推しの飯/絶望の未来から転生した戦士   作:Miurand

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 更新頻度落ちるとか言っておきながら何故か落ちない不思議……。いつ突然落ちるか分からないのでご注意を()


第10話 一人で悩むよりみんなで

アクア主導による、別目線での今ガチ制作が始まった頃。最新話を見たルビー達はというと……。

 

「うわ、痛そう……!!でも帰ってきたエメの顔に傷なんてなかったけどなぁ……。どういうこと?」

 

「分からないわよ、私に聞かれても」

 

エメを傷つけたあかねを見て、ルビーとかなはヘイトを飛ばしまくり……。なんてことはなかった。有馬もルビーもエメの壮絶な過去を知っているが故に、これくらいで激怒することはない。

 

「なんで炎上してるのかと思ったら、こういうことだったのね。確かにこの部分だけ見れば、あかねはゆきを傷つけようとして、それを庇ったエメに危害が及んだようにしか見えない……。炎上して当然ね」

 

「エメからあかねちゃんの話は聞いてたけど、とてもじゃないけど人を傷つけるような人だとは思えないよ?」

 

「それは黒川あかねと接してきた人の証言があるからでしょ。それを知らない人にとっては関係のない話よ」

 

「あかねちゃん、大丈夫かな……」

 

 

 

数日が経過した。

 

あかねのことを気にしながらも、エメはアクアとMEMに協力してもらいながら、自分達目線の今ガチを作成していた。と言っても、ほとんどアクアにお願いする形となってしまったが。

 

「…………まだ、収まらないね」

 

「まだ1週間も経ってないからな。そりゃ当然だろ」

 

エメはMEMからデータをもらい、それを基にアクアが編集していた。アクアも仕事や学校があるため、ずっと編集しているわけにもいかない。その為、そこまで進んでいなかった。

 

「…………」

 

「エメ。もう見ない方がいい。そんなことをするくらいなら、あかねのことを気にかけてやれ」

 

「……そうは言っても、黒川さんからの返信がなかなか来なくて……」

 

あかねはバカ真面目な人間だった。その為、自分に対する誹謗中傷を一つ一つ確認していた。自分のせいだから仕方ない。自分はこれらの投稿を見る義務があると。

 

それだけでなく、学校でも今回の件は噂になっており、当然ながらあかねのことを悪く言う人はいた。

 

そのため、たった数日といえども、あかねの精神はかなり疲弊していた。スマホすらいじる気にならず、何もできない状態になっていても不思議ではなかった。

 

「…どうして、みんなこんなに悪く言うのかな?」

 

エメの純粋な疑問。別に自分は殺されたわけではないし、大怪我を負わされたわけでもないし、家族を傷つけられたわけでもない。ただ、間違えて起こってしまっただけなのに。

 

あかねは誰かを殺したか?街を壊したか?惑星でも破壊したのか?そんなことは一切していないのに、何故彼女はここまで責められなければならないのか。

 

中には、死ねと言う人もいる。それも少なくない人数だ。碌に彼女のことを知りもしないのに、何故そんなことを気軽に言えるのか。

 

エメには、到底理解できなかった。

 

「確かに、黒川さんは僕を傷つけちゃったかもしれない。でも頬が傷ついただけだよ?」

 

「お前はそう思っても、視聴者やお前のファンはそれを良しとは思わなかった……としか言えないな……」

 

今まで、地球を、人類を守るために努力し奮闘してきたエメ。前世で叶わなかった平穏な生活は、今世でようやく手に入ったはずだ。

 

だが、国同士での戦争や、民族同士での戦争は日々起こっている。戦争とまではいかずとも、こうして人のことを悪く言う人はどこにでもいる。

 

本気かどうかは分からないが、1人の少女に対して、多数の罵声を浴びせている。言葉に扮した攻撃を絶えず行っている。

 

脅威が去れば、みんな笑って暮らせると思っていた。みんなそれを望んでいると思っていた。

 

だけど、そんなことを考えていたのは自分だけだったのか?人々は、こうして人を傷つけることを望んでいるとでも言うのか?

