アルティメット惑星封鎖機構によるコーラル焼却RTA   作:サンドフード

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集積コーラル到達

 

 再び、廃ビルの中を621は行く。

 

「コーラル集積反応……近いぞ。目指す場所まであと一息だ」

 

 やがて、視界が開ける。

 ひときわ大きな窪地にバスキュラープラントの根元が突き刺さっており、その底には浅く水が溜まっている。

 だがその水は、ただの水ではない。

 

「コーラル潮位が上がっている……自己増殖がここまで進んでいたとは」

 

 BAWS第2工廠の井戸などとは比べ物にならないほど、高濃度のコーラルが混じり合っている。

 水だけでなく、わずかに機能が活きているのか、バスキュラープラント自体がすでに結構な量のコーラルを吸い上げているようで、赤い光が漏れている。

 

「嫌な予感がする。621、急いで調べるぞ……待て、あれは……!」

 

 そして、天より飛来するものがある。

 それは赤い軌跡を残す、白い巨人。

 翼のごとき大きな肩部パーツに、多数のオービットを抱えている。

 

「あれもまた、アイビスシリーズの1機……やはり稼働していたか……!」

 

 それは、IB-01:CEL240。コーラルを守るための、無人のアイビス。はじまりのアイビスにして、最後の砦。

 

「……備えろ、621。もう一仕事だ……!」

 

 

* * * *

 

 

 621達の意志を察しているのか、同じアイビスシリーズであろうと、襲い来る。

 アイビス2機の交戦が、始まった。

 

「主なき安全装置が、コーラルの増殖で再起動したのか。やらなければ、お前がやられるぞ!」

 

 有人機では実現不可能な、慣性を無視した機動。

 そして無数のオービットが、有機的な連携を取り621を狙う。

 

 コーラル同士の戦いでは、コーラルシールドもさほどの優位性を持たない。ましてCELの火力であれば、直撃を受け続ければあっという間に破られるだろう。

 

 621は回避に専念し、しばし見に回る。

 複雑な動きだが、無人機である以上、ある程度規則的な行動パターンがある。621は、それを解き明かしていく。

 

 脅威となるブレードとコーラル砲は、予兆と予備動作が存在している。攻撃軌道も、再現性がある。

 オービットは軌道予測が甘く、曲線的に動き続ける相手を捉えきれない。また1発あたりの火力は低く、多少の被弾であれば耐えられる。

 

 そうした隙を621は見抜き、合間に攻撃を当てられるようになる。

 回避し続けながら、次第にコーラルライフルとミサイルのヒット数が増大していく。

 

「いいぞ、621! 確実にダメージが蓄積している……!」

 

 ブレードを回避した621は、カウンターのブレードを叩き込む。それを契機に、攻守は逆転する。

 

 621の猛攻を、もう1機のアイビスは捌ききれない。

 やがて機体から光が失われ、それは水面に落下した。

 

「敵機コーラル反応停止、やったか……待て!まだ終わっていない!」

 

 湖に墜ちた機体に、コーラルの光が集まっていく。

 CELに再び、赤い光が灯る。

 

「再起動……いや、それだけではない。この波形パターンは、まさか……」

 

 アイビスが浮上し、もう1機のアイビスを見下ろす。そして、言葉を発した。

 

 

『この場に共振する強い反応……『コーラルを守る』という意思に、私も共振できた』

 

 

「……Cパルス変異波形……実在していたというのか」

 

 これほど呆然としたようなウォルターの声を、621は聞いたことがなかった。

 

『今なら、私も戦える。コーラルを、焼かせはしません』

 

 変異波形の発するその声は、今ならば、621にも聞くことができた。

 

 

* * * *

 

 

 CELの動きは、先程までとは別物だ。

 単純に攻撃パターンが増えたのもあるが、先程までのような定型的な攻撃パターンがなくなり、予兆も読みにくい。さらに、こちらの動きに的確に対応してくる。

 

