推しの飯/絶望の未来から転生した戦士 作:Miurand
前回、エメとツクヨミは界王神達に遭遇し、魔人ブウが封印されている玉が地球の、それも高千穂にあると説明された。そして、なんとか玉の位置を特定し、結界を張って簡易的な封印を行った。
無論、そのことは誰にも話していない。別にアイやルビーを信用していないわけではないが、うっかり口を滑らせてカカロットの耳にでも入れば、恐らく戦いを望む。そんな危険なことはさせられない。そういう考えもあって、このことは秘密にすることにした。
そして、その秘密はバレることもなく順調に時は過ぎていった。特に魔道士バビディ達が現れることもなく、平和な日々を過ごしていた。
「なあエメ」
「ん?」
ある日の夕食。カカロットがベジータと久方ぶりの戦闘を終えて、初めて星野家の食卓に共に座った時のこと。
「ベジータのやつが帰ってきたのは、お前も分かってるよな?」
「ああ、あの日だよね?2人とも本気を出していたみたいだけど、大丈夫だったの?」
「ベジータって誰?」
「あの舐めプしていた奴だろ」
「あー!あのM字ハゲの人?」
「それ、絶対ベジータの前で言うなよ。殺されるから」
ルビーがベジータのことを知らないというと、アクアが簡潔に答える。アクアにとって、ベジータとは、意気揚々と舐めプをして無様に敗北した恥ずかしいやつという認識でしかなかった。また、アイはアイでベジータのことを無茶苦茶失礼な覚え方をしていた。
「あいつはなかなか面白かったぜ。俺みたいに超サイヤ人を慣らしたわけではなかったが、攻撃をする瞬間と受ける瞬間は筋肉を増幅させ、パワー重視にする。動く時は筋肉を抑えてスピード重視って感じで、器用に使い分けていたぜ」
ベジータは、カカロットのように超サイヤ人を慣らすという発想ではなかったものの、また別の方法でトップに躍り出ようとしていた。だが、やはりカカロットの方が燃費が良かったのか、最終的にはカカロットが勝利を収めたそうだった。
それも、相当な接戦だったが。
「これで俺はサイヤ人トップになった。だが、油断してたらあっという間に抜き返されるだろうな。なんせベジータは天才で努力家だからな。そして、お前にも勝つ必要がある。どうだ?今度また決闘でも……」
「カカロットさん?私の前で息子を殺し合いに誘うなんていただけないよ?そんなこと言うと、次からご飯作ってあげないからね?」
「ちっ……」
アイの一言によって、カカロットは引き下がることになった。最早カカロットの胃を完全に掌握していた。あとはカカロットの心を射止めることさえできれば、アイは女としての幸せも手に入れるだろう。とはいえ、先のキス事件があってもカカロットは靡く様子がない。例え肉体関係を持ったとしても、恐らくそこに恋愛感情は存在しないだろう。そう考えると、まだ道のりは遠い。
「あっ、そうだ。明日はあかねさんとお出かけする予定だから」
「えっ?」
どうやら、明日はあかねとデートの約束をしているようだ。ビジネスカップルの段階と言えども、エメとしてはビジネスカップルとして割り切っていいのか分かっていない。そこで、何回かデートを重ねてみてはどうかというあかねの提案に乗ることにしたのだ。
ちなみに、ルビー達はこの日からジャパンアイドルフェス、通称JIFに参加することが決定し、アイとアクア主導の特訓が始まることになることをここに追記しておく。
話を戻すが、いきなり息子がデートに行くことを知り、一応認めたものの、やはりアイとしては複雑な心境だった。
だが、自分も今まさに恋愛中。息子にだけ禁止を言い渡すこともできない。そもそもあかねはいい子だと認めている。とはいえ、子供にはもう少し子供でいてもらいたいものだなぁと、老婆心ながらアイは感じていた。
ルビーもルビーで弟のデートにこっそりついて行こうとしたが、アクアに釘を刺され、結局は行かないことにした。
