今回で最終回になります。
それではどうぞ。
「まだ、狙いが低すぎますね。狙いを徐々に、高く修正してみてください」
「……っ……はい……!」
「そのまま狙いを修正してください」
紗夜の指導のお陰で、少しずつではあるが、的に近づいていた。
「わぁ……! リンコさんが弓を引く姿、とても素敵ですっ♪」
「うん。燐子ちゃん、ものすごく頑張ってるね。けど……的にはまだ、届いてないみたい」
「初心者は、矢を飛ばす事すら難しいって言いますしね。流石に、今日中にっていうのは無理なんじゃ……」
燐子の様子を見に来たイヴ、花音、美咲が言う。
「…でも燐子ちゃん、最初よりは、的に近づいてるんだよ?」
「「「!」」」
そんな3人の背後から聞き覚えのある声が。振り向くと、そこには悠里が居た。
「まあ、あとは燐子ちゃん次第なんだけど……」
3人にそう言いながら、悠里は慣れた手付きで、弓を構えて、矢を番える。
「……っ」
射られた矢は、的の真ん中に命中したのだが……
「…あ、最悪。ミリ単位でズレた。今度は何がダメだったんだか……」
納得してない表情をしながら、悠里は矢が当たった的まで歩いて行ってしまった。同時に、それを見た3人は『なんで的に当たったのに、納得してないんだろう?』と首を傾げる。
「リンコさーん! 頑張ってくださーい!」
「……! 今の声……若宮さん……?」
イヴの応援に気づいた燐子は、彼女の方を向く。
「燐子ちゃん、頑張って!」
「落ち着いて頑張ってください」
「松原さんと……奥沢さんも……わたしを、応援してくれてる……」
イヴだけでなく、花音と美咲にも応援してもらっているんだから、頑張らなくちゃと意気込む燐子。
「白金さん。私からひとつ、アドバイスがあります。よく聞いてください」
「は、はい……」
「……『誰かの期待に応えようとしない事』。いいですね?」
「……え……? で……でも……」
紗夜からのアドバイスを聞いた燐子は、予想外の言葉に戸惑ってしまう。
「弓道にとって大切な事。それがなんだったっか、思い出してください」
「あ……」
その言葉を聞いて思い出す。
的に当てる事を目的にしない、弓を引く姿勢、そして……それだけに集中する心である事を。
「(それは……周りの環境に……左右されない……集中力……?)」
ふと、隣の的の場所に居る悠里と目が合う。
「「……」」
燐子と視線が合った悠里が自分に向かって、何か口パクをしているのが見えた。まるで、自分に何かを伝えるかのように。
「(……どんな場面でも……弓を引く事……ただ、それだけに……集中できるか、どうか……って、ゆうりくん……わたしに……言ってる気がする……)」
ここから的まで距離がある筈なのに、不思議と悠里が言いたい事が伝わった気がしたのだ。
「正しく弓を引けば、矢は自ずと的に当たります。白金さん。その事を……どうか忘れないで」
「……は……はい……っ」
そして燐子は弓を構える。
「(……不思議……ゆうりくんと氷川さんの言葉で……周りの音が、一気に……引いていって……すごく、静か)」
道着の衣擦れ、床が軋む音、自分の鼓動……頭の中は霧が晴れていくようにスッキリしていて不思議と心地いい……
「……燐子ちゃん、すごいね。今までで一番集中してるみたい」
「はいっ。それに……なんだか、気迫のようなものを感じます」
花音の言う通り、燐子は今までの中で一番集中しており、同時に気迫のようなものを感じる。それが伝わってきた。
「「……」」
紗夜だけでなく、隣の的に居る悠里も燐子を見守っていた。
「……っ……!」
そして射られた矢は……
「!!」
「あっ……」
「……すご……」
見事、的の真ん中に命中した。
「やったぁ! やりました! リンコさん、命中ですっ!」
「……はい……び……びっくり、しました……」
当たりましたよ!とイヴの喜びの言葉と同時に肩の力が抜ける燐子。
「やったね、燐子ちゃん。凄かったよ」
「やりましたね、白金さん。最後の一射、本当に素晴らしかったですよ」
「……っ……あ……ありがとうございます……!」
悠里と紗夜に褒められ、喜びの表情を浮かべる燐子であった。
◇
部活終了後。川沿いの道にて。
「リンコさん、今日はお疲れさまでした。矢が当たった瞬間、私、泣いてしまうかと思いましたっ!」
「じ……実は私も……少しだけ……」
「…目が潤んでたよね。花音ちゃんは特に」
「も、もお~!」
イヴと花音の言葉に悠里が指摘する。ポコポコと花音に背中を叩かれるが別に痛くはない。
「あはは。それで、燐子先輩。どの部活に入るかは決まったんですか?」
「……はい。わたし……決めました」
美咲の言葉に燐子は決まったと6人に言う。それを聞いたイヴが一体、どの部活に入るんですか?と訊く。
「わたしは……
「ええっ!?」
「あー、まあいいんじゃないですか? 部活って、無理に入るもんじゃないですし」
『部活には入らない』という燐子の言葉に、イヴは驚きの声を上げ、美咲は無理に入らなくてもいいんじゃないか?という感じだった。
「白金さん……なんだかとても、清々しい表情をしていますね?」
「そ……そうですか?」
「…燐子ちゃん的に、やっと決められたからって感じ?」
少なくとも、紗夜と悠里が見た限り、清々しい表情を燐子はしていたように見えたが。
「そう……なのかも。部活に入らない事もだけど……それ以外にも……その……」
「……何か、考えがあるって感じですね。なら、尚更いいじゃないですか。あたし、陰ながら応援してます」
「うんっ。燐子ちゃんが決めたなら、それが一番だよ」
「少し残念ですが……そうですね。リンコさんが決めたことですし、私も応援していますっ!」
本人が決めた事なら応援すると言う、美咲、花音、イヴ。
「あ……ありがとうございます……」
そう言われて、この場に居る5人にお礼を言う燐子なのであった。
◇
そして深夜。
「……よ……よしっ……」
自室にて。
燐子は一度、深呼吸して、何かを決めたかのようにパソコンにチャットを打ち込む。
『TO:あこちゃん、ゆうりくん。夜遅くにごめんね(´・ω・) どうしても、あこちゃんとゆうりくんに聞いてほしい事があって……』
宛先は、あこと悠里だ。
『実は今度、ピアノのコンクールに出てみようかなって思ってるんだ(*ノノ) 明日、練習のあとに詳しく話すね(`・ω・´)ゞ おやすみ(○´ω`○)』
伝える内容を打ち込む。
「ふう……少しは、ドーンと……いけた……かな……? あれ? ゆうりくんから……?」
打ち終えた直後、悠里からチャットが返ってきた。……まだ起きてたのだろうか?
『……キラ☆彡燐子(/・ω・)/』
「へ? ……ふ、ふふふ……♪」
チャットを開くと、そこには謎の顔文字が。
まじまじと顔文字を見てしまい、反射的に笑みがこぼれてしまう……
そして彼は一体どういう心境で、新しい顔文字を自分に送ってきたのかと、思わず笑ってしまう燐子なのであった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ここまで出来たのも、読者の皆様のお陰です。
気が向いたら、また何か息抜きに書くかもしれません。
それではまたいつかどこかでお会いしましょう。
ありがとうございました。