推しの飯/絶望の未来から転生した戦士 作:Miurand
もしもアクルビが前世バレした際、どうする?
H・Aさん「兄妹と言っても、前世は両想いの他人同士だったんでしょ?なら私は応援するよ~!二人の子供とか絶対可愛くなるよね!!」
H・Eさん「二人は兄妹……でも前世のことを考えると応援したくなるんですけど、やっぱり今世は兄妹ですから、結婚となると……。ど、どうにか仲のいい兄妹程度に収まってくれればいいんですけど……。無理ですよね(思考放棄)」
A・Kさん「無理無理背徳感えぐすぎるわよ」
Kさん「俺に聞くんじゃねえ。好きにしろ」
今更ですが、あかねの本名って黒川茜なんですね。平仮名で芸名にしているとは……。私はエアプ勢だった……?
あの動画によって、炎上はある程度の収束を見せたものの、完全に解決したとは言えない。というのも、蒸し返す人はいつまで経っても蒸し返すからだ。
だが、これであかねに対する誹謗中傷はほぼなくなったと言ってもいいだろう。
「次の収録から復帰するよ」
「よかったぁ……」
あかねはそう宣言した。ようやく元の日常に戻ってきたことだろう。あかねが助かったから良かったが、下手すれば命を刈り取っていた可能性もある。
エメは、フリーザや人造人間のような強大な力を持つ者が、人の命を奪うものだとばかり思っていた。その認識は強ち間違ってはいない。しかし、時には言葉だけで命が消えてしまうこともある。そのことを、今回の件で実感した。
「これからはあかねもキャラ付けした方がいいんじゃない?やっぱり素の自分を叩かれるとキツいだろうし。ねぇエメたん?」
「そうだね……。アクアも言ってたよ。僕は元々本名で活動しようと思ったんだけど、それで芸名をつけることにしたし」
「あ、そういう経緯もあったのね。でもエメたんはあくまで名前を変えてるだけで、キャラそのものは変えてないからちょっと違う気はするけど……」
「まあ、僕が叩かれる分には何も問題ないから」
「正気!?」
あかねのあの状況を見てそんなことが言えるエメに、ゆきは驚愕してしまった。しかし、メムは納得できてしまった。彼は幼少期から死闘を潜り抜けてきたのだから。ちょっとやそっと責められた程度では、自殺を考えるまでには至らないだろう。
「私、演技は得意だしやってみようかな……」
「そっか!あかねって地味に女優だもんね!」
「地味にって……」
今ガチでは、与えられるキャラというものがないため、忘れがちではあるが、あかねも立派な役者である。この番組に於いては、エメの方が存在感はあったものの、役者としては彼女の方が上手だ。
「でも、どんな役を演じればいいんだろ……」
「むふふ〜」
「それは勿論……」
妙に上機嫌かつニヤけた顔でエメの方を見るメムとゆき。2人の考えていることは同じだということは、お互いに察した。
「やっぱりここはエメたんの好みの女でしょ!!」
「だよね〜!!MEMちょは分かってる!」
「……えっ?な、なんで僕?」
だが、当の本人は何故自分の好みのタイプを指定されるのかが分からなかった。
「今のエメたんは、あかねを助けた、言わばヒーロー的な存在じゃん?ならここでエメたんの好みを女を演じた方が、番組映えもいいんじゃないかな〜って!」
「苦難を乗り越えた二人組が最終的に結ばれたら絶対盛り上がるよね〜!」
「「ねー!」」
「そ、そんなこと言われてもなぁ……」
エメは自分のタイプを考えてみる。そもそもエメは恋愛というものがよく分からないからこの番組に出演したのだ。そんな彼が、自分の好みを把握しているわけがない。
「うーん……。取り敢えず、僕を受け入れてくれる人なら誰でもいいかな……?」
流石に答えないわけにはいかないと思ったエメは、取り敢えず回答する。
「いやいやいやっ!!性格良し顔良しスペック良しがなに弱気な回答してるの!!?そこはもっと攻めようよ!?」
