勝手にセイバーマリオネットJ   作:ニラ

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04話

 

 

 

 

 『ジャポネス歴史資料館:1F』

 

 小樽が床下(?)に落下した後、其の侭暫くは呆然としていた蔵人だったが、ハッと我に帰ると恐る恐る小樽の落ちた床に脚を乗せてみる。

 

 少しづつ体重を載せて行きなんとも無いのを確認すると、今度は『ドン! ドン!』と足を踏みしめてみた。

 だがそこから返ってくる反応はなく、普通に唯の床としてそこに有るようにしか感じない。

 

 蔵人は眉をしかめると、床に向かって

 

「もしもーし……小樽さんやーい」

 

 と声を掛けてもみたが、当然返事が返ってくる訳も無く、辺りにはシンとした静けさだけが残る。

 流石に少々焦りを覚えた蔵人は、手にしていた扇子を開き、パタパタと仰ぎ始めた。

 

「コレは……もしかして、ちょっと不味いのかな?」

 

 一瞬、蔵人の脳内に数日後の瓦版の見出しを飾る一文

 

 『ジャポネス歴史資料館の悲劇! 友人同士の間に一体何がっ!?(若き実業家A被告逮捕)』

 

 等といったモノがが浮かぶ。

 蔵人はそれに苦笑いを浮かべると、

 

「不味いよな? しかもかなり」

 

 と、呟いてから壁の方へと歩いて行った。

 そしてそこに設置してある、案内用の端末に手を伸ばすと操作をし始める。

 

 助けを呼ぶ――訳ではない。

 此処は歴史資料館である。そこに有る端末が、外と繋がっている訳がないのだ。

 

 だが蔵人は端末に指を走らせ、何度か操作を進めると、徐に画面に向けて手を置いた。

 その瞬間、一瞬だけその瞳が光ったように感じる。

 

 すると写っていた画面が切り替わり、何かしらの見取り図が映った。

 中央には光点が点滅をしている。

 

「地下に落ちた? って事か……。まぁ、良かったといえば良かったが……だが、此処に地下なんて有ったのか?」

 

 蔵人は画面に映る『B1』と言う表示を見ながらそう呟いた。

 

 少なくとも、彼の記憶の中には『ジャポネス歴史資料館は一階建て』と成っているのみである。

 

 蔵人は「むぅ」と唸りながら、自身の首を何度か扇子で叩くと

 

「回収するにしても何にしても、一度この建物の事を調べないことにはどう仕様も無いか」

 

 と言って、懐から携帯電話を取り出した。

 そして短縮ダイヤルを選択すると、耳元にそれを当てて繋がるのを待つ。

 

 すると、数回のコール音の後に電話が繋がるのだった。

 

《――はい、天内工房・本社です。電話担当プラムがお受けいたします》

 

 電話口の向こうからは、高めではあるが抑揚の低い落ち着いた声が聞こえてきた。

 その声の主はマリオネットである。

 

 マリオネットが、電話口でいう言葉としては及第点と言えるだろう。

 だが蔵人はその受け答えの言葉に対して、それはもう大きな溜息を吐いた。

 

「何を言ってるんだ、お前は? ……『電話担当』も何も、そっち(本社)にはプラムしか居ないだろうに」

《……え? あ、マスターでしたか》

 

 蔵人の声を確認してか、電話の相手――プラムと呼ばれたマリオネットは、若干声のトーンを上げて言ってきた。

 その声色には、幾分嬉しそうな感覚さえ感じられる。

 

 とは言え、その口調から感情を読み取るのは非常に難しい。

 淡々とした声色は普通のマリオネットの音声に似通っているのだが、其処に少し感情の色が見え隠れしているのだ。

 

「何が『マスターでしたか』だ。そもそも、この回線は俺しか使わないだろう?」

《そう言えば、そうだったわね。御免なさい、つい普通回線のノリで……うっかりしていたみたい。反省、するわ》

 

 本気で言っているのか、プラムは淡々とした口調でそう言ってくる。

 正直な所、マリオネットであれば抑揚の無い、機械的な声を出すのが当然なのである。

 だがしかし、この電話向こうのプラムと言うマリオネット……どうやら今ひとつ、他のマリオネットとは毛色が違うようだ。

 

 その言葉の端々には、感情の起伏を感じさせる。

 それに、少なくとも普通のマリオネットならば「~~のノリで」何て絶対に言わないだろう。

 

「ノリって、お前ね」

《仕方が無い、許して欲しい。実際、こうでもしてないと毎日が暇で暇で仕方が無いんだもの。たまに掛かってくる電話といえば、注文の電話に、間違い電話に、いたずら電話……そんなのばっかり》

