MtGの呪文と共に旅する異世界ファンタジー   作:レアブルー

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流刑への道/Path to Exile

「ギャギャー!!」

「っと《はらわた撃ち/Gut Shot》*1!」

 

既に攻撃態勢(コンバットフェイズ)に入り、こちらに飛びかかる醜悪な小鬼の魔物、ゴブリンに対して、とっさに"体力を削って(2点支払って)"無詠唱《インスタント》呪文を放つ。ゴブリンの腹部に対して消費した血肉を媒体に魔力の槍が生成され打ち込まれる。

 

消費に対して余り威力の無い呪文だが有象無象のゴブリン(タフネス1)にはこれくらいでも十分だ。普通に攻撃を食らう方が軽症だった可能性もあるが、手に持つ装備品にどういった付加効果があるか分からない以上、回避に越したことはない。それに魔力(マナ)も温存しておきたい。

 

「「「ギギギ!」」」

 

「おっと今度は複数お出ましか。無詠唱(インスタント)*2魔力(マナ)を食うから……」

 

"火の雨、降り注ぐ矢、空を燃やす"

「《猛火の斉射/Blazing Volley》*3

 

足下の"山"*4から赤マナを抽出して呪文を唱える。矢先が赤熱した矢が大量に生成され、目に付くゴブリンたちを貫いていく。詠唱が可能な場合(ソーサリータイミング)*5はこれが一番コストがかからず使いやすい。

 

「グギギ……!」

「少し大きいな、ホブゴブリンってところか」

 

先ほどの叫び声を聞きつけて援軍に来たか。多元宇宙*6のゴブリンたちほどじゃないけど、ここのゴブリンは多少結束や頭がある世界*7みたいだ。熊*8ほどの体格と装備している防具的に2/3*9ってところかな。

 

「グギャギャ!!」

「もう1体居るのか……付近に"沼"*10はなさそうだし、"山"の魔力(マナ)はさっき使ったし。……そういえばちょうどいいやつがいるな。」

 

"離れられぬ林の都。甘受する平穏"

"大地に根ざし、拡大し、やがては都の一部となる"

「《森の女人像/Sylvan Caryatid》*11

 

周囲の"森"から緑マナ、そして自身から追加の魔力(マナ)を抽出して、女性のようにも見える樹木の魔物(クリーチャー)を召喚する。

 

「グギギギ……!!」

 

ホブゴブリンがこちらに殴りかかるがそれは"森の女人像"で防ぐ。その力では女人像を超えられないだろう。

 

「グギャガ!!」

「そっちはこれだ。《稲妻/Lightning Bolt》*12

 

飛びかかってきた攻撃してきたホブゴブリンに、手持ちの"イゼットのロケット"*13より抽出した赤マナで呪文を攻撃中(インスタントタイミング)に唱える。ホブゴブリンへ向けた手のひらから"象"*14であろうと一撃で倒すことができる威力を持つ赤い雷が放たれる。直撃したホブゴブリンは断末魔を上げ、その身を焼き焦がされた。装備も予想通り粗雑で大した抵抗もなくそのまま息絶えた。

 

本来"稲妻"は俺の手に余る呪文だが、なんとか習得することが出来た。ストックは一つしか出来ないから大切に使いたかったが、あいにく手持ちの無詠唱(インスタント)呪文でホブゴブリンを一撃で倒せそうなのはこれくらいしか持ち合わせがない。まあ、ここが使いどころだったということだ。

 

あとは女人像に足止めしてもらっているほうだな。女人像は攻撃性能が皆無(パワーが0)攻撃できない魔物(防衛クリーチャー)なのでこいつで相手を倒すことは出来ない。だが、能力として任意の元素を持つ魔力(色マナ)を生み出すことができ、耐久力が高いの(タフネスが3)詠唱(ソーサリー)呪文を打つ隙も作りやすい優秀な魔物(クリーチャー)だ。魔力(マナ)の節約やこういった多人数戦の足止めに最適。さて、女人像に注意が行っている内に……

 

"幾千の時の流れ、怒りと排他の忘却"

「《炎の斬りつけ/Flame Slash》*15

 

