推しの飯/絶望の未来から転生した戦士 作:Miurand
(一体どういうことだ…?何故お父さんがここにいる?この世界にも孫悟空が存在したということか?いや、だとしてもオレのことを知っているはずがない。星野
「オラもどう説明すればいいのかよく分からねえんだけど、端的に言うと、ここはあの世とこの世の狭間の世界ってやつらしいんだ」
「あの世とこの世の狭間……?」
「ああ。ここはこの世でもないしあの世でもない。そんな曖昧な空間らしい」
確かに、そのような空間が存在していても不思議ではない。ないのだが、やはり悟空がこの場にいる意味が分からない。
「……?待ってください?あの世とこの世の狭間ということは、オレが生まれ変わった地球って……」
「いや、あれは完全に"別の地球"だ。人造人間も誕生したことねえし、ベジータ達サイヤ人も来たことがねえ。完全にオラ達が知る地球とは別物だ」
「ということは、別世界……?」
「そういうことになるな」
悟飯が転生した地球は全くの別世界であることは分かった。だが、別世界ならば悟空と対面できるこの状況が更に異常になってしまう。
「何故オレとお父さんは、今こうして会えてるんですか?別世界なら、そう気軽に会えるとは思えません」
「ああ、閻魔様もそう言ってた。けど、どうやらオラ達は特別らしい。前世に一定以上の徳を積むと、死後も肉体を与えられるんだ。そういうやつは、こうして会いてえやつに会うことができるみたいだぞ?まあ、気軽ってわけじゃねえのは確かだけどな」
実際、閻魔大王に悟空がお願いしてもしばらくは保留という扱いになっていた。だが、悟飯が生死が曖昧な状態になり、ようやく会えることになったのだ。
また、死後も基本的には別世界同士の死人が会うことは想定されていない。何故なら、別世界同士の人間で面識があることなど殆どないからだ。
「そもそも、何故オレは別世界に生まれ変わったんでしょうか?お父さんが頼んだんですか?」
「いや、それはねえな。そもそも、オラから頼んでもなかなか許可されねえと思う。ただでさえ会うだけでも時間がかかったんだからな」
つまり、悟飯が転生した原因は不明。悟空と再会したことにより1つの謎が解き明かされるかと思いきや、まさかの悟空はおろか閻魔大王すらも分からない状況だ。
「まっ。生まれ変わっちまったもんは仕方ねえさ。おめぇはよく頑張ってくれた。本当に、謝りてぇくらいだ…」
「そ、そんな…!お父さんは何も悪くありませんよ!!お父さんは病気で死んじゃったから、仕方ないじゃないですか………」
「それでもだ。おめぇは学者になることが夢だったろ?なのに、その夢を捨てさせてまで戦わせちまってたのが、なんだか申し訳なくて……」
「謝らないでください。オレは自分の意思で戦ったまでです。むしろ、自ら戦うことを選んだのに、人造人間に致命的なダメージも与えることもできなかった……。トランクスは、きっと今頃一人で………」
「……その心配ならいらねえ。あいつはベジータの息子で、おめぇの弟子でもあるんだ。きっと人造人間を倒してくれるさ」
重苦しい話はこれくらいにと、悟空は話題を切り替えることにした。
「つーわけで、今度こそおめぇには自由に生きてほしい。おめぇのやりたいことができるような人生を送ってほしいんだ」
「オレのやりたいこと……?」
「ああ。今度こそ叶えるチャンスなんじゃねえか?今の親も将来のことを考えてくれてるみたいだしよ」
「でも、オレは死んだんですよ?それにあの世界にはドラゴンボールも存在していません……。もう、無理なんですよ」
「ふーん?これなーんだ!」
悟空は陽気に自分の頭上を指差した。その先には、天使を連想させるような輪っかが浮いていた。
「そ、それは……?」
「そっか。おめぇは今まで死んだことがなかったから知らねえのか。これは死人の証だ。死んでるやつには必ず現れる」
「じゃあ、オレにも……?」
「見てみりゃ分かるさ」
そう言うと、突然都合良く鏡が現れた。その鏡を見てみると、自分にはその輪っかがないことが判明した。一応鏡越しで悟空を見てみると、はっきりと輪っかが見える。どうやら鏡を通すと視認不可能になる、というわけではないようだ。
「えっ……?ない…?なんで……?」
「……ねぇってことは、そういうことだ。おめぇにはまだチャンスがある」
まさかあの状況で生き延びることができるとは思いもしなかった。これは奇跡か、それとも……。
「………じゃあ、生きているなら、何故オレはここに?」
「それはオラがここに呼んだからさ。閻魔様にちょっと我儘言って連れてきてもらったんだ。死んだはずの悟飯が天国に来ねえから心配してな」
「そういうことだったんですか……」
悟空の話によれば、ごく稀に別の世界にて二度目の人生を歩むケースはあるらしい。ただ、普通は本人が希望したとしても許可は出ないらしい。ただし、記憶を消した状態で転生させることなら容認はされているようだ。
「んじゃ、早速やるぞ」
「えっ?な、何を……?」
「何って…。勿論修行さ」
「……えっ?な、なんで……?」
「あり?おめぇの記憶を探ってみたけど、前の力を取り戻してえんだろ?だからオラがそれに協力するんだよ」
悟空にとってはせめてもの罪滅ぼしのつもりなのだろう。悟飯は悟空を遥かに凌駕するほどの潜在能力を持ち合わせていたのに、何故長年修行をしても勝てなかったのか?