「――は? いたずら電話が掛かってくるのか? 工房の方に?」

《掛かってくる。……多分だけど、適当に番号を回して掛けてくるのでは?》

 

 適当に掛けて繋がるような番号も問題だとは思うが、それはそれだ。番号が悪いのではなく、掛けてくる方が確実に悪い。

 なので番号を変えるつもりは更々無いのだが、職場にイタズラ電話というのは頂けない。本職では無いにしても、『天内工房』の方もれっきとした仕事であることには違いが無い。

 

「イタズラ電話か……近いうちにどうにかしないとな」

 

 何かしらの措置を取ろうと考える蔵人であったが、今はソレ以外にも気になる事があった。

 それは

 

「あ、ところでなプラム。イタズラ電話って、因みにどんな内容だったりするんだ?」

 

 という事だ。

 

 怖いもの見たさ――というのも手伝っての事だろうが、まぁ、高々間違い電話やイタズラ電話だ。それ程に酷い内容は無いだろう。

 しかし、とは言え興味もある。

 蔵人はプラムに尋ねると、電話向こうでプラムは何故か《コホン……》と一つ咳払いをした。

 

 そして蔵人は、プラムにイタズラ電話の内容を聞いたことを、ちょっとばかし後悔する事になる。

 

《――はぁ、はぁ、はぁ……お、お兄さん、い、今、どんなパンツ履いてるのぉ? ……とか》

「……おいっ」

 

 向こうで本当にプラムが喋っているのか? と、疑問に思ってしまうほどの声色の変化。

 携帯のスピーカーから聞こえた声は、今までの少女らしい高い声とは打って変わって、野太く厳つい声が聞こえてきたのだ。

 

 予想の上を行く声とその内容に、蔵人は口元を『ヒクリ』と動かす。

 ……当然、嫌悪感が理由である。

 

 蔵人は一言だけ言ってやろうと口を挟むが、どうやらプラムに止まるつもりは無いらしい。

 

《それに対して私は毅然とした態度で、こう声色を変えて――オホン……『今日の俺は、黒色に金のラメが入ったボクサーパンツだねぇ』っと》

「おぉいっ!! その声、何だか俺に似てないかなっ!?」

 

 電話越しのスピーカであるから多少はくぐもった様にも聞こえるが、だがそこから聞こえる声は、紛れも無く蔵人と同じ声だと言えた。

 蔵人は驚きの余り声を荒らげて問い正すが、当のプラムは何のその。

 

 特に気にした様子もなく、至って普通に返答を返してくる。

 

《それは、似ていて当然。何せ、マスターの声を参考にしているのだから》

「ちょ、おま……」

《おま……? 何かしら?》

 

 何やら一気に疲れてしまった蔵人は、閉口して言葉を無くしてしまった。

 プラムはと言うと、そんな蔵人の変化を感じ取ったのか少しだけ心配そうな声色になり

 

《マスター? ……もしもし、マスタぁ? おーい?》

 

 と、敬意の欠片も見れないような問い掛けをしていた。

 だが一向に返答の無い蔵人に何を思ったのか、プラムは《そうか……》と言うと、少しだけ間を置いた。

 

 そして何を言うかと思えば

 

《あの、ねぇ、マスター? いい加減に構ってくれないと、そろそろ私のAIが愛を求めて暴走しそう》

「……」

《……》

「ナニ言ってるんだ、お前?」

《あれ? 今の良い台詞じゃなかった?》

 

 蔵人は正直、大きく、盛大に、ソレこそ周囲に響くほどの溜め息を吐きたい気分であったが、どうにも先程の事が尾を引いていて溜め息を吐く気力もない。

 

 とは言え、流石にプラムも多少は落ち着いたのか、無言の蔵人に耐えかねて《そろそろ本題に入ってちょうだい》と言ってきた。

 

 まぁ、その言葉にも『何故に俺がかき乱したような言い回しなのか?』と蔵人は言ってやりたかったようだが。

 

《それにしても珍しい。わざわざマスターの方から、私に連絡をとってくるなんて。――もしかして、寂しかったの?》

「本当に何を言ってるんだ、お前は? はぁ……大至急、ジャポネス歴史資料館の見取り図を調べてくれ」

《ん、真面目モード……? えっと、歴史資料館って言うと、確か今日、マスターが行く事になってるところだった?》

「今現在も、その場所に居る」

 

 カタカタとキーボードを叩く音が、電話口から聞こえてくる。

 向こう側に居るプラムが、何やら操作を行っているらしい。

 

 『天内工房本社』から、ジャポネスの役所にあるデータベースにアクセスをしているのだろう。

 

《了解。見取り図の入手を完了したら、直接に届ければ良い?》

「いや、どういった届出になってるかを、口頭で説明してくれれば良いよ」

《解った――…ところで、マスター》

「ん、何だ?」

 