女人像を倒せないでいるホブゴブリンに対して、俺が横薙ぎに振るった腕から炎の斬撃が放たれる。ホブゴブリンは断末魔を上げる暇も無く炎に切り裂かれ全身が燃え尽きる。こんな山の森の中で炎を使うと燃え移りそうなものだが、"土地破壊"*16ではないので大丈夫みたいだ。某龍球Zも地形が一番頑丈説があったし、そういうものなのだろうか*17

 

「……もう増援*18はなさそうだな。こっちも魔力残量(マナリソース)が心許ないし、一旦報告に戻ろうか」

 

 

 

 

 

「なんと!ゴブリンどころかホブゴブリンまで……しかも2体も居たのですか!」

 

依頼主の村長は心底想定外という風に驚いた。先ほどのホブゴブリンを2/3と例えたが、この世界の人間は基本的に1/1と思っていい。あの防具がある限り生半可な攻撃は通らないだろうし、力もあちらの方が圧倒的に上だ。だから3人がかりで装備を付けてかかってやっと1人倒せるかどうか*19といったところなのだ。まあ、こちらには呪文がある。実際、俺本体はおそらく1/1、ないしは0/1くらいだろう。

 

「ええ、流石に少し消耗したので一度こちらへ戻ってきました」

「いえいえ、我々でしたら生還するだけでも精一杯、それどころか討伐もされているとは……流石は大魔術師様です」

「大魔術師……そんな大層なモノではありませんよ」

 

流石に遺物級(レガシー)王族級(ヴィンテージ)*20古呪(エターナル)呪文はまだ扱いきれてないからな。使ったとしても自分自身がコストとして必要そうだし*21

 

「とにかく今夜はゆっくりお休みください」

「はい、そうさせていただこうと思います」

 

 

 

 

 

俺がこちらの世界へ転生?転移?して数年が経っている。森の中に飛ばされ最初は混乱していたものの、近くに落ちていた《願い/Wish》*22のカードを手に取ると、"多元宇宙"に存在する並行世界の自分の呪文を知覚できた。それで俺はMtG、マジック:ザ・ギャザリングの呪文を使えるようになった。

 

とはいえ、《願い/Wish》の能力は一時的(ターン終了時まで)のため、こうして依頼を受けて生活費を稼ぎつつ、呪文の収集、習得の旅をしている。最初は《願い/Wish》頼りで呪文を使っていたが、最近はなんとか自分の思考内(手札)に呪文を創出できるようになってきた。ただ、世界の修正力か、一度唱えると創出した呪文は知識から抜け(墓地に)落ちてしまう。なので定期的に"復習"*23を行う必要がある。用はストック制というわけだ。また、精神に大きなダメージを受けると*24ストックが消えることもあるので自身の図書(デッキ)にも呪文をまとめている。

 

ちなみに俺の今留めておける呪文(手札上限)は5つで、それ以上になると睡眠時(ターン終了時)に抜け落ちる。

 

呪文のコストに関してだが、自前の魔力(マナ)はあるにはあるが捻出が隙(タップが必要)になるし限度があるので、基本的には周りの土地から拝借することが多い。もしくは事前に作成した魔道具(アーティファクト)などからマナを引き出すのが通常だ。

 

これらの魔道具(アーティファクト)は一日もすると大気中や土地の元素を補充(アンタップ)し、次の日にはまたマナを生み出してくれる。大容量なものやMox*25を作成したくはあるが自分の魔力(マナ)的にも力量的にも限界があるので大量に作成して貯蔵とはいかない。

 

また、古呪(エターナル)呪文は魔力(マナ)コスト自体は非常に低く効率が優れているが習得難度が高く魔道具(アーティファクト)関連などは触媒が必要なことも多い。いつかは"Time Walk"*26や"Ancestral Recall"*27を唱えてみたいものだ。

 

「……さて、ゴブリンの巣穴*28まで来たわけだが」

 

流石に無防備に飛び込んでも自分の呪文にも魔力(マナ)にも限りがある。装備品を持とうにも俺はあまり自身の身体能力に自信が無い。ならばどうするか。

 

"自然、定命、形あるモノは永遠の中で等しく消える"

"形合うまで鉄を打て、合わねば全て無に帰せ"