 

「エメ。もうよせ。今日は早めに寝ろよ」

 

「でも……」

 

「編集は俺がやっておくから」

 

「……分かった」

 

エメはその気にはならないものの、アクアの指示に従うことにした。

 

 

 

これまで、あかねは炎上に対して真摯に向き合ってきた。だが、当たり前だが、そのほとんどは自分に対する誹謗中傷。

 

ネット上でも、学校でも責め続けられる。あかねは寝る。次の日に、悪夢から目覚めるように炎上が終わることを願って。

 

だが、現実は非情だった。炎上は終わるどころか、寧ろ加速しているように思えた。日々増す過激な投稿。自分だけでなく、母をも侮辱する投稿。食べた物は何度も戻してしまったし、もう何もやる気が出ない。

 

死ね死ね死ね死ね死ね

 

何人、何十人だろうか。死んだ方がいい。死んだ方が世のためだ。俺が殺してやる。早く死ね。世界のために死ね。

 

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 

こんな言葉が、いくつ自分に対して投げられてたのだろうか。こんなに大勢の人に死ねと言われると、もう死んだ方がいいのではないか?死んだ方が、みんな幸せになるのではないか?そう錯覚してしまうほど、あかねの精神は疲弊していた。

 

そんな時、ノブユキのメッセージが目に入った。確かに自分は何日も何も食べていない。お腹が空いてきたような気がした。なら、コンビニに行こう。

 

普段なら、母にご飯を頼んだ。普段なら、母に一声かけてから外出する。

 

この日は何故か、現状少ない味方であるはずの母に頼らず、告げずにコンビニへと向かった。

 

その道中。歩道橋の上でふと立ち止まる。流れる車の光。街の夜景。普段ならなんとも思わないはずなのに、今日はやけに綺麗に見えてしまった。

 

もっと近くで見よう。もっと上から見れば、綺麗に見えるだろうか?

 

今はただ、何も考えたくない。この綺麗な景色を真近で見たい。もっと近くで見れば、綺麗だろうか?あるいは、そこに飛び込めば、楽園に繋がっているのだろうか?

 

綺麗な所なんだから、きっとそうなんだろう。そうに違いない。心なしか、どこかで誘いの声が聞こえる。そこに飛び込めば楽になれる。早く楽園に行こうよ。戻ってもまた酷いことを言われるだけだよ。

 

この世界には、敵しかいないよ?

 

なら、敵のいないところに行こうよ。そこが楽園。ほら、あそこに見えるでしょ?綺麗だよね。美しいよね。つい見惚れちゃうよね。

 

ほら、早くおいで?楽になれるよ?

 

……うん。もうなにもかんがえたくない。わたしもそっちにいくよ

 

 

 

いつの間にか、エメは外出していた。理由は至って単純。あかねのことが心配になったから、様子を見に行こうとしただけだ。

 

もし苦しんでいるのなら、上手い言葉をかけることはできないかもしれないけど、味方として、側にいてあげよう。そうすれば、あの時のかなのように、少しは楽になるだろう。そんな気持ちで。

 

だが、側にいることは叶わない。それどころか、これから会うことも、言葉を交わすことも。彼女の色々な表情を見ることも。声を聞くことも……。

 

永遠に叶わない。

 

それは何故か?この理由もまた至ってシンプルだ。

 

エメが駆けつけた時には、既に鮮血が広がっていた。鉄臭い匂いが蔓延るはずが、台風による強風と大雨によって掻き消される。

 

倒れている彼女の髪は揺れる。服は揺れる。だが、瞳や口、手足が動くことは一切ない。血濡れになった彼女を助けようと、救急隊員が必死に助けようとしている。

 

く、黒川……さん?

 

鼓動も聞こえない。瞳孔が開いている。だが、まだ可能性がないわけではない。気を感じることができるなら、彼女に気を分け与え、治療薬を塗れば応急処置はできる。

 

しかし、石や鉄などの無生物に気を与えても生命が宿らないように、すでに息絶えている者に気を分け与えたところで、ただ気を放出するのと何ら変わりない。

 

そ、そんな…………。嘘だ………

 

エメがいくら後悔しようが、失った命が戻ることはない。どれだけ願っても、ドラゴンボールがなければ無意味。

 

そのドラゴンボールも、今や所在不明。ナメック星人達は、ある事情によってナメック星から移住せざるを得ない事態に陥り、今ではカカロットやラディッツですら所在を知らない。

 

失った命は、元に戻らない…………。

 

 

 

 

 

 

 

うわぁぁああああああッッ!!!?

