皇帝陛下と笠宮殿下との年齢差は驚異の40歳差。
皇帝陛下の息子と笠宮殿下の年齢差は15歳差。
1966年3月8日。
この日、私は晴れて陸軍士官学校を卒業し、少尉に任官した。因みに卒業兵科は騎兵である。理由はカッコいいから…であったら今頃兄上にぶち転がされてるのでそれは無い。もう老境に入ってる兄上にそんな無茶など出来はしないだろうけど、それでもやはり心配だけはさせない様にしなければ。
さて、ちゃんとした理由としてだが、先ず騎兵は今後兵科として存在しなくなるからだ。ただでさえ宇宙軍を作っていたり、歩兵の機械化や戦車の改良、果ては戦闘用のヘリまでアメリカからパクって作り、前世の自衛隊よりも装備や人員を有している。
そんな所に騎兵とかいう前時代的兵科の居場所は当然無くなるだろう。残るにしても儀仗隊だけになる筈だ。だがそうなると俺の行く場所が宙ぶらりんになる訳だ。理由なんて簡単で儀仗隊を使うのは皇族や征夷大将軍、親藩武家位しか使う者がいない。だがその儀仗隊に皇族が混じるとそれはもう大変な事になるのだ。具体的にどう大変になるのかは知らないが。
ま、だから宙ぶらりんになる訳だ。しかして私はそれを狙っていた。何故ならそのままいけば斯衛軍のどっかの下っ端少尉になれそうだしそこしか行く場所もないだろうから。
が、そうは行かないようで、私の前で頭を下げ、恭しく令状を差し出す校長からそれを受け取り、その中身を読んだ。
「…ほう」
「殿下には是非宇宙軍に所属して頂き、遠き地においても皇帝陛下のご威光を知らしめて頂きたく」
「…わかりました。その様にしてください」
「ははっ!!」
そういうことで、私は卒業と同時に航空宇宙軍の士官としての訓練に入るそうだ。
つまり、宇宙に行くって事だな。
………あるぇ?なんで宇宙?
ーーー
1967年1月5日
そんなこんながあって年が変わり三が日を屋敷で幼女達と過ごした後、私は宇宙の人となった。9ヶ月とかいう頭おかしい訓練期間を潜り抜け、今日から3ヶ月の楽しい楽しい宇宙研修の始まりだ。
「おお!!ようこそ笠宮殿下!プラトー1へ!」
「いよいよ殿下もこの宇宙へと参られたのですね!!」
「ええ、今日から3ヶ月、よろしく頼みます」
「「はっ!!」」
国際月面基地で通りがかる帝国軍人達に最敬礼されそれに返礼しつつ、割り当てられた部屋へと入る。無論、護衛は外で待機だ。
「へぇ、想像だと牢屋みたいなものだと思っていましたが、そうではないんですね」
部屋の中は意外と普通だ。違いと言えば窓の代わりに景色を映すスクリーンがある事くらいだろうか?まぁ、屋敷に比べれば最底辺と言えるだろうが、それはもう比べる方が悪い。
「さて、まぁのんびり…は出来ませんが宇宙を楽しむとしますか」
なんて思っていたが、それがたったの三週間で崩れ去ってしまうなんて、この時の私は想像も付かなかった。
ーーー
1967年1月24日 月面サクロボスコ付近
この日私は帝国軍人達の地質調査班と共に、サクロボスコクレーターに来ていた。どうやら数日前の大規模月震の調査らしい。
確かにあの日はレゴリスが舞に舞っていたなぁ、と思いつつ私は見学として宇宙服を着込んで車内から外を眺めていた。外では地質調査の隊員だけでなく、数年前まで作業機械であったMMUが65式多目的切削刀を装備して待機していた。
「まさかMMUまで4機も持ち出して護衛に付けるとは思いませんでした」
「御身の事を思えば、当然の事です笠宮殿下。しかし本当であれば火器も装備したかったのですが、条約に抵触するとの事で泣く泣く外して参りました」
「そうですか、ですが問題ありません。こんな宇宙であの大型機械に喧嘩を売るものはいないでしょう。パイロットは後で労うとしましょうか」
「ははっ、それだけで彼等も大いに喜びましょう」
そんな談笑をしつつ、私は目線をサクロボスコクレーターの中心に向けていた。
そこには、つい先日には存在していなかった建造物が突き刺さっていた。
「それにしても、あの建造物はなんなのでしょうかね?」
「昨日から滞在している他国の地質調査班によれば、火星かその付近の惑星から飛んできたものではないかと推論が建てられている様ですな」
「ほう、火星…ですか」
「はい、異星生命体の確認がされているとされる火星から、です」
「それは中々、穏やかな話では無さそうですね」
「まぁしかし、あくまで推論です。本当かどうかはこれからの調査次第でしょう」
「それはそうですね」
しかし、火星からの落着か…。前世で見たあの有名映画、宇宙戦争みたいな敵対的生物でも出て来たら笑ってしまうな。笑えないけど。
うーん…一応、調査班を一旦下げるべきだろうか?しかし下げたら下げたで何も無かったらただの無駄だよな…まぁでも、もし何も無かったとしてもそれなら笑い話になるだけなのだし、一旦下げる様提案をしてみよう。提案だけならタダだ。
「…九条大佐」
「はっ!なんでしょう殿下?」
「これは勝手なお願いなのですが…今日の調査が終わり次第、一旦連絡基地まで我が国の地質調査班を下げさせる事は可能でしょうか?」
「それは…また、何故でしょう?」
「いえ、あの建造物を見ていたら嫌な予感がしまして」
「…成る程、分かりました。では本日の地質調査が終わり次第、後方の連絡基地まで下がりましょう」
「良いのですか?大佐」
「問題ありません。どちらにせよあの建造物の調査はアメリカが行う予定でしたから。我々の区分はその周辺までです」
「成る程、ありがとうございます大佐」
そういう事で、私達は本日の調査を終えると後方の連絡基地へと下がった。
私はこの選択を今尚正しかったと考えている。