 蔵人は向こう側でのプラムの雰囲気の変化を感じ取り、眉を顰めて問いかけた。

 

《マスター、そろそろ私との同居……考えてくれた?》

「……む」

 

 プラムの言った内容に、蔵人は少しばかり唸った。

 

 既にお気づきとも思うが、プラムと蔵人は同じ場所で生活をしてはいない。

 蔵人はジャポネスの"かさはり長屋"に、そしてマリオネットであるプラムは"天内工房本社"で、其々寝泊りをしているのだ。

 

 まぁ、コレには色々と理由があるのだが、大まかに言うとプラムの調整作業のため――である。

 

 プラムと言うマリオネット、ゼロからと言う訳ではないが、彼女は蔵人が作ったマリオネットなのだ。

 『自身の持っている最高水準の技術で』……と手を加えたは良いのだが、どうにもその、手を加えた内部機構が不安定であった。

 自身が主に活動をしているジャポネスに連れてきた場合、もしもの場合に対応が出来ない可能性が有る。

 その為大事をとって製作後の起動からこっち、別々の場所に居たという訳だ。

 

 もっとも、それ以外にも理由があるのだが、それは今はどうでも良いことだろう。

 

 さて、ここまで来ると『天内工房本社』とはいったい何処に? と成るのだろうが。

 それは、まぁ……ジャポネスから若干離れた場所に在る――と、理解してくれれば良いと思う。

 

 もっとも、コレまた本社とは名ばかりの場所で、その場所に詰めているのもプラム一人だけ。何かの重要書類がある訳でもなければ、何かの荷物が運び込まれることも殆ど無い。

 少々……どころか、かなり寂しい場所なのだ。

 

 因みにプラムは同居云々といった言葉を使っているが、要は現在の場所が暇で暇でしょうが無いのだろう。

 

《ちゃんと解ってるの? 私がマリオネットだって事を。本当なら私は、『ご主人様』で有るマスターに直接仕えてこその存在。 つまり――》

「その事なら安心していい。そろそろ……と言うか、お前の調整がもう少しで――多分後一回くらいで終わるからな。それが済めば、俺が住んでる長屋の方に越してきても大丈夫だ」

《……え?》

 

 プラムは蔵人の言葉が理解出来なかったのか、間の抜けた返事を返してしまう。

 

 だが、元々別々に居た理由が『もしもの時に備えて』との事なので、それが問題ないのなら蔵人がこう言うのも当然なわけで……

 

 しかし、どうやらプラムからすると予想外の答えだったらしい。

 

《え? うそ、だってそれって、あれ? え……冗談?》

「だから、お前は何を言ってるんだ?」

《という事は……という事は、あれ? 本当なの?》

「あぁ、最終調整が終わったらな」

 

 答えに行き着いたプラムに、蔵人は肯定するように言葉を重ねるのだが――

 

《――……あ》

「?」

《……有り難う、マスター》

 

 ブツっ……。

 

 と、若干言葉使いを変化させて、一方的に電話を切られてしまった。

 蔵人の手に持っている携帯からは、『ツー……ツー……』との音が聞こえている。

 

「……ちゃんと、届出を調べろよ?」

 

 と、既に聞こえないだろう電話に向かってそう言うと、蔵人は懐に携帯をしまうのだった。

 

 蔵人は、

 

(これじゃあ、何のために連絡をしたのか解らないな)

 

 と、心の中で思ったのだが、

 

(まぁ、いつもの事か……)

 

 と、納得もしてしまうのだった。

 

 しかしだ、プラムに連絡をした理由は元々、小樽の落ちた場所を確認するためである。

 少なくともグルッと館内を見て回った感じでは、蔵人は地下への階段がある様には思えなかった。

 

 もしこのまま発見することが出来ないのであれば、それは最悪の場合も考慮に入れなくてはいけない。

 

 蔵人は覚悟を決めると

 

「……アレだな。もしもの場合は『え、小樽? 最初から此処には居ませんでしたよ?」――って、コレだな」

 

 褒められない形での覚悟を決めた蔵人は、そう口にするとイイ笑顔を表情に出すのだった。

 

 だが……

 

「――ほーう、随分と面白ぇ事を言ってるじゃねぇか? え、蔵人」

 

 ピシィッ……!