デート当日。本来なら、アイはあかねを家に連れてくるように頼みたかったが、ルビー達新生B小町の面倒を見る日となっていた。ちなみにアクアに代打を頼めばいいのでは?と考えたものの、アクアにはデートの邪魔はしない方がいいと釘を刺されてしまった。あと単純にルビーの面倒も見たいというのもある。何もアイはエメだけを可愛がっているわけではないのだ。
エメも真剣にあかねに向き合っていることをなんとなく察知したのか、或いは相談されたのかは不明だが、アクアがエメの味方であることは間違いない。
「こ、こんな服着るの初めてだ……」
アクアの助言を受け取り、いつも着ないような洒落た服を着る。しかし、アイから受け継いだ容姿故か、初めから着こなしていた。
「うん!やっぱり私の息子はかっこいいね!」
「ねえお兄ちゃん。こんなエメを見たら、いくらあかねちゃんでも襲っちゃうんじゃ……?」
「お前マジで人間の理性舐めすぎだろ…」
あまりの悪魔的マッチングにルビーがこんな感想を溢すほど。血が繋がっていなければ、うっかり惚れていたかもしれない。せんせーとの出会いがなければという大前提を加えた上での自己分析である。
「エメ。お泊まりだけはまだダメだからね!いくら彼氏彼女だとしてもまだ早いよ!」
「大丈夫だよ。そんな話は出てないし」
そもそも恋人関係にない有馬と同じ屋根の下で寝たこともあるのに今更感はあるが、彼女は例外扱いを受けている。所謂幼馴染特権というやつである。
というわけで、約束した時間の30分前には到着した。あかねの性格上、約束した時間よりも早めに来る可能性も考慮したのだが……。
「あっ、エメ君!早かったね?まだ約束の30分前だよ?」
あかねに先を越されていた。恐ろしく早い。デート慣れしたアクアでも見逃してしまいそうである。一体いつからいたのだろうか?まさか3時間前から来ていたりはしないだろうか?
「ご、ごめんね?もしかして待たせちゃったかな?」
「ううん。待ってないよ。私もちょうど着いたところだから」
これがエメに対する遠慮なのか、本当にちょうど着いただけなのか分からないが、少なくともエメが後から来たことに関しては不満がないようだ。
「って、エメ君その服装……」
「あーこれ?アクアが見繕ってくれたんだ。僕ってあまり服装気にしたことないから……」
暴力的なビジュアルに、洒落た服装をされては、女慣れしている疑惑ができたが、兄のサポートがあるのならと、あかねは納得していた。そもそもエメが初彼女だということは、アイエミュを通して確認済みである。
「どうかな?僕ってあまりこんな服着たことないから……。アクアやルビーはカッコいいって言ってくれてたけど……」
「いやいや!十分過ぎるほどカッコいいと思うよ!!」
あまりの自己評価の低さにあかねは疑問に思ってしまう。仮にも鏑木Pの番組に出演できるくらいなのだから、ビジュアルがいいのは間違いないのだが、何故こんな謙虚になれるのか不思議でならなかった。しかもこれは相手に配慮する意図ではない。マジでそこまでカッコよくないと思っているのである。
最早ここまで自己評価が低いと、間接的にアイの容姿に問題があると言っているようにも聞こえてしまう。少なくともルビーやアクアならそう言うだろう。
「それに、僕よりもあかねさんの方がずっと綺麗だよ。大人っぽい服装も似合うね」
ここで、下心が一切ない、純粋な褒め言葉があかねの心に炸裂する。芸能界で揉まれ続けてきたメンタルに染みて涙が出てしまいそうなほどに。
何故こんな子が芸能界にいられるのか。いや、言い方を変えよう。何故芸能界にいながらこんなに綺麗でいられるのか。最早天然記念物に指定した方がいいのではないかとあかねは本気で考えてしまった。無論外見ではなく中身の話である。
「あ、あれ?あかねさん?どうしたの?」
「いや、下心や打算が一切ない言葉って、こんなにも感動するものなんだなって思って……」
「一体どんな世界を生きてきたのさ……」
あかねはあかねで壮絶な芸能人生を歩んだようである。一説によると、キャバグラごっこもしたことあるらしい。
「そういえば、行きたいお店があるって言ってたよね?早速だけどそこ行こうよ!」
