推しの飯/絶望の未来から転生した戦士 作:Miurand
これだけ話せば誰が出てくるか、もうお分かりでしょう。
「いや〜、さっきのパフェ美味しかったね」
「気に入ってくれてよかった。私も初めて食べたけど美味しかったよ」
有馬とあかねの喧嘩という一悶着はあったものの、特に大きなトラブルになることなく退店することができた。
だが、有馬に言われた影響なのか、エメの行動に変化が見られた。
(さ、さっきからエメ君が近い…!?なんで!?)
そう。何故か距離が近いのだ。それこそ肩が接触しそうなくらいには。エメの顔を見てみれば、いつになく真剣な表情だった。
(も、もしかして、かなちゃんに挑発されて焚き付けられちゃったのかな…?)
もしそうだとするなら、あかねにとっては好都合だ。だが、それとは少し違う気もするのだ。先程まで事あるごとに照れていたエメが、突然こうして接近しても平然といられるものなのか…?
距離が近いため緊張してしまい、あかねから言葉を発する頻度が明らかに減った。それでもエメは特に違和感を感じず、そのまま歩き続ける。あかねは次第に気まずくなっていった。
(えっ、なにこの雰囲気?もしかして、私に言いづらい場所に連れて行く気じゃ……。べ、別に私は嫌じゃないけど……。ちょっと早すぎるというか……)
だが、あかねの浮かれた態度は早々に改められることになる。
突如聞こえる足音。それも激しいもの。恐らく地面を蹴って全力で走っているのだろう。こんな平日の真っ昼間に大忙しである。
その足音は徐々に大きくなる。ある程度大きくなったところで、こちらに近づいていることにあかねも気づいた。
すると……。
「……!!!?」
銀色に光る鋭利な物が見えた。とても鋭く、人肉など簡単に貫いてしまえそうなものであった。それを持っているのは、自分と同年代かそれより少し上の女性。鬼の形相であかねを見据えてながらこちらに向かってきている。
『リアタイでの投稿はやめなさい』
さっき、有馬が言っていた意味を理解した。こういうことがあるから時間差で投稿しろと言っていたのだ。
気がついた時には、すでにあかねの目の前。もう手遅れである。一般人ならば。
ガキンッ‼︎
「えっ…!?」
刃物を持っていた女は、突如弾かれたことに驚愕する。犯人にとっては幸いなことに、刃物を手放すことはなかったが。
「君、そんな物を持って、何をしようとした?」
そう。エメは最初から気づいていたのである。自分かあかねのどちらかに強い殺意が向いていることに。だからあかねをより確実に守れるために至近距離にいたというわけである。
「え、エメ君にそんな女相応しくない!!自分の思い通りにならないとすぐにヒスになって暴力に走るんだよ!?そんな女より私の方が……」
どうやら今ガチでの炎上の件をまだ根に持っているらしく、エメと炎上したあかねが付き合っていることを認められなかったようだ。あんな暴力女が付き合えるなら、私だって……。そんな思考だったのだろう。
そもそも、自分自身の行動が完全にブーメランになっていることに気づいていないのだろうか?この光景を人間嫌いの神が見れば、今すぐにでも人間を滅ぼす決意をしてしまいそうである。
「……公式SNSの動画を見たなら、この子がそんなことをするような子じゃないことくらい分かったはずだ。なのになんで……」
口答えする間もなく、女は再びあかねの方に向き直す。と同時に刃物を突き立てようとするが……。
「なっ……」
エメに指一本で止められた。
すかさずエメは女に対して背負い投げを決め、ナイフを奪い取ってすぐさま地面に滑らせるようにして投げ飛ばした。