「エメたんのこと受け入れてくれる人なんて五万といるでしょ!?そんなことしたら世の女性全員がタイプになるよ!?」
「そ、そうなの?」
「エメ君はもう少し自分に自信を持ってもいいと思うよッ!!」
「何故芸能界にいながらここまで素で謙虚でいられるのか……」
エメの回答に、呆れながらも驚いてしまう2人。そもそもそんな回答では、今後演じるキャラの参考にならない。
「あっ、どうせならアイとかどう?B小町のアイ!」
メムがそう言って、どこから画像を引っ張り出してきたのか、即座にアイの画像をエメに見せた。
「歌って踊れて演技もできる完璧なアイドルアイ!!これが嫌いな男はいないでしょ!!」
「あー、女優のアイだ!というかアイって元アイドルだったんだ!」
「ぐふっ……。こ、これがジェネレーションギャップ……」
MEMはドームライブの日にわざわざライブに行ったくらいなので、当然アイのことは知っているが、ゆきはアイがアイドルだったことを知らないようだ。これをジェネレーションギャップと言うが、メムの前では言わないようにしよう。
「どう?エメたん的には!」
まさか自分の母が出されるとは思ってもおらず、一瞬固まってしまう。
好きか嫌いかで言えば、恐らく好きな部類にはなるだろう。今日まで自分のことを大切に育ててくれたし、今でも自分のことを考えて色々心配してくれていることは分かっている。
だが、異性としての好みとなると、やはり分からなかった。
「アイさんかぁ……。ど、どうだろうね?」
なんとか持ち直し、エメは取り敢えず返事をするが、ぎこちない様子に2人のテンションに火がついた。
「ほらやっぱりやっぱり!エメたんの様子が変だよ!!」
「これってそういうことでしょ!あかね、やるしかないよ!!」
「わ、分かった……!やってみる!」
エメは、アイが自分と血縁関係にあることがバレたのではないかと危惧していたが、どうやらそうではないらしいのでホッと胸を撫で下ろした。しかし、変な誤解も生んでしまったが、大した被害は出ないだろう。
「(って、いくら演技ができると言っても、流石にお母さんのキャラを演じるのは難しいんじゃないかな……)」
アイのファンではないエメも、芸能界を通じて、アイが特別な人間であることが分かった。あれは一朝一夕でできるものではない。普通なら、完璧に再現することなど不可能だろう。
しかし、以前見た舞台の動画では、あかねはそのキャラそのものになっていた。もしかしたら……。
「……まさかね」
その日、あかねは解散した後に図書館やネットを駆使してアイの情報を集めていた。アイというキャラクターを理解するための資料集めだ。やるからには徹底的に再現する。彼女が舞台に於いてもキャラに成り切っているのは、こういった血の滲むような努力があるからこそなのだ。
「……?20歳頃に体調不良で活動休止……。数ヶ月で復帰するも、しばらくパフォーマンスは落ちていた……?何かあったのかな?大切な人が亡くなったとか……?確か、この時は事務所の子が刺されたとかで……」
だが、アイに隠し子がいることまでは表に出ていない。それ故に、アイに関する情報が全て揃っているわけではない。だが、限りなく本物に近づけるために、あかねは推測を基にした追加設定を付与し、アイのエミュレートを確実に進行させる。
「……1年後にパフォーマンスが戻り、無事にドームライブを達成した…。多分事務所の子が意識を取り戻したのかな?」
あかねの中にアイがインストールされるまで、そんなに時間はかからないだろう。
帰る前に事務所に立ち寄ったエメは、今ガチに出演してからは初めて有馬に会った。
「久しぶり。黒川あかねの件は大変だったわね。大丈夫そう?」
「うん。なんとか持ち直してくれたよ。アクアが動画を作ってくれたお陰でね」
「そう…。まあ、あのままリタイアしてくれてもよかったんだけどね〜」
「……!!?」