「あっ、うん!」
一応これはデート。現時点ではまだビジネスの関係だ。だが、あかねは本気で彼に恋をしている。少なくともあかね本人はそう推測している。
だからこそ、このデートは緊張してやってきた。母や友人にどんな服装をすれば良いか。どうすれば喜んでくれるか。待ち合わせ時間にはどれくらい余裕を持つべきかなど。
彼女はその辺の知識がなかった。だから色々な人から聞いた。これも公に恋人関係であると公開されているからこそできる行動である。
だが、その知識や行動も役に立ちそうにない。役者である彼女だが、彼に本気で向き合うならば、素の自分で向き合わないと意味がない。例えば、アイの演技で彼を落としたとして、それは"黒川茜"ではなく、"アイの演技をしているあかね"に恋をしているだけ。
そして、素の自分はどこか前に出れない。そんな性格だからリアリティショー映えせず、炎上してしまった。彼を初めとして、沢山の人に助けてもらい、こうして今も生きている。
なのに、こうして今でも臆病な自分がいることに……。
「……緊張してる?」
「わ、分かる?」
「分かるよ。僕もデートなんて、本当に初めてだから……。君だけじゃないよ」
一見緊張している素振りなど見えなかったが、彼はどうやら本当に緊張しているらしい。そもそもいつもの外出感覚なら、アクアに服装を見繕ってもらうこともしないだろう。
彼は彼なりに、デートとして身構え、それ相応の準備してくれたのだ。緊張しているのは私だけじゃない。彼も同じ。それが分かると、緊張よりも嬉しさが勝ってしまった。
少し時間をかけて移動し、あかねが目的地としている店に到着。そこは最近できたスイーツ店のようで、パフェが美味しいと評判のようだ。その証拠として、行列ができていた。
「うわぁ……。凄い多いね……」
「そ、そうだね。私もここまでだとは思わなかったよ……。ごめんね」
あかねはつい謝罪してしまう。彼はグルメだということは聞いており、恐らくすぐにでも食べてみたいと考えていたはず。それなのに、長い時間待たせてしまうことになるなんて……。
「いやいや、何を言っているの?いい機会だし、何か話でもしようよ!僕達、まだまだお互いの知らないこと多いと思うし!」
それに、デートとは、こういった待ち時間も楽しむものなのではないのかと、エメは付け加えた。彼は人間として出来すぎている。改めてあかねはそう思った。
それから、待ち時間はあかねとの雑談を楽しんでいた。エメは主にこれまでの仕事や、家族のアクアやルビーのことが主な話題となり、あかねも似たようなものだった。互いに家庭環境には恵まれているらしい。
特に、あかねからはこんな興味深い情報を得た。
「碧ってさ、普段はドラマとか特撮なんて見ないんだけど、エメ君が出演するやつだけは必ず見てるんだよね。ファンなのかって聞いたら、別にそうじゃないって答えてたけど」
「あー、だからこの前はぎこちなかったのかな?」
「多分、憧れの人が突然目の前に出てきたから緊張しちゃったんだと思う。普段なら誰とでも気さくに話せる子だから」
話を聞けば、昔からしっかり者だったようだ。特に幼少期なんかは、姉である自分よりも、下手したら両親よりもしっかりしていたらしい。そんな弟を見て、自分もしっかりしなければと、あかねも努力していった結果、色々なことができるようになったのだそう。
家事。演技。勉強。何でも卒なく熟せる万能型の天才は、弟の影響を受けてその才能を開花させたのかもしれない。あくまできっかけに過ぎず、全く関係なく開花した可能性もあるが。
「特に碧は運動が得意なんだよね。小学生に入ったばかりのときなんか、確か50m走で3秒切ってたような……」
「ええ!?それはすごいね……」
エメもやろうと思えば余裕のタイムではあるが、あくまで一般人として考えると、その才能の凄さは一目瞭然。世界を代表する選手と比べるまでもない。オリンピック連盟は何してんだ案件である。
