラから考えれば、それが無難ね……。変におちゃらけたキャラやっても後々苦労するでしょうし」
「それは言えてるな〜」
「でも、だからこそ疑問なのよね。なんでこの番組に出ることにしたのか」
「それはお兄ちゃんのせいだよ!私は反対したんだよ?でもエメも案外乗り気だったし……」
「……地上波で放送する番組だから大丈夫だとは思うけど……。まあ、エメの昔のことを考えるとね〜」
有馬は回想する。確か小学校卒業間近か中学入学直後くらいだっただろうか……。エメは純粋ながらも整った容姿をしているだけでなく、何かと可愛らしい。当時は有馬やルビーよりも身長が小さかったため、見る人が見れば母性本能がくすぐられるだろう。
だからだろうか。やたらと歳下好きの女性に好かれる傾向にあった。自分が同行し女避けとして機能していたからまだ良かったものの、もし1人で行動していた場合は……。
「まさか真昼間からJKが小学生を持ち帰ろうとするとは思わなかったわ……。あれはドン引きだったわ〜……」
「えっ?エメって小学生の時にもお持ち帰りされそうになったの!?」
「はっ?小学生の時もって……。あれだけじゃなかったの!?」
「そうだよ先輩!エメの昔の歳上キラーっぷりは舐めたらいけないよ!!中学生の時は女子大生にホテルに連れて行かれそうになったんだからね!!」
いつの間にか、昔のエメの話に話題がすり替わってしまった。有馬は薄々分かっていたとはいえ、ルビーの苦労話を聞いて戦慄してしまった。
有馬は知らないが、エメはアイの子供。しかも容姿も遺伝故か、非常に整ったものに仕上がっている。加えて透き通って見えるほどの綺麗で純粋な心。
これを自分の手で汚したいと思う女性も少なからずいるのだろう。
「中学2年生くらいだったかな?エメの身長が急に伸びてきたから、そういうのは減ってきたんだよ!だから今はだいぶ落ち着いてきた方だよ……」
「身長があんたと同じくらいだったら大変だったわね、今頃……」
これ以上は生々しい話になりそうなので中断。しかし、身長は伸びて幼い印象は薄れたと言えども、中身はまだまだ純粋。何かあった時は守ろう。改めてそう思った有馬とルビーであった。
場面は変わり、エメが今ガチの収録中の出来事。この番組は台本はなく、抽象的な指示のみが与えられる。基本的には演技なしのリアリティを追求した番組になっているようだが、何も演技禁止というわけでもない。その辺の塩梅は出演者に任せるらしい。
「で、これがうちの犬で!無茶苦茶可愛いんだよ〜!」
エメは今、YouTuberのMEMちょと外のベンチで会話をしている。これも勿論カメラに撮られている。番組に使用されるかはまだ分からないものの、プロとしては気を抜くわけにはいかない。
「ねえねえ、悟飯君はペットとか飼ってないの?」
「……そうだね。ペットとは少し違うけど、友達ならいたかな?」
「と、友達……?」
先程まではペットの話をしていたはずなのに、唐突に交友関係の話になって困惑するメムだが……。
「うん。僕はハイヤードラゴンって呼んでた。小さい頃はよく一緒に遊んだな〜……。今はどこで何をしているんだろ……」
「……??もしかして、昔は田舎の方に住んでたの?」
「うん。前は山奥に住んでたよ」
嘘はついていない。前の人生では、パオズ山というところに住んでいた。そこは自然豊かな土地で、動物はたくさん住んでいたし、色々な植物も生えていた。その中でよく一緒に遊んでいたのが、ハイヤードラゴンと名付けた小型の飛翔型の恐竜だ。
ある程度大きくなると、人造人間が現れてしまったためか、姿を見せることはなくなってしまった。しかし、メムがペットの話を始めたので、不意に思い出してしまったのだ。彼は生き残っているのだろうか?人造人間は動物にも手を出していただろうかと。
こっちでフリーザを倒し、過去と決別したつもりだったが、やはりそう簡単に忘れられるものではないようだ。
「あー、そうだ。一つ聞きたいことがあるんだけどさ……」
「……?」
「その、悟飯君って多分だけど芸名だよね?本名公開はNGだったりする?」
唐突な質問に、エメは少し疑問に思う。何故いきなりそんなことを聞くのか?
「……あっ」
もしや、せっかく恋人になるかもしれない相手なら、本名を知っときたいという考えなのだろうか?エメは1人で勝手に納得し、話を進める。
「いや、別にNGではないよ。この名前にしたのはね、少しでも昔のことを忘れないようにするためなんだ」
流石に前世のことをそのまま話すわけにもいかない。かと言って下手な嘘をつけば、深掘りされる恐れがある。そのため、真実隠して嘘つかず。エメはこの戦法を利用した。
「昔のこと……?そっかぁ……。じゃあさ!悟飯君の本名言い当ててみてもいい?」
「うん?構わないけど、僕の名前って変わってる方だから、当てるのは難しいと思うよ?」
「そう言われると当てたくなってきちゃったな〜」
MEMちょは言い当てる自信でもあるのか堂々としていた。名字はともかく、名前を言い当てるのは難しいだろう。宝石の名前をそのまま名付ける親は少ない。一応アクアと兄弟だということは明かしたことはあるものの、星野アクアも芸名として認識されている。となると、本名として星野
そして、孫悟飯の実名が初めて明かされるということで、裏方の気合いの入り方が変わる。こんな序盤で稼げそうな話題が出てくるとなれば、それはそうだろう。
「悟飯君の本名はずばり!星野エメラルド!緑って書いてエメラルドって読む!どう?当たってる?」
「…………えっ?」
ピンポイントで、しかも漢字も言い当てられたことに、エメは動揺を隠せなかった。
星野アクアが本名だと仮定すれば、確かに兄弟ということから似たような系統の名前がつけられると予想し、エメラルドという宝石に行き着くことはあり得なくはない。
だが、漢字まで言い当てるのは明らかにおかしい。そもそもカタカナでそのまま名付けてもおかしくない名前を、はなから漢字だと分かるものなのか……?