「……君が何故そんな行動に及んだのか、オレには理解できない。けど、どんな理由があろうとも、人を傷つけ、ましてや殺すことなんて、あってはならないんだ……」
無論この言葉は、フリーザや人造人間のような極悪人を除いた場合の話だ。
この後、周りの野次馬の通報によって駆けつけた警察が到着し、女は現行犯逮捕。事情聴取としてエメとあかねも警察のお世話になることとなってしまった。せっかくの初デートが台無しではあるが、あかねを無傷で守れたことに、エメは安堵していた。
時間をかけて事情聴取が終わり、2人とも解放された。
「まさかまた警察のご厄介になるとはね……」
表向きの保護者のミヤコが若干呆れながらも、あかねを2度も守ったことに関しては素直に称賛した。
あかねの親も迎えにきたことによって、その事実を知り、更にエメの好感度が上がるばかりである。
「また娘を助けてもらえるなんて、なんてお礼を言ったらいいのかしら……」
「お礼なんていいですよ。僕はあかねさんの彼氏なんですから、守って当然です」
こんなベタな台詞を躊躇なく吐ける人材はなかなかいない。ましてや、有言実行できる者なら尚更。2度も実績があるだけに、説得力も大きかった。
結局、犯人の犯行動機は嫉妬だった。アイの場合は殺意がアイに向いていたが、今回はあかねに向いていたようである。もし今後単独で行動するようなことがあれば……。
「……あかねさん。これからしばらくは1人で学校や現場に行くのは避けた方がいいと思う。しばらくは様子見しよう」
話し合いの結果、学校や現場へは極力あかねの母が付き添うことになった。専業主婦の強みとも言える。特に車で送迎してもらえるなら、問題ないだろう。無論、母の都合が悪い時はエメ自らエスコートしにくることになる。
「……ごめんね、初デートがこんなことになっちゃって」
「いやいや、あかねさんが無事で何よりだよ」
「……無茶だけはしないでね?」
「勿論」
無茶して心配をかけるのはもうゴメンである。幼少期はアイやルビーを中心にどれほど心配させたことか……。そのため、エメは心配される必要がないくらいに強くなる必要があった。
だからこそ、平和になったこの世界でも、今日も修行を続けていく……。
時は少し遡り、あかねとエメのデートが終了する間際。
茜の弟、碧は、前世の記憶を持っている。前世の名前はトランクス。ベジータのブルマの息子で、ハーフのサイヤ人だ。しかし、エメが元いた世界とは別世界ではあるが、境遇がほぼ同じであるため、実質エメの弟子ということになる。
そんな碧は、姉がエメとデートすると知るなり、こっそり後をつけることにした。戦闘力が一般人より僅かに勝っている彼だが、殺気や敵意は出していないため、特にエメに気づかれることはなかった。
こっそり後をつけた理由は、エメが孫悟飯であるかを確かめたいが故の行動。本人は告げるべきではないと思いつつも、やはり憧れの人と再会できるなら再会したい。その思いが強くなるが、もし憧れの師匠だったとして、再会するわけにもいかない。真の意味で再会してしまえば、彼を悲しませてしまうことになるから。
見るからに、彼は幸せそうだ。彼女も作って、夢に向かって滞りなく進めているところだろう。そんな時に、自分のせいで順調な日々を邪魔したくないのだ。
だから、こっそり後をつけて、悟飯さんだと確信すれば、そのまま陰ながら応援するだけ。
しかし、まさかのデート中に刃物を持って2人に突き進む者が出てきた。碧は思わず動き出しそうになるも、踏みとどまった。
本来ならすぐにでも駆けつけるべきで、物理的に碧ならば可能だった。しかし、何故やらなかったのか?