 機体全体を光の翼のようにしてくる突進を、621は辛うじて躱す。

 だがそこで、ウォルターから警告が発せられる。

 

「上だ! 621!」

 

 上から新たに急襲したその機体は、赤く光るブレードを突き立てる。かろうじて回避した621の側の、湖底にそれは突き刺さる。

 その機体は、汚れ、古びてはいるが、621のHALと、ほぼ同じ姿。

 

「この都市に残置されていた、HAL826を起動させたというのか」

 

『よお野良猫。決着を付ける時が来たようだぜ』

 

 その搭乗者は、イグアス。

 レッドガン部隊も、もはや無い。ただ、一人の仇敵として、621に相対する。

 

『行きましょうイグアス!』

 

 アイビス2体と1体の、苛烈な戦場が始まった。

 

 イグアスの駆るHALは、メンテナンス不足の影響か、純粋な動きでは621のHALに一歩劣る。

 だが、エアの駆るCELと的確に連携してくるが故に、それは極めて厄介だ。

 

 CELの猛攻を回避しながら、イグアスのHALの行動にも注意を払い続けなければならない。

 621の攻撃の機会は、激減していた。

 

 だが、それでもなお621はクリーンヒットを許さない。ジワジワと互いを削り合う戦況が、長く続く。

 

 621は、エアの駆るCELの動きにも対応し始めていた。

 規則的なパターンは無くなったとはいえ、その動きに癖はある。ましてエアは、戦闘の専門家ではないのだ。

 

 無人機の動きではなくなったのなら、有人機として対処すれば良い。

 あらゆる強敵と戦ってきた経験が、621にはある。

 

『あ……』

 

 照準が、ピタリとエアを捉える。

 アイビスを止めるには、ジェネレータを破壊すればよい。

 それは成されるはずだった。

 

 割り込む機体が、そこになければ。

 

『ぐあっ!』

 

 イグアスのHALがビームを受けて吹き飛ばされる。

 

『イグアス!』

 

 アイビスシリーズは、ジェネレータを破壊しない限り再起動する。

 だがそれは、中の人間の無事を意味しない。

 

『う、ぐ……クソ……』

『気を確かに、イグアス!』

 

 イグアスの意識は朦朧としてしている。

 

 だが、強化人間の恩恵か、身に染み付いた経験か。

 イグアスの動きに、陰りはほぼ見られない。

 

 猛攻の応酬が、互いのアーマーを削り合う。

 永遠に続くように思われた戦いにも、終わりの時は訪れる。

 

『ああ、静かだ……何もかも、透明で……』

『決着を付けましょう、イグアス』

 

 2機のアイビスが、ブレードを構え、連携して吶喊する。

 621も、ブレードを構える。

 

『野良猫、お前は……何を、選んだ……?』

 

 イグアスはそう、問いかける。

 

 

 強化人間C4-621は、ルビコンの過去も現在も、ろくに知らない。

 過去に何があり、各々がどのような思いを抱え、どんな陰謀を巡らし、何を目指しているのか知らない。平穏な日常というものがどういうものかも、知らない。

 

 だがそれでも、その直感に感じ取るものがあった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()惑星(ほし)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 他の何もかもを、殺し尽くしたとしても。

 

 

 

「行け、621! この仕事をやり遂げられるのは、お前だけだ……!」

 

 621のブレードが、2機を貫くように(ひるがえ)った。振り抜いたその軌跡だけが、ゆっくりと見えた。

 

『俺は……いったい、何になれた……?』

 

『ごめんなさい、ありがとう、イグアス』

 

 2機のアイビスが、同時に爆散し、地に落ちる。

 コーラルの赤い光が、余韻に散る。

 

 てめえのために、やったわけじゃねえよ。

 通信には乗らなかったが、最後にそんな言葉が、聞こえた気がした。

 

「……よくやった、621。これで仕事も、終わる」

 

 

 




ログ集めをしていないので、何も知らない621。

これにてChapter4、完結です。
次回より、最終章。

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