アルティメット惑星封鎖機構によるコーラル焼却RTA   作:サンドフード

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Chapter1
パスポート


 

 暗い部屋の中に、音声通話の着信音が鳴り響く。

 しばらく思案した後、その男は通話をオンにした。

 

『ごきげんよう。あなたがハンドラー・ウォルターですね? あなたに仕事を頼みたい』

「……まずは名乗れ。見ず知らずの相手からの唐突な依頼を受ける気にはなれん」

 

 警戒心もあらわにウォルターは答える。知らない相手がこの連絡先を知っているという時点で異常なことだった。

 

『失礼しました。──私は惑星封鎖機構統括システム『パンドラ』。あなた方が今、密航を企てている、ルビコン3を封鎖している者ですよ』

「……なんだと」

 

 ハンドラー・ウォルター子飼いのハウンズ部隊、そのうち617、619、620の三名をロストして、ようやく抉じ開けたルビコンの地上への穴だ。

 そこに最後に残った強化人間C4-621を送り込む直前での、この通信。

 

「警告、ということか?」

『いいえ。初めに申し上げたでしょう? 仕事の依頼だ、と』

 

 画像のない通話越しだが、まるで相手がニヤリと笑ったようにウォルターには感じられた。

 

『ルビコン3に正規の許可の元、堂々と降り立ちたくはありませんか? ハンドラー・ウォルター』

「……どういうつもりだ」

 

 惑星の封鎖を至上命題とする惑星封鎖機構が渡航許可を出すなど尋常なことではない。必ず何か、裏があるはずだ。

 

『あるいはこうお呼びしましょうか、秘密結社『オーバーシアー』。あなた方の目的にとっても、悪い話ではないと思いますが?』

 

 その名を知られていることに、ウォルターは絶句する。ナガイ教授の遺志を継ぎ、ルビコンを監視し、そして今度こそコーラルを焼き尽くす使命を帯びた秘密結社『オーバーシアー』。

 惑星封鎖機構は、そのための最大の敵だと考えていた。だが、その相手から仕事の依頼だと?

 

「……話を聞こう」

 

 ウォルターには、他の選択肢は無かった。

 

 

* * * *

 

 

 ご存じの通り、我々はこの惑星の封鎖を至上命題としています。

 しかしそれは、危険なコーラルという存在を宇宙に拡散させないため。そのために必要だからこそ、惑星を封鎖しているのです。

 

 今、ルビコン3は危機的状況にあります。

 かつてアイビスの火で焼き尽くされたと思われたコーラルの、燃え残りの存在。その情報がリークされたことで、コーラルを狙う星外企業の密航が絶えません。

 悪いことに、ステーション31が襲撃されたことで一時期警戒網に大穴が開き、多数の密航者を許してしまいました。

 

 さらに危険なのは、燃え残ったコーラルの増殖が止まらないことです。

 我々の試算では、コーラルの集積度が危険水域まで達するのにさほど猶予はない。

 

 それらに対処するために、我々はミッションプランを立案しました。

 それが、次なる火、『ファイア・オブ・ネクスト』。制御されたアイビスの火の再現です。

 

 コーラルが集まり切ってしまえば、燃やしたとて、再び星系ごと焼き尽くす災禍となるでしょう。

 そうなる前に着火し、被害を惑星表面に留めたいというのが我々の考えです。

 

 ルビコンの地を無人の荒野とし、たとえ燃え残りがあっても増殖するたびに再び焼く、恒久的な封じ込めプランです。

 

 

 しかし、そのためには数多くの障害が存在します。あなた方には、これらの排除をお願いしたい。

 

 主要なターゲットは6つ。

 

 最初の2つはコーラルの営利利用を狙う星外企業、アーキバスとベイラムの2社となります。

 これらの実働部隊はすべて排除する必要があるでしょう。

 

 次の1つは、ルビコン解放戦線。ルビコンの土着組織となります。

 惑星の地上に留まって大人しくしているようならば見逃してきましたが、今の彼らはコーラルの輸出による外貨獲得を目論んでいます。

 そのため、今や彼らは我々の敵といってよいでしょう。

 

