推しの飯/絶望の未来から転生した戦士   作:Miurand

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 とうとう来てしまったなぁ…。アンケートでは(pixiv含めて)圧倒的に生存ルートの方が多かったけど…。はてさて、この先どうなりますことやら(すっとぼけ)

 すこーしだけ無理矢理感ある展開かもだが許してクレメンス…。



第五話 生まれ変わった意味

ドームライブ当日を迎えた。今日は朝早くから会場に向かうことになっているため、朝6時だというのに三人はすでに起床していた。ルビーはまだ寝ているが、もう少ししたら起こすつもりのようだ。

 

「いよいよ今日だね。頑張ってね、お母さん!」

 

「うん!最高のライブにしてみせるよ!」

 

ピンポーン

 

「……ん?社長達かな?はーい!」

 

アイは早めに迎えが来たと思い、少し急足で玄関に向かった。悟飯も少し早い気はするが、ドームライブということで、念の為に早めに現地に向かおうとしているのかもしれないと、特に違和感を感じることはない……はずだった。

 

「……!!!!!」

 

悟飯は着替えを終えて、ポケットにハンカチを入れようとした時、久しぶりに()()()。それによってハンカチを落としてしまう。

 

「……?どうしたエメ?」

 

今になっていきなり力を取り戻したわけではない。前世に積み上げてきた、長年の戦士としての勘だ。この異常な殺気。今すぐにでも誰かを殺してしまいそうな……。

 

「ま、まさか……!!」

 

「あっ、おい?」

 

悟飯は焦る。彼が転生して間もない頃、この世界のことを知る為に、ネットを使って色々調べた時のこと。母親がアイドルということで、アイドル関連の情報にも手を出していた時のことだ。彼は熱狂的なファンにアイドルが刺殺されたというニュース記事を目にした。

 

「ドーム公演おめでとう。三つ子の子供は元気?」

 

「……!!」

 

だが、逆恨み自体は珍しくないこと。当時は特に気にすることなく次の記事に目を移した。

 

だが、今になってそれを思い出したということは、きっとそういうことなのだろうと、悟飯は長年の戦士としての勘を、久々にフルで働かせ、本能的にアイに危機が迫っていることを察知した。

 

 

「(間に合え…!!間に合えッ!!!)」

 

 

 

 

 

 

私は今、確実に幸せだと言える。

 

子供達は可愛い。見ているだけで癒されるし、仕事も順調で、社長達も喜んでくれている。

 

でも、まだ子供達に『愛してる』と言ってあげることができていない。その言葉が嘘だった時が怖いから。嘘だと気づきたくないから。

 

幼少期の頃じゃ考えられないくらいに幸せだ。だから薄々感じていた。いつか代償が訪れるんじゃないかと。何かあった時の為にビデオも撮っておいたし、悔いが残らないようにできる限り子供達と共に過ごしてきたつもりだ。

 

だから、目の前の男の人が包丁を持っているのを見た時、驚きよりも『ついに来ちゃったか』という感じだった。

 

だけどさ…。これは、流石に酷くない…?

 

 

 

 

 

 

(間に合った。本当にギリギリだった。あと少しでアイさんは刺されるところだった。まだ勘が残っていたから良かった。もしもこの感覚も衰えていたとしたら……。想像するだけでも恐ろしかった)

 

え、エメ……?大丈夫…?エメラルド…!?ねぇ!!!

 

(なんだ、騒がしい。オレは大丈夫だ。そんなことより君は?怪我はないかい?君を助ける為に、力加減を考えずに引っ張ってしまったから、もしかすると軽い怪我をしているかもしれない。大丈夫。オレはちゃんと避けたから……)

 

「……あ…れ?」

 

(なんだろう。お腹の部分が妙に熱いな。ふと触ってみると、自分の手が赤い……。なんだこれは?前世ではよく見た色だ。そしてこの匂い………。まさか、これは………。)

 

結論から言おう。アイは助かった。刺される寸前で悟飯に引っ張られたからだ。だが、入れ替わる形で、空中で身動きを取ることができなかった悟飯は、運悪くそのまま刺さりに行く形となってしまったのだ。

 

少し身体能力が向上した程度では、刃を防ぐことはできなかった。

 

しまった……。しくじったな………

 

エメ!!!!