 

あまりにも絶望的な状況に、エメは叫んだ。これは意図せず出たものだ。

 

「あ、あれ?」

 

しかし、いつの間にか自室のベッドの中にいた。もしや夢か?夢だとしたらタチが悪いが、現実ではなかったことを喜ぶべきか……。

 

……もし、これが予知夢の類だとしたら……。

 

「ま、まずい……!!」

 

パジャマ姿のまま、部屋の窓から飛び出した。

 

 

 

あかねは、足を滑らせるようにして、歩道橋の手すりの上から飛び込んだ。

 

重力に従って、この身が落ちていく。でも、その先に繋がっているのは楽園。敵のいない場所。誰も私を悪く言わない。

 

ああ、私はやっと…………。

 

 

 

だが、いつまで経っても地面に激突する気配がない。なんなら、地に足がつかない。

 

「……あれ?」

 

ふと、目を開けてみた。すると、確かに浮いていた。自分の体は見えないけど、確信できた。自分は死んだのだ。そして、これからあの世に向かう真っ最中なのだと。

 

……にしては、身体中に感じる感触がやけに違和感を感じる。死んで浮いているのなら、後ろに引っ付くようなこの感覚は……?

 

「はぁ…………はぁ…………はぁ…………!!」

 

何故か、自分と一緒に宙に浮いているエメの顔が、真近で見えた。

 

 

 

遡ること数分前

 

エメは大荒れの天気の中、靴も履かずに全速力で空を飛んでいた。

 

(早く黒川さんを見つけ出さないと……!!)

 

しかし、飛び出したはいいものの、あかねの家の場所も最寄りのコンビニも把握していない。あかねの気を辿ろうにも、あかねの気の大きさは一般人と遜色ない。数多くの気の中から、あかねのものだけを見つけるのは至難の技だった。

 

「…………くそ!!見つからないッ!!」

 

意識を集中させて、あかねの気を探すが、一向に見つかる気配はなかった。このままでは、彼女は自ら命を断つ可能性がある。焦らない理由はなかった。

 

「……?この気は、まさか…!!」

 

だが、あかねではない知り合いの気は見つけた。形振り構っていられないエメは、その気の下へ向かった。

 

ドンッッ!!!!

 

「きゃっ!!!?」

 

超サイヤ人アースに変身したエメは、一瞬にして着いた。勢いよく着地したあまり、周囲にちょっとした振動を起こしてしまった。すると、そこにはMEMちょがいた。見つけた気がMEMちょだからこそ、エメは気にすることなく舞空術で直行したのだ。

 

「え、エメたん!!?確かにこの天候なら出歩いている人は少ないと思うけど、流石こんな街中で飛ぶのは……」

 

「ねぇ、黒川さんはどこにいるの?」

 

血相を変えたエメに問われたMEMちょはすぐに切り替え、家を訪ねてもあかねはいないとのことだ。親にも内緒で外出してしまったらしい。だが、あかねの『ご飯を買う』というメッセージを信じるのなら、きっと最寄りのコンビニか、その道中にいるはずだ。

 

「ここから1番近いコンビニは!?」

 

「た、多分あっちの方に……」

 

ドンッッ!!!!

 

「わっ!!!?」

 

方角を聞いたら、エメは最後まで聞かずに飛び去ってしまった。

 

「……やっぱり、あの時のは夢じゃなかったんだな……。にしても、いつもよりなんだか……」

 

普段のエメは、あどけなさが残り、純粋かつ天然なキャラ。それは仕事上のキャラではなく、彼の本質。

 

そのため、彼は美形でイケメンなのは間違いないが、可愛い系に分類される見た目をしている。そんな彼が、先程見せた顔は……。

 

「……もしかして、あかねを心配してあんな顔に……?そういえば……」

 

MEMちょは、以前にもそんなエメの顔を見たことがあった。今でも鮮明に覚えている。得体の知れない生き物達に囲まれたが、助けてもらった。それでも、まだ自分達に脅威が降りかかってくるが、それをエメは振り払ってくれた。

 

その時の顔に酷似していた。

 

「だ、大丈夫だよね……?エメたん……」

 

 

 

実は、MEMちょの話を聞いている途中であかねの気を発見したのだ。だから途中で飛び去ったのだ。一瞬にしてそこまで着いた。

 

「なっ……!!」

 

エメがあかねの姿を確認した時には、既に身を投げていた。

 

「ま、まずい!!」

 

だが、幸いにも今のエメは超サイヤ人アースに変身しているので、超スピードを出すことができる。故に、空中で受け止める形にはなってしまうが…。

 

 

こうして、エメはあかねを救出することに成功したのだ。

 