エメが察知していることに気づいたからである。だから、確かめたくなったのだ。エメが師匠であるかどうかを。
案の定、見覚えのある動きで無駄のない動きをして、一瞬にして無力化してみせた。恐らく彼は只者ではない。それは確信できたが、単純に柔道や空手を習っているだけの可能性もあった。
取り敢えず自分も合流しようと思ったが、どうしても気になることがあった。実は偶然、こんな現場を目撃した。
長身金髪の男性が、その犯人に対して何かを渡していたのだ。手渡された時は、碧の記憶が正しければ、まだ箱に入っており、かつ中身が確認できない不透過の箱だった。
どうしてもその男性のことが気になってしまい、トランクスは追いかけた。
「あの、すみません」
「おや、どうかしましたか?」
「これ、落としましたよ」
碧は一般人に比べて身体能力が高い。そのため、人には視認できないスピードで行動することも一応可能である。男性の懐から何でもいいからこっそり盗み出し、それを落とし物として返す。この方法で違和感なく男性と接触することに成功した。
「僕としたことが……。ありがとうございます」
「いえ、お構いなく。それにしても、先程は災難でしたね。まさか近くであんなことが起きるなんて……」
「ああ、アレですか……。幸いにも死傷者は出てないようですから良かったです。不幸中の幸いですね」
碧は話題を即座に切り替えて、先程姉とエメが襲われかけた話を持ち出す。
「そういえば、先程偶然見かけたのですが、あなたは犯人が犯行に及ぶ直前、犯人と話していましたよね?」
「おや?もしや僕が疑われているのでしょうか?」
勘のいい男性だった。しかし、碧は明確な証拠や確信を持っているわけではないので、ここで上手く誤魔化すことにした。
「いえ、あなたの容姿には目を惹くものがありまして、偶然目に入り、それを覚えていただけです」
「そういうことでしたか。異性の方はともかく、同性の方から褒めていただけることはなかなかないので、嬉しいですね」
本人も自覚はあったようだ。容姿について言及され、金髪で糸目の男性は、嬉しそうな素振りをする。
「疑われているようでしたら弁解しておきますが、僕は彼女に忘れ物を届けにきただけですよ。
「……なるほど。そういうことでしたか」
恐らく偶然同じお店に居合わせて、たまたま忘れ物を見つけて届けたのだろう。そんな状況はあり得ないと断言はできない。
だが、彼女は明らかにあかねを狙っての犯行。もし計画的なものなら、犯行に及ぶのに重要な刃物を忘れるだろうか?絶対にないとは言い切れないが、可能性としては低くないだろうか?
碧には得体の知れない不信感が募ってくる。もし意図的に姉の命を狙うように仕向けたのだとしたら……。
「それと、一つだけアドバイスしておきます。嘘は、意外と簡単に見破られるものですよ」
「……!!!!」
どこからバレていた?自分が男性に接触した理由か?それとも、落とし物として届けたことか?
「まあ、僕が彼女と接触している場面を目撃したなら、確かに疑ってしまうのも無理はありませんから、今回はなかったことに。それでは、またどこかで」
そう言って、金髪の男性はその場から去った。一体どこまで見抜かれていたのだろうか?見逃すと言ったことから、落とし物を装って盗んだことまで見抜かれている……?
確かに、行き過ぎた行為かもしれないが、碧は彼があかねを殺害するように仕向けたように感じた。何故だろうか。長年戦士として敵と相対してきたからか、敵の殺意や敵意には敏感だ。実行犯ほどの露骨なものは感じなかったが、彼からも僅かに感じたような気がした。
しかし、未だに気を扱えない碧には、自信がなかった。これを機に慎重に判断しようと心に誓った。
「孫悟飯……またの名を、星野
碧と別れた男性は1人になり、周りに聞こえない声量で呟く。とは言っても、ここは彼の事務所で、彼の仕事部屋であるため、他には誰もいない。
男性にしては比較的長い髪だったが、束ねていた髪をほどき、糸目も開眼する。
その両面には、真っ黒に染まり切った星が刻まれているように輝いていた。
「彼の動きは素人ではない……。アイが一体どういう教育をしているのか分からない……。いや、アイの側に現れた男が原因か……?」
そう言って、彼はカカロットの姿を思い浮かべていた。実は、彼こそがアイに度々刺客を送り込んでいた張本人。要するに、真犯人とでも言うべき存在であり、アクアが正体を探っている相手でもある。
彼が何故アイを殺そうとするのか、その原因はまだ分からない。本人は一体何を考えているのか。アイに振られたからその逆恨みなのか?それとも快楽殺人のため?また別に恨みでもあったのだろうか?
