アルティメット惑星封鎖機構によるコーラル焼却RTA 作:サンドフード
『これよりレーザー障壁を、解除します。この先は、我々の改修が及んでいない地。探査には十分ご注意を』
行く手をふさぐレーザー障壁が、消えていく。これが消えるのは、数十年ぶりのことだ。
『技研都市は、地下の巨大なコーラルだまりの上の半地下に建造された都市でした。その中心にはバスキュラープラントが据えられ、コーラルを吸い上げ都市のエネルギーとして利用していたのです』
621はパンドラの解説を聞きながら、岩肌の露出した地下通路を進む。野生化し、異常成長したミールワームが多数生息していた。ACさえ襲うほどに、狂暴化している固体もいる。なぜか自爆するものまでも。
『アイビスの火により地下のコーラルだまりが失われたことで、大規模な地盤沈下が起き、技研都市は周囲の地形をも巻き込んで巨大なクレーターの底に沈むこととなりました』
このトンネルも、かつてはもっと整っていたのだろうか。荒れ放題で、天然の洞窟と見分けがつかない。崩落したところを掘り直した箇所もあるのかもしれない。
『惑星封鎖機構は、雪と氷河を利用してクレーターの上に大規模な氷床のドームを作り、技研都市を星外から隠蔽しました。技研の遺産が、誰の手にも渡らぬように』
だから、誰もその存在に気付けなかった。宇宙から見れば、広大な氷原にしか見えない。
『ウォッチポイント・アルファの元々の由来は、宇宙港と技研都市とを結ぶ長大な大深度地下トンネルです。そこを唯一の出入り口として残し、調査・監視・封鎖のために改修し、それがウォッチポイント・アルファとなりました』
開けた空間にあったミールワームの養殖施設跡らしき残骸を越えると、やがて明かりが見えてくる。
『さあ、見えてきました。あれが、ルビコン技研都市です。地形の変化は、今もゆっくりと続いている。バスキュラープラントの、現在の正確な座標を特定してください』
恐ろしく巨大な構造物の下に、ビルの群れの残骸が立ち並んでいる。氷床のドームを透過する、減衰した日光が淡く都市の廃墟を照らし出す。
「かつてコーラルの恵みを
それまで黙っていたウォルターは、技研都市を見て感慨深げに、そう言った。
「その中心に……コーラルはある」
ビル群の合間を抜け、621のアイビスは行く。
大きな吊り橋に差し掛かったところで、ウォルターから通信が入った。
「待て、621。背後から何かが接近してくる。警戒しろ」
すると一機のACが現れ、621を追い越して橋の上に降り立つ。
「企業勢力がまだ残っていたのか? 敵であれば、迎撃しろ」
だが、そのACは動きを見せない。
『ようやく会えたな……『リンクス』、だったか?』
そして、通信が入る。
『すでに本社からは撤退命令が出ているが……これほどの相手を目前に、逃げ帰るなど出来るはずもない』
その男に与えられたナンバーは、
『もはや地位などもどうでもいい。俺の名は『フロイト』。さあ、やり合おうか』
621とフロイトの機体が、橋の上でぶつかり合う。
HALのコーラルライフルが発射されるが、フロイトには当たらなかった。
『なるほど、そう言う動きもあるのか、面白いな。お前の戦い方、まさに猟犬という感じだ』
しかし621は、どうしてか動きに精彩がないように感じられる。攻め手も緩い。
『どうした、そんなものではないだろう?』
ミサイルを回避して、フロイトは言う。コーラルシールドが、ゴリゴリと削られていく。
621は防戦一方となる。
『ずっとお前とやり合いたい、そう言う気分だ……っが!?』
621との戦いに熱中しすぎたフロイトは、背後から近づいてくるものに気付いていなかった。
最初に外したコーラルライフルは、フロイトを狙ったものではなかった。
それは、眠れる兵器を目覚めさせるため。動きに精彩がないように見えたのも、誘導するためだった。
フロイトの背後に、
そして621のブレードが、フロイトとヘリアンサスを共に貫く。
『くそ、動け……! もう一戦だ!』
その言葉を最後に、フロイトの機体は爆散した。
ヘリアンサスも同様だ。
「敵機の撃破を確認……探索を続けるぞ、621」
「う……ここは……」
『よかった、イグアス。目覚めたのですね』
今はもう聞きなれた、脳内の声。それ以外にも、声をかけてくるものがいた。
「よう、ずいぶんと寝坊助だな、イグアス」
「あんたは……」
そこには、イグアスの見知った顔があった。だが、あまりにも意外な顔だ。
「なぜここにいる、コールドコール」
「ご挨拶じゃねえか、あの巨大なイモムシにやられたお前を助けてやったのは誰だと思っている」
その言葉に、イグアスは困惑する。
『事実です。アイスワーム戦の後、貴方はこの人物に救助され、ここまで運ばれました』
「なおさら事情が分からねえ。慈善で助けるようなタマじゃねえだろ、あんた」
当然だろう、とコールドコールは嘯く。
「依頼があったのさ、お前を助けてここまで運べと。実在するかどうかも怪しい、胡散臭い依頼人だがね」
金さえもらえりゃ、何でもいいさ、とコールドコールは言った。
「目を盗んでここまで忍び込むには、苦労したぜ。特にあいつは、化け物だ。ヴェスパーとレッドガンを、まとめてやっちまいやがった」
はっと、イグアスは気づいて問う。
「戦いはどうなった」
「企業の負けだよ。アーキバスもベイラムも、この星から撤退した。まあ撤退するような兵力は、そもそも残っていなかったがね」
やれやれと言ったふうにコールドコールは首を振る。
「俺ももう、この星を出る。稼がせてもらったが、潮時だ。幸い封鎖機構は、出る方にはあんまりうるさく言わんしな」
そう言うと、背後の影を指し示す。それは武骨で古びた見た目だが、ACのようだった。
「餞別にこいつをくれてやる。ジャンク品で組んだ型落ち品だが、一応はACだ。それと中には、依頼人から預かったデータも入れてある。勝手に確認しておけ。これからどうするかは、自分で決めるんだな」
じゃあな、と言い残すとコールドコールは自身のACに乗り、去っていった。
しばしの沈黙が訪れる。
『この、データは……秘密結社『オーバーシアー』? コーラルを再び焼くことが目的……かの『リンクス』も、その協力者だというのですか』
中身のデータを確認したのか、エアは動揺したように言う。
『今、リンクスは集積コーラルに向かっているようです。もし辿り着かれれば、コーラルは再び焼き尽くされるでしょう』
「そうなりゃ、お前も消えるってか」
エアは答えないが、それは暗黙の肯定だった。
やがてエアは、イグアスに告げる。
『これから貴方がどうするかは、貴方自身に委ねます。たとえここから立ち去ることを選んだとしても、私は貴方の選択を尊重したい……』
不器用な沈黙が、二人の間に流れる。
そして。
「おい、耳鳴り女」
『その呼び方はやめてくださいといつも……!』
「ありがとうよ」
そしてイグアスは、旧型ACに乗り込む。
フロイトがプレイヤーモチーフというのなら、ぜひとも背後からヘリアンサスに轢かれてもらわなければ。
あと、なるほどと言う場面のなかったおじさん。