悟空の考えでは、導く存在がいなかったからだ。それに、悟空やベジータに比べて戦闘経験が圧倒的に少なかった。だから、せめてこの空間内だけでも鍛えてあげようと考えたのだ。
「気を扱うには、自分の体を把握しなきゃならねぇ。おめぇは肉体が変わったのに、前の感覚でやろうとするから上手く行かねえんだ。だから基礎からやり直す。どうだ?」
……悟飯の返事は決まっていた。選択肢など初めからあってないようなものだ。
「……勿論、お願いします…!」
「よし、じゃあ始めっか!悪いけど、あんまり長い時間は取れねえから、ちょっと厳しめにいくぞ!」
「えっ?時間がない……とは?」
「おめぇが死んでないことはもう分かっただろ?今のおめぇは魂だけ連れてきてる状態なんだ。だから、今の肉体は魂が一時的にねえんだ。病院で生命維持装置が繋がれてるから生きているに過ぎねえ。あまり長くこっちにいると、脳死って判断されちまうかもしれねえぞ?」
「そ、それは大変だ…!お願いします!」
「おう!」
こうして、あの世とこの世の狭間の空間という謎の多き場所において、初の親子による稽古が行われることになった……。
「……エメ」
アイが凶行に走りそうになったあの日から更に数ヶ月が経過し、悟飯が気を失ってからもうすぐで1年が経過しようとしていた時のこと。アイは毎日欠かさずにエメのお見舞いに病院に訪れていた。
「あの日はありがとね…。私の子供はエメだけじゃない。アクアもルビーもいる。あの子達だって悲しいはずなのに、私がしっかりしてなきゃダメだよね……。ありがとう。私はいつもエメに助けてもらってばかり…。本当にいい子だよ。私はいつまでも待ってるからね。愛してるよ」
アイはエメの頬にキスをする。そして長期間休んだブランクを埋める為に、レッスンをしに行こうと、病室の扉に手をかけた瞬間……。
バサっ、という、布を動かす音が聞こえた。この病室は個室で、この空間にはアイと寝ているエメしかいないはず。勿論アイはベッドの中に入っていない。
「……え、エメ…?エメ?」
「……ここは?」
目が覚めた。一時は死んだと思った。脳死になるかと思っていた。植物状態になってしまうのでないかと危惧していた。医師は目覚める可能性は極めて低いと言った。だからこそアイは絶望した。しかし死んでもいないから、希望を捨てきれなかった。早く目覚めてほしいとどれほど願ったことか。
気がつけば、アイは相手が負傷者であることを忘れて抱きつきに行った。
「お帰り、エメ…!会いたかった……!会いたかったよ…!!」
息子のエメを安心させる為に、いつもの自分を演じようとした。しかし、目から涙が流れてくる。抑えようとしても抑えることができない。これでは演者失格だ。でも、子の前ではこの涙を抑えたくないという気持ちもあった。沢山のファンには嘘をついても、子供だけには嘘をつきたくないと思った。
「……ただいま、お母さん」
約1年ぶりに見せた緑の瞳には、微かに金色の星が宿っていた。アクアとルビーのように片目にではなく、アイのように両目に…。
エメが意識を取り戻してからというもの、病室は大騒ぎだった。ナースコールで看護師が呼び出され、その直後に担当医が呼び出された。あの状態から生還したのは奇跡だと言った。
その知らせを聞いて駆けつけてきた、社長夫妻にアクアルビー兄妹。誰もがエメの帰還を祝福した。
とはいえ、エメは長い間体を動かしていなかったことから、数日様子を見た後にリハビリすることになった。要はすぐに退院できないのだ。
「はいエメ、あーん」
「いや、自分で食べられるよ……」
「ダメだよ。エメは病人なんだから大人しくしてないと。いっつも無理して体壊しちゃうんだから。赤ちゃんの頃からずっとそうなんだよ?心配にもなるよ」
病院ではよくあるシュチュエーション。アイがりんごの皮を剥き、それをエメに食べさせるというのも。しかし、いくら長い間眠っていたとはいえ、流石に自分で食べることくらいはできる。皮を剥いてもらえるのは非常にありがたかったが、流石に食べさせてもらうのは恥ずかしかった。
「はい、あーん」
「自分で食べ…」
「………」
エメは自分で食べられると言うと、無言で頬を膨らませてこちらを睨んでくる。その姿に折れ、エメは渋々運ばれてくるりんごを口に入れる。
「どう?おいし?」
「……うん。甘くて美味しい」
