推しの飯/絶望の未来から転生した戦士   作:Miurand

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 多忙期終了しました。かと言って劇的にペースが上がるわけでもないのだ。なんせ書き溜めのほとんどが消えてしまったからなぁ!次回分が出来上がってない状態は久しぶりです。



第15話 危機は事前に対処するもの

数日が経ち、MEMちょが事務所に来る日。壱護とミヤコには事前に伝えており、新生B小町の活動も本格的にスタートしようとしていた。

 

が、まだ採用確定というわけではない。今は軽い面談のようなものを実施している。

 

「人気YouTuberにしてインフルエンサー、『MEM』。アイドルに興味があるのは意外だったな……」

 

YouTubeは37万人の登録者が、TikTokには638,000のフォロワーと、かなりの人気者だったようで、エメも数字を知って初めてMEMちょの凄さを知ることになる。

 

また、事務所は所属しているわけではなく、業務提携の形を取っており、苺プロのアイドル業務も依頼という形ならば問題ないという結論に至った。ビジュアルも問題ないし、これで採用……というわけにはいかなかった。

 

「どうやらその顔だと何か言わなければならないことがあるようだが……」

 

「まあ察しつくわ。年齢、サバ読んでるでしょう?」

 

「わ、分かります……?」

 

しかし、ミヤコはすぐに見破った。アイドルに興味がありながら、アイドルをやれるだけのビジュアルを持ちながら何故微妙な顔をするのか。ミヤコの観察眼は凄かった。壱護でも流石に瞬時にその結論には至らなかった。

 

「まあ怯えることはないわよ。個人でやってる子が年齢いくつか若く言うなんてよくあることだし」

 

「本当ですか?良かったです……」

 

「で、本当はいくつなの?」

 

「えっと……。その〜…………」

 

いくら同性と言えども恥ずかしいのか、少し渋る素振りはしながらも、ミヤコだけに聞こえるように耳元まで顔を近づけ……。

 

「ガッツリ盛ったわね!!!?」

 

「申し訳ございません!!!」

 

公称では18歳。実年齢は、エメにも打ち明けた通り25歳。7歳は盛っていることになる。

 

「つかすげえな。そんな歳にもなってJKを名乗れるって、相当図太いな、お前」

 

壱護の言うことはご尤も。25で現役JKを名乗れる女性はなかなかいないだろう。それだけの図太さがあれば、芸能界でもやっていけそうではあるので、ある意味ではアイドルに向いてると言えるだろう。

 

「なあエメ。MEMとは昔からの仲なんだろう?お前ならサバ読んでいることに最初から気づいていたんじゃねえのか?」

 

壱護も社長業務で多忙な身ではあるが、アイの息子であるエメには当然ながら可能性を感じており、出演シーンも見逃していない。そのため、メムとエメが幼少期に会っていたことは既に知っているのだ。

 

「ええ。僕がMEMちょさんと初めて会ったのは、僕が小学校に入る前くらいで、その時にはMEMちょさんは中学生くらいでしたから……」

 

「分かってた上でここに連れて来たってわけか……。いや、まあ今更ではあるけどなぁ……」

 

そもそも苺プロは未成年の子持ちアイドルを抱えていた事務所である。7歳盛ったアイドル志望など、彼女に比べたらフリーザとタンバリンの強さを比べるようなものだろう。抱えている爆弾の威力が桁違いである。

 

実際、今日まで子持ちアイドルの存在は隠し通してこれているので、MEMちょを入れたところで大したリスクにはならないような気はするのだが……。

 

「ですけど……」

 

エメはMEMちょが話した過去を説明する。その前に一言だけ確認を取り、了承を得たので、要約せずに丁寧に説明した。

 

MEMちょがこうして25になるまでアイドルを志望しなかった背景には、家族のため。弟達の学のためであることを知った壱護とミヤコは、その献身的な姿勢を内心評価していた。

 

「…………なるほどな。事情は分かった」

 

「やっぱりダメですよね。7つもサバを読んでいるアラサー予備軍なんて、地雷以外の何者でもないですよね……」

 

MEMちょは自虐するように笑いながらそう言うも、その笑顔には陰があるように見えた。だが、その陰を照らすように、一つの星の光が、彼女を照らすことになる。

 