 

「………ははっ。痛いかよ。俺はもっと苦しかった!!辛かった!!ステージの上で散々好き好き言っておいてよ、全部嘘っぱちだったんだろ!!この嘘つきが!!!ガキなんて作りやがって!!!!」

 

「アイ……?どうし……、!!?」

 

アイの悲鳴に近い声を聞き、異常を察したアクアも玄関まで来たが、目の前に広がる光景に絶句した。

 

大量の血を浴びたアイと男。そして、今にも倒れそうになっている悟飯の姿があった。

 

「お、おい!!エメ!!!」

 

「ガキも死んで当然だ!!お前は俺達を裏切ったんだからな!!!」

 

「……死んで、当然…?私の子が?エメラルドが……?」

 

刃物を持った男に構うことなく、エメのことを心配して、守るように抱えていたアイだったが、瞳に黒い星を宿して犯人を睨みつけた。

 

「っ!?」

 

「確かに私はファンを裏切っちゃったかもしれない。私が殺されちゃうならまだ分かるよ?納得できたよ?でも、それは子供に関係ある?子供が傷つけられなきゃいけない理由になるの?」

 

今までに見たことない表情。決してステージやカメラの前では見せることない、憎しみの籠った表情だ。そんなアイの(本音)を見て、犯人は思わず1歩下がってしまう。

 

「ねえ、リョースケくん。教えてよ?どうして私じゃなくて私の子供が傷つけられなきゃいけないの?教えてよ…!答えてよ…!!ねぇ…!!!

 

アイは憎しみ、しかし悲しみながらリョースケと呼ばれた男に訴えかける。

 

な、名前……覚え…………

 

「お土産でもらった星の砂。今でも大事にしてるよ。私はファンを愛したいと思って、いつか本当に愛せるようになりたいと思って、愛してると言ったよ?でも、君がこんな人だと思わなかった……

 

リョースケはアイに嫌われた。そう思い込んでしまった。だから、元々狂っていたのが更に歪み、ヤケになった。

 

「なんだよそれ……!!う、うわぁああああっ!!!!」

 

「アイっ!!!!」

 

犯人はアイにも刃を振るった。座り込んで悟飯を抱え込んでいる状態では、到底避けることなどできるはずもない。そして、体が小さいアクアは叫ぶことしかできなかった。

 

 

 

 

 

カンッ

 

「………あっ?」

 

金属が弾かれる音がした。目の前を見ると、そこには血だらけになっている子供の姿があった。アイを連想させるような綺麗な黒髪に、透き通った緑色の瞳。

 

その目は、子供とは思えないほど、決意の籠った強い目だった。

 

「……え、エメ?」

 

「やめろ……!これ以上、家族を傷つけるのはやめろ……!!!」

 

瀕死の子供とは思えない迫力に、犯人は思わず後退りをした。

 

「これ以上傷つけるっていうなら、オレが容赦しないぞ……!!!」

 

「うぁ……!うぁああああッッ!!!!!!」

 

悟飯の睨みに耐えられず、犯人は思わず走り出した。

 

……なんとか、なった…

 

そこで初めて、悟飯は倒れた。

 

「エメ…!エメぇ!!!