"幾年の積層も、崩れ落ちるは須臾の時"

"繋がれた炎は雌伏の時を経て、今反逆の狼煙を上げる"

 

「《破砕/Demolish》*29

 

破壊の光が迸る。光線が大地を走り"巣穴に改装(エンチャント)された山"を破壊し尽くす。積み上げられた大地はその姿を崩し、地響きともに天然の要塞は今終わりの時を迎えた。中にいたであろうゴブリンも崩落する山から逃げ出す暇も無く岩石の下敷きとなる。

 

「――よし、こんなもんかな。っといっても、4マナ相当の呪文はやっぱり反動も隙も大きいな……」

 

今の呪文で手持ちの"イゼットのロケット"、"マナ晶洞石"*30、"山"、"森"から魔力を使用した。自分の魔力を消費していないとはいえ、行使するのは自分だから当然負荷がかかる。実際、今は反動で二小節(2マナ)以上の呪文が使えそうにない。今のところ俺の実力だと四小節(4マナ)以上の呪文はかかるコスト分の詠唱、消費する魔力貯蓄、どれも戦闘には使えそうにない。

 

ただ、こういった対軍、対城などに関しては、その後の戦闘を考えなければとても強力だ。できれば魔力効率の良い呪文を覚えたいところだが今の実力では「開拓者(パイオニア)*31ランクの呪文が精一杯だ。

 

「……完了報告して今日は休もう」

 

MtGの呪文が使えるんだ、異世界を周りながら呪文を学ぶのも楽しいだろうと思い早数年。最初はどうなることかとも思ったがこの世界も案外、悪くない。いずれは全ての呪文を使いこなせるようになるという目標も出来たし、それはそれとしてこの世界にも独自の呪文があるらしいから、それを探求するのもよし。それに多元宇宙の世界には世界を渡る方法*32もあったし、元の世界にもいつか戻れるかもしれない。

 

とりあえずは、そんな感じで今日を生きている。

*1
((赤/Φ)は(赤)でも2点のライフでも支払うことができる。)1つを対象とする。はらわた撃ちはそれに1点のダメージを与える。ファイレクシアマナと呼ばれる2点のライフでもマナコスト払える呪文。MtGの初期ライフは20なので効果は低いが0マナで打てる火力

*2
MtGにおけるカードタイプの一つ。コストがあればいつでも使用可能なカード

*3
各クリーチャーにそれぞれ1点のダメージを与える。

*4
MtGは土地からマナコストを生み出す。山は赤マナを生み出す土地

*5
ソーサリもカードタイプの一つ。こちらは自分のターンのメインフェイズにしか打てず、相手の呪文や能力に割り込むことができない。

*6
MtGのストーリー世界。かなり話が作り込まれているので是非見て欲しい。

*7
MtGのゴブリンは粗雑でありながら凄腕機械技師の集まり。なお、エルフは完全な脳筋蛮族の模様。

*8
MtGではよく使われる例え。最初に出たパワー2、タフネス2の能力無しクリーチャーが"灰色熊/Grizzly Bears"のため

*9
パワー2タフネス3の略表記。パワーは攻撃して与えるダメージ。タフネスはクリーチャー自体の体力を表し、0を下回ると破壊される。

*10
MtGの黒マナを生み出す土地

*11
防衛、呪禁 (T):好きな色1色のマナ1点を加える。0/3

*12
1つを対象とする。稲妻はそれに3点のダメージを与える。要は3点与える。MtG界で最高効率の火力呪文

*13
(T):(青)か(赤)を加える。(青/赤)(青/赤)(青/赤)(青/赤),(T),イゼットのロケットを生け贄に捧げる:カードを2枚引く。土地と同様にマナを生成するアーティファクト

*14
3/3のクリーチャー代表。熊に比べて余り聞かない。特定カードというより"獣群の呼び声/Call of the Herd"などトークンとして3/3が出てきやすい。

