アルティメット惑星封鎖機構によるコーラル焼却RTA 作:サンドフード
再び、廃ビルの中を621は行く。
「コーラル集積反応……近いぞ。目指す場所まであと一息だ」
やがて、視界が開ける。
ひときわ大きな窪地にバスキュラープラントの根元が突き刺さっており、その底には浅く水が溜まっている。
だがその水は、ただの水ではない。
「コーラル潮位が上がっている……自己増殖がここまで進んでいたとは」
BAWS第2工廠の井戸などとは比べ物にならないほど、高濃度のコーラルが混じり合っている。
水だけでなく、わずかに機能が活きているのか、バスキュラープラント自体がすでに結構な量のコーラルを吸い上げているようで、赤い光が漏れている。
「嫌な予感がする。621、急いで調べるぞ……待て、あれは……!」
そして、天より飛来するものがある。
それは赤い軌跡を残す、白い巨人。
翼のごとき大きな肩部パーツに、多数のオービットを抱えている。
「あれもまた、アイビスシリーズの1機……やはり稼働していたか……!」
それは、IB-01:CEL240。コーラルを守るための、無人のアイビス。はじまりのアイビスにして、最後の砦。
「……備えろ、621。もう一仕事だ……!」
621達の意志を察しているのか、同じアイビスシリーズであろうと、襲い来る。
アイビス2機の交戦が、始まった。
「主なき安全装置が、コーラルの増殖で再起動したのか。やらなければ、お前がやられるぞ!」
有人機では実現不可能な、慣性を無視した機動。
そして無数のオービットが、有機的な連携を取り621を狙う。
コーラル同士の戦いでは、コーラルシールドもさほどの優位性を持たない。ましてCELの火力であれば、直撃を受け続ければあっという間に破られるだろう。
621は回避に専念し、しばし見に回る。
複雑な動きだが、無人機である以上、ある程度規則的な行動パターンがある。621は、それを解き明かしていく。
脅威となるブレードとコーラル砲は、予兆と予備動作が存在している。攻撃軌道も、再現性がある。
オービットは軌道予測が甘く、曲線的に動き続ける相手を捉えきれない。また1発あたりの火力は低く、多少の被弾であれば耐えられる。
そうした隙を621は見抜き、合間に攻撃を当てられるようになる。
回避し続けながら、次第にコーラルライフルとミサイルのヒット数が増大していく。
「いいぞ、621! 確実にダメージが蓄積している……!」
ブレードを回避した621は、カウンターのブレードを叩き込む。それを契機に、攻守は逆転する。
621の猛攻を、もう1機のアイビスは捌ききれない。
やがて機体から光が失われ、それは水面に落下した。
「敵機コーラル反応停止、やったか……待て!まだ終わっていない!」
湖に墜ちた機体に、コーラルの光が集まっていく。
CELに再び、赤い光が灯る。
「再起動……いや、それだけではない。この波形パターンは、まさか……」
アイビスが浮上し、もう1機のアイビスを見下ろす。そして、言葉を発した。
『この場に共振する強い反応……『コーラルを守る』という意思に、私も共振できた』
「……Cパルス変異波形……実在していたというのか」
これほど呆然としたようなウォルターの声を、621は聞いたことがなかった。
『今なら、私も戦える。コーラルを、焼かせはしません』
変異波形の発するその声は、今ならば、621にも聞くことができた。
CELの動きは、先程までとは別物だ。
単純に攻撃パターンが増えたのもあるが、先程までのような定型的な攻撃パターンがなくなり、予兆も読みにくい。さらに、こちらの動きに的確に対応してくる。
機体全体を光の翼のようにしてくる突進を、621は辛うじて躱す。
だがそこで、ウォルターから警告が発せられる。
「上だ! 621!」
上から新たに急襲したその機体は、赤く光るブレードを突き立てる。かろうじて回避した621の側の、湖底にそれは突き刺さる。
その機体は、汚れ、古びてはいるが、621のHALと、ほぼ同じ姿。
「この都市に残置されていた、HAL826を起動させたというのか」
『よお野良猫。決着を付ける時が来たようだぜ』
その搭乗者は、イグアス。
レッドガン部隊も、もはや無い。ただ、一人の仇敵として、621に相対する。
『行きましょうイグアス!』
アイビス2体と1体の、苛烈な戦場が始まった。
イグアスの駆るHALは、メンテナンス不足の影響か、純粋な動きでは621のHALに一歩劣る。
だが、エアの駆るCELと的確に連携してくるが故に、それは極めて厄介だ。
CELの猛攻を回避しながら、イグアスのHALの行動にも注意を払い続けなければならない。
621の攻撃の機会は、激減していた。
だが、それでもなお621はクリーンヒットを許さない。ジワジワと互いを削り合う戦況が、長く続く。
621は、エアの駆るCELの動きにも対応し始めていた。
規則的なパターンは無くなったとはいえ、その動きに癖はある。ましてエアは、戦闘の専門家ではないのだ。
無人機の動きではなくなったのなら、有人機として対処すれば良い。
あらゆる強敵と戦ってきた経験が、621にはある。
『あ……』
照準が、ピタリとエアを捉える。
アイビスを止めるには、ジェネレータを破壊すればよい。
それは成されるはずだった。
割り込む機体が、そこになければ。
『ぐあっ!』
イグアスのHALがビームを受けて吹き飛ばされる。
『イグアス!』
アイビスシリーズは、ジェネレータを破壊しない限り再起動する。
だがそれは、中の人間の無事を意味しない。
『う、ぐ……クソ……』
『気を確かに、イグアス!』
イグアスの意識は朦朧としてしている。
だが、強化人間の恩恵か、身に染み付いた経験か。
イグアスの動きに、陰りはほぼ見られない。
猛攻の応酬が、互いのアーマーを削り合う。
永遠に続くように思われた戦いにも、終わりの時は訪れる。
『ああ、静かだ……何もかも、透明で……』
『決着を付けましょう、イグアス』
2機のアイビスが、ブレードを構え、連携して吶喊する。
621も、ブレードを構える。
『野良猫、お前は……何を、選んだ……?』
イグアスはそう、問いかける。
強化人間C4-621は、ルビコンの過去も現在も、ろくに知らない。
過去に何があり、各々がどのような思いを抱え、どんな陰謀を巡らし、何を目指しているのか知らない。平穏な日常というものがどういうものかも、知らない。
だがそれでも、その直感に感じ取るものがあった。
他の何もかもを、殺し尽くしたとしても。
「行け、621! この仕事をやり遂げられるのは、お前だけだ……!」
621のブレードが、2機を貫くように
『俺は……いったい、何になれた……?』
『ごめんなさい、ありがとう、イグアス』
2機のアイビスが、同時に爆散し、地に落ちる。
コーラルの赤い光が、余韻に散る。
てめえのために、やったわけじゃねえよ。
通信には乗らなかったが、最後にそんな言葉が、聞こえた気がした。
「……よくやった、621。これで仕事も、終わる」
ログ集めをしていないので、何も知らない621。
これにてChapter4、完結です。
次回より、最終章。