あかねが自殺未遂を引き起こしたことはニュースになっていた。というのも、アクアがヘイトをあかねに向けないようにするためであり、今ガチに注目を集めるための施策でもあった。
沢山の人が注目している中で、あかねの真の人間性が載っている動画を見せつければ、汚名を返上できるという寸法だ。
話は脱線してしまったが、メディアに公開されているのだから、有馬も当然知っている。そのことを考慮して、今の発言の意味を考えるなら……。
「あ、有馬さん?それどういう……?」
「……あっ」
今のが失言、もしくはそれを誘発させるものだと気づいた有馬は、慌てて訂正を入れた。
「ち、違うわよ!?あくまで商売敵としてよ!?流石に人生リタイアしろなんて言わないからね!!?」
「だ、だよね。良かったぁ……」
エメは安堵した表情になったが、一瞬だけ引き締まったものになっていた。それこそ、大猿と対峙している時のような……。
エメは怒らせたらいけないタイプだ。有馬かなは直感でそう感じた。
「日本語って怖いわね〜……。今のTwitterで言ってたら炎上間違いなしね……。気をつけなきゃ……」
とはいえ、あくまで商売敵としての発言だとしても、口の悪さは誤魔化しきれていない。
「全く……。今はプライベートだから問題ないけど、仕事中でそんなこと言っちゃダメだよ?」
「バカにしてんの?私を誰だと思っているのよ」
有馬はエメが芸能界入りする前からこの業界にいるが故に、その辺のラインは弁えているつもりである。
「それにしても、商売敵って、有馬さんが?黒川さんは確か劇団で活躍している人だから、有馬さんとは関係ないような気がするけど……」
有馬はあくまでカメラ演技、黒川あかねは演劇で活躍しているので、一見両者にはそこまで関係がないように思えるが……。
「それでも役者は役者よ。人に魅せるのにカメラを通すか通さないかの違いしかないわよ」
「そういうものなのかなぁ…?」
「そういうものよ。しかも、劇団ララライの黒川あかねと言えば、天才役者として界隈では有名なのよ?」
その言葉を聞き、エメは思わず納得してしまう。キャラを再現するまでなら、それなり以上に腕のある役者ならばできることだが、キャラや役そのものになりきる演技ができる役者はそう多くはない。
「へぇ。有馬が天才と称するほどなのか……」
有馬が珍しくライバル視している子ということで、アクアも興味が湧いたようだ。しかし、アクアもカメラ演技の人であり、そもそも演劇の方には興味がなかった。
「認めたくはないけど、認めざるを得ないわよ。確かアイさんのキャラ付けをするとか言ってたわよね?」
「うん。そうだけど……」
「黒川あかねなら、アイというキャラを完璧に仕上げてくるかもしれないわよ?」
「……はっ?アイの?」
エメから聞いた情報を確認するように問う有馬に、アクアが過剰に反応した。ちなみにアイ厄介オタクなのは有馬にもバレている。
「無理に決まってるだろ。アイっぽいキャラならまだなんとかなるかもしれんが、アイになりきることなんてできるはずもない。そもそも、アイはそんな短時間で再現できるような単純で薄い人間ではないしな」
「分かっていたけど、こいつってアイさんのことになると急に饒舌になるわよね」
「あはは……。これは昔からのことだから気にしないで……」
だが、あの有馬が敵視するほどの実力を持つ役者……。同じ役者のアクアも無関心を決め込めるほどマイペースではない。
やれるもんならやってみろ、黒川あかね。
そんな心意気で、次回分の放送を待ち構えていたが、当日は腰を抜かすことになることは、彼はまだ知らない……。
「本日から復帰します!皆さんにはご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした!!」
炎上騒動がある程度収まり、しばらくした頃にあかねは復帰した。エメも事前に様子見をしたところ、メンタル面の問題もなさそうだった。だが、また何が起こるか分かったものではない。