*15
クリーチャー1体を対象とする。炎の斬りつけはそれに4点のダメージを与える。クリーチャ限定かつソーサリーとはいえ稲妻越えの火力が1マナの驚異的マナ効率

*16
通称ランデス、文字通り土地カードを破壊するカードを指す。これを多用するとなんと友達も破壊することが出来る

*17
MtGはあらゆるカードに"土地以外の"という一文が付きがちなくらい不可侵領域。それでも干渉する方法は一定数あるが、一切触れないデッキも珍しくない

*18
デッキからレベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加える。……これは別のカードゲームですね

*19
MtGでは複数人で一斉ブロックが出来る。その場合は攻撃側は自分のパワーをそれぞれに割り振る必要があるので、パワー2だとタフネス1の2人を倒せる。ただ、パワー1が3人いるのでタフネス3のゴブリンも倒れる

*20
MtGの使用可能範囲であるフォーマットにおける最深部。レガシーは全ての範囲が使え、ヴィンテージに関してはその上で禁止カードが無い(1枚制限はある)。MtGが発売された1993年のカードも使用可能。国産カードゲームと違い、最初期のカードの性能が一番強いことと、再録禁止という一定以上昔のパックのレア以上のカードを収録しない誓いが建てられたため、価格がものすごいことになっている。"Black Lotus"の名は誰もが聞いたことあるだろう。

*21
大魔術師サイクルという"○○の大魔術師"という命名規則のクリーチャー群がいる。どのクリーチャーも過去の強力な呪文の能力を持っているが、中でもレガシー呪文を内包するタイプは自身を生け贄に捧げる必要があることが殆ど。

*22
このターン、あなたはゲームの外部にありあなたがオーナーであるカード1枚をプレイしてもよい。この場合の"ゲームの外部"とはサイドボードというマッチ戦での入れ替えデッキのこと。

*23
あなたの墓地にあるインスタント・カード1枚かソーサリー・カード1枚を対象とし、それをあなたの手札に戻す。

*24
"精神腐敗""蔑み""強迫"など、MtGの手札破壊呪文は精神に負荷をかけるカード名が多い

*25
0マナアーティファクトのサイクル。つまりただで1マナ増える。土地が1ターンに1枚しかおけないのに対し、Moxはアーティファクトのため無制限に置ける。当然レガシーでは禁止、ヴィンテージでも制限。各色それぞれ種類があり、亜種派生も豊富。原初の5種類5色のMoxは安くて40万、高いと300万近くする。

*26
あなたは、このターンに続いて追加の1ターンを行う。脅威の2マナ呪文。時折MtG民からはテイクマイターンと称されるターン獲得呪文。後にリメイク版として出た"時間のねじれ/Time Warp"が5マナ必要な時点でその強さがわかる。ちなみに"時間のねじれ/Time Warp"も規制を食らっているフォーマットがあるくらいには強力。

*27
プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはカードを3枚引く。最強の名を欲しいままにする"1マナ"の呪文。強欲な壺より引くカードが1マナで良いわけがない。"Time Walk"や"Mox"各種、"Black Lotus"などを合わせて"パワー9"とも呼ばれている

*28
(2)(赤),ゴブリン(Goblin)を2体生け贄に捧げる:赤の1/1のゴブリン・クリーチャー・トークンを3体生成する。今回はそのままの意味だがMtGのカードにも同名のカードがある。テキスト的に両親の代わりに子供が3人……

*29
アーティファクト1つか土地1つを対象とし、それを破壊する。貴重な土地破壊カード。貴重だが土地を破壊するだけでクリーチャーなどに干渉しないのでただ打つだけだと嫌がらせにしかならない。

*30
マナ晶洞石が戦場に出たとき、占術1を行う。:好きな色1色のマナ1点を加える。汎用的なマナ加速アーティファクト。通常の構築ではあまり使わないが統率者という多人数戦(基本4人対戦)で使われることがある

*31
MtGフォーマットの一つ。フォーマットは数多く派生があるが基本的な組み分けは、スタンダード、パイオニア、モダン、レガシー、ヴィンテージの順でカードプールが広くなる。

*32
プレインズウォークという"次元の外に広がる久遠の闇(次元間の隙間)を通り抜け、別の次元へと渡り歩く力"がある。これを持つものを多元宇宙ではプレインズウォーカーと呼ぶ。




ゴリゴリにルビ振るの楽しい。
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