だが、あかねを敢えて狙った理由だけは明確になっている。彼は別にあかねを殺害したかったわけではない。エメの実力を知りたかったのだ。
エメはアクション俳優としては業界人の間では知らない人はいない有名人だ。当然CGをほぼ使っていないことも知れ渡っている。その圧倒的なフィジカルがどれほどのものなのか、実際に確かめてみたくなったのだ。
無論、それだけが理由ではない。
「流石は僕とアイの息子だ。テレビで見たことは何度もあるけど、まさかここまで綺麗に成長しているとは…。それに彼女を守っている時の彼は、まるでアイドルをしているときのアイのようだ」
彼が言っているのは、エメがアイのようにカリスマ性を発揮しているということではない。
アイドルとしてのアイは、まさに敵無しのような完璧なパフォーマンスをする。
謂わば、完璧で究極のアイドル。
そしてエメは、人を守るのに適した動きをしている。度々ネットでも言われていることだが、彼のヒーロー演技は本物のようだと。
謂わば、完璧で究極の戦士。
どちらも死に行く姿が想像できないという点では、非常に似ている。少なくとも彼が今まさに感じていることだ。
「ああ……、アイ。今の君をこの手にかけることができるなら、一体どれほどの重みを感じることができるのだろうか……。きっと今まで感じたことのないような重みを感じるに違いない……。君はそれほど価値のある命なんだ……」
彼の名は、カミキヒカル。
アイの元彼氏で、アクア、ルビー、エメの血縁上の父親。
そんな彼は、価値のある女性……要するに、芸能界で輝く才能を持つ女性を殺害することによって、自分の命に価値を感じる狂った感性を持っている。
一言で言えば、サイコパス。
今でこそ、カカロットやエメがいるからそう簡単にアイを殺害できる環境にはないが、彼は幾つもの命を手にかけてきた。そのため、警察に勘付かれないように対象を殺害するノウハウに長けている。
カカロットやエメのようなイレギュラーがいなければ、アイは今頃……。
「……もし、アイの子や、あの男も手にかけることができれば、重みを感じることができるのだろうか?」
きっとアイは子供達やあの男のことも大切にしている。価値のある者が大事にしているのだから、きっとその者もそれ相応の価値があるはず。
カミキはどうやって重みを感じようか試行錯誤するが、先に言っておこう。エメやカカロットがアイの味方として君臨している限り、カミキではどうすることもできない。
アイがエメやカカロットの保護下にないタイミングを見計らうしかないが、そんなタイミングは存在しない。一度アイが殺されかけてから、カカロットかエメが必ずアイの側に護衛としてつくようになった。
どうしてもカミキがアイの命に手をかけたいのならば、彼ら戦士を上回る刺客を送り込むか、カミキ自身が彼らを上回る他ない。
だが、そんな都合の良いことも起こるはずもない。
仮にエメと遭遇してしまった際には、せいぜい逮捕される程度で済むかもしれない。エメはフリーザや人造人間のような、全人類を滅ぼしかねない極悪人でもなければ、容赦なく始末するということはない。
しかし、カカロットと相対してしまった日には…………。
結局、カミキと接触した碧は、その後姉とエメの動向を追うことができず、結局当初の目的を果たすことはなく帰宅した。
一方で、エメもミヤコと共にようやく帰宅できたところなのだが、一旦事務所に戻ると……。
「あっ、エメお帰り〜」
元気よくアイが出迎えてくれるが、問題はその後ろ……。
「あ、あの?3人ともグッタリしてるけど大丈夫なの?」
「うん。もう少し休憩したら再開するつもりだよ」
「うへぇ〜……。まだやるのぉ?」
「も、もう少し休憩を……」
「ダメダメ!かなちゃんが途中で抜け出しちゃったから、その分の埋め合わせをしておかないと!」
有馬も戻ってきたはいいものの、不在分を取り返すためによりハードなスケジュールになり、結果としてトレーニングに比較的慣れているはずの有馬もダウンしているわけである。
「え、エメ〜……。なんか買ってきてちょうだい……。甘いものならなんでもいいから……」
「それなら冷凍庫にアイスあるだろ。今のうちに食べたらいい」
「あ、ありがと……」
アクアがそう言えば、有馬はそれに応じて移動を開始。ルビーとMEMちょも飛び起きてアイスを食そうとするが……。
「あれれ?まだ2人は元気そうだね?ならもう少し追い込みをかけようか!」
「お、鬼がここにいる〜!!助けてママぁ!!」
「ひぇ〜!!」
そのママが追い討ちをかけているのだルビーよ。現実は残酷である(?)
