「やはり来たな、サザエ!ここを決戦の場にして本当に良かった!」
朝焼けの中、ゴッドバレー島に到着した一行。かつて世界政府を創設した20の連合国の末裔である天竜人御用達の島。『神の谷』と呼ばれるその場所は、
島に上陸した一行は、ロックス海賊団の相手をする面々に、サザエは島の中心部にある市街地に向かい、そこで彼の男と対峙した。
瓦礫となった家々の上に立つ男ーー今や、世界をひっくり返したロックスがそこに佇んでいた。周囲には血を流す世界政府のエージェントや天竜人の姿も見える。まだ息のある者もいるが、大半は事切れたように微動だにしない。
「……アンタ、世界大戦でも起こす気?海軍や世界政府が本気で潰しにくるわよ?」
「ザハハハハ!!!それこそ本望ってもんだ、サザエ!
生まれが偉ェだけでどんな我儘も許される、趣味の悪い豚どもが欲するヤベェ島での大乱闘!相手は世界政府に海軍!世界をひっくり返すのに、何をビビる必要がある!?」
声高に叫ぶロックスは、戦いによる死など恐れていないと言わんばかりだ。その眼は完全に覚悟を決めており、今更どんな言葉も彼の決意を揺るがすことはできないだろう。
その時、踏み付けにされていた天竜人の1人が呻きながらも、血に塗れた顔を上げた。
「な、なぜ貴様が……!お前も……わちきたちを笑いにきたのかえ……!」
今にも倒れそうな天竜人はロックスではなく、サザエに対して驚愕の目線を送った。
「笑う?あなたはアタシがこの光景を見て怒るとでも思ったのかしら?ブーラン聖」
「し、下々民の分際で……わちき達を見下すのを止めえ!」
ブーラン聖と呼ばれた天竜人は、完全に見下すサザエに歯軋りしながら見える。ここまでボロボロなのに、まだ見栄を張るのは彼らのプライドがそれを許さないのか。
「『人間狩り』なんて悪趣味を好む連中なんて嫌いよ。アタシはロックスの全てを肯定する信者ではないけど、正直この光景には胸がすいたわ」
辺りは瓦礫の山。血の川があちこちに流れており、その元を辿れば白い潜水服のような特徴的な衣服。老若男女問わず天竜人の死体が転がっている。
そして、それに埋もれるように普通の衣服を着た一般市民や奴隷の姿も見えた。彼らはまだ息があり、凶悪な海賊二人の鉢合わせ現場から少しでも逃げようと、地面を這うように移動している。
「やはり、お前はどうかしているえ……!わちき達の遊びをどうこう言う資格はないえ……!!」
「……だから、アタシはあなた達とは違う道を選んだ。そして真実を知り、悔い改めた。だけど、あなた達はそれをいつまでも嘲笑うだけ。
ーーなぜ、あなた達は成長しないのか。彼らにもあなた達と同じ赤い血が流れているの!人間を人間と思えないあなた達は、神でもなんでもない下賎なゴミクズよ!!」
サザエは天竜人、そして自分への怒りで身を震わせた。サザエ自身、これまで天竜人の横暴を、それを咎められない自分への怒りを抱えて生きてきた。彼らには口するにも憚れる悪趣味がいくつもあるが、今回のは明らかに一線を超えているものだ。彼女にとっての黒歴史を、家族以外が喋ることは地雷を踏み抜く行為であり、誰もが避けてきた。
「な…….!?高貴なわちき達と下々民と同じ血が流れているだと!?……恥を知るえ!」
「恥ならいくらでも受け入れる。それが、アタシにとって少しでも贖罪になるのなら喜んでそうするわ」
「人間如きが……だが、今ならその過ちを無くすことはできるえ。今すぐ、わちきを斬ったコイツを殺せ!」
この機にまだ、誰かに対して物を言い得ると勘違いしているブーラン聖は、サザエにロックスを倒すように迫った。この機にまだ自分は勝機があると考えているブーラン聖を踏みつけたロックスは無意識に貧乏ゆすりを加速させる。
「わちき達を見殺しても、やってくるわちき達の味方は多くいるえ……!海軍本部の最高戦力、神の騎士団、そして五老星だえ!そんな強大な力を倒すことができると考えているのかえ……!」