「あっ、やっぱりそうなんだね。私の記憶は間違っていなかったね!」
「……ん??記憶??」
「あはは……。まあ昔の私とはだいぶ変わっちゃったから、分からなくても無理はないか……」
「昔……?」
そう言うと、MEMちょはエメの耳に顔を近づけ、マイクに拾われない程度の声で、こう言った。
「あの時は助けてくれてありがとね」
「……?助けて……?」
『記憶』、『昔の私』、『助けてくれてありがとう』。これらの言動から、エメはメムと過去に会ったことがあると推察し、必死に記憶を掘り返した。
自分は今まで数多くの人々を助けてきただろう。特に、フリーザを倒す前までは。それ以来は特に大規模な戦闘は起こらなかったため、そもそも危機に晒される人はいなかった。
となると、自分が幼少期の時に会った可能性が高い。そして助けた後に自分から名乗り、少しの間でも交流関係を持った人物と言えば…………。
「…………えっ?もしかして、あの時の…?B小町のドームライブの日の……?」
「やっと思い出してくれた?久しぶりだね、エメ君!」
まさかの再会に、エメだけでなく、撮影陣も驚愕してしまった。役者の孫悟飯と、インフルエンサーのMEMちょが幼馴染で、偶然にもこの番組で再会を果たした。今話のサムネは決まったも同然だろう。
「えぇ!?MEMちょとエメって会ったことあるの!?」
「いつの間に……」
まさかの展開に、ルビーと有馬も驚きを隠せがなかった。
「えっ?いつどこで会ったの……!?あの不知火フリルとも普通に友達だったりするし、何故かロリ先輩とは昔から仲良いし、エメの交友関係ってどーなってるの!?」
「私に聞かないでちょうだい」
この2人の反応を見るだけでも、十分話題性に溢れる内容のようだ。これによって、今ガチ第一話は早速トレンド入りを果たし、飯メム、メム飯、エメメム、メムエメなどのタグがつけられた投稿が急増した。
更に、何気にエメの実名が初公開されたこともあり、そちらの話題でも盛り上がっていた。第一話にして、エメはいきなり話題を掻っ攫っていった。偶然が引き起こしたこととはいえ、流石アイの息子である。
「……ところでさ」
「なに?」
「あの人、あのアイさんよね?あんなところで何してんの?」
有馬が指差すと、そこにはソファの上に蹲ってブツブツ呟いているアイがいた。
「アイさん?どうしたの?」
有馬がいる手前、あくまでも他人として接するルビー。しかしそんな配慮も今のアイには関係なかった。
「ルビ〜!!私のエメが!!私の可愛いエメが婿入りしちゃうよ〜!!大人の階段上るの早すぎない!?」
「まだ付き合うって決まったわけじゃないよ!?気持ちは分からなくもないけど冷静になって!!」
「……はっ?」
そして有馬はまたしても戦慄する。まさかMEMちょだけでなく、あのアイにも好意を持たれていたのかと。アイは普通に息子として愛しているが故のあの言動なのだが、有馬はそれを知らない。それ故に……。
「……エメの歳上キラーは今でも健在なわけね……。しかしその属性があのアイすらも陥落させるとは……。歳上にしか効かない変なフェロモンでも出してるんじゃないの?」
あまりのエメの特効っぷりに、有馬はとんでも理論を生み出してしまう。しかし、そのとんでも理論が事実なのではないかと感じてしまうくらいには、エメは歳上にモテる傾向にある。歳上となると、出演者の中にもう1人……。
「……黒川あかね……。まさかアンタも陥落したりしないわよね?仮になったとしても、私は認めないわよ……」
私が守ってやらねば。ルビーにも言えることだが、有馬は頼まれていないのに勝手にエメのセコムになることを決意した。ルビーと意気投合し、ALSOKとSECOMコンビになる時は近いようだ。
みんなが忘れていそうな設定:エメは有馬のファン
原作のように流されることなく、自分の意思でアイドルに転身することを決意。その結論にはエメの呟きによるものが大きいのは言うまでもない。これで原作よりもモチベが高い状態でスタートすることになる。
さらに、MEMはエメの正体を確認すると同時に、自分の話題性を引き上げる策士的な行動を遂行。インフルエンサーとして成功しているだけあって、こういうのは絶対得意だと思います。しかも、本名公開がOKかどうかさりげなく聞いているのもポイント。
エメの歳上キラー属性について:
エメはどちらかというとアイ似。そのためアクアのようなイケメン系ではない。しかも中身が純粋で良い子のため、歳上層に刺さる確率が高い。決して変なフェロモンが出ているわけではない。ちなみに、やろうと思えば年下にも効果を発揮する。その理由?アイの息子だから。この一言で説明は十分。
ただし、力を開放して、超サイヤ人アースなどに変身すると、普段のあどけなさは消え失せる。面食いならばそのギャップに脳を焼かれる模様。
あと軽くお知らせ。近日中に投稿頻度が落ちる可能性がございます。とはいえ、多忙期でも流石にサイトを見る暇もないほどにはならないはずですので、コメント等には反応できるかと思います。