「それにさ、碧は正義感っていうのかな?そういうのが強いから、歳上の不良に絡まれている同級生を力づくで助けていたこともあるし……」
あかねと同じく大人しそうな見た目をしていたのに、案外パワフルである。それもそのはず、あのトランクスが転生した姿なのだから当然と言えば当然。一体いつになったら互いに認識するのだろうか。
「そういえば、エメ君ってかなちゃんの弟子なんだよね?昔から付き合いがあるみたいだけど、仲良いの?」
「うん。よくお泊まりするくらいにはね」
「えっ?お泊まり……?」
あかねは自分の耳を疑った。よく泊まって"いた"なら分かる。幼少期の話なら、性別など特に関係ないから。
しかし、エメの言い方からして、恐らく今もその習慣が続いているのだろう。しかし、自分の認識違いの可能性もあり得なくはない。認識の差異をなくすために、あかねは問い詰めることにした。
「もしかして……、今でも泊まってたりする?」
「えっ?うん。最近はお互いに忙しくなってきたから、頻度は減ったけど……」
「えっ?でもエメ君は私が初めての彼女だって……」
「うん。あかねさんが初めてだよ?」
「えっ?」
「ん?」
異性の家に寝泊まりしておきながら、交際していない……?あかねは頭を抱えた。もしや"また"彼女に先を越されたのではないかと。
「……エメ君」
「どうしたの?」
「需要と供給って知ってる?」
「急にどうしたの?」
そんな質問を唐突にしたかと思えば、ようやく自分達が注文する番になった。というわけで、目当てのメニューを頼んで席に着くことになるのだが…。
パシャ
「……イマイチだな」
「ど、どうしたの?急にその……。ち、近くない?」
「私たち付き合ってるんだから普通じゃない?」
何に対抗心を燃やしたのか、あかねはエメとのツーショットを撮り始めた。微妙な反応をしているのは、もっといちゃついた雰囲気を出したいからなのだが、エメが初々しいこともあってなかなか上手く決まらなかった。
「そ、そうだ!」
突然閃いたようだが、急に頬をくっつけた。無茶苦茶距離が近い。キスを経験しているので、頬同士をくっつける程度は大したことないはずだが、エメにとっては十分刺激か強かった。
シャッターに当たる部分をタップしてパシャリと一枚撮る。エメは赤らめ驚いている様子で、あかねは若干顔を赤らめてはいるものの、見ていて心地の良い笑顔が撮れた。
付き合ってそんなに期間が経ってないのに距離感がバグっている。
「よし、これで投稿っと……」
「あ〜……。そっか。僕達って番組で付き合い始めたから、そういう投稿もしなきゃいけないんだっけ……」
「うん。ファンもきっと私達のこういう姿を望んでいると思うし」
それもあるのだが、あかねとしては、有馬に対抗心を抱いていた。恐らく彼女もエメに惹かれている。ならば今ガチで得たカレカノ関係を存分に利用するまで。
実際は、有馬はアクアにぞっこんでそれどころではない。そもそもエメに対する感情は姉や妹のそれと同じなのだが……。事情を知らないあかねが知る由もなかった。
だが、あかねの猛攻はここで終わらない。
「そっちのも美味しそうだね?私にもちょうだい?」
「うん。いいよ」
エメは意味を理解する前に承諾した。ところが、このパターンには身に覚えがある。今でもたまにあるが、昔はよくアイにやられたものである。
了承したにも関わらず、何故かずっとこちらを見て待っている。それだけでエメは察してしまった。
「えーっと……。つまり、そういうこと?」
「…………」
あかねはあかねで肯定するのが恥ずかしいのか、沈黙したまま。だが大体わかった。彼女が何を求めているのか。
エメは自分のスプーンでパフェを掬い上げて……。
「あ、あーん……?こ、こういうことだよね……?」
恥ずかしさを感じながらも、きちんとこちらが求めていることをしてくれる。やはり人間として出来すぎていると改めて感じた。
あかねは遠慮せずに食べた。今度はお返しに自分のも食べさせてあげる。