「そんなことないよ!!」

 

裏で話を聞いていたのであろうルビーが、MEMちょの肩を掴みながらそう言った。

 

「わーっ!MEMちょだ!!本物だぁ!可愛い〜!!」

 

「話は聞かせてもらったわ」

 

有馬も同席していたようで、後から出てきた。ルビーに比べたら冷静……。

 

「私も年齢でウダウダ言われた側だから、ちょっとだけ気持ち分かる……」

 

(絶対ちょっとじゃないだろうなぁ……)

 

涙を流しながら、MEMちょの話に激しい共感を覚えたようだ。弱みを見せられたエメだからこそ言えることだが、絶対にちょっとではない。寧ろ軽いトラウマと言えるレベルだろう。

 

「子役の事務所も高学年になったらお払い箱でさぁ……。ほんとむかつく……」

 

「泣かないで。君は1人じゃないからね。君を必要とする人がここにはいるから」

 

「……うん」

 

過去のこともあり、あまりにも見ていられなかったので、エメは泣いている有馬にハンカチを差し出すと同時に、頭を優しく撫でた。

 

その一連の行動にMEMちょの脳はバグった。確か有馬とエメは師弟の関係。それはあかねから聞いたことだが、明らかにそんな感じの距離感ではない。なんというか、恋人というか……。いや、これは兄妹と言った方がしっくり来るかもしれない。

 

「ミヤコさん、社長!!」

 

「俺は別に反対するつもりはねえぞ。そもそも、過去にサバ読みなんて霞むほどの爆弾を抱えたことがあるからな」

 

「そうね……。あの時の私はそのネタを文○に売ろうとするほど追い詰められてたわ」

 

「おいお前ッ!!?そんなことしようとしてたのか!!!?」

 

「あくまで一時の迷いよ」

 

期待のセンターがお腹を大きくした状態で相談しに来た時は、思わず心停止するのではないかと思ったほどだった。それに比べたら断然マシである。ちなみに壱護は、エメなどの逸材が生まれたことを考慮しても、未だにアイの所業を許していない。

 

「一体どんな爆弾を抱えていたのか気になるんだけど……」

 

「知らない方がいいよ、MEMちょさん」

 

エメが食い気味に釘を刺した。これ以上真相に近づく者を増やしたくないのである。あかねの分析力が某車輪の適応力並みに高いから辿り着いただけで、一般人にはそんなことはできない。

 

「その様子だと、有馬も賛成だよな?」

 

「当たり前ですよぉ!!」

 

「えっ?本当にいいの?私、25だけど……?」

 

「ううん!アイドルをやるのに年齢なんて関係ない!!だって、憧れは止められないから!!」

 

前世(さりな)の時は、体を動かしたくても動かせない状況だった。そんな時にB小町のライブを見て、アイ推しになった。その時から、アイドルに対して憧れを持ち続けている。例え体が自由に動かせなくても、あんな風に踊りたい。私もステージの上で、みんなに推されたい。

 

そう考えていたルビーだからこそ、年齢程度で憧れを諦めてほしくないのだ。体を動かせて、アイドルに憧れているなら、迷わずやっちゃえ!簡潔に言えば、これがルビーの考えである。

 

「ようこそ、B小町へ!!」

 

こうして、新生B小町にMEMちょが正式に加入することが決定した。そろそろ本格的に活動を開始することができるだろう。

 

「どうやら、新メンバーが加入したようだな」

 

「あっ、アクア。帰ってきたんだね」

 

「今仕事が終わったところだ。まさかMEMちょを引き連れて来るとはな……。エメ、スカウトマンとかやってみたらどうだ?」

 

「あはは……。遠慮しておくよ……」

 

アクアも途中から話を扉越しで聞いていたようだが、どうにも入れる雰囲気ではなかったため待機していたようだ。ようやく話が済んだようなので、入ってこれたというわけである。そのため……。

 

「しかし、年齢を7つもサバ読みして、なおかつ現役JKを名乗るとは……」

 

「ごめんアクたん。それ以上は触れないでほしい……」

 