「あ、危なかった……」

 

「な、なんで悟飯君がここに……?」

 

「あっ、えっと……」

 

しかし、エメは言い訳を考えていなかった。この現象をどう説明するべきか……。助けることしか考えていなかったことが裏目に出てしまった。

 

「ま、まさか……。悟飯君も死んじゃったの……?」

 

「……へっ?」

 

突拍子もない発言に、エメは固まってしまった。

 

「そ、そんなのって……。まさか、私を助けようとして、一緒に……?私は最期まで悟飯君に迷惑を……」

 

「いやいや!死んでない!!僕も黒川さんも死んでないから安心して!!」

 

とんでもない勘違いをして、終いには泣きそうになるあかねを慰める形でエメは事実を告げる。

 

しかし、それはそれで何故自分とエメ……否、エメが浮いているのか説明が付かなかった。

 

「と、取り敢えず戻るね?」

 

そう言って、エメはゆっくり歩道橋の上に着地した。

 

「ど、どうしてここが分かったの?」

 

「MEMちょさんと会って、こっちの方にコンビニがあるって聞いたから……」

 

あかねは、他にもっと聞きたいことがあったが、精神的に余裕がなかった。今のあかねは、全ての人が敵に見えてしまう。それは日々誹謗中傷をされ、それをバカ真面目に見続けてきたことが原因の一つ。だがそれだけならここまで酷くならない。ネット記事、ブログ、更には学校でも悪口なんて表現するのは生優しいほどの罵詈雑言を耳にした。

 

みんな自分を責めている。みんな自分に死を望んでいる。みんな自分がいることで不幸に感じている。

 

なのに、何故彼は助けたのか?善意?それとも何かに利用するため?それとも、ここで楽にさせてやらないという世界からのお告げか?

 

「は、離して……!離してっ!!離してよッ!!

 

「お、落ち着いて!!」

 

エメが必死に宥めるが、あかねは一向に落ち着く気配がない。その様子を見るだけでも、ここ数日で壊れる寸前か、或いは既に壊れていることがすぐに分かった。

 

自分が間に入ったから。自分が変にお節介を焼かなければ。自分なら避けることができたはずなのに……。

 

後悔の渦に飲み込まれそうになるが、まずはあかねが最優先。自分のことは後回しだ。

 

大丈夫!(オレ)は君を悪く言うつもりはない!!君に死を望んでいないッ!!寧ろ、生きてほしいと思っているから!!」

 

エメもまた、沢山にあかねの死を望むような投稿を見てきた。ただの悪ノリか、それとも明確な殺意を持っての投稿かは分からないが、碌な精神状態でもなければ、他者に献身的なあかねはそれに応えてしまう恐れもあるのではないか。それは薄々感じていた。

 

だからこそ、今日もアクアに言われて早めに寝ようとしても、あまりその気分にはならなかったのかもしれない。

 

「だから、頼むから、命を粗末にしないで……。お願いだから……」

 

エメが叫ぶように語ると、あかねはエメの顔に目をやる。こちらをまっすぐ見つめてくる綺麗な瞳を見て、彼との日々を思い出した。

 

彼は、嘘でこんなことを言っているわけではない。いや、嘘でこんなことを言えるわけがない。本音を私にぶつけている。

 

彼は敵ではない。それが分かったら、抵抗して振り解くことをやめた。

 

「……こんなところにずっといたら風邪を引いちゃうから、早く家に帰ろう?君のお母さんが、君を心配している。多分君は帰ったら怒られると思う。でも、それは君を嫌っているからじゃない。君の身を案じて怒ると思うんだ。だから、安心してほしい。君を必要としている人……君を愛している人はすぐそこにいるんだよ?だから、命を捨てるなんてことは、やめよう?」

 

…………うん

 

一旦は落ち着いたあかねを家まで送ろうと立ち上がったとき……。

 

「君達!?こんなところで何をしているんだい!?」

 

偶然そこに通りがかった警察官が、2人を保護した。

 

 

 

それから少し経った頃。苺プロでは、相変わらず台風によって帰宅できずにいたルビーとかながいた。かなは元より一人暮らしなので問題ないし、ルビーも既に連絡済みだ。

 

そこに、一本の電話が来る。

 

「はい斉藤です……。はい。はい……。えっ?…………分かりました」

 

数分で応対を終えると、ミヤコは身支度を始めた。こんな天候の中でどこに行くつもりなのか?ルビーは気になって問いかけたところ……。

 

「……エメが警察のご厄介になったみたい」

 

「「……えっ?」」

 

エメが?警察に?