こんなことを繰り返しているうちに、周りの視線を磁石のように惹き寄せていた。ただでさえ美男美女カップルなのに、その2人がイチャイチャしていたら見てしまうのも仕方ない。これで見せ物じゃないは無理がある。
そんなことを続けているうちに、2人はパフェを完食。ちなみにこの時間帯だけ何故か無糖の紅茶やブラックコーヒーの売り上げが無茶苦茶伸びたらしい。
「……なにやってんのよあんた達……」
するとそこに、呆れたような目で2人を見る有馬の姿があった。
「あ、あれ?なんで有馬さんがここに……」
「リアタイ投稿はやめなさい。厄介ファンやストーカーに狙われるわよ」
どうやらリアタイ投稿を見てこちらに様子見に来たらしい。あとSNSでエメあかが何故かトレンド入りしており、その中に2人のいちゃつきが半端ない的なコメントを数多く見かけたため、居ても立っても居られず来たわけである。
「って、有馬さん。今日は特訓する日だったんじゃないの?」
「んなもん、あの投稿を見せたらアイさんがすぐに承諾してくれたわよ」
どうやら、アイは節度ある付き合いを想像していたが、予想以上に距離が近いため脳の処理が追いつかなかったようである。
「つーか何よこの写真!いくらなんでもこの距離感はおかしすぎよ!」
「別に私達はキス済ませてるし、そもそも恋人同士だよ?かなちゃんこそ、ただの幼馴染ってだけでお泊まりはおかしいと思うよ?」
「違うわよ!私達は単なる幼馴染同士じゃないわよ。謂わば師弟関係ってやつね。エメがまだまだひよっこの頃から演技のアレコレを叩き込んだのは私なんだから!」
つまり、私はエメのお姉ちゃんであり母のような存在と言いたいのであるが、あかねには別の意味に聞こえたらしい。口論は更にヒートアップしていく。
「どうせかなちゃんのことだから、エメ君を無理矢理泊めてるんでしょ?エメ君は勉強や仕事で忙しいのに」
「エメは本気で嫌がる時はちゃんと拒否するわよ。それに、私の家で今でも稽古つけてるのよ。寧ろエメから率先してこっちに来てくれてんのよ。そっちこそ何?さっき投稿した写真、明らかにエメのキャラじゃないわよ?どうせあかねが無理矢理頼み込んだんでしょ?」
「そんなことないよ!今日のデートだってエメ君から誘ってくれたんだもん!」
「あ、あの?2人とも?」
ヒートアップする口論に、周りもざわつき始めた。まさかあの"孫悟飯"が浮気か?修羅場か?そんなことを考えた一般人は決して少なくない。好奇の視線を集めることとなってしまうも、2人は喧嘩を止める気配がない。
「あくまでビジネスカップルでしょ?どうせすぐに別れることになるんだから、とっとと別れればいいのに。エメも損する性格してるわよね」
「た、確かに今はビジネスかもしれないけど、エメ君は真剣に考えてくれるって言ってたもん!ビジネス関係は何か違う気がするって言ってたし!」
「はいはい。エメのことだからあんたに配慮してそう言ってあげたんでしょうね〜。エメの本命はMEMちょだからそんなことあり得ないわよ」
「そうなの!?」
「違うよ!?」
ありもしない事実……事実と表現するべきではないが、唐突に虚偽の事実を述べられて思わず否定した。
「有馬さん。さっきあかねさんが言った通りだよ。これは僕の本心で、別に遠慮とか配慮とかしたわけじゃないよ」
そして、エメも真剣に自分の意思で考えていることを伝えると、有馬は溜息を吐きながら……。
「分かったわよ。本当にあかねに流されてってわけじゃなくて、自分の意思で出した結論なのね?」
「そうだよ」
エメは隠し事が苦手。そのことを知った上で、即答で返されれば、それが本心だと言わざるを得ない。
「はいはい。分かったわよ。エメの意思で決めたことなら、これ以上とやかく言わないわ。ただし、あかね」
納得したようだが、今度はあかねの方に向き直す。そして、真剣な眼差しでこう述べた。
「エメを悲しませるようなこと、絶対にするんじゃないわよ」
いくら師匠と言えども、流石に過保護ではないか?やはりただの幼馴染や師弟関係ではない予感があかねの頭を過る。
「……かなちゃんは、エメ君のなんなの?」