「だから?アタシの家族がこんなことで屈するとでも?いつの時代もそう、“自由”を追い続ける存在に“支配”は屈するの。血は絶てど、意志は受け継がれるものよ。誰かが自由を追い続ける限り、それは潰えることはない!」
世界を支配すること権力は彼女にもあった。しかし、彼女はその特権を放棄してまでも、地上に降りて自由に生きる道を選んだ。束縛ない生活を続けてきた彼女の思考を理解できる天竜人はいない。サザエの言葉は彼らに理解されることなく流された。
「く、狂ってるえ……!」
「狂っていて結構。ロックスじゃないけど、世界の理を揺るがした存在に正気なんて必要ないもの。
ーーアタシは自由に生きる海賊、サザエ・D・ゴザイマース8世なんだから!!」
その光景にロックスは大爆笑し、ブーラン聖は理解できないと言わんばかりに目を見開いた。
「やはり……お前は大罪人だえ!高貴な血を汚すだけにとどまらず、わちき達への叛逆!お前だけは、絶対ーー」
ブーラン聖はその言葉を最後まで吐くことを許されなかった。ロックスの拳によって脳髄ごと潰されたのだ。彼らの傲慢な振る舞いに嫌気がさしたのか、はたまた彼の気まぐれか。
「あァ……悪い、殺しちまった」
「今更1人も2人も変わらないわ。どの道、この場で死なずとも後で死んでいたわ。それに何の思入れもないしね」
悪びれないロックスは青筋を浮かべながら、血の滴る拳を払う。その行為をサザエは咎めない。
「お前にとって馴染み深い場所だと思っていたが……違ったようだなァ」
「大方、世界政府の秘密が隠されているとでも思ったんでしょ?『神の谷』の異名に振り回されたわね、ロックス」
「ザハハハハ……そうとも限らねェ。何もねェなら、世界政府や天竜人がこうも大袈裟な警護でやってくるかァ?」
彼が指し示す先には海軍本部から派遣された大艦隊が見える。その中には世界政府の船も散見され、生き残った天竜人達が血相を変えて出航していったことが想像できた。
「神の騎士団、五老星も来てるのね。よくもまあ、あんな大層な戦力を集めたものね。それに、すごい覇気だこと」
「ザハハハハ!俺一の世紀の大勝負にこれほどの参加者がいるとはな!海賊冥利に尽きるぜェ!!」
見渡す限り集まった海軍の大艦隊からは、降伏勧告が繰り返し発せられていた。その一角、世界政府の船には五老星の1人であるジェイガルシア・サターン聖と、神の騎士団の若手筆頭フィガーランド・ガーリング聖の姿も見える。
「どの道、タダでは済まないでしょうね。ーーいいわ。どのみち、強行突破するしか脱出方法はないもの」
ここでサザエもついに腹を括り、強大な戦力を前に戦うことを決意した。
「まさか、海の恵みを受けし者たちまでも来ているとは。余計なことをしてくれる」
ゴッドバレー島を包囲する海軍と世界政府の艦隊。その中でも格別大きい船の甲板に、立つサターン聖は杖をつきながら海上に浮かぶ海の幸海賊団の船を睨みつけた。
「世界政府の目上の瘤は消すに限る。サターン聖、ゴミ連中は任せるがサザエ・D・ゴザイマースだけは俺に殺せろ」
隣に立つガーリング聖は自らの遊びが邪魔されたことよりも、更に良い獲物が食いついてきたことに冷めやらぬ興奮を覚えていた。島には自らと対等な強敵がいなかったが、今は本物の強者が島にはこれでもかといる。
彼らを倒してこそ、本当の『王者』になれる。最強になることを望むガーリング聖に、サターン聖は即座に言い返した。
「馬鹿を言うな。彼女はゴザイマース家の末裔だ。我々といえども、迂闊に手を出せん」
出来ればサザエ一家が来る前に手を打っておきたかったと心の内で悔むサターン聖は、事態打開に頭を回転させる。撤退こそしたが、まだ世界政府側も戦力は万全だ。エージェント、神の騎士団、そして自分が再度上陸すれば島の奪取は可能だろう。