今度は自分が炎上する可能性もある。皆心を引き締めて撮影に臨むことだろう。
「黒川さんにとっては久しぶりの撮影だよね?あまり緊張しなくても大丈夫だよ。何かあったら僕に言ってね」
エメは、あくまで親切心であかねにそう言う。もしかしたら、例の出来事で慎重になりすぎてしまうかもしれない。だが、今度は炎上することがないよう、しっかり目を光らせよう。そんな気持ちで撮影に挑んでいるエメは、心なしか、いつもよりあどけなさが抜けているような印象を受ける。
そんなエメを見たあかねは、度肝を抜かす……。
「…うん。ありがとう、エメ。でも私はもう大丈夫!」
「………!!?」
聞き覚えのあるトーンに口調。決して本人の声ではないのだが、限りなく本人に近い声質だった。だが、声真似が上手な人は、意外といるもの。だが、あまりの出来の良さに思わずエメは振り向いてしまった。
度肝を抜かされたのは、エメの方だった。
「…………お、お母さん…?」
思わず小声で呟いてしまった。何故なら、後ろにいないはずのアイがいたから。
否、そこにいるのは紛れもなく、黒川あかね。あくまであかねがアイの演技をしているに過ぎない。
「てへっ☆」
だが、表情、仕草、声質。何もかもが本人そのものだった。演技は得意だと自負しているくらいだし、実際に動画も見て演技の上手さはエメも把握しているつもりだった。
「……?どしたのエメ?もしかしてお熱でもあるの?」
唐突にそんなことを言ったあかねが、自ら自身のおでこをエメのおでこと接触させた。その距離は1cmもあるかないか……。唇同士が触れてしまってもおかしくないほどの近さ。
この距離感は、星野家特有の近さだった。星野家は色々と距離感がバグって異常に近いことが多かったり、そもそも遠近が分からない者がいたりする。
「熱はなさそうだね?」
あかねは、その距離の近さをも再現してみせた。B小町のアイでもなければ、スーパーマルチタレントのアイでもなく。
今のあかねは、星野アイと遜色なかった。
「な、ななな……!!何をやっているの!?ここは家じゃない……って違う違う!!」
いくら鈍感なエメでも、流石に家族以外の異性とこれだけ近づけば、羞恥心は感じるようだ。ただしこれが家族相手だと特に気にならない模様。
「やっぱりいつもと違うよ?どこか具合が悪いのかな〜?」
「そ、そんなことは……」
「あかねー!おかえり!」
「よかったぁ復帰できて!」
ここで運良く他のメンバーが合流した。これ以上詰め寄られることはなさそうで安堵するも、油断ならなかった。あかねはこれからこのキャラで撮影に挑むのは間違いない。
あの完成度の高さからすると、もしかすると自分とアイの間に血縁関係があることが露呈してしまう恐れがある。何故なら、あかねのアイ演技が、ファンの知るアイではなく、家族しか知らない星野アイそのものだから。
ただでさえエメは隠し事が苦手なのだ。何もなくとも、ふとした拍子にバレてしまう可能性もあるくらいなのに。
「みんな、待たせてごめんね」
「ほんとだよ!待ってたぞぉ!」
「また楽しくやろうね!」
「元気そうで安心したけど、もう大丈夫なのか?」
あかねは無意識に自殺してしまいそうになるほど精神的に追い込まれていた。あの日からそんなに日が経っていないのに、もう撮影してもいいのか?という意味も含めてノブユキが問いかけた。
「えっ?何が?」
しかし、あかねは本当に何のことを言われているか分からないような反応をする。
「いや、何がって……」
「あ〜……。盛大に燃えちゃったからねぇ。もしかしてその話?やっちゃったなぁとは思うけど、あれくらいよくあるでしょ!私は全然!むしろみんな……特にエメに余計な心配をかけちゃった方が心配だよ」
どこか他人事でそう語る。家族のエメだからこそ分かる。同じ状況になれば、アイなら言うか言わないかであれば、間違いなく言うだろう。あかねが喋れば喋るほど、アイの完成度の高さが顕になっていく。