 そして、独立傭兵レイヴンと、その所属する団体ブランチ。

 燃え残ったコーラルの存在をリークし、星外企業の介入を招いた諸悪の根源です。

 この殲滅も依頼に含めたい。

 

 次に、これは組織ではないですが、ルビコン技研の遺産、コーラルを吸い上げるバスキュラープラントが今も氷床の下に残存しています。

 調査のため残されてきましたが、コーラルの存在が星外企業に知られた今、これが存在し続けていることは後の禍根になるでしょう。

 ですので、この機に破壊してしまいたいと考えています。

 また、バスキュラープラントの破壊はコーラルへの着火手段でもあります。

 

 最後に、これも技研の忌子。コーラルを利用した管理AIが、コーラルを通じて死者の思念を吸い上げることで別物に変質し、独自の行動を開始しました。

 その名は、オールマインド。傭兵支援システムに偽装し、今も暗躍を続けています。

 その本体を見つけ出し、完全破壊することが最後のミッションとなります。

 

 いずれも困難なミッションですが、あなた方ならば達成可能であると信じています。

 

 

* * * *

 

 

「……俺達の実働戦力は、単騎だけだ。到底、単騎だけでこなせる相手ではないように思えるが」

『無論、我々の保有戦力も用いてサポートいたします。しかし、早期に我々が全面的に地上に介入すれば、今は敵対し合っている各勢力が一時的に手を組み、一致団結して惑星封鎖機構を攻撃する懸念があります。そうなる前に、正体を悟らせずに各個撃破するための少数精鋭戦力が必要なのです。それは、今の我々に欠けているものだ。

 だからこそ、あなた方に依頼したいのです。目的を共有できるはずの、あなた方に』

 

 『パンドラ』とやらの言い分はずいぶんもっともらしく聞こえる。確かに、コーラルを焼き、制御不能な拡散を防ぎたいという意思は協調できる。

 だが、あまりにも胡散臭い。

 

「土着のルビコニアンたちはどうなる。コーラルを焼けば、無事ではすまんぞ」

『度重なる退去勧告を無視し続けたのは彼らの方です。我々は、すでに警告の義務は果たしたものと考えています。それに、あなた方が目的のために土着の住民に配慮するつもりがあったようには思えませんが?』

 

 ウォルターは黙考する。

 腹の内は読めないが、こちらを利用するつもりなら、こちらもそちらを利用しつくしてやろう。どのみち正体を知られている時点で、選択肢は多くない。

 

「いいだろう、この仕事を受けよう」

『ありがとうございます。となれば、コードネームが必要ですね。こんなのはいかがでしょうか、『山猫(リンクス)』、と』

 

 やや食い気味に、『パンドラ』はそう言ってきた。

 

「好きに呼べばいい」

『はい、それでは特務エージェント『リンクス』。よい成果を期待していますよ』

 

 そうして、音声通信が切れる。間を置かず、詳細資料の文書データが送られてきた。手が早い。

 疑問だらけだが、特にどうしても分からない事が一つあった。

 

「621、仕事の時間だ」

 

 なぜ奴は、こちらの戦力をそれほどに評価しているのだろうか?

 

 

* * * *

 

 

 そしてしばらく後、ウォルターは同志に連絡を取っていた。

 それはドーザー集団RaDの頭目を表の顔としてルビコンに潜伏する、オーバーシアーの一員、シンダー(灰かぶり)・カーラ。

 

「カーラか」

『しばらくぶりだね、ウォルター。こうして連絡してきたってことは、無事にルビコンに手駒を送り込めたってことでよかったかい?』

「そのことだが、妙なことになった」

 

 ウォルターは事情を説明する。

 

『惑星封鎖機構と手を組むことになったぁ? いったいどういう風の吹き回しだい。奴らは不倶戴天の敵だとばかり思っていたけどね』

「奴らの真意は分からん。だが、本当に封鎖機構の力が使えるのなら、それが目的への最短距離となるのも確かだ」

 

 はあ、とカーラは通信越しにため息をつく。

 

『背後から撃たれないように、せいぜい気を付けなよ』

「ああ」

 

 そうして、カーラとウォルターの通信は終わった。

 

 




ルート的に初代~3オマージュの『レイヴン』には成れないので、ちょっと強引に4オマージュの『リンクス』にしてみました。

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