いくら自覚しているとはいえ……。否、自覚しているからこそ精神的に来るものがあるようだ。

 

「有馬。2人をよろしく頼む。お前が芸能人としては1番の先輩だからな」

 

「言われなくても分かってるわよ」

 

そして、いつの間にか泣き止んでいた有馬。アクアが姿を現した途端に涙を引っ込めたようにも見える。流石泣き演技に定評のある役者である。

 

「ねえねえ、この後ご飯行こうよ」

 

「いいね!いこいこ!」

 

「なんだこの子ら……。あったけぇよぉ……」

 

サバ読みしている自分を渋々受け入れるどころか、歓迎すらしている様子に、MEMちょは泣かずにはいられなかった。

 

ちなみに余談だが、新生B小町はエメの力を知っている人物だけで構成されている。これは偶然起こったことで、意図的に仕組まれたわけではない。ただ、エメの力を知っていることはお互いに認識していない。

 

「あれー?今日は人多いね〜?」

 

暖かい雰囲気になったとき、アイも仕事から戻ってきた。

 

「あっ、アイさんお帰り〜!見て見て〜!この子MEMちょ!新生B小町のメンバーになったんだよ!!」

 

「あー、エメと一緒に今ガチに出てた子だよね〜。生で見ても可愛いね!ルビーには流石に負けるけど!」

 

一応親子であることは秘密なのだが、親バカっぷりは隠す気がないらしい。一応書類上はルビー達三人の義理の姉ということになるので、ここではシスコンムーブと言うべきなのかもしれない。

 

「あ、あああ、アイだ……!アイの顔面が間近に……!!」

 

そして、長年の憧れだったアイドルグループの、それも自分の推しの顔が目の前にあるこの状況。同性とはいえども、これは興奮不可避だった。

 

「……ん?」

 

「どうしたの、MEMちょさん?」

 

しかし、MEMちょは表情を一変させ、アイとエメの顔を交互に見る。そして……。

 

「なんか、アイさんとエメたんの顔って似ているような気が……」

 

「……!!!?」

 

実を言うと、エメの顔はどちらかと言えばアイ似だ。ルビーが1番アイに似ているのだが、彼女はアイとは違い金髪である。髪色は印象に強い影響力があるようで、これが意外とカモフラージュになっているのだが、エメの場合は別。髪色もアイとほぼ同じである為、見比べるとどうしても顔が似ていることに気づいてしまうのだ。

 

「うん!よく言われるよ!でも、君って確か私のファンだよね?なら私の出身も分かっていると思うけど、もしかしたら私の血縁上の親戚だったりするのかもしれないね?それなら似てても不思議じゃないよね〜」

 

アイは施設育ち。アイ推しどころか、旧B小町ファンなら誰もが知っているであろう情報だ。そのことから推測するに、アイは親が不在、もしくは碌でもない親だったことは容易に想像できる。特に、親が異性関係でだらしなかったりすれば、異父異母兄弟姉妹はいても何もおかしくない。

 

「えっと……。無神経なことを聞いてしまってすみません……」

 

「いいよいいよ!気にしないで!私に似てエメも美形って言われているようで寧ろ嬉しいよ!」

 

アイは敢えて過去の激重エピソードを持ち出すことによって、これ以上追及させないように誘導した。案の定、MEMちょはこれ以上アイの過去に踏み入るのは失礼だと判断し、それ以上は聞いてこなかった。こういった一面もあるからこそ、アイの秘密は守られてきたのかもしれない。

 

「ルビーにかなちゃんにめむちゃん。この子達が私の後輩かぁ。これからよろしくね!」

 

「えっ?それってどういう……?」

 

「お前達も知っての通り、アイは元アイドルだ。歌、ダンス、体力作り。その辺はプロと言ってもいい」

 

「えっと、つまり、アイさんが私達のコーチになるってことですか……?」

 

「うん!でも常にってわけじゃないよ?仕事がある時は別の人にお願いしているから!」

 

「別の人って……」

 

「オマカセ」

 

甲高い声が発せられるのと同時に扉が開かれる。そこに現れたのは、ヒヨコのマスクを被った上半身裸のマッチョだった。

 