「あかね、なんか雰囲気変わったね?」
以前のような大人しい雰囲気を感じない。それどころか最早別人と化している。それを無意識に感じ取ったゆきが呟いてしまう。
「んー…。確かにそうかも?」
そう言いながら、ゆきに近づき…。
「ゆきはこういう私、嫌い?」
言葉は出なかったが、首を横に振ることで返事をした。それを確認したあかねは、今度はエメの方に振り向く。
「エメ。今日は一緒にいよ?」
話し相手はまたエメに戻った。みんなもあかねのキャラ変に戸惑ってはいるが、これならまた炎上するということはないだろう。
ただ心配なのは、自分の不手際でアイの隠し事が露呈してしまわないか……。それがいくらか心配であった……。
一瞬でもっていった。共演者も、スタッフも、カメラも。まるでアイのようなカリスマ性。というか、アイがそこにいるのではないかと錯覚するほど。
アイのファンも、アイをよく知る関係者も、身内であるエメでさえも、そう錯覚してしまうほどに、あかねは完璧に仕上げてきたのだ。
「聞いたよ。あの動画、エメが作ってくれたんだってね?嬉しかったなぁ。ありがと、エメ」
「いや、あれは作ったのは僕じゃなくて、兄のアクアだよ。そしてバズりやすいように工夫してくれたのはMEMちょさんだし、僕は特に何も……」
「それでも、みんなで作るって話が出る前から準備しててくれたんでしょ?」
「で、でも……。あの件は僕のせいで炎上しちゃったようなものだから……」
エメは未だに責任を感じている。2人が喧嘩する気配がしたので、それを止めるために出てきただけ。それ以前にも聞いたし納得したが、エメは何かと自分の責任だと捉えてしまう傾向にある。
「こらっ!」
あかねはその綺麗な両手でエメの頬を押し込んだ。
「そうやって必要以上に自分を攻めないの!少なくとも、あの件はエメは悪くないよ!私が言うんだから間違いない!」
ほら、この行動だ。
やはり、B小町のアイでもないし、近年のマルチタレントのアイでもない。紛れもなく、エメのことを気にかける
調べれば、B小町時代や現在の仕事に関する情報は大量に出てくるに違いない。それこそ、情報が完結するのに長時間を要するくらいには。
だが、星野アイとしての情報はどこにも出ていないはずだ。壱護やミヤコから引っ張り出した?そんなはずはない。彼らがそう安易にアイのことを教えるはずがない。
なら、ルビーかアクアに……?それもあり得ない。アクアは当然教えるわけがないし、ルビーも言うまでもない。万が一接触があったとすれば、恐らく教えてくれるはずだ。
だが、エメがいくら考えても分かるはずもない。あかねは自身の推測を基に勝手に付与した設定が、たまたま一致していただけだということに。
「あかねが変なのはもう分かったけど、エメたんも変だよね?」
「なんか、いつもは無意識に攻めているのに、今日は攻められているというか、受けに回るしかないというか……」
ゆきがそんな呟きをし、ある可能性に気づいた。あの鈍感なエメが?恋愛に疎いと言っていたエメが?まさか…?
「もしかして、エメたんってこういう感じが好きなの?」
「ん〜……。どうだろ。安心感はあると思うけど……」
エメの反応を見るに、悪い方向ではないのだけは確実だ。
「ほらほら?好きなんか〜?」
「こういうあかねが好きなんか〜?」
自分達ばかり照れる思いをさせられたということもあり、あかねを利用してエメに軽く復讐しようとする2人は、勝手に両者の顔を近づける。アイを完璧に演じているあかねは動揺する素振りを見せない。
別に近づくだけなら、問題ない。しかし、星の瞳で、完成度の高いアイの演技をした状態で近づかれると、どうしても焦ってしまう。
だが、ゆきとメムは勘違いをしている。寧ろこれを利用するべきなのではないか?アイの演技をしたあかねにデレるフリをすれば、少なくとも自分達の秘密が顕になることはないのではないか?