 

 瞬間、空気が凍った。

 蔵人の背後から聞き慣れた声が聞こえたのだ。

 

 恐る恐ると言ったふうに、蔵人は油のキレたマリオネットの様に後ろへと首を回して行く

 

「お、小樽?」

「……おう、俺だい」

 

 蔵人が首を回し視線を向けた先には、先程穴に落ちてしまった間宮小樽と、そして見慣れぬ裸のマリオネットが立っていた。

 見るとそのマリオネットの肩には、小樽の上着が掛けられていて辛うじて全裸ではない状態に成っている。

 

 勿論蔵人はそっちのマリオネットを気になりはするが、今現在は其処ではない。

 

「……」

「…………」

「いや、まぁ……無事でなにより」

「何が無事でぃ! 危うく大怪我するかと思ったぜ!!」

 

 しばし無言で見つめ合っていた二人だったが、蔵人の発した言葉が引き金になって小樽は爆発してしまった。

 

 まぁ、小樽が床下に落ちたのは一割~二割ほど自業自得な処もあるのだが、とは言え残りは蔵人の所為だと行っても過言ではないだろう。

 もっとも、投げ飛ばされた時点で大怪我をしていないのは流石というべきなのだろうか?

 

「ま、まぁちょっと待て、俺はだな小樽、ちゃんとお前のことを救い出そうと、建物の間取りを調べたりしてたんだぞ」

「……それじゃあ、さっきの台詞は一体何なんでぃ」

「そりゃ……もしもの為の予行練習を――――」

「あのなぁっ!! ――――ぐぇっ!」

 

 怒って一歩踏み出そうとした小樽だったが、丁度横から伸びてきた手が小樽の服を引っ張り、

 首を絞められるようにつんのめる事に成った。

 

 それをやったのは、小樽の隣に居たマリオネットである。

 

「――……っつぅ~、何しやがんでぃ『ライム』! いきなり引っ張るんじゃねぇよ」

「あう……ごめんちゃい」

 

 首を摩りながら怒る小樽に、マリオネットの方――ライムは、申し訳なさそうな表情を浮かべて謝罪の言葉を口にした。

 そこで初めて、蔵人はライムの方へとまともに視線を向けたのだが、一瞬だけ片眉をピクリと動かした。

 

 小樽はライムの表情に罪悪感を覚えたのか、表情を緩めて話しを聞くことにする。

 

「ったく、で? 一体ぇ何なんだよ?」

「あ、うん。あのね、小樽、この人って誰?」

 

 ビシッ!……と指をさしながら尋ねてくるライム。

 その指先は当然、蔵人へと向けられていた。

 

 そのライムの行動に、蔵人は「む……」と言葉を漏らす。

 

 何故なら、ライムはマリオネットだからだ。

 

 普通のマリオネットには、擬似意識――所謂『AI』が組み込まれている。

 これは人とのコミュニケーションを円滑に行うための措置なのだが、その中には『人間に対して不敬を働いてはならない』といった、

 ある種の隷属に近い命令がセットなされている。

 

 だがこのライムと言うマリオネットは、『人に対して指をさす』といった事をしているのだ。

 

 そんな行動をとる可能性としては、頭脳となる擬似意識が壊れているか、

 元々今のような反応をするようにプログラムされているか……もしくは――

 

 目の前の事に対して自身の考えを纏めようとしていた蔵人だが、どうやら予想はついても確証はないと考えたらしい。

 気を紛らわせようと、手にしている扇子を使って『トントン』と首筋を叩いた。

 

「あ、そっか。――コイツは俺の友達で、名前は天内蔵人ってんだ」

 

 小樽はライムに紹介するように、蔵人に視線を向けつつそう言った。

 だが説明を受けた当のライムは、首を傾げている。

 

「くらんど? くらんどー……くらぁんど……えーっと、それじゃあ、蔵ちゃんだね?」

「は、蔵ちゃん?」

 

 恐らくあだ名なのだろうが、蔵人は呼ばれ慣れない名前に眉をしかめた。

 

「うん、"くらんど"だから蔵ちゃん。へへへ……よろしくね、ハオっ♪」

 

 ライムはマリオネットらしからぬ笑顔と共に手を上げて、

 そして更に片側の腿を持ち上げるといった妙な挨拶をしてきた。

 

 奇妙だとは思っても、小樽も蔵人もそんな事で目くじらを立てるような性格をしてはいない。

 だが――しかし、それ以上の破壊力がそれには有ったのだ。

 

 手を上げて片腿を上げる。

 それによって、単純にライムの肩に掛けてあっただけの上着はバサりと落ちてしまい、

 正面から見ていた二人の視界には柔らかそうな双球が飛び込んでくるのだった。

 

「…………な、な」

「は、はお?」

 

 顔を紅くして無言で見つめ続ける間宮小樽。

 そしてほんの少しの照れた表情を作りながらも、一応の返事を返した天内蔵人。

 

 反応の違いこそあれ、二人に共通して言えること……それは――

 

 視線はしっかりとライムをガン見している、つまりは、二人は年相応に助平だという事だった。

 

 

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