 

「子供が刺されたんだよ!!いいから早く来て!!!!」

 

アイは子供の心配を、アクアは迅速に119番通報して、少しでも早く来るように急かしていた。

 

「まずい、腹部大動脈か…?出血が止まらない……!!!くそ…!くそ!!」

 

しかも、刺された箇所が最悪だった。今から応急処置をしたとしても、助かる可能性はごく僅かだった。アイも、出血量を見てなんとなくそれを感じたのだろう。正気を保てなかった。

 

「ねぇ、エメ…!しっかりして!ねぇ!!」

 

……はは。まさか、こんなことになるとは、思わなかった………

 

「喋らなくていい…!アクアが救急車呼んでくれたから…!もう少しの辛抱だから…!!あと少しで助かるから!!」

 

………ごめん。多分、これは無理だ。一度、死を経験したから、なんとなく分かる……

 

「な、何を言って………」

 

本来なら、オレは人造人間に殺されて、その生涯を終えるはずだった。だけど、こうして君の子として生まれ変わって、平穏な生活を送ることができて、とても幸せだった……

 

「なにを、いってるの?」

 

ずっと考えていた。どうしてオレはこの世界に生まれたのかって。今、この瞬間理解した。きっと君を守る為だったんだ……

 

アクアとルビーは、自分と同じ転生者といえども、自分とは明らかに違う点があった。それは、前世もこの世界で生きていたこと。アイの存在を知っていたことから、それは容易に想像できた。

 

同じ世界内で魂が循環するならまだ分かる。だけど自分は完全に別の世界から来た存在。何かの事故だとしても、そう簡単に起こり得ることではない。ならば、自分には何か特別な役割があるのではないかと考えていた。

 

そしてその役目を、たった今終えたのだ。少なくとも、悟飯はそう認識している。

 

「エメ!もういい!!喋るな!!少しでも出血を…!!!」

 

……アクア。もう、いいんだ。オレは満足している。幸せな生活も送れたし、守ることもできた。オレは、幸せ者だよ……

 

「なにいってんだ!お前はこれからも生きるんだよ!死ぬにはまだ早すぎる!!!」

 

悟飯の瞼が重くなった。もうすぐ死ぬのだと、経験から分かった。だから、最期にこれだけは伝えたかった。

 

……アイ。アクア。……そして、ルビーにも伝えておいてくれ。オレは、君達と過ごせて、とても幸せだった…。たのしかった……

 

最後の力を振り絞って、アイの頬に触れた。

 

ほんとうに、ありがとう……

 

笑顔で、一滴の涙を流して、力が抜けた。

 

「………エメ?エメラルド……?ねぇ、返事して……?」

 

返事はない。ピクリとも動かない。それでもアイは懸命に呼びかけ続ける。

 

「お願いだよ……!返事、して…!!!死なないで……!!!」

 

 

 

 

 

 

「愛してるから……!!エメのこと、愛してるから……!!この言葉は嘘じゃない…!!本心だよ……!!!本当に愛してる…!!心の底から愛してる!!だから、目を覚ましてよ…!!お願い!!起きて…!!戻ってきてよぉ!!!!

 

 

 

「えっ…?なに、これ…?何が起きてるの、ママ…?お兄ちゃん……?」

 

ルビーが目を覚ました時には、既にエメの意識はなかった。

 

 

 

 

俺は星野愛久愛海(アクアマリン)。前世は雨宮吾郎という人間だったが、アイのストーカーと思われる男に殺され、アイの子供に生まれ変わっていた。

 

まさかルビーとエメも俺と同じ転生者だったのは予想外だったが、それでも推しの子供として生きるのは、とても幸せだった。

 

推しから受ける無償の愛。仕事のことを考えず、遊ぶだけで済む日常。そして、普通のファンでは見ることができないアイの姿。間違いなく幸せの絶頂だった。

 

アイの努力が報われ、とうとうドームライブ当日が訪れた。俺たちはドームに向かう為にいつもより早起きをして支度をしているところだった。朝早くにインターホンが鳴った。きっと社長達が早めに来たんだろうと思い、特に警戒していなかった。

 

けど、エメは鬼気迫った顔で急に走り出した。何が起きたか分からなかったが、俺がそっちに行った時には、既にエメがアイを庇って刺されていた。

 

できる限りのことはした。救急車はすぐに呼んだし、応急処置も施した。だが、血は止まらないし、返事もない。

 

 

 

