「早急に対処しろ……か。そうしたいなら、そうしている」
海軍本部大将の執務室に籠るセンゴクは世界政府の再三たる要請に深くため息を吐いた。
ロックス海賊団結成から3年。世経を含めた新聞には徹底した情報統制で彼らの事件を起こした事件を載せていない。だが、人の口に戸を立てられないことから、徐々に民衆へも広まっている。
民間人への襲撃・略奪、政府機関や海軍基地への攻撃など、センゴクの頭を悩ませる種は尽きない。特に海軍への攻撃による被害は物的・人的問わず、甚大であった。
ニューゲート、シキ、リンリンといった連中を統率するロックスのカリスマ性に驚きを隠せない。近頃では、世界政府転覆を企んでいるとの噂もある。
世界政府中枢である五老星からはさっさと潰すように背中を突かれているが、ロックスに感化された海賊への対処で、どうしても後回しにせざるを得なかった。
何より、最近動きを活発化させている『海の幸海賊団』の動きも懸念事項であり、どうも戦力強化の動きを活発化させているというのだ。
センゴクは優秀な海軍将校であったことから、ロックス海賊団及び海の幸海賊団を統括する対策部門の全権を委任されている。聞こえはいいが、実質的なハラキリ要員だ。
メンバーは軍から自由に選んでいいとされていることから、同期のガープや『金麟』、ゼファー、つるといった優秀な面々を引き抜いた。また、バスターコールの発動権や人員・軍艦・装備の優先供給が確約されている特殊部隊を指揮することも許されており、世界政府の期待(もとい、急かし)が彼の両肩にのしかかっていた。
センゴクは半年前にはロックスを、4ヶ月前には海の幸海賊団をどうにか海上で包囲していた。だが、結果は散々だった。ロックスとの戦闘では、三大将の出撃許可を求めたものの、全員揃っての出撃は認められず、ガープやゼファーを含めた中将組、30隻を超える軍艦、切り札として大将『金麟』を出撃させた。
ロックス側の船員を多数逮捕することができたが、肝心のロックスや幹部はほぼ全員取り逃した。軍艦は10隻沈み、大佐以下の海兵には多くの死傷者が出てしまった。船はすぐ作れるが、人員の損失は想像していた以上に痛い。
さらに悲惨だったのが、海の幸海賊団との戦闘である。今回は『金麟』が出撃要請に応じなかったものの、ガープ以下中将8名、軍艦40隻という大戦力で拿捕に向かった。
しかしその結果は中将4名が戦闘不能、軍艦20隻沈没、10隻大破、佐官や尉官、下士官への甚大な被害で終わった。加えて幹部を誰一人逮捕できずに終わり、文字通り何の成果を得ることなく海軍本部へ引き返すことになってしまった。
これらの件でセンゴクは五老星の嫌味とも言える小言を4時間を聞かされ、胃を痛めたのは彼のナイショの話だ。
「サザエ……実に厄介だ。ただでさえ、ロックスで手一杯だというのに」
ロックスに劣らぬ覇気を全開にして迎え撃ってくるサザエには中将クラスでも傷一つつけることができない。例外がガープとゼファーであるが、彼らをもってしても彼女を戦闘不能にさせることは今までできていなかった。
その上、戦闘力で圧倒的な実力を誇るナミヘイ、カッツォ、マスオ、タラーオが大暴れすると多くの佐官や将官が犠牲になるのである。海軍本部としてはたまったものではない。
彼らを別々に相手にしては、海軍は何れ崩壊するといっても過言ではなかった。
とはいえ、打つ手がないわけではない。
「サザエの狙いがロックスの打倒ならば、恐らく奴らは決戦を挑むはず」
ロックスとサザエは共に大秘宝を狙う宿敵であり、仲が悪いと海軍情報部から報告が入っていた。ロックスの勧誘をサザエが蹴ったという噂もある。これらのことから、近々二つの海賊団がぶつかる大海戦が行われると海軍本部は読んでおり、来たる時に合わせて世界政府に予算拡充と戦力拡大を要請していた。
恐らくグランドライン上のどこかの島で、大規模な戦闘を行うに違いない。特にロックスが標的にしている、天竜人の秘密に関わる重大な秘密が眠る世界政府直轄の島ゴッドバレーはその筆頭候補だ。
「失礼しますね、センゴク大将」
ノックと共に入室してきたのは、同期のつる、そして大将『金麟』であった。見慣れた顔にセンゴクは硬い表情を和らげた。
「おかるさん、センゴク大将なんて他人行儀な呼び方はよしてくれ」
「あら、それは失礼しましたわ。ーーセンゴク、新しい情報が入ったわ」