 

何かやらかすような性格はしていないはずだ。もしや何か冤罪をふっかけられたのではないか?それとも、何かの事件に巻き込まれたか?いずれにせよ、3人にとっては嫌な予感しかしなかった。

 

「わ、私も行く!」

 

「ダメよ。この天候なんだから、あなた達はここにいなさい。幸い、エメの身柄を引き取りに行くだけだから、そんな大したことはしていないはずよ……多分」

 

「そこは断言してよぉ!?」

 

とはいえ、逮捕されたわけではないようなので、かなとルビーは大人しく事務所で待機することにした。

 

 

 

場所は変わって警察署。あの後、エメ達は警察官に保護され、事情を話した後にあかねの親が呼び出され、今はエメを除いた3人で事情聴取を受けている。

 

その時、電話を受けたミヤコが駆けつけてきた。一目見ただけでも、エメのことを余程心配して駆けつけてきたようだ。

 

「呼び出された時は色々と覚悟してたけど、よくやったわ、エメ。誇らしいわよ」

 

そう言って、ミヤコはエメの頭を撫でる。普段ならば少しは照れる反応をするのだが、生憎、今のエメにはリアクションをする余裕がなかった。

 

「……僕は、あの時喧嘩を仲裁するために出たつもりだった。だけど、その結果がこんな事態を引き起こしている…。それなのに、お礼なんて……」

 

エメは自分のせいで起きたことだと思っているようだ。確かに、結果論にはなるが、エメが仲裁しようと出なければ、あかねは炎上せずに済んだかもしれない。

 

だが、炎上の規模が今ほどのものではないにせよ、あかねがゆきに怒鳴り込む場面で炎上した可能性もある。

 

「あなたは悪くないわ。それに、事情がどうであれ、あなたは確かに1人の命を救った……。本当によくやったわ」

 

この炎上騒動で、エメも責任感を感じていたことはミヤコも分かっていた。思春期の女子集団のマネージャーを経験していた上に、エメは分かりやすいので、フォローはしやすかった。

 

だが、エメもあかねに似て、責任感が非常に強い。未だに炎上騒動の原因は自分にあると思っているのだ。だが、ミヤコにフォローされ、いくらか心が軽くなっていたのもまた事実だ。

 

黒川親子の事情聴取が終わったと同時に、あかねの身を案じて今ガチのメンバーが駆けつけてきた。

 

ペチンっ!!

 

「えっ……?えっ!?」

 

突然乾いた音が響いたかと思えば、ゆきがあかねの頬をビンタしていた。もしやこの前の仕返しかと、一瞬でも思ってしまったが、それは違った。

 

「この馬鹿……!!なんで……!!こんな……!!」

 

ゆきは、確かに怒っていた。しかしそれは、あかねの取った行動(自ら命を絶とうとしたこと)に対してだ。

 

「なんでよぉ!!相談してよぉっ!!」

 

ゆきは号泣し、抱きついた。そこであかねは初めて気づいた。家族だけでなく、ゆきやエメ、他のみんなにも心配されていたことに。

 

彼らも、敵ではなかったことに。

 

「ほらね?言ったでしょ?君を必要としている人はいるって」

 

「……うん。私、なんであんなことを……」

 

あかねは、改めて自分がしようとした行動の愚かさに気がついた。いくら辛かったとはいえ、誰にも相談せずにいきなり命を絶つ選択を取ったのは、大馬鹿だったと。

 

「にしても良かったよ。黒川が助かって」

 

「ハッちゃんナイス!!お手柄だぜ!!」

 

男メンバー2人に褒められるも、エメは複雑な心境だった。炎上の一因に自分の行動が含まれているのも確かなので、罪悪感があったのだ。

 

「いや〜、エメたんが急いでくれなかったら、本当に危なかったよ……」

 

「てか、今気づいたけど、ハッちゃん靴は?」

 

「あっ……。わ、忘れてた……」

 

「ドジだな」

 

「ドジだね」

 

ノブユキの指摘で、初めてエメが靴を履かずに家を飛び出したことにみんなが気づいた。見る人によってはただのドジだと思うも、メムとあかねは気づいていた。

 

「いや、それ以前に、今着てるのパジャマだよな?」

 

