前回の続きになります。
それではどうぞ。
「では、始めましょうか」
「す……すみません……部活……お休みなのに……」
「…なんか僕も普通に一緒に入っちゃったけど……大丈夫かな?」
自らの希望で、弓道部の体験をする事になった燐子の為に、弓道場にやって来た3人。
「いえ。顧問の先生に相談したら、快く鍵を開けてくれましたから、気にしないでください」
「それなら良かった。それにしても、弓道着姿が様になってて、似合ってるね」
「「っ!? あ、ありがとう……(ございます)……」」
悠里に弓道着が様になってるし似合ってると褒められ、顔を赤くなる紗夜と燐子。
「では、まずは弓道における心得から説明しますね」
道具の細かい名称等は、また次の機会にと言って説明に入る紗夜。
「は……はい……」
「まず勘違いして欲しくないのは、弓道とは的に当てる事を目的とした競技ではないという事です」
あくまで武道。一番の目的は、心身の鍛錬にあると燐子に説明する。
「弓を射るという一連の所作を通して、心身を鍛える。その意識こそが、弓道においてはとても大切なんです」
「わかる、ような……気も……しますけど……」
「…実際、なじみがない考えだから、分かる人は少ないと思う」
「まあ、悠里さんが言うように、なかなかなじみのない考えかもしれませんね」
今の説明を聞いても、普通の人は首を傾げるのが殆どだろう。
「白金さんは、『正射必中』という言葉を聞いた事がありますか?」
「い……いえ……」
『正射必中』という言葉に燐子は首を横に振る。
「『正射必中』とは、正しく射られた矢は、必ず的に当たる、という意味です」
「…『的に当たる』っていうのは、あくまでも『正しく弓を射る』という事の結果でしかないんだよ。……まぁ、この意味も人によって捉え方は変わるけども」
「えっと……問題は……的に当たるか、ではなくて……正しく弓が引けるか……ということですか?」
その答えに紗夜がその通りですと言う。悠里もそんな感じだと頷く。
「あの、良ければ今日、白金さんも弓を引いてみませんか? やはり、実際に触れてみるのが一番だと思うので」
「え……その……は……はい……」
「では、まずは私が弓を引いて見せますね。先程の話を意識して見ててください」
「はい……分かりました……」
説明するより触れてみる。そう言って紗夜は弓を構える。
「(……弓を構える、氷川さん……とても……凛々しくて、かっこいい……)」
「(やっぱり……弓道やる時の紗夜ちゃん、ギター弾く時とは別な感じで似合ってるなぁ。かっこいい……)」
弓を構える紗夜を見た燐子はかっこいいなと思ってるのと同時に、悠里は自分が知る
「……っ」
「……! 的の、真ん中に……す、すごいです」
「ん、紗夜ちゃん、お見事……」
射られた矢は見事、的の真ん中に命中した。
「ありがとうございます」
「紗夜ちゃん、僕もやりたいから、弓と矢1本を貸してもらってもいい?」
すると悠里が紗夜に弓と
「あ、はい。こちらの弓でいいですか?」
「うん。ありがと」
「……」
「じゃあ向こうの的、使わせてもらうね? 燐子ちゃん、頑張ってね?」
「……う、うん……(今、氷川さん……寂しそうな表情をしてたような……)」
弓と矢を悠里に渡した時の紗夜がほんの一瞬、辛さと寂しさが混じった表情をしてた事に燐子は首を傾げた。受け取った悠里は邪魔にならないように、端っこの方に行ってしまった。
「お待たせしました。では、白金さんの練習に移りましょう」
「は、はい……(気のせい……かな?)」
しかし紗夜は、いつもの表情をしてたので、さっきのは自分の気のせいかな?と思いつつ、練習に移るのだった。
◇
「ゆ……弓を引くにも……随分、力がいるんですね」
15分後。
未だに燐子は弓を引くのに悪戦苦闘していた。
「その弓はまだ弱いほうなんですけど……引くのは難しそうですか?」
「……い、いえ……これくらいなら……なんとか……」
「それなら良かったです。では、さっき教えた通りに、ゆっくりと弓を引いてみてください」
そして早速、紗夜に教えてもらった事を実行してみる燐子。
「(まずは、左足を……的に向かって、半歩……それから……矢と、同じくらいの幅で……姿勢を、整えたら……弓を、
同時に、腕が震える燐子。
「……っ……」
「初めてで、ここまで綺麗に引けるなんて……でも、残念ながら的は外れてしまいましたね」
的に当たるのは外れてしまったが、燐子が初心者なのにも関わらず、ここまで引ける事に驚く紗夜。
「もう一度、今度は矢を番える位置を少し低めにして引いてみてください」
「……低めに……? ……はい」
低めにと言われ、燐子はさっきと、同じように且つ……少しだけ矢を番える位置を低くする……
「……っ」
「的に届いていない……
矢が的に届いていないのを見た紗夜は、弓手が緩んでいるのではないか?と思った。
「白金さん、気にしないでくださいね。初心者が的に当てるのは本当に難しい事なので……」
「……もう一度……」
「え?」
「もう一度……いえ……せ……せめて……的に、当たるまで……やらせてください……」
またも的に当たらず。すると燐子は的に当たるまでやらせてほしいと紗夜にお願いした。
「それに……ゆうりくん……的に、当たってるのに……納得してない……今も、一生懸命……やってるから……わたしも……」
「……っ!」
それを聞いた紗夜は端の方で、1人で的に向かって矢を射って練習している悠里に視線を向ける。
「……」
彼は自分と初めて会った
「……分かりました。白金さんの納得いくまで、おつき合いしましょう」
とりあえず今は、燐子の納得のいくまでつき合う事に専念してあげようと紗夜は彼女に言うのであった。
◇
「ぜ……全然……当たりません……」
「次で10射目ですか。結構引きましたが、まだ的には遠いですね……」
更に30分後。未だ的には当たらずが続いていた……
「……っ……もう一度……あっ」
「白金さん!? 大丈夫ですか?」
次の矢を引こうとした矢先、何かの痛みと同時に矢を落としてしまった燐子。紗夜が彼女の手を見ると、親指の付け根に傷ができてしまっていた……
「親指の付け根は矢枕と言われていて、慣れない人は怪我をする事が多い場所なんです。きちんと説明しておけば……ごめんなさい」
自分がきちんと説明していれば、防げたかもしれないのにと申し訳なさそうに燐子に謝る紗夜。
「弓を引くのは、ここまでにしましょう。このままでは、バンドにも支障をきたしてしまいます」
「いえ……大丈夫、です……」
「ですが……」
これ以上、弓を引くとバンドにも支障をきたしてしまうと心配そうな表情で紗夜が止めるが、燐子は大丈夫だと答える。
「的に、当たるまでは……やりたいんです。すみません、でも……お願いします」
的に当たるまではやりたい。自分の意志で。そう、燐子からは感じられるのだった。
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次回も頑張りますので、よろしくお願いします。
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