この番組では演じず自分をそのままを出すと決めていたエメだったが、急遽予定を変更した。
「い、いや〜……?べ、別にそんなことはないよ?確かに綺麗だなぁとは前々から思っていたけど、好きかどうかは……」
「 「…………」」
自分なりにデレてみたつもりだったが、ゆきやメムの反応を見るに、どうやら中途半端な仕上がりになってしまったらしい。
エメの演技力は、下準備をして初めて効果が発揮されるもの。要するに、実体験がないシュチュエーションでは、アドリブに弱いということだ。
戦闘関連やシリアスなシーンを撮る時ならまだいいのだが、今回は前世も含めて全く経験のない恋愛。それを即興で演じることはできなかった。
「エメたん素直になろうよ〜!もしやツンデレってやつか〜?」
「ツンデレだとしてもツンデレデレデレくらいまで来てる気がするけど……」
何故かエメの行動がツンデレだと解釈されてしまったらしい。
「えーっと……。ちょ、ちょっとトイレ!」
「あっ!!」
エメはトイレを言い訳にしてその場から逃げ出すように飛び出した。照れ隠しと勘違いされた上で、今その行動をとれば勿論……。
「ねえねえ!今のって効果あったよね?」
「あれ絶対照れ隠しでしょ!!」
「あかね!あれもしかしたらガチかもしれないよ!!どうするどうする!?」
エメが初めて恋愛感情の類いで照れたと確信し、ゆきとメムのテンションは爆上がりだった。
「…………」
「……あかね?」
「いや、なんでもないよ」
あかねはしばらくエメが飛び出した方向を見てボーッとしていた。しかし、メムとゆきにはそう見えただけで、実際には考え事をしていたのだが。
「そう?それよりも!もしエメたんがガチだったらどうするの?」
「ガチだったらあかね的にどうするの!?ガチで返すの!?」
「もしや付き合うルートあるか!?」
「あ、ありかなしかで言ったら……」
いつの間にかアイの演技をやめて素に戻ったあかねは、メモ帳で口元を隠しながら、恥ずかしさを押し殺しながら呟いた。
「…………ありよりのあり……」
「「きゃーーーっ!!!」」
撮影のための演出ではなく、マジで付き合う可能性の浮上に2人のテンションは急上昇。最早天上を知らないレベルでテンションが右肩上がり状態である。
「だったらもう裏でもあの感じで攻めるしかないよね!!」
「いけー!抱けーっ!!」
「ま、まだ早いよ!!」
メムのアドバイスに便乗して、ゆきが悪ノリをするが、流石に早いとあかねは照れながらも叱る。
「おやおや?
「いずれはそうなると仰っているんですな?黒川あかねさん?」
「もー!2人ともさっきからテンションおかしいよ〜!」
テンション天上知らずの2人がなんとか素面に戻ったあたりで、あかねはこう語る。
「……多分、裏であの感じで攻めても、エメ君には大した効果はないと思う」
「えー?」
「演技してるあかねを相手にしている時は間違いなくいつもと様子が違かったけどなぁ……」
2人には分からなかったが、自分の中にアイを憑依させるレベルで頭の中に叩き込んだあかねだからこそ分かる。あのままいっても、恐らく恋人や夫婦といった関係性にはこぎ着けない。
親しくなっても、恐らく親子か姉弟に近い関係になるだろう。あかねには、そんな確信に近い限りなく近い予感がした。
「多分、本気で攻めるつもりなら、表ではアレで、裏では素の方がいいと思う……。多分、だけど……」
しかし、素の自分で振り向いてもらえるかどうかも分からない。だからと言って、アイ演技では恋人に近いようで最も遠い関係性になってしまう気がする。
どうしたものか。あかねは考え込んでしまった。
「あれ?あかね?おーい?」
「多分エメたんを落とすための作戦を考えているんだよ。邪魔しないであげよう」
メムが気を利かせて、一旦離れて2人で話そうとした時……。ゆきが不意に話題をメムに投げかけた。
「そういえば、MEMちょはいいの?このままいくと、多分エメめむがエメあかになっちゃうよ?」
