四人の英雄が世界を救ってから五百年、とっくに霊になったので今度は八人で世界を救う   作:ヘルメットのお兄さん

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書きたくなったので書きます


人間の英雄と人間の学者

 五百年前、世界には魔王がいた。

 

 大地を枯らし、生命を散らし、消えない闇を振り撒いた。

 

 人々はいつ自分が魔王の手にかかるのか恐れるばかりだった。

 

 しかしある時、魔王を倒すべく四人の英雄が立ち上がった。

 

 人間の英雄、カレッド

 

 エルフの英雄、ヴァルト

 

 ドワーフの英雄、ミネル

 

 獣人の英雄、ティ―ア

 

 彼らは英雄として名を挙げてから僅か数年で魔王を倒して見せた。

 

 そして彼らは世界に称賛され、その後は曖昧だが一説には莫大な名声と富を築いたと噂されている。

 

 今も尚魔王が残した影響は数あれど、間違いなく世界は平和を取り戻した。

 

 それから五百年の時が経ち―――――

 

 ◇

 

()はとある村に居た。

 

 世界でも有数の経済大国であるフィーネ国、その辺境にある小さな村────ヒルア村に訪れていた。

 

「────―よし、今日はここまでにしようか」

 

「わかりました、エクト先生」

 

 エクトと呼ばれた男は、若い姿をしている。

 

 肩まである灰色の髪を一つに纏め、コートを着込み露出を最小限に抑えていた。

 

 人によっては、彼を文学的な優男だと評するだろう。

 

「ふぅ……しかし──―学者サマってのは随分と体力があるんですね」

 

「僕が珍しいだけだよ、それに僕は長ったらく机に向かっているよりはフィールドワークの方が好きなんだ」

 

 エクトは手袋に付いた土を払うと、へたり込んでいた部下を引き起こした。

 

「所で先生……俺と先生は今回が初対面じゃないですか。俺はフィーネ国から派遣された研究員ですけど、どうしてこんな辺境の村に来たんですか?」

 

「聞かされてなかったの……? 国の依頼だよ、各地で確認されている魔物の発見数が増加傾向にあるから原因を調査してくれっていう……」

 

「それ、先生の仕事なんですか? エクト・ラムザと言えば高名な若き歴史学者! それをどうして先生が」

 

「現地調査に赴ける体力のある学者なんて多くは無いからね、爺さん連中よりは……楽に交渉できると思ったんだろうね」

 

「先生は良いんですか? なんというかそんな雑な扱いを受けて……」

 

「別にいいかな、僕は旅が出来るなら何でも良いし」

 

 エクトの言葉に部下は何とも言えない顔をしていた。

 

 ◇

 

 宿、備え付けられたベッドにエクトは体を預ける。村に一つしかない宿だが質は悪くない、仰向けになるとほう、と息を吐く。

 

『────―おう、帰って来たか、それで収穫はあったか?』

 

「……カレッド、一回休ませてくれない?ちょっと疲れたんだけど」

 

『嘘つけ、それくらいで疲れる様な鍛え方させてない筈だぞ』

 

 エクトは自分の上でふよふよと飛んでいる幽霊と笑いながら話す、彼はかつて世界を救った英雄カレッドその人だった。

 

『昔はお前も純粋な人間だっただろうに、学者仕事に追われて衰えちまったか?』

 

「まだ二十三歳だよ?僕。衰えるには早すぎる」

 

『ならベッドから跳ね起きてスクワットするくらいの気概は見せないとな?』

 

「それはまた後で―――――」

 

「先生? いらっしゃいますか?」

 

「おっと……開いているよ!」

 

 エクトは起き上がり、服を正すと部下が資料を持って部屋に入って来る。

 

「失礼します―――部下では無く一学者として先生に聞きたい事があるんですが……駄目ですかね?」

 

「良いよ、僕に答えられる範囲なら。これでも学んでる分野は広いからね」

 

「ありがとうございます! それで……俺は魔術学を学んでいるんですが、以前読んだ本では魔術と魔法が混同して記述されていたんです。この二つの使い分けってなんでしょう?」

 

「魔術か……まず魔術はわかるね?」

 

「はい、世界に漂っていたり、生き物の体内に存在する魔力を利用して超常的な力を引き起こす技術の事です」

 

「そう、魔術を扱う最低条件として、正常な魔力炉があるか、ないかというものがある」

 

「魔力炉……心臓の反対にある器官ですよね」

 

 部下は自分の胸を指す。

 

「そう、基本的に魔力炉はどの生物にもあって魔術を扱える生物は皆共通して球体だ。大きさと出力に違いはあるけど……」

 

「俺、王宮の医者に「キミの魔力炉は小さいね、魔術師は向いてないよ」って言われました……」

 

 部下の言葉にエクトは苦笑いする。

 

「こればっかりは才能もあるね、それで……現在普及している魔術は丸い魔力炉を持った人間が開発した物だ。それは()()()()()()()()()()()()()使()()()()

 

「そうですね」

 

「だけど例外も居て……例えば、僕の魔力炉は()()()()()()()()()()

 

「えぇ!? マジですか!?」

 

「マジだよ、かなり珍しいけどこういう人は存在する。お陰で僕は魔術を使えないんだ、火を起こすのにもライターみたいな魔道具を使わないといけない────代わりにこんなことが出来るんだ」

 

 エクトは何もない所から一振りの剣を取り出し、目の前で握って見せた。

 

「うわ! それって一級魔術ですか!?」

 

「まさか! これは僕の()()()()()()()()()()()()……これが魔法だよ」

 

「つ、つまり……丸い魔力炉を持った者が使える力が魔術で――――それ以外の生物が使う力が魔法って事ですか?」

 

「そういう事。――――実際の所、変質した魔力炉なんて滅多に見ないし実例が少ないから魔法とちゃんと区別できている人は多く無いんだけどね」

 

「所で、先生はその魔……法はどうやって使えるようになったんですか? 他に正八角形の魔力炉の人が居て教えてもらったとか?」

 

「いや? 完全に我流だよ。だから君には教えられないし――――もしも僕と同じ魔力炉の人が現れても教えられないかな」

 

「はー……成程、ありがとうございました! これで今夜はよく眠れますよ!」

 

「そこまで悩んでたの……?」

 

 ◇

 

「さて……それじゃあ僕はもう寝るよ、暇だからって騒いだりしないでよね」

 

『しねぇよ、ガキじゃねぇんだから』

 

「そう? じゃあお休み」

 

『おう、明日も早いんだろ』

 

 程なくして夢の世界に旅立ったエクトを見届けると、カレッドはふわふわと窓をすり抜け外に出る。

 

『魔王を倒して五百年……平和なのは喜ばしい事だが、なんで俺はここにいるのかねぇ』

 

 太陽は沈み、月の光が地上を照らす。

 

 そんな場所で穏やかに進む時間に、カレッドは眠る必要も無いのに目を閉じた。

 

『神様が許してくれないのかね……?全く―――――』

 

そして、この日がエクト・ラムザの最後の日常だった。

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