金狐の獣人、スズナと共に旅をするようになって数週間が経った。
旅仲間が1人増えてもこれまでの日々が劇的に変わることも無く、相変わらず魔道書やカードを探しながら各地を旅する日々だ。
スズナを追う組織"札狩り"の構成員は各地色々な場所に存在しているらしいが、スズナの特徴的な金毛を隠すローブを羽織らせることで、俺はカードを使わないから傍目からは通常の魔法と判別が付かないということで、なんとか目を逃れている。ただあまりカードについて触れ回ったり、スズナの魔法を使わせたりはしない方が良さそうだ。
……ただ、問題は元の世界に帰る手がかりになるカードが既に奴らの手に渡っている可能性もあるということだ。その場合"札狩り狩り"をする羽目になるんだが――まあ最終手段にしておこう。
とりあえずは不必要な衝突は避ける形で日々を過ごしているのだが……
「むぅ……」
「スズナさん、何か不満でも?」
「大ありじゃ、これでは妾はただのお荷物ではないか」
「そんなこと無いと思いますが」
「しかし、刻印を使えんとなるとろくに力になれぬでな」
「荷物とか持って貰ってるじゃないですか」
「"とか"とはいうが、荷物持ちしかしておらんではないか!」
"札狩り"の目に付くとやっかいということで、戦闘面でも、旅先の交渉面でも、もっぱら俺が表立って動いている。特に戦闘に関しては刻印を使うと一発でカード持ちなのがばれるため、全て俺が解決している。
一応、言ったように道中の荷物の運搬はスズナにやって貰っている。魔法使いよろしく俺はそこまで力が強くないので道中の食料や魔道書の運搬に限界があったのだが、獣人であるスズナは華奢な見た目とは裏腹に力は俺の何倍も強く、頼りにしているつもりだ。結構助かっているんだが、本人としてはたいしたことの無い認識なのか不満げだ。
ふと思ったが、もしかして最初のスズナとの衝突で刻印じゃ無くて直接攻撃されたら危なかったのでは?
……あまりスズナを怒らせないようにしよう。
「しかし、耳を隠しておるというのにやたら周りの視線を感じたのじゃが、もしや変装しきれておらんかったかの?」
「……それは」
「まあ"少々"大仰な荷物は持っておるがそこまで目立つものでもないじゃろうに」
「……」
まあ、大体想像はつく。いくら変装しようともスズナの"どうみても子供"な小さな背格好は変えられない。そんなスズナに荷物を全て持たせて手ぶらで歩く俺を見る視線はスズナの視線の数倍飛んできていた。いや、俺も最初は荷物を持って貰うことに遠慮していたのだが、あまりにも軽々と運ぶ姿を見て任せてしてしまった。そして、「別にそれくらい誤差じゃ」などと言い、こちらの荷物も一緒にとスズナが持って行っていったがために、傍目には子供に荷物を全て押しつける外道魔法使いに見えているのだろう。
「……次の町では最低限、私の荷物はこちらにください」
「?妾はこの程度ならあっても無くても変わらんが……?」
「私の尊厳は変わるんです、多分」
「???」
別によいが……、というスズナの背中には、これまでは持ちきれず道中で捨てていた魔物や鉱石などの素材、業者から購入した魔道書などを積めて膨れ上がった荷物がある。ちなみに言うまでもないが俺はこんな荷物は持てない。……《剛力化/Titanic Growth》*1を使えばもしかすると……?くらいだ。
「……ほんとに無理してないんですよね?」
「ほっ、ほっ、――ん?何か言ったかの?」
「いやなんでもないです」
背負った荷物など存在しないかのように軽々と川を飛び越えていくスズナの姿を見て、こちらの世界に来て久々の常識の更新をした。ジュウジンッテスゲー。
「む、道が塞がれておるな」
「ああ、そういったのは任せてください」
苔に覆われた巨大な"鋼鉄"の残骸、錆び付いているとはいえファンタジー中世の時代に似つかわしくない明らかな人工物。実はこういったものはそこまで珍しいものでは無い。流石にそこら中に転がっているワケでは無いがあまり人が入らない森の奥地などにはたまに転がっている。
これはいわゆる古代文明の遺産だ。とはいえ何かすごい技術が転がっているというわけでもなく、基本的にはただの鉄塊だ。この時代に加工技術があるわけでも無く、もしかしたら俺の知らない街では何かしら利用しているところもあるかもしれないが、俺が知る限りはただの邪魔な障害物としてしか扱われていない。最初は俺も何か利用できないかと試行錯誤してみたが、どうも俺の頭では思いつかなかったので気にしないことにしている。
金属加工もなにもわからない現代人にはこの鉄塊は武器くらいしか利用方法が思いつかないし、それなら魔法で良い、ということだ。
「《帰化/Naturalize》*2」
周囲の"森"に満ちているマナを利用して呪文を唱える。
鉄塊に纏わり付いていた苔がさらに量を増やす。みるみるうちに表面全体を苔が覆い、ぐずぐずと内部から音がし始めたか思えば塊の形が崩れ落ち、砂の様にサラサラと流れた。
ちなみに今回は《帰化/Naturalize》を使用したが、MtGの呪文は用途によって同じ効果でも結果が違うものがある。例えば今回のように全体を崩す場合だと《帰化/Naturalize》、一部を削り取ったり、壊したりする場合だと《削剥/Abrade》*3。壊すと言うより使い物にならなくする場合だと《解呪/Disenchant》*4など、色や呪文の種類によって微妙な違いがある。
「おお、見事なもんじゃの。これも札の魔法か?」
「そうです。とはいえ私のはちょっと特殊なのであんまり参考にはならないと思います」
「そういえば札も刻印も法具も使っておらぬな」
「まあ、そこは企業秘密と言うことで」
正直話しても良いが説明が面倒だ。
「まあよい、この手のものは妾が処理すると散らかるからのー」
そういいつつ、崩れて砂状になった古代遺物をひょいと超えていくスズナ。と、膨れ上がった大荷物
……もしかして俺が呪文使わなかったらスズナさん素手で《粉砕/Shatter》*5してました?
・クリーチャー1体を対象とする。削剥はそれに3点のダメージを与える。
・アーティファクト1つを対象とする。それを破壊する。便利なモード選択ができる置物破壊呪文。除去兼任でメインデッキに入れても腐りづらい
ごぶさたしています。生存しております。