「エメは食いしん坊さんだもんね?もっと食べる?」
「……じゃあ、食べる」
そう返事すると、アイは上機嫌になりながら皮を剥く作業に取り掛かる。
「いいなぁ…。私もママにあーんされたい……!なんなら一日中看病してもらいたい……!」
ルビーは国民的アイドルに看病されるエメに対して嫉妬心を抱いていた。しかし、エメの状況が状況なだけに強く言えなかった。
「まあいいじゃないか。エメもアイも、みんなも元気になった。それだけでいいじゃないか」
「それはそうかもしれないけどぉ…!」
「おっ?ルビーも食べたいの?あーん」
「わーい♪」
ルビーは嬉しそうに施されたりんごを食す。アイもルビーもアクアもみんな笑顔。その光景を見て、エメは自然と頬が緩んでしまった。
「アクアも食べる?」
「俺はいい」
「そんなこと言わずに、ほら、あーん!」
「でも……」
「アクアは恥ずかしがり屋さんだね〜?」
アクアも最初は躊躇していた。しかしアイの押しに負けて食べようとした時…。
「んー!おいしい!」
「なっ…!おま…!」
「いつまでも食べないお兄ちゃんが悪いよーだ!」
「お、お前…!」
ルビーに横取りされてしまった。せっかく勇気を出したというのに台無しである。
「……今日も騒がしいなぁ」
言葉だけ聞けば、愚痴を言っているようにも聞こえる。しかし、エメの表情は柔らかく、優しさを感じるものだった。
今日も……否、今日は久しぶりに星野家が騒がしい。だが、その騒がしさが、そのささやかな幸せが悟飯にとっては嬉しかった。この日常を手放したくないと感じるようになった。
星野
お見舞いの時間が過ぎ、病室がすっかり静かになった夜。周りに医師がいないことを確認して、立ち上がった。
「……よし、周りには誰もいないな」
悟飯は目覚めてからというもの、しっかりと相手の気を認識することができるようになっていた。即ち、気をコントロールする技術を取り戻したのだ。気功波も撃てるし、舞空術、気の解放による身体能力強化も可能になっていた。だが、やはり超サイヤ人に変身することはできなかった。こればっかりは仕方ないと言える。そもそも、気をコントロールできるようになったとはいえ、未だに前世ほどの実力を取り戻したわけではない。悟飯にとってはまだまだ鍛える余地があった。
窓を開けて病室から抜け出し、人気のないところでこっそり修行をすることはよくする。これを知られればアイには怒られるだろう。だが、譲れないものがあった。
あの幸せを守るためならば。この世界を守るためならば、自分の身を削っても構わない。だが、そのためには自分がもっと強くなる必要がある。
前書きにも載せた通り、第六話と第七話を修正というか、区切った部分を変更しました。理由としては、第七話~第X話(仮称、バトルパート終了時の話だと思ってください)が8割ドラゴンボール要素のため、『推しの子世界に転生した未来悟飯が、日常を過ごす物語』"だけ"を見たい人(別にDBらしい戦闘はなくてもいい人)にとって、違和感を発生させてしまうお話になってしまうからです。
バトルパート終了まではご用意できませんが、バトルパート終了後に、この第六話の後書きから第一章(日常編)開始までスキップできるURLを貼ろうかと考えております。第一章の第一話の前書きに、バトルパートのあらすじを簡単に記す予定です。
つまり、要約すると、バトルパートも見たい人はこのまま第七話へ、バトルパートを見たくない、見る気がない人は、準備ができるまでここで待機いただければと思います。より多くの方に楽しんでもらうためには、この方法が最善だと判断しました。
第一章開始まで、今しばらくお待ちください。今の予定では、第16話には第一章が始まる予定です。ただ、諸事情により1,2話ほど後になる可能性はありますが……。
正直バトルパートは必要?
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勿論。戦ってこそ輝くのが未来悟飯だ
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なぜ苦しめるんだ。もう戦士引退させたげて
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好きにしてくれていいんだぞ