だが、ロックス海賊団もいる以上、迂闊に手を出せば更に被害が拡大する。最悪、世界政府の面目が丸潰れになる可能性もあるのだ。
「ゴザイマース家か。裏切り者を排出した家柄だが、何故彼女を放置する?世界政府の力で潰すことは容易だろう?」
「あの娘に手を出せば、ユミズ聖が黙っていまい。彼を怒らせるのは面倒だ。厄介事はその芽を積んでおくことが重要だ、ガーリング聖」
不満が収まらないガーリング聖を収め込むことに胃を痛めるサターン聖。彼はどうにかしてゴザイマース家の者をマリージョアに連れ帰ることができるかに、全神経を注いでいく。
「……今島にはロックスがいる。彼女とロックスを戦わせ、消耗しきった所を狙えば良い。この事態、どちらに転んでも面倒事は避けられんからな」
暴発する若人を抑えつつ、彼はこの一件の始末にも頭を悩ませることになる。そしてマリージョアにいる他の五老星の面々に連絡し、対応策の検討を急いだ。
「来ないわね。世界政府は。今更怖気付いたのかしら?いや、それはないわね」
「だが、海軍連中は来ているぞ。センゴク、ゼファー、ガープ……腕が鳴るなァ!」
世界政府の船からは天竜人や五老星は警戒しているのか、引き籠って出てこない。だが、海軍は将官や佐官らを次々に派遣しているのが島から見える。特にセンゴク、ガープ、ゼファー、かるは一段と覇気が強いためすぐに分かった。コングは……ここには来ていないらしく、マリンフォードか旗艦から指揮しているようだ。
拳を鳴らし自信を漲らせるロックス。外洋は完全に包囲されているにも関わらず、その闘志は尚も衰えない。
「そして……ここにはお前もいる、サザエ!」
彼女に目を向けたロックスは彼女を指さし、改めて要求する。
「もう一度聞くぞ!サザエ、俺の仲間になれ!さもないと殺す!」
「何度も言わせないでよ、ロックス。アンタの支配下に収まるのはイヤよ。絶対にね」
かつてと同じく、勧誘と拒否のやり取り。思えば、このやり取りは彼がルーキーと呼ばれていた頃から続けてきた。初めは仲間として、傘下として、そして同盟……形を変えようと、ロックスは曲げずにアプローチを続けてきた。彼の中にはサザエに対する憧れと、強大な力を持て余すことに対する焦ったさが入り混じった感情があった。
いつものように、互いが拒否すると同時に覇王色の覇気が衝突する。本気ではないものの、強者同士の覇気のぶつかり合いは忽ち、辺りの瓦礫や死体を吹き飛ばしていく。その衝撃は島を伝い、取り囲む海軍の軍艦にも伝わる。
「連れねェ女だぜ。……そんなに家族が大切か?」
「ええ。アタシにとって家族はこの世にも何も変えられない大秘宝なの。そう、世界には古くから
ーーそれに、アンタは尊敬するけど、アタシの宝を預けるほど信頼はしていないわ」
「ザハハハハ!そう来たか!
俺は海賊だ。欲しいモンは力づくで奪うのが俺の流儀なのは知ってるよなァ?
ーーサザエ、俺が勝ったらお前たちを俺たちの傘下に加える!拒否権はなしだ!!」
「こっちもその覚悟で来たわよ!」
黒刀化したカットラスを抜いたロックスは鋒をサザエに向けた。これに応じてサザエも最上大業物12工が一つ、『ロング・グラス』を鞘から抜いた。ロックスと同じく黒刀化するとともに、覇王色の覇気を纏うことで黒い稲妻が迸る。
そして、再び起こる覇王色同士の衝突。武装色と覇王色で硬化した剣がぶつかり合いは、忽ち周囲を巻き込んで天変地異にも引けを取らない現象を引き起こした。さながら、聖書の黙示録のように島は大きく揺れ、天は二つに割れた。
絶賛、眠い中執筆しました泣。あとで少し加筆を加えるかもしれません。
原作でも明らかになりつつあるゴッドバレー事件を同時期に描くことになるなんて、思いもしませんでした。
これからも頑張っていこうと思います。