「ちょ、いくらなんでもドジってレベルじゃすまないっしょ」

 

彼は、あかねを助けるために、1秒でもロスすることを惜しみ、助けることを最優先で動いてくれたのだと。特に、メムは過去にエメが自分の身を犠牲にする発言をしていたことを覚えている。だから、そういうことを平然とやってのける人間であることは分かっていた。

 

「……ところで黒川さん。これからどうするの?ここまで大事になった以上、番組をやめる選択肢はアリだと思う」

 

「で、でもそれだと契約は……」

 

「ここまで大事になっちゃったんだ。番組側も了承するよ。いや、しないわけがないと思う」

 

アクアも言っていたことだが、これは監督責任を問われる問題だ。そもそも、エメは自分のことばかり責めていたが、そもそもの根本的な原因は、意図的に編集をし、それを世に出した番組側にある。

 

「……私、もっと有名な女優になって、これからも演技を続けていくために頑張ってきた……。みんなにもいっぱい助けてもらって、でもこんなことになっちゃって……」

 

「あかね……」

 

「怖いけど、すごく怖いけど、続ける……!このままやめたくない!」

 

あかねの意思は確かに聞いた。あかねの性格なら、やめることを選択していた可能性もあるが、よかった。

 

これなら、アクアの努力も無駄になることなく済みそうだ。

 

「うん。分かった。ということでMEMちょさん!」

 

「オーケー!私はいつでも準備できてるよ!」

 

メムとは既に打ち合わせ済みだ。まだ完成までには程遠いが、炎上の元を絶つために、事前に準備してきたのだ。

 

「ちょっと待ってくれ。なんだ?2人は既に何かやっているのか?」

 

「うん。だからみんなにも協力してほしいんだ。僕達の、僕達による、僕達のための今ガチを、これから作るんだ!」

 

今ガチメンバーにも詳細を説明し、当然のように皆快諾した。予定を調整し、映像の編集をしているアクアとも会うことになった。

 

「どうも。苺プロの星野アクアです。エメの兄でもある。よろしく」

 

「ほ、星野アクアだ……!生で見るのは初めてだけど……。うわ〜!モデル顔負けだぁ……」

 

「話には聞いていたけど、こうして見ると美形兄弟だね……」

 

「顔の話は置いといて、みんな作業するよ!」

 

元々アクアが作っていた動画が、バズらせのプロMEMちょによって手が加えられ、ケンゴがこのためだけに作った楽曲によって肉付けされ、ゆきの提案によって、あかねとゆきが抱き合うシーンも採用することが決定。

 

しかし、そのシーンは番組側が所持しており、基本的にこの映像を外部に漏らすことは許されていない。

 

しかし、今ガチメンバーが管理している公式SNSになら、その映像を使用しても問題ない契約になっている。アクアはここに目をつけ、今回の作戦を思いついたのである。

 

だが、番組側が持っているデータをどうにかして入手する必要があった。エメだとどうしても押し負けてしまい、説得することは困難なのではないか…?そう思っていたが……。

 

「あっ、それなら私がいくよ〜」

 

編集作業を進め、アクアとエメが帰宅した時、アイはそう言った。ここで最強のカードが手元にくることになる。

 

ここ最近の炎上騒動は、直接的な被害を受けていないエメでも、応えるものがあった。自分のせいだと責め立てていたことは、彼女も知っている。

 

彼女はエメに詳細を聞けば、すぐに番組側がこの炎上の主犯的な存在であることが分かった。

 

以来、表立って意見するようなことは一切なかったものの、このまま息子がやられっぱなしというのは、気に食わなかったのだ。

 

「私がお願いすれば、きっと渡してくれると思うんだ☆ママに任せて?」

 

流石はアイドル。顔は完璧な笑顔だったが、目は笑っていなかった。むしろ漆黒の星を浮かべているまである。暴走しないかどうか心配だったが……。

 

 

「いやいや、いくらアイさんの頼みと言えども渡せないよ。それはアイさんもよく分かっているでしょう?」

 

「そうだね〜。だってそんなことしたら、あなた達が意図的に……白川あおいちゃんを悪人に仕立てあげたことを自白するようなものだからね」

 

「アイさん、黒川あかねさんね……」

 

「あっ、そうだったそうだった」

 

アイは、あくまでエメの先輩として、今ガチの現場に出てスタッフに交渉していた。だが、スタッフもプロ。アイだからと言って、すぐに頭を縦に振るほど単純ではない。

 