そう。小中学生を中心に人気を獲得している覆面筋トレ系YouTuberのぴえヨンである。苺プロがネットに強い事務所になったのはミヤコの手腕によるものである。

 

「ぴ、ぴえヨンさんだ!!本物!?」

 

「本物だヨ。これからよろしくネ!と言っても、僕も仕事がある時はできないカラ、念には念を入れて、もう1人助っ人がいるヨ!もう既にここにいるけど」

 

「えっ?」

 

「というわけだ。俺は甘やかすつもりはないから、覚悟しろよ」

 

「いやあまりにも過保護過ぎる体制ッ!!」

 

「出演陣が豪華すぎる…………」

 

アイ、アクア、ぴえヨンの3人がそれぞれ交代で新生B小町の体力作りの面倒を見ることに。アクアはドルオタだし、アイは元アイドルだし、ぴえヨンは元プロダンサーであるため、ダンスの振り付けも教えることが可能である。本当はアイドルを育成するために彼らを雇ったのではないかと疑ってしまうほど都合のいい展開である。

 

 

 

「今ガチ、終わってもうたな」

 

次の登校日、みなみがそう呟いた。芸能科の学校ということもあり、今ガチの注目度は一般よりも高いようだ。

 

「なあなあ、ルビー的には、弟が番組でキスしてたのってどういう気持ちなん?」

 

「……正直超複雑だけど、あかねちゃんが彼女になってくれれば、エメに変な女の人は寄りつかないようになるだろうから……。やっぱり超複雑」

 

「結局そこに落ち着くんやなぁ……」

 

「でも、エメにはもう少し頑張ってほしかった」

 

みなみとルビーが談笑しているところに、フリルが入ってきた。唐突に大物が会話に入ってきたことで驚く2人。

 

「えっ?不知火さんも見てたの?」

 

「うん。美男美女は目の保養になるから。今期だけでも視力1は上がった」

 

「おもろいこと言うなぁこの人」

 

「というか、エメにもう少し頑張ってほしかったって……?」

 

エメは決して撮影時に手を抜いていないはずだ。というか、そんな器用な真似ができるような子ではない。そのことはルビーはよく知っているので、フリルに聞き返せば……。

 

「エメがもっと積極的に行けば、MEMちょがメス顔をもっと晒してくれたと思うんだよね。私なら押し倒すくらいはしてた。エメは草食にも程がある」

 

「メス顔って……」

 

「不知火さんてほんまにおもろいこと言うなぁ」

 

MEMちょ推しのフリルは、エメの控えめな行動に物申したいようだ。鈍感系主人公がやる偶然ではなく、ガンガン攻めて照れさせる展開を求めていたようだ。

 

だが、それはエメのキャラとは正反対に位置すると言っても過言ではないので、無理を言わないでいただきたいところではある。

 

ちなみに、これをきっかけにこの3人の仲が深まるのはまた別のお話。

 

「あの……。そういう話は、せめて僕のいないところでやってほしいんだけど……」

 

「ごめんなぁエメ君。どうしても気になってもうて……」

 

「今度MEMちょをデートに誘ってみてよ。私の勘が正しければ、MEMちょもガチだと思うから」

 

「いや、それだと浮気になるから……」

 

フリルはプライベートだと、突拍子もないことを言う人物のようだ。清純で売っているだけに、ギャップは物凄かったと、後にルビーは語っている。

 

「でもエメが付き合ってくれてある意味良かったかも……。芸能科だけじゃなくて、一般科でも人気になっちゃったからさ……」

 

「えっ?そうなの?道理で最近はよく見られると……」

 

「ここまでエゴサをしない芸能人って初めて見た」

 

「心も綺麗な人なんやなぁ」

 

エメはSNSを使えないわけではないが、自分のことを調べるようなことは一切していない。承認欲求というものが存在しないのだろうか?