気がつけば、病院だった。たった今緊急手術が終わったところだ。本当は社長夫妻だけが説明を受ける予定だったが、俺達は無理を言って一緒に聞くことにした。

 

「……お子さんは、一命を取り留めました」

 

「……!!!」

 

まさか、あの状態から生還するとは思っていなかった。知識があるからこそ、あの状態で助かる可能性はほぼないと分かっていた。だから余計にエメが助かったことが嬉しかった。アイとルビーも泣きながら喜んでいた。

 

だが…。

 

「……ですが、一時心肺停止していたこともあって、意識が戻るかどうかは分かりません………」

 

「……えっ?どういうことですか…?」

 

「脳は活動するのに大量の血液を必要とします。数分でも血の供給が止まると、それだけで脳細胞が壊死してしまうものなんです。ですから、最悪脳死する可能性も考えられます………」

 

「そ、そんな……?エメラルドは、目を覚ますんですよね………?」

 

「覚ます可能性もないわけではない、としか言えません」

 

 

上げて落とすとはまさにこのことだろう。死ぬよりはマシかもしれないが、これでは死んでいるのと似たようなものだ。脳が死ねば、そのうち心臓も止まり、やがて生命活動が終了する。

 

「そんな、私のせいだ……!私のせいで、エメは……!」

 

「アイ、落ち着け。決してお前のせいじゃない……」

 

社長も元気付けようとするが、社長も元気のない声だった。

 

それはそうだ。社長夫妻もエメと決して短くない時を共に過ごしてきた。偶に自分で世話することもあった。だから自分の子のように思っていた。そんな子供が、死にかけている、もしくはほぼ死んだも同然の状態になったのだ。

 

「ねえ、お兄ちゃん。エメ、起きるかな……?」

 

「……分からないが、可能性が全くないわけじゃない。信じて待とう……。俺達にできるのはそれくらいだ……」

 

一見アクアは冷静だった。しかし、それは周りに比べての話。元々医師だから、病院においてはこういう話は割とよくあるものだ。だから他の人よりは慣れているというのもあるのだが、根本的な要因はそこにはなかった。

 

「(恐らく、あのストーカーは俺を殺した奴と同一人物だ。何故二度もアイの居場所が分かった?探偵みたいに何かスキルでもあったのか?仮にスキルがあったとして、引っ越したばかりの新居をすぐに特定することなんてできるものなのか……?)」

 

アクアは犯人がピンポイントで特定したことに疑問を抱いていた。一軒家とかならまだしも、マンションの一室を1発で引き当てたものと思われる。だがそんなことがあり得るのか?ただマンションのエントランスに入っていく光景を偶然見ただけでは、部屋まで分からないはず。となれば……。

 

「(協力者がいると見て間違いなさそうだな。それも、アイと深い関わりのあるやつになるだろう。アイは比較的警戒心は強い方のはず。だから、余程親しい相手でもなければ家の場所なんて教えないはずだ)」

 

まず考えられるのが社長夫妻。しかし、あんなにアイを大事にしていたのに殺そうとするか?会社を自ら破滅に追いやるも同然の行為だ。そんなことをするはずがない。ならば子供だけを殺してスキャンダルを芽を摘もうとした?それもあり得ない。ならば実行犯はアイに対してではなく、子供に対して逆恨みしていなければおかしい。アイ本人に逆恨みしているやつを送り出したら、それこそアイが殺されかねない。よって社長夫妻はあり得ない。

 

次にB小町のメンバーだが、実を言うとそこまで仲良くないのだ。よって前の家ならともかく、今の家を教えているとは到底思えない。なんなら引っ越してることすらも報告していない可能性が高い。よってこれも除外。

 

「(アイの交友関係はそんなに広くないはずだ……。わざわざアイが新居を教える相手と言えば………)」

 

アクアは思考を巡らす。条件が条件なだけに、かなり絞ることはできるはずだ。アイの交友関係が然程広くないところがここでメリットとなった。

 

「……まさか…!」

 