「ところでエメ、大丈夫だったか?あかねが襲われたんだろ?」
「うん。事前に気付いていたから大丈夫だったよ」
周りに聞こえないようにアクアが問いかければ、エメは無事と返す。最早その辺の人間程度に傷つけられるエメではないのは分かっているものの、昔から無茶する性格なので、アクアとしては未だに心配になってしまうのだ。
「だからリアタイ投稿はやめなさいと言ったのに……」
「あの時は既に遅かったから仕方ないよ。僕も気を抜いて過ごしているわけじゃないから、余程強い敵が現れない限りは守り抜けるよ」
「言葉だけじゃなくて実際にそれを実行してしまえるのがあんたの恐ろしいところだわ……」
ところで、本日の件は当然この場にいる全員に知れ渡っているのだが、にしても反応が不自然である。
有馬やアクアは最早エメが並大抵のことでは傷一つ付かないことは分かっている。だが、特にアイやルビーの反応が薄いようにも思える。
「あ、そうそう。エメ大丈夫だった?あかねちゃんが襲われかけたらしいけど」
「大丈夫だよ。あかねさんも僕も無傷だし、周りの人も特には」
「まあエメがそこら辺の人に傷つけられるわけないしね」
最早信頼されていた。宇宙人のような規格外の強さを持つ者が相手に立ってない以上は、心配よりも信頼の方が圧倒するらしい。
「まあエメたんが傷つけられるとこを想像できないよね〜……」
「これでも昔は結構苦労してたんだよ?」
「あ〜……。そういえば初めて会った時も……」
「あーあれね……。あんな大怪我してるのに元気そうに挨拶された時には……」
ルビー、メム、かなの順に昔のことを思い出す。
ルビーは思う。一番印象深いのはフリーザとの戦い。あの時は自分の身体に何度も鞭を叩いて苦しそうにしていたことを今でも鮮明に覚えている。
次にメム。やはりエメに助けてもらった時のことだろう。容赦なく宇宙人と思われる敵達を殺していた。普段の優しいエメからは考えられない行動だが、逆に言えば、地球にいる人々を守るための行動でもあると解釈できる。
最後にかな。彼女はやはり大猿vsエメの時が一番印象に残っている。自分と大して歳が変わらない子供が、あんな大怪獣に立ち向かって行く様は、カッコよく感じると同時に、歪なものを感じた。子供なのに子供ではない、言葉に言い表せない違和感を覚えていた。
何気に新生B小町はエメの力を知るメンバーだけで構築されているのである。
「エメ、辛くなったらいつでもお姉ちゃんに相談してね」
「私でもいいよ。一応人生の先輩だしね〜」
「いつも私の愚痴を聞いてもらってるし、たまにはあんたも愚痴出してもいいのよ」
新生B小町の別名は、エメラルド
ダンッ!
そんな雰囲気になってる時、突然扉が力強く開かれた。
「あれ?あなたは確か……」
「カカロットの野郎はどこにいる」
通常時でも逆立った髪に、特徴的な前髪。これだけでも誰だか一目瞭然である。
「あれ?ベジータさん?どうしてここに?」
「貴様は確か……。エメラルドだったか?いや、それよりもまずはカカロットだ。カカロットの野郎はどこにいる」
「ああ、カカロットさんなら……」
アイが説明しようとしたその時、再び扉が開かれた。そこにいたのは、カカロット。それもベジータが見慣れた戦闘服姿ではなく、すっかり地球に馴染んだ格好をしているカカロットだった。
「あっ、おかえり〜!頼んだもの買ってきてくれた?」
「売ってる魚じゃ小せえのしかなかったから取ってきてやったぜ」
「はっ?マグロ……!?」
無茶苦茶デカいマグロを片腕に添えて。
「おお、これは大きいね!カットに関してはエメにも手伝ってもらおうかな」
「分かった。確かにこれだけ大きいと大変だもんね」
そして特に驚くこともない星野一家。最早見慣れた光景と言っても過言ではないが、メムとかなには十分なインパクトである。
「カカロット、貴様何をしている?」
「お、ベジータも来てたのか。丁度いい、お前も食うか?このマグロって魚は生で食べると無茶苦茶美味えぞ」
「いらん!そんなことよりも、これはどういうことだ!!」
突然ベジータに叱られるものだから、カカロットは『何言ってんだこいつ』と言わんばかりに首を傾げた。
