アルティメット惑星封鎖機構によるコーラル焼却RTA 作:サンドフード
「行くぞ、621」
星々を背景に、並んだ2機は別れ、ウォルターは無人機の方へ、621はオールマインドの元へ向かう。とはいえあまりに数が多い。ウォルターも抑えきるのは難しいだろう。
ウォルターがSOLと呼んだ機体は、浮き上がると青色の巨大なビームを621に放つ。
回避は難しくなかったが、挨拶代わりということか。直撃されれば大ダメージを免れないだろう。常に意識せざるを得ない。
機動性も高く、小刻みなヒットアンドアウェイの動きでブレードを当てに来る。ブレードの威力も、侮れない。クリーンヒットを許せば一気に劣勢となるだろう。
『イレギュラー、貴方は多くを殺してきた。その思念が、我々の内にある』
オールマインドは、告げる。
『その憎悪が、我々の力となる!』
言葉と共に、多数の無人ACが、621に殺到する。ヴェスパー部隊やレッドガン部隊を模した、醜悪な人形たち。
「621!」
対応しきれなかったウォルターの叫びが響く。
同時に甲板上のレーザー砲台が動き出し、レーザーを発射する。
だが、その狙いは621
レーザー砲台は、無人ACを薙ぎ払っていく。
『甲板上武装のコントロールを取り戻した。ビジター、援護する』
チャティの声が、届く。
ミサイル等も放たれ、無人ACを破壊していく。
さらにカーラからも連絡が入る。
『船内で暴れ回ってた無人機をカウンターハックして制御を奪ったよ。何機かそっちにも送る!』
そうして船内から数機の『ゴースト』が現れ、無人ACと交戦を始める。
ACほどの戦闘力はないとはいえ、数の多い敵の足止めにはなっていた。
状況は持ち直し、621は再びオールマインドと対峙する。
ライフルで少しずつ削ってはいるが、大振りな攻撃を回避されるとまずいというのが分かっているのか、オールマインドの動きは慎重だ。
そこに、カーラの警告が届く。
『レーダーに反応! まだ追加があるのかい! 大量のドローン群がこっちに向かってる!』
オールマインドが守勢に回っていたのは、増援を待つ意味もあったのだろうか。無数のドローンの光が、ザイレムに近づいてくる。
対処するには、手数が足りない。遠巻きに集中砲火されれば、どうしようもなくなる。
だが。
青いレーザー光が何条も奔り、ドローンを撃墜していく。そして響く広域通信。
『コード92、現着した。特務部隊に通達! ドローン群を迎撃し、ザイレムおよび中の民間人を防衛せよ!』
『了解!』
ザイレムに近づいてくる強襲艦隊と、多数のLCの編隊。それは、惑星封鎖機構の、応援部隊だった。
交流こそほぼなかったが、あまりの強さに621達が一目置かれ、感謝されていたことは、本人たちには知られていない事実だった。
「助かる。救援、感謝する」
ウォルターの礼とともに、ドローンが次々と撃破されていった。621は、改めてオールマインドに向き直る。衛星砲の発射まで、あまり猶予はない。
爪のような3条のブレードの薙ぎ払いを躱した621に、残った1機のシースパイダーが突っ込んでくる。
どうにかそれも躱し、ミサイルを叩き込んで破壊する。だが、無理な回避で若干姿勢が崩れてしまっている。
オールマインドはそこを狙い、青緑に輝くブレードを掲げた。
『イレギュラー、貴方さえ、居なければ!』
だが、そのブレードを振り抜くことはできない。
「後ろが、がら空きだぞ」
無人機を片付け終えたウォルターの、レーザーランスが後ろからオールマインドに突き刺さっていた。
突進の勢いのまま、オールマインドの機体が押し出される。
『そんな……!』
そしてウォルターはレーザーランスを振り抜く。向かった先は、甲板の端。
『我々の、計画が……!』
ブースターを破壊されたオールマインドの機体は姿勢制御ができず、慣性のままに吹き飛び、自由落下を始める。その落下を留めるものは、もうない。
『人類と生命の……可能性が……』
そう言い残し、オールマインドはルビコンへと墜ちていく。
それを見下ろす621に、COMの音声が響く。
〈 コーラルオシレータ:IB-C03W2 WLT 101。コーラル照射装置:IB-C03W1 WLT 011。エネルギー流路接続 〉
コーラルオシレータは、通常時はブレードとして使用される。だがその根本の機能は名前通り、コーラルの発振器。その役割は、ブレードの形成だけに留まらない。
コーラルジェネレータおよびコーラル照射装置と接続して、大規模なエネルギーを供給する。
〈 オーバーチャージ完了。発射準備グリーン 〉
展開したコーラル照射装置から、赤く輝く光が溢れる。
万感の思いを込めて、ウォルターが言う。
「撃て、621」
号令とともに発射された光は、オールマインドの機体を貫き、そして地上のバスキュラープラントにまで突き立った。
閃光。そして。
コーラルの火とは、単なる爆発現象ではない。
他惑星に届くほどの単純な爆発が起きたのなら、ルビコン3が原型を留めているはずもない。起こった現象は、もう少し複雑なものだ。
一定以上の集積コーラルに着火した場合、コーラルは燃焼、膨張、加速、増殖というサイクルを繰り返し、どこまでも広がっていく。
それは、温度の上昇による燃焼速度の増大か、広がりすぎたことによる密度の低下に起因する、増殖速度の低下によってサイクルのバランスが崩れ、コーラルが燃え尽きるまで続くこととなる。
いわば、空間そのものがコーラルジェネレータの内部に変貌するようなものだ。コーラルの侵入しにくい閉所にいない限りは、生身の人間が耐えられるものではない。
この反応がどこまで広がるかは、集積コーラル密度による。だが、ある臨界密度を超えた場合には、このサイクルが崩壊せずに半永久的に持続してしまう。
結果として、コーラルの膨張界面はやがて亜光速にまで達し、数億光年の彼方まで届くことになる。これが技研の研究者が恐れた、コーラルと人類の破局である。
なお、理論上は、熱の発生を伴わない形でも類似した現象が起こり得るとされている。
ただし、前提条件が極めて厳しく、確率的には、自然に発生することはまず起こり得ないと考えられた。たとえばコーラルそれ自体が意思を持ち、意図的にその構造を作り出すようなことがない限りは。
このことは、今生きている人間は、すでに誰も知らない。
惑星封鎖機構の立案した
コーラルが完全に失われたのかどうか、それは分からない。だが、惑星封鎖機構はそれを確かめることを許しはしないだろう。
企業は現場部隊の暴走として責任を押し付ける形で、追求を逃れた。だが、その力は大きく低下し、再びルビコンに手を出す余力はもうないと思われた。
この惑星封鎖機構の計画の影に、一人の凄腕の傭兵がいたことが裏社会では囁かれている。その傭兵の名は『
その名を取って、二度目の災禍を『リンクスの火』と呼ぶ者もいる。
その傭兵がその後どうなったか、確かなことは分からない。
正式に封鎖機構のエージェントとなったとも、引退して一般人として余生を過ごしたとも、災禍と共に死んだとも、いまだルビコンの地に留まり続けているとも、様々に言われている。
いずれも、確証のない話だ。
確かなことは、一つだけある。
この冷酷な宇宙の平穏は、それでも今も、続いている。
END.
これにて、本編完結となります。ご愛読ありがとうございました。
この後、おまけが2本ほど上がる予定。