「お兄ちゃん……?」

 

実父。それしか考えられなかった。

 

アイとて人間。子をなすには相手となる異性が必要。そしてそういう行為もする。この行為は一時期でも気を許した相手でなければ基本的にはしないはず。

 

それに、以前自分達は父親のことについて話したことがある。もしかすると、アイがその会話をこっそり聞いた、あるいは察して父親に顔を見せにこいと連絡した可能性もある。

 

そして、来てもらうために住所を教えた。これなら全然あり得る話。

 

では、雨宮吾郎が殺された時は?これも似たような理由だろう。子供が生まれるから見にこないか?みたいな感じで連絡を取り、病院を教えた。だから都心から離れた田舎の病院を特定できた……ということだろう。

 

「(エメを傷つけたのは……、アイを殺そうとしているのは、俺達の父親か…?)」

 

今のところはその説が有力だ。というより、他の人物が思い浮かばない。本当ならアイに直接、誰に住所を教えたのか聞けばいいのだが、今のアイの精神状態を考慮すると、それはいい手段とはいえない。最終手段とまでは言わずとも、少なくともアイが落ち着くまではこの方法は適当ではない。

 

「(アイの父親が誰なのかを特定する。これ以上アイを傷つけようとするなら、俺はお前を許さない……)」

 

この時、密かに、しかし確実に、アクアの右目に黒い星が発現した。

 

 

 

 

1時間もすれば、エメが刺されたことがニュースとなって取り上げられた。タイトルは『B小町の社長夫妻の子が、アイの目の前で刺される』っという感じのものだ。

 

一応アイと三人が血縁関係であることは露呈していない。あくまでも、アイの家に社長夫妻の子供が遊びに来ていた。もとい、一時的にアイに預けていたということになっている。こんな非常事態でも隠蔽は欠かさない。でなければ今までアイの秘密なんて隠し通せるわけがない。

 

アイが殺人(未遂)事件を目の前で目撃したという事実に、日本中の人々が注目した。

 

ネットの反応も、概ね同情的な意見が多かった。子供を傷つけるとか最低。⚪︎ねよ犯人。あっ、既に⚪︎んでるのかなど、過激な表現もちらほらあった。

 

だが、陰謀論が好きな人がいるように、色々噂されている説をやたらと推したがる人もいる。

 

具体的には、『本当はアイの子だったんじゃね?』というもの。もしそれが本当なら刺されてもしゃーない。寧ろアイは運が良かったなとか、アイ、お前が子供を傷つけたんだぞとか、心無いコメントもいくつかあった。

 

ネットを見てルビーは激怒。アイドルの子供だからと言って傷つけられていい理由にはならないと、画面の向こうのユーザー達に罵声を浴びせる。アクアはアイに携帯を借りて、登録されている連絡先を確認していた。この中に自分達の父親だと考えられるものはないかと探しているのだ。

 

そして、アイは……。単刀直入に言えば壊れかけていた。母親なのに守れなかった。自分がもっとしっかりしていれば。自分がもっとちゃんとしていれば。私のせいだと、自分ばかり責めていた。

 

アクアとルビーがそれを否定しても、アイはそれを否定する。社長夫妻がやっても結果は同じだった。

 

数日が経ち、アイは精神病院に通院することになった。とてもアイドル活動を続けられるような状態ではない為、アイはまたしても活動休止という扱いになっている。今回は原因を殆どの人が察していたため、これに関しては同情的な意見が圧倒的だった。

 

 

 

無論、アクア達も定期的にエメラルドのお見舞いに病院を訪れている。当たり障りのない話をするも、エメは返事しない。数ヶ月経っても意識を取り戻さないままだ。このままでは、本当に脳死してしまうかもしれない。ルビーも日に日に元気を失っていった。アイも毎日のようにエメのお見舞いに来るが、その姿は見ていて痛々しいものだった。

 

ごめんね……。私がしっかりしていなかったから……。私がちゃんとしたお母さんだったら、こんなことにはならなかったのに……

 

顔を合わせるなりこうだ。意識のないエメに向かって、壊れたテープのようにひたすら謝罪を繰り返している。

 

やっぱり、アイドルが子供を産むことは間違ってたのかな……?贅沢だったのかな…?