ついに聞いてしまった。もしこれで彼女とか好きな人とか答えられてしまった日には勝てる気がしない。が、ここではっきりさせておきたかった。
「私?さっきも話した通り、師匠でもあり友人でもあり……」
有馬は落ち着いたテンションで淡々と述べていく。
「エメのお姉ちゃんよ!!」
そして、自信満々にそう宣言した。
「……?????」
あかねは軽く宇宙猫状態になった。何せ予想の斜め上の回答が来たのだから致し方なし。
「えっ?何それ?初耳なんだけど……」
「エメ君も知らないの?」
「うん……」
「あんたね……。まだあんたの身長が私より小さい時なんか本当に大変だったんだから!JKやJDに何度連れ去られそうになってたことか!私がいなかったら、あんたは今頃大人の階段登ってたわよ!!」
「そ、そんなことが……!?」
「そうよ!エメの姉のルビーも全く同じこと言ってたんだから!」
まさかエメにそんな体質(?)があると知らずに、思わずあかねが驚いてしまった。
「そんな奴らの魔の手から私が守ってあげてたの!それって最早私がお姉ちゃんと言っても過言じゃないでしょ?」
「た、確かに?」
逆レされそうになってるところでなんとか防衛し、その上で自分はエメとの関係を持っていない。確かにやってることは彼女というよりは、師匠や姉に近い。そのため、あかねは自然と納得しかけた。
「えっ?そ、そうだったの?」
「ほら聞いた!?今のエメの台詞!」
「た、確かに……。こんな状態じゃ、かなちゃんがお姉ちゃん化するのにも納得が行く……」
エメがあまりにも純粋かつ無防備であるため、あかねも納得してしまった。取り敢えず有馬は恋敵ではないことがあかねの中で確定した。
「大丈夫だよかなちゃん。私がエメ君を守るから」
「いや私はあんたのこと認めてないから」
完全に有馬があかねのことを認める流れだったが、そんなことはなかった。仲良さそうに見えたがやはり険悪なのだろうか?あかねは思わず頬を膨らませている。
「とにかく、エメの意思を無視するような行動だけは絶対にしないことね」
そう言って、有馬があかねの耳元にまで口を近づけた。
「もしエメの意思を無視して既成事実なんて作ろうものなら、エメの家族に殺されるわよ。いや割とマジで」
エメに聞こえないように小声でそう言った。アイも書類上の姉であることはようやく認識したため、有馬の中でのエメの家族は、社長夫妻にアクア、ルビー、アイの5人。うち2人が間違いなく暴走すると読んでいる。下手したらお兄ちゃんも暴走するだろう。
アイやルビーならマジで黒い星を輝かせるかもしれない。輝かせるだけならまだ全然良い方だろう。
「そんなことするつもりないよ。そんなのエメ君が可哀想だし」
そして、あかねもそんな手段を取る気はないと宣言。有馬としてはまた疑わしいところはあるものの、一応は引くことにした。
「……ならいいわよ。それじゃ、ごゆっくりねお二人さん」
そう言って有馬はその場を後にした。周りは想像していた修羅場とはだいぶ違かった反面、面白い場面を見れたので満足気である。
「……もしかして、あかねさんって有馬さんのこと……」
「大っ嫌い」
「うわぁ……」
ここまで直球で言ってくるとさ思ってもおらず、エメは思わず口に出してしまった。だから顔を合わせてすぐに口論になったのだろう。
「あ、あはは……。まあ、人にも相性があるからね……」
にしては少しの間仲良さそうだった気はするのだが、あれは気のせいだったのだろうか?
(でも良かったぁ……。かなちゃんはエメ君にその気がなさそうで……)
恋敵でないことに安堵すると同時に…。
(さっき、かなちゃんの顔が至近距離まで……!!かなちゃん相変わらず可愛い……!!)
限界オタクとまではいかないものの、内心そこそこ熱烈な反応を見せていた。エメがあかねの内心を知った時、どのような反応が見れるのか見ものである。
なんかほぼあかねデート回になっちまった。今回は比較的ギャグ寄りで和やかな雰囲気ですが、次回はシリアスに移行。なんで時間ができると逆に執筆速度遅くなるんや。