 

 

 

場所は変わって高千穂。エメは今日も修行に励んでいた。そろそろ次の変身でも会得しようと考えているようで、気を最大限まで解放しているが、それ以上高めようとしても限界があった。

 

超サイヤ人アースは、普通の超サイヤ人のように興奮状態になるわけではないので、慣らして更に戦闘力を上げるという無茶はできない。超サイヤ人に限りなく近い性質を持つとはいえ、超サイヤ人とは違う変身なので仕方ない。

 

定期的にカカロットと実践形式で組手もしているため、徐々に戦闘力は上がっている実感はある。だが、本当にこの程度でもいいのか?万が一理不尽な程に強い敵が現れた時でも対処できるように、もっと力をつけていきたいところだ。

 

「…………君は本当に修行が大好きだね。でも何もここでやる必要はないんじゃないのかい?」

 

「あっ、ツクヨミさん。どうも!」

 

呆れるように声をかけるツクヨミに臆することなく、エメは気さくに挨拶をした。

 

「ここは自然豊かで心が落ち着くんですよ。それに、人も少ないから、多少は力を引き出しても問題ありませんしね」

 

「別に他の山奥でも同じだと思うんだけど。まあ、私からしたら、荒らさないなら好きにしてくれればいいんだけどね」

 

ツクヨミはその辺の木の枝に座り込みながら、エメの修行風景を眺めている。彼女は暇人なのだろうか?そもそも親はどこなのか?マジで神様なのか?正体は普通に気になるところだが、エメは特に気にしていない。神だとツクヨミが言ったらあっさり信じてしまったのである。

 

「それにしても、その変身は超サイヤ人と違って地球に負担が少ないよね。超サイヤ人なら、変身した際に衝撃を伴うものなんだけど」

 

「さあ……?こればかりは僕も分かりません……」

 

この変身は決してツクヨミの手引きで会得したものではなく、本当に偶然の産物だった。超サイヤ人に至るまでのS細胞が存在しない、純粋な地球人の肉体でありながら、サイヤ人の魂を持っているからこそできる変身。

 

だが、それも仮説に過ぎず、もしかすると、エメの地球を守りたいという精神から、前世の超サイヤ人の感覚に派生して生まれた形態の可能性もある。もしそうだとすれば、惑星に負担のない変身だというのもなんとなくではあるが納得できよう。

 

「…………!!!!」

 

ここで、二つの大きな気のぶつかり合いを観測した。一つはカカロット。もう一つは、恐らくベジータのものだ。いつの間にかこの地球に帰還したようだ。彼もまた、どうにかして超サイヤ人に覚醒し、カカロットに勝負を挑んでいるのだろう。

 

位置からして、恐らく自分とカカロットが再戦した場所。カカロットは色々と配慮してくれているようだ。

 

「全く……。彼らが地球を壊さないか心配だよ……」

 

「万が一そうなりそうなら()()が止めにいくので、大丈夫ですよ」

 

「本当に頼むよ……」

 

ツクヨミが半ば諦めるような形で頼むと、突如自分達の近くに怪しい2人組が現れた。決して接近に気づけなかったわけではない。本当に、突然現れたのだ。

 

「……何者だ……?まるでお父さんの瞬間移動のようだ……」

 

「…………この気配……」

 

ツクヨミは正体を察しつつあるようだが、エメとしては怪しい2人組でしかない。1人は小柄な少年で、モヒカンのような髪型をしている。肌の色は薄い紫で、独特な服と耳飾りを身につけている。

 

もう片方は初老で大柄な男性。肌の色は赤に近いピンクで、同じくような耳飾りと服装だ。仲間であることは間違いないだろう。

 

「まさか、新たな敵か……?」

 

「よせ、攻撃しない方がいい」

 

「えっ?」

 

エメが警戒し始めると、ツクヨミが慌てて制止をかけた。もしツクヨミの予感が正しければ、彼らに攻撃しては非常にまずいことになるから。

 

 

「こ、この気配は…!?」

 

「とてつもないパワーが2つ……。とても下界の人間のものとは思えませんな……」

 

「ですが、ここから距離は離れているそうです。それなら、封印されている玉に刺激が加わることはないでしょう……。そう思いたいところです……」

 

2人組は何かを探しにこの高千穂までやってきたようだ。気を探ってみるが、邪気は一切感じない。それどころか、今まで感じたことのないような綺麗な気配だった。神聖というべきか、穢れが一切ないというべきか……。

 

「…………よし。彼らに話しかけよう」

 