「貴様は戦闘民族だろう!?食料を取ること自体は好きにすればいいが、何故コイツらと共に行動している?」
「別に俺の勝手だろうがそんなもん」
「ふざけるな!!俺はママごとや女遊びで怠けているようなやつに負けたというのか!?認めんぞ!!貴様、それでも戦闘民族か!!!」
ベジータがここまで言うのにも当然理由がある。カカロットが強くなった秘訣を知るために、ラディッツの元へと訪ねた。その時にカカロットの行程を聞いて参考にしようとしたところ……。
『最近はよくアイという地球人の女と行動を共にすることが多いと聞いたな。あとはよくご馳走になるらしい。俺もたまにご馳走になるぞ』
なんと、真っ先に出てきたのはトレーニングのことではなく、平和ボケした生活だった。そんな怠けているやつに己は負けたのかと。ハンデをもらってまで負けてるのかと。居ても立っても居られなくなったわけだ。
「ベジータ。何もトレーニングってのは身体を鍛えることだけじゃねえ。色々試してみればお前も理解できるはずだ」
「くそ……!こんな怠け者に負けるはずがない……!ふざけるな!仕切り直しだ!先日の結果がまぐれだったことを証明してやろうじゃないか!!」
「んだよ、今俺は腹減ってんだよ。後にしてくれ。つーわけでアイ。さっさと飯作ってくれ」
「えー?もうちょっと後輩指導してからにしたいんだけどなぁ……」
いきなり殺伐とした雰囲気になったことにより、主にかなとメムの間に緊張が走る。エメも仲裁する気配がないので余計に不安になるのだ。
「表に出ろカカロット。でなければここを吹き飛ばす」
「なっ……!」
流石にエメも危機感を感じたのか、気を高めようと準備する。カカロットは元より穏やかな方だったが、ベジータはそうでもない。そもそも地球にいる期間がカカロットに比べれば極めて短いので、穏やかになるはずもない。
だが、エメの準備は無駄に終わることとなる。
カカロットは即座にマグロの一部を切り落とし、それを高速でベジータの口の中に突っ込んだ。
口に入ったので、せっかくだからいただくというスタンスなのか、ベジータは咀嚼を始め、飲み込む……。
「…………なんだこれは…?これが、地球の食べ物なのか?」
「言ったろ。無茶苦茶美味えって」
「……この程度では足りん。カカロット、狩りに行くぞ」
「しゃあねえなぁ……」
一見、仲が悪そうに見えた2人だが、メムとかなは考えを改めた。というか普通に仲が良い。
ちなみに、これがきっかけでベジータが刺身や寿司が好きになるのは、また別のお話である。
「……ねえエメ。もしかして、今のって……」
「あー、あれは修行仲間というか……。トレーニング仲間?みたいな感じだよ」
「つまり、あの人たちも戦えるの……?」
「うん。まあそんな感じかな……」
かなとメムは大体察する。恐らく宇宙人が襲来した時には、この人たちと強力して戦ったのだろうと。
「えっ?というかMEMちょ、あの人たち"も"って……、エメが戦えること知ってるの?」
「そりゃあ、あの宇宙人襲来事件の時に助けてもらった時に初めて会ったからね……。有馬ちゃんも?」
「私は大猿怪獣が出た時にね…。会ったのはもっと前だけど」
「えっ?先輩とMEMちょもエメが戦えること知ってたの!?」
ルビーもエメの事情を理解し、極力エメの力のことは伏せているつもりだったが、隠す前に既にバレていることを知り驚愕した。
「まあ私もそうだし、MEMちょも助けてもらったみたいだしね……。ルビーは、まあ家族だし知ってて当然か……」
そもそもルビーはともかくとして、他2人も昔からのエメの知り合いということで、その辺は知っていても何もおかしくないということで、特に何もなかった。
その日の特訓も終えて、星野家も帰宅した時のこと。カカロットとベジータはマグロを取りに出かけたままだが、じきにこちらに来るだろう。
カカロットの食の探究心のせいで、ここ数年でアイの料理スキルは上昇傾向にあるが故、魚を捌くこともできるようになっていた。ちなみにあかねは以前から当たり前のように熟す。
話は逸れたが、エメの初デートの出来事を聞いて、アイは決心した。
「エメ。あかねちゃんの予定が合う時にうちに来てもらうようにしてよ」
