シャンフロ小噺 作:渚です
長くは無い余命を宣告された時、私が思い浮かべたのは親でも、周りを世話してくれる人達ではなく、顔しか知らない貴方だった――
◆
「サンラクサン?どこか上の空ですわ?」
「あーー……まぁ色々あってさ。ま!でもエムルの気にすることじゃねぇよ」
いつものように
「りふひいんでふわーー!!?」
とまぁ現実逃避は後にしてと。自分でも自覚していることだがディープスローター…もとい彬芽紗音とのオフ会についてのことで今の俺の思考回路は埋め尽くされていた。なんというか俺の気の迷いでする事になってしまったが今更になって後悔がじわじわと押し寄せてきていた。過去は未来を刺してくるって奴だ……
ぶっちゃけ当日バックレてもいいかなって思ってたがあのチャット上でも分かるくらい、奴は喜んでいた。ディープスローターとしての仮面が外れるくらいには。あそこまで会話に下ネタを交えて来なかった奴は初めて見た……きっと今日は空から雨ではなくこんにゃくが降るな。いかに俺の性格がアレだと自覚していてもさすがにバックレてやろうという気持ちは消えていて、あれよあれよという間に住所まで教えてもらった。
「意外と近かったんだなぁ……」
まぁ奴とのオフ会でのあれそれは未来の俺に任せて今は攻略じゃい!!
「っしゃぁ!!行くぞエムル!!」
「なんだか分からないですがサンラクサンからヴォーパル魂を感じるですわーー!!!」
ふははは!!!俺についてこいエムル!!!
カチコミ行くぞカチコミ!!!
◇
嬉しくて、驚きで、心がいっぱいだった。
心臓の動悸が何時もの病気から来るものじゃなくて、緊張と楽しみからくるもので、彼女にとっては初めての感覚だった。よく、遠足が楽しみで眠れない――なんて言うが、紗音はそれを知る由もなかったが故に自身の昂りに困惑すらしていた。
「ふふっ」
薄く笑みすら、浮かんでいた。
そんな笑い方自分ですら忘れていたというのに――
「――あ、」
ふと、窓を見た。否、見てしまった。
そこに映っていたのは、自分が一番嫌いな姿で
「――はは」
幸せそうな顔をした女が一人、居ただけで。
「ははははは!!!!」
狂ったように、紗音は笑うことしか出来なかった。
◆
なんて皮肉だろう。なんて喜劇だろう。なんて無様なんだろう。
現実の執着を捨てて、サンラク君の為に電脳世界へ移住したのに、その筈なのに。一番嫌いなソレに自分がなっていたなんて、これほど笑える話も無いだろう。
どうせ、短い命なのに。
そうだ。サンラク君にこの話は無かった事にしよう。
でなければ、この先ずっと嫌いなものを見続ける事になってしまう。
ディープスローター:オフ会は無かったことにしないかいサンラクくぅん
あとはただ、送信と押すだけ。
押すだけ、なのに。何故か、押せなくて。
ただただ、呻き声が自室に寂しく響いた。
バットエンドも
ビターエンドも
トゥルーエンドも
ハッピーエンドも定まっていない
分岐はまだ来ない