「えっ?いいの?大丈夫なの?」

 

「少なくとも悪人ではないはずさ」

 

ツクヨミに従ってエメも姿を現した。2人もその存在に気づいたのか、こちらに振り返った。

 

「あっ!我々は海外から来たものでして!決して怪しい者ではないのでご安心を!!」

 

モヒカンの少年は必死に弁明をするも、見る人によっては逆に怪しく見えてしまう。

 

「あなた達、恐らく神の類だとお見受けしたけど……。違うかな?」

 

「えっ?そうなの?」

 

ツクヨミは、彼が"本物"の神であることを悟った。流石に神を自称するだけあって、その辺は敏感なようだ。

 

決して自分や転生者の4人が神であることを否定しないが、それはツクヨミの定義に基づくもの。目の前にいるのは、誰が見ても神だと認めるほどに高貴な存在だ。

 

「……どうやら、隠す必要はなさそうですね。私は界王神と申します。こちらは付き人のキビトです。今は所用で下界に立ち入らせてもらっています」

 

「ご丁寧にどうも……」

 

基本的にエメに対しても上から目線なツクヨミが、下手に出ている。その様子を見て、エメも目の前の2人が只者ではないことを確信した。

 

「界王神様……?界王様じゃなくて?」

 

「このお方は4人いる界王の上に立つ大界王の更に上に立つ、偉大なお方だ」

 

悟飯が知っている神は界王まで。その上の大界王や界王神という存在は、今初めて知った。そもそも界王が4人いることも初耳であった。

 

「その界王神様が、何故このようなところに……?」

 

エメの疑問は尤もだ。この宇宙を管理するほどの存在が、何故こんな星にいるのか?ただのパトロールなのか、それとも、上位の神が介入せざるを得ない何かがあるのか……。もし後者だとすれば、またエメは戦う必要が出てくるかもしれない。

 

「……その前に、握手でもしましょう」

 

「えっ?あっ、はい」

 

特に拒否する理由もなかったので、エメは素直に応じた。界王神はエメの手を掴み、離した。

 

「……素晴らしい魂をお持ちだ。ここまで綺麗な魂を持っている方は初めてです」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「……界王神様。よろしいのですか?下界の者に下手に話せば、パニックを招く恐れが……」

 

「いえ、彼は相当な実力者だとお見受けしました。魂に触れたことで、彼の強さは大体分かりました。恐らく、我々では手の届かない領域に達しています……」

 

「そ、そこまで!?人間が界王神様を!?」

 

キビトと呼ばれた男性は驚いていた。そこまでの力を持つ人間など知らなかったから。せいぜい力を持つ人間はフリーザくらい。それが最高レベルだと思っていた。まあ、エメのような超戦士はつい最近現れたので、この反応になるのも仕方ないのかもしれない。

 

「分かりました。これから我々が話すことは、極力他言無用でお願い致します」

 

 

 

今から大昔前のこと……。まだ地球人類が存在していたかどうかすらも曖昧な時代にまで遡る。宇宙の支配を目論む魔道士ビビディという極悪人がいた。

 

ビビディは、自分の研究で魔人を生み出した。その魔人はどの人間や神よりも強く、界王神でさえ歯が立たない実力を持ち合わせていた。

 

驚異的な再生能力。破壊と殺戮を生き甲斐とする狂気的な生態。さらには、理性がないため対話も不可能。おまけに敵を自分の中に取り込む厄介な能力も備えている。

 

そんな最強最悪の魔人を制御できなくなったビビディは、魔人ブウを封印しては解放を繰り返し、自身の滅ぼしたい星を次々と攻略していった。

 

ところが、今の界王神が隙をついて、ビビディがブウを封印した時を見計らって、殺害した。

 

こうして、魔人ブウが封印された玉は永久に解放不可能となり、宇宙に平和が戻る……はずだった。

 

「ところが、つい先日、そのビビディの息子バビディが、魔人ブウの封印を解く術を持っていることが明らかになりました。今までは下手に刺激しないように放置していたのですが、そうも言ってられない状況になりました」

 

「……まさか、その玉があるのが……」

 

「そうです。この地球。それも、この高千穂と呼ばれている辺りにあるはずなのです」

 