「えっ?」
「いきなりどうしたのママ?」
息子に離れてほしくないだの、彼女ができるのは早いだの言っておきながら、こんな発言を唐突にするものだからルビーからも疑問に思われる始末。それに対してアイはこう答えた。
「今日あかねちゃんが襲われかけたんでしょ?多分その時少なからずエメは力を使ったと思うんだ。そうなるとあかねちゃんに力のことがバレるのは時間の問題だと思うんだ。ちょっと私のことを調べるくらいであそこまでキャラを仕上げるくらいだしね」
あり得ないとは言い切れない。あかねの分析力は群を抜いて高い。少しでもエメが力を使う場面を見てしまえば、それこそどのような戦闘を繰り広げてきたのか。どこまでできるのかも把握してしまいそうだ。
そもそも、あかねが自殺未遂を起こした際にエメが助けた時、既に舞空術を使うところを見られ、先日家を訪れた際に話している。
「……実は、先日あかねさんに話したんだ……。ほら、この前あかねさんの家に行くって言ったでしょ?その時に……」
「もう既に話してたのか」
「もう見られちゃったし、あかねさんなら無意味に言いふらすことはしないかなって……」
「そっか〜……。じゃあそれに関係なくあかねちゃんをここに連れてきてよ」
「えっ?でも……」
「私、あかねちゃんがどんな子だか気になるし!」
「私も私も!」
「俺もまあ、気にならないと言えば嘘になるが……」
3人はあくまで画面を通しての黒川あかねしか知らない。"黒川茜"を知っているのは、この中ではエメだけなのだ。溺愛している息子(弟)の彼女で、しかも容姿端麗で性格も良しと来れば、会いたいと思うのは最早必然である。
「……ちょっと掛け合ってみるよ。向こうも忙しいと思うけど……」
「できるだけ予定空けとくね♪」
「私も私も!」
ということで、次デートする時は強制的にお家デートということになった。否、デートというよりは挨拶に近いかもしれない。
ちなみにその後、大量のマグロを抱えて持ち帰ってきたベジータとカカロットだが、アイとエメが主に捌いたので、みんなで美味しくいただきました。ベジータとしては、ここまで美味しい食べ物があるなら、カカロットが気に入るのも仕方ないと納得したようだ。
そして、その趣旨のトークがエメから届いた。それを確認すると同時に、あかねの脳は考えることをやめられなくなる。
(ええ!?い、いきなり挨拶!?流石にそこまで心の準備ができてないよ!?恋がよく分からないとか言ってたけど、エメ君って実はガチなんじゃないの!?)
実際は母親や姉にお願いされ続け、それに折れるような形で応じたのだが、そんなことは露知らず、あかねは覚悟を決めるのであった。
(差し入れは何を持っていけばいいかな?そういえば、あの映像はお兄さんが作ったって話だから、特に念入りに用意しないと……)
あかねは次のデートが楽しみであると同時に、漠然とした不安を抱えるのであった。
そして、幸せオーラが溢れている茜の様子を見て、家族は当然気づく。何かいいことがあったのかと。茜は包み隠さずに話した。
「あら〜!あんないい子はなかなかいないから、ガンガン攻めなさい!お母さんは応援するからね!」
「あ、ありがとう」
少々照れ臭いものはあるが、応援されるのは悪い気はしなかった。だが、問題は弟の方だった。
「あの、良ければで全然構わないんだけど、俺も行っていいかな?」
「…………えっ?」
彼氏の家に行くのに、何故か弟も同行することになった。
原作のアクあかのデートの際にもかなが指摘していましたが、普通にこんなことあってもあり得そうだなぁと思った結果が今作。しかしエメは既に戦士としてかなり仕上がっているため、傷1つもつけさせませぬ。
そして、今作でもようやく推しの子である意味話題になっているカミキが登場しましたが、あかねを狙った理由は当然ながらエメの身体能力を見るためではないです。普通に今ガチも見ていたので、当然ながらあかねのアレも見ていたわけで……。
ちなみにカカロットは初登場時よりも大分丸くなっていますが、殺人には抵抗ありません。つまり、カカロットに自分の所業がバレたら即殺されます。何も命の危険があるのはアイやあかねだけではないのです。