 

ステージ上でのアイは、まるで無敵にも思えるほど、自信に満ち溢れた姿をファン達の前で披露していた。だが今はどうだろうか。白く輝いていた星は今にも消え入りそうなほど弱く、細い光があるだけだった。

 

そんな痛々しいアイの姿を見て、ルビーは更に悲しくなる。社長夫妻も気が重くなるばかり。はっきり言って負の連鎖だった。

 

そして、それを見る度にアクアの復讐心が肥大化していく。アイにこんな思いをさせたやつが許せなかった。エメを傷つけたやつが許せなかった。なんとしてでも父親を見つけ出してやろうという思いが強くなった。

 

「……なぁ、アイ」

 

「……どうしたの、アクア?」

 

「俺達の父親って、誰なの?」

 

「……ごめん、今は…」

 

「俺達の父親がエメをこんな目に遭わせた可能性がある」

 

アクアの一言を聞いた瞬間、今にも死にそうな目をしていたアイの目が、急に見開いた。まるで生きる意味を見つけたかのように。隣にいたルビーは、心底驚いているようだった。アクアの顔を見たまま固まっている。

 

「……そっか。そういうことか。変だと思ってたんだ〜…。引っ越したばかりの新居がなんでリョースケ君に知られているんだろうって。()()()()()()だったんだね」

 

アイの目の輝きが強くなった。だが、それは以前のようにファン達を照らすような白い輝きではない。全てを染め上げてしまいそうな、全てを飲み込んでしまいそうな程にドス黒い輝きだった。

 

アクアに現れたそれとは明らかに輝きの強さが違った。アクアは微かに見える程度だったが、アイのは両目にはっきりと現れている。

 

「大丈夫だよ、アクア。エメをこんな目に遭わせた奴は私が殺すから。心配しないで」

 

「えっ…?こ、殺すだって?」

 

「うん。エメは本当にいい子だった。昔から泣くことはほとんどなかったし、お手伝いだってよくしてくれたし、時には私を励ましてくれることもあった。子供だと思えないくらいにすっごく賢い子で、私には勿体無いくらいのいい子だった。そんな子の時間を奪ったやつを許せないの」

 

アクアはここで初めて自分がしたことが悪手だったことに気づいた。まさかアイ自らが行動に出るとは思わなかった。

 

だが、考えてみれば当然のことだった。子を産み、アイドルも続ける。母親としての幸せとアイドルとしての幸せの両方を掴もうとするほどの欲張りな彼女のことだ。少し考えれば、こうなってもおかしくないことは分かりきっていたはずだ。どうやらアクアも冷静さを欠いているようだ。

 

「大丈夫だよ。私はもう子供を傷つけさせない。母親として、私はあいつに仕返しをしなきゃいけない」

 

「や、やめるんだ!行っても返り討ちに合う可能性が高い!!」

 

「知ってる、アクア?子供を傷つけられた母親って、すっごく強いんだよ?」

 

最早止まる気配もない。寧ろ黒い輝きに更に磨きがかかっていた。今すぐにでも殺しに行きそうなその様は、まるで暴走した列車のようだった。ルビーも人を殺すのは流石に良くない。やってることは相手と同じと言っても辞める気配が微塵もなかった。

 

子供二人が必死に説得しようと試みるも、アイはあれこれ言ってとにかく殺意を隠す気もない。このままではアイが殺人犯になってしまう。あるいは、犯人に殺されてしまう。それを恐れて必死に止めようと、二人は全力を尽くした。

 

だが、その抵抗は無駄に終わった。

 

「じゃあね、エメラルド。私はエメをこんな目に遭わせたやつに仕返ししてくるよ」

 