「エメから聞いているから、あかねちゃんがあの行動を強制されたわけじゃないことは分かっている。それに、やろうと思えばNGを出せることも分かっているよ。

 

でもさ、あの子はいくらプロと言えども、まだ子供だよ?あの子だけじゃない。エメだって、他のみんなだってそう。いくらプロって言っても、間違えることもあるよ。私だって今でもたまに間違えちゃうんだもん。それなのに、大人が子供を守らなくて、正しい方向に導かなくてどうするの?」

 

アイは、昔ならばこんなことを言うような人物ではなかったはず。しかし、長年母親として、アクア、ルビー、エメの3人を育ててきた。それによって、アイも1人の少女から1人の母親に成ったのだ。

 

だからこそ、(大人)が子供を導く必要がある。間違えちゃったら、正しい道に戻してあげる必要がある。そういう考えが普通になったのである。

 

言葉だけでも説得力があったが、アイはスタッフを目の敵のようにして睨んだ。今回の件で息子が多少ではあるが傷ついたのだから当然のこと。しかしそれを言葉にするわけにはいかない。だから、漆黒の眼光を向けるに留まった。

 

お前らのせいだ。お前らがあかねちゃんを傷つけたのだ。お前らがあかねちゃんを殺そうとした。そのせいで、エメは気負いすることになったのだ。アイの黒い星は、そう訴えているようだった。

 

無論、1番悪いのは、悪質な書き込みをしたユーザー達。だが、そんな書き込みで溢れることは番組側は分かっていたはず。それなのに、数字を重視したのだ。子供を守ることを二の次にして。

 

「…………それは、言えてるな」

 

これには、流石にスタッフも応えたようだった。

 

 

 

スタッフから映像の提供をしてもらうことを確約し、ようやく本腰を入れて映像作りに専念できるところにまで差し掛かった…。

 

「あー違う違う!そこは長尺の方が素人が頑張って作った感あるって!」

 

「ここで俺の曲でしょ!」

 

「バーンって感じで行こうぜ!」

 

「うっせぇな……」

 

今ガチメンバーの意見を取り入れた方が、より効果のある映像を作れるものだと踏んでいたが、無茶苦茶うるさかった。

 

「てかスタッフさんこんな写真くれたんだけど!」

 

「やばーっ!使お使お!」

 

「いや構成……」

 

だが、アクアは粘り強く、できる限り全ての要望に応えた。だが、基本的に映像を編集しているのはアクア1人。他のメンバーは要望を言うだけなので、負担は段違いだった。

 

映像が完成し、メムに全て引き継いだ時には、アクアはボロボロであった。

 

「アクア、お疲れ様……。僕もそっち側の知識があれば手伝えたんだけど……」

 

「き、気にするな……。俺が言い出したことだからな……」

 

エメに気遣いそう言うも、明らかに気にかけてしまうような状態であった。

 

「うーん……。これならどうかな?」

 

他のメンバーは、皆映像の方に夢中。誰も見ていない隙を見計い、エメは少し気を解放する。すると、手の周囲にぼんやりとしたオーラが漂い始める。そのオーラを、アクアに向けて優しく飛ばした。

 

「……ん?少し楽になったような……」

 

「気をちょっとだけ分けたよ。これで少しはマシになると思う」

 

気とは、生命の源であり、生き物ならば誰しもが必ず持っているエネルギー。それを分けた与えれば、少しは心身共に回復するのは当然のことだった。

 

「いけるいける!これはキターッ!!!」

 

アクア達の努力は実り、あかねのイメージを払拭するための映像は見事にバズり、炎上の鎮圧を実現した。

 

また、この映像が、今ガチの人気を決定付けるものとなった。

 




  今回のエメの活躍。あかねの自殺阻止。以上。
 エメにはアクアのような編集スキルはないため、原作アクアのような大活躍とはならず。とはいえ、あの状態だとエメでもないと救出は困難だったため、功績としては大きい。一見かっこよく見えるこの行動だが、パジャマに裸足と、どう考えても台風を舐め腐っている格好だが、エメだからこそ耐えられる。他の人がやれば間違いなく風邪を引く。
 また、あかねの精神状態が正常ではなかったとはいえ、エメが舞空術を使用している場面は普通に見られているため、この後追求は不可避イベント。

 というか、ここのアクアが何故か原作よりも頼もしく見える件。やってることは原作とほぼ変わらないのに……。
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