センゴクは身を乗り出した。かるとつるは、そんな彼に肩を竦めながらも告げた。
「CP-0が私のところに持ってきたやつだ。ロックスの次なる攻撃地が分かったそうだ」
「ーーゴッドバレー島。今度、天竜人御一行が奴隷を引き連れてやってくる。このタイミングを狙って、奴らは大殺戮をやる気ですよ」
「……ついに来たか」
やはり、決戦の地はゴッドバレー島。世界政府転覆を目論むロックスならばマリージョア襲撃もあり得るが、警備や海軍本部からの位置関係を考えると、マリージョアよりも警備が幾分か手薄なゴッドバレーを狙うだろう。
「無論、エドワード・ニューゲート、金獅子のシキ、シャーロット・リンリンも現れるでしょうね。海軍史上、最大の決戦になるでしょう。いくら我々といえどもタダでは済みませんよ」
「確かに、化け物共が集まるな。大量の海楼石が必要になるだろう」
貴重な海楼石は、世界政府から資金保障を受けている海軍とて短期間に大量に入手できる代物ではない。値段が高い上に、加工が非常に難しいからだ。数は揃えられないため、将官クラスの実力者に使わせる形が最もベストだろう。
が、そう簡単に海楼石で取り押さえることができないのが両海賊団だ。加えて大規模予算を請求したところで何も得られなければ、世界政府から小言をネチネチと言われる羽目になる。その矢面に立つのは、無論センゴクだ。ガープはそもそも出席しないし、かるもマリージョアに行きたがらない。故に、彼が行くしかないのだ。
「あら、大変ね。センゴク」
「少しはおかるさんにもこの苦痛を味わってほしいもんだよ。まあ、海賊共が壊滅したら平音がすぐにやってくるがな」
「だといいけど。海楼石については私たちの方でもなんとかする」
「感謝する。準備期間としてはどれほどかかる?」
「1年あれば十分よ。彼らがその前に天竜人を襲撃しないことを祈るばかりね」
「ゴッドバレー島……あんまり、良い話は聞かないわ」
同時期、同じ情報に接していたサザエは眉を顰めた。彼女自身、天竜人に対して良い印象抱いていなかったが、ロックスのような強引な世界転覆も好きではない。
「あのクズども御用達の島なんでしょ?個人的にはロックスにボコボコにして欲しいけどなー」
甲板に寝そべていたカッツォが呟いた一言に、誰もが心で同意する。たかが血筋ごときで威張る彼らのことなど、誰もが好きではない。
「しかしそれほどの大海戦、海軍やCP-0も介入してくるでしょうね。ロックスは血迷ったのでしょうか?」
「…‥ロックスはこの戦いで命を散らす気だ。どのみち、豚共に手を出した時点で世界政府は本気で潰しにかかるし、海軍は全戦力をぶつけてくるだろう。死を恐れずに世界を変えてやるという腹積りか」
ナミヘイは独自の推察では、ロックスが時を急いでおり、サザエとの決闘よりも優先するものがゴッドバレーにあった。だからこそ、一世一代の大勝負に打って出たと。
「あるいは、こうも考えられませんか?サザエとの決闘の場所として最も適していたのが、ゴッドバレーだった。その場所は天竜人にとって大切な場所であり、サーー」
「マスオさん」
何か言いかけたマスオをサザエが遮った。ゆっくりとマスオの口元に人差し指を当てるサザエの仕草に、マスオもそれ以上何も言わなかった。
「とにかく、ロックスが動いた以上、我々も動いた方がいいわ。これはロックスからのメッセージね!『来るなら来るが良い、俺はお前たちを待っている!』って!!」
「ゴッドバレー行くんだ、お姉ちゃん。自ら死地に飛び込むことしなくてもいいんじゃないの?」
「ワカーメ、この戦いは天下分け目の大戦よ。誰が勝っても時代が変わる。だけど、彼だけには勝たせちゃいけない。彼が世界の王になれば、忽ち世界は強者だけが生き残る世界になってしまうわ」
普段のロックスとの戦いを語るサザエには似つかぬ暗さだ。天竜人に関係する島であるが、何やらとんでもない秘密を抱えているとも言われている謎の島。
その島でロックスは何を企んでいるのか。サザエはその真相を知るために向かう。
ゴッドバレー事件については全然資料がないため、考察動画を参考にしながら書こうと思います。
サザエ率いる『海の幸海賊団』、ロックス率いる『ロックス海賊団』、センゴク率いる『海軍本部』の三つ巴の戦いになるので、頑張って書こうと思います!