そう言って頬にキスをした。立ち上がって病室を出るために歩き出そうとした、まさにその時だった。

 

 

「…………えっ?」

 

 

手を掴まれた。この病室にいるのは、アイを含めて四人。意識がある者だけをカウントするならば三人だった。

 

しかし、アクアとルビーは両手が空いている状態。なら自分で自分の手を掴んでいるのか?そんなことしても意味がない。アイは思わず振り返った。

 

「…………」

 

目は開いていない。意識が戻ったわけではない……はずだ。だが、エメラルドが、確かにアイの手を掴んでいたのだ。

 

「……エメ?エメなの…?もしかして、起きてるの……?」

 

優しく問いかけるが、返事はない。

 

「お、お医者さん呼ばなきゃ…!!」

 

一瞬だけでも意識が戻ったのではないかと思い、アイは慌ててナースコールをした。

 

はっきり言って奇跡だ。意識のない人間が体を動かすことなど普通は起こり得ない。きっと、悟飯(エメ)がアイに復讐を望まなかった。だからアイを止めた。アクアとルビーは、そうとしか思えなかった。

 

 

 

 

 

「……(ここは、どこだ?オレは、死んだのか?)」

 

周りには何もない。無の空間が広がるばかり。痛みも感じないし、暑さや寒さも感じない。なんとなく分かった。自分は死んでしまったのだと。一度死を経験したからこそ分かる。あの状況から生き延びることは絶望的だったことが。

 

でも、悟飯に悔いはなかった。その世界での役目を果たせたから。アイを守ることができたから。自分が生まれてきたことに意味はあったのだ。

 

「(みんな、いつまでも引きずってないといいけどな……)」

 

そんな心配をする。悟飯は自分のことよりも他人の心配をする。これは昔から変わらない性分だった。

 

「……(オレは、これからどうなるんだろうか。お父さんやピッコロさんには会えないだろうな…。だってここは別世界のあの世…。きっと知らない人ばかりだろう……)」

 

「よっ!久しぶりだな、悟飯。いや、今はエメラルドって呼んだ方がいいのか?」

 

「…………えっ?」

 

あり得ない。そんなはずがない。聞きたかった声が聞こえた気がした。しかしそれは自分の願望が表れた幻聴だろう。あり得ない。いるはずがない。

 

振り向いてみると、そこには見覚えのある顔があった。

 

忘れるはずもない。自分が尊敬してやまない人物だった。特徴的な髪型に、いつも通りの山吹色の道着を羽織っていた。

 

「エメラルドってなんか言い辛えな。名付けた親には申し訳ねぇけど、ここは悟飯って呼ばせてもらうぞ」

 

「お父、さん?」

 




 はい。アイはとりあえず生き延びましたね。しかし悟飯は未だに意識不明の状態です。だけど、こうならないと今後間違いなく地獄を見るんですよ…。長い目で見ればこれも重要な出来事なわけです。まあ、次回を見ていただけたら大体分かるかと。この作品には「ドラゴンボール」タグもついているのでね…。はい。
 また、これによって悟飯が再び目を覚ました場合は過保護ルート一直線です。仕方ないね!え?包丁ごときで死にかけるわけないだろ…?さ、サイヤ人の肉体じゃないから脆いんだよ…(すっとぼけ)

 さて、これまでノリでなんとなく設置してきたアンケートですけど、第4話のアンケート結果を見て少し意外に感じています。MEMはなんとなく想像できたんですけど、あかねは意外でした。渋の読者によれば、「ちゃんと幸せになってほしい」という意見がほとんどでしたね。原作でアクアに復讐利用されていたからかな…?一応本人も了承していたとはいえ…。復讐抜きのアクアなら確かにあかねは必要ない…?悩むなぁ。現段階でできているプロットではまだ少年期で止まってるんだよなぁ()。とりあえず重曹ちゃんはアクアで問題なさそうだが……。まあゆっくり考えます。

 書き溜めはここまででございます。6話はもうちょい待ってくださいな。
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