界王神は、バビディにブウの玉が見つからないように結界を張りに来たらしい。結界を張った後は、常時監視をして、バビディに見つかり次第瞬間移動してバビディも退治する方針のようだ。

 

「……魔道士め……。厄介な置き土産を残してくれたものだ……」

 

「申し訳ございません……。我々が不甲斐ないばかりに……」

 

「い、いえいえ!界王神様が頭を下げることはないですよ!!」

 

界王神でありながら、無力な自分に申し訳なくなってしまった界王神は頭を下げた。ところが、流石に上位の神にそんなことをされては、こちらとしても気が気でなかった。

 

「その魔人ブウでしたっけ?復活の阻止、()()も協力させてもらえませんか?」

 

「えっ……?よろしいのですか?」

 

「その魔人が復活したら、地球どころか宇宙そのものの存続が危うくなるのでしょう?でしたら、オレには阻止する義務があります……。ですから、例え断られたとしても、オレはやります……」

 

「……いえ、むしろこちらからお願いしたいところでした。私達が常に監視はしますが、バビディもまた大魔道士…。何か細工をして結界内にあるブウの玉を取り出してしまう恐れもありますし、バビディの術で強力な戦士が手下になっている可能性もありますから。非常にありがたい話です」

 

こうして、エメと界王神達が魔人ブウの復活をするべく協力することになった。その第一歩として、まずは魔人ブウが封印されている玉を見つけることだった。

 

その捜索には、ツクヨミの力で鴉にも協力を求め、大掛かりなものとなる。

 

 

 

だが、ツクヨミは捜索に於いて物凄く有能だった。そもそもこの世で彷徨っている悟飯の魂を捉え、星野アイの子の肉体に魂を入れるような、器用な真似をできる者なのだ。魂の場所さえ分かれば、例え魔人ブウの玉が地中に埋められていようが、あっさり見つけることが可能なのだ。

 

何より、魔人ブウの魂は非常に異質だ。界王神のシンに似た性質を持つ魂が2つも存在……否、混ざっているようにも感じた。そのことをツクヨミが話せば……。

 

「あなた、そこまで分かるのですね…。魔人ブウは、敵を取り込んで自分の力にする能力があります。実力のあった南の界王神や、大界王神様も魔人ブウに……」

 

その結果、多少は理性を得ることができたようだが、それでも破壊と殺戮を楽しむという本質が変わるまでには至らなかったようだ。

 

「場所さえ分かれば、あとは我々で結界を張ります。少しでも異常を感じれば、エメラルドさんにも協力を仰ぎます」

 

「分かりました。お願いします……」

 

こうして、界王神は結界を張ることに成功した。魔人ブウの玉から半径100mは、界王神とその付き人であるキビト以外が侵入できないように設定したが、バビディは魔術で突破する可能性がある。そのため、常に監視を怠ることはないだろう。

 

しかも、地中深くにあるため、ツクヨミのような特殊な能力や術でもなければ、見つけることは簡単ではない。

 

「それでは、我々は一旦界王神界に戻ります。何かあれば、我々はすぐにここに来ます。その際は、申し訳ございませんが、エメラルドさんにもご同行をお願いします」

 

「はい、勿論です」

 

地球、もっと言えば、宇宙を混沌に陥れさせる可能性のある強敵。そんな地雷をエメが野放しにするはずがなかった。せっかくフリーザを倒して手に入れた平和だ。なんとしても、この世界は死守してみせる。

 

エメは、そんな思いを胸に抱きながら、帰宅するのであった。

 




 さて、無茶苦茶不穏な奴が出てきましたが、ここの界王神は原作よりかは遥かに有能なため、バビディに確保される前に動いております。原作の怯えようからして、これくらいはしてもいいよなっていつも思ってる。

 また、エメは純粋サイヤ人たちにはこのことを黙秘するため、戦いたいからという理由では魔人ブウは出現しません。なんならダーブラとバビディを倒して終わりの可能性もあり得る。未来悟飯はとにかく守ることに重視しておりますのでね……。

 こんな引っ張り方をしておいて、次回は戦闘ではございません。普通にあかねとのデート回(予定)です。
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