「えっ?まあ、私は確かにエメたんとは仲が良いけど、別に好きってわけでは……」
そもそも年齢差的にまずいでしょと、心の中で独り言を呟きながらゆきに返事をする。
「ふーん?いつも目で追っているのに?」
「えっ!?」
そんなつもりはなかったはずなのだが……。メムは過去の自分を思い返すが、そんな目で見たつもりはなかったはずだ。あくまでエメは、昔は無茶をする礼儀正しい子。今でもそのイメージは変わっていないはずだ。確かに、成長して無茶苦茶イケメンで、しかも可愛さも併せて持っている悪魔的な容姿になっているが。
あくまで、エメはしっかりした弟のような存在として見ていたはず。決して恋愛対象では……。
「最初はそのつもりはなかったけど、実は好みドストライクだったりしたんじゃないの〜?」
「そ、そんなはずは〜……。え、エメたんはしっかりし過ぎている弟って感じがして〜……」
「ふーん……?」
ゆきが小悪魔な笑みを浮かべてメムを見据えている。何か良からぬことを考えている目だ。
「そっか!あくまでエメ君のお姉ちゃんを名乗るつもりなんだ?なら、これ飲めるよね?」
そう言って、ゆきはエメが置いていったペットボトルを勝手に持ち、メムの方に差し出した。
「……えっ?どゆこと?」
「MEMちょがエメ君のお姉ちゃんって言うなら、これくらい飲めるよね?」
意訳すると、間接キスなんて気にしねえよなぁ?ということである。実は、鷲見ゆきはMEMちょが遠慮気味だったことをなんとなく感じ取っている。別にサバ読みがバレたわけではない。女の感というやつと、モデル業で培った周りを見る力の恩恵だ。
「な、なにしてんの!?勝手に人の飲み物取っちゃダメでしょ!?」
「大丈夫大丈夫♪エメ君なら別にいいよ〜ってにこやかに許してくれるよ!」
「そういう問題じゃないって!?」
もうすぐアラサーの自分がイケメン男子高校生の飲みかけを飲むなど、事案臭がしてならない。お縄にかかってしまうわ!!と心の中で叫んでいた。だが、今ガチのMEMちょはあくまでJK。そんなことを言えるはずもない。
というか、例え姉弟でも間接キスを許容する者はいるのだろうか?気にしない姉弟も確かにいるだろうが、積極的にするものではないだろう。この時のゆきは少しおかしかった。多分、あかねが復帰したことで気が緩んでいたのだろう。
「ほら、いっきいっき!」
「それ飲み会でよく見るやつぅ!いや飲まないからね?背徳感半端ないからね!?」
「えっ?別に女子校生が間違って男子校生の飲み物を飲んじゃうだけだよ?健全な恋愛でしょ♪」
「ダウトーッ!!!!」
メムがそう叫び、この騒動は一旦収まった。しかし、ゆきの行動は一見馬鹿げたものだが、しっかり考えあっての行動だ。
MEMちょとエメは確かに仲が良かった。だが、足りなかった。恋愛というよりは、友人に近い関係だったのだ。そんなんじゃ面白くないよね?こっちは男2女1の三角関係を築いているんだから、そっちは女2男1の三角関係築いた方がバランスいいし盛り上がるよね?
そのために、ゆきはMEMちょをガチにしようとしているのである。実際、メムの性格を考えれば、仮に最初からガチだとしても、歳の差を気にしてアタックしなかっただろう。最も、歳のことはゆきは全く知らないわけだが。
ゆきが計画通りだと微笑む時は来るのであろうか?もしもその時が来た日には、ルビーやかな、アイ辺りが発狂しているかもしれない……。
ちゃっかりみんなエメ呼びになっているけど、これは炎上事件をきっかけに仲がより深まった副産物です。個人的にはメムは理性強い方なんじゃないかと思っています。勝手なイメージですけど。
一方で、あかねがアイ演技を完成させたことによってエメは驚愕。再現度の高さに親子関係も露呈してしまうことを恐れ、必死にそれを阻止しようとするも、案の定意識しているせいで動揺が隠せていない。だがMEMとゆきには照れ隠しに見えたようだが……。