四人の英雄が世界を救ってから五百年、とっくに霊になったので今度は八人で世界を救う 作:ヘルメットのお兄さん
次に目が覚めたのは部屋の中だった。
「……ここは」
部屋を見渡すと質素な部屋だとわかる、壁に立てかけられた剣と鎧。それ以外はベッドと机だけだった。
「起きたか、エクト殿」
起きたばかりのエクトに話しかけたのは立派な髭を蓄えた大柄の壮年だった。
「貴方は────―」
「俺はソワード、ここイニィーツィオ大都市を護るイニィーツィオ警備隊隊長さ」
イニィーツィオ大都市、フィーネ国の主要都市であり魔導技術が進んでいる先進都市────―
どうやらエクトは、その警備隊の宿舎まで運ばれたようだった。
「俺らは小部隊での遠征訓練中だったんだが……突然ヒルア村の方から大量のゴブリンが現れてな、これは何かあったと全部斬り倒してから村へ行ったら……貴殿を残して全滅していた。一体何があったかわかるだろうか?」
「────―実は」
エクトは全て話した、夜起きると村が地獄と化しており、ゴブリンが現れ更に鹿の魔獣まで現れたという事を。
「鹿の魔獣……そんな奴は初めて聞いた。しかし俺らはゴブリンしか見なかった……という事はゴブリンと鹿の魔獣は別の原因なのか……?」
『エクト、エクト』
「カ……(カレッド、君も居たの!)」
『あぁ、お前が目覚めて良かった……けどその前にそこの警備隊長に追加で伝えてくれ』
エクトは、カレッドから聞いた鹿の魔獣を覆っていた黒い靄についても話した。
「黒い靄……? しかも一瞬しか見えなかったと来たか……流石にそれだけでは何とも言い難いな」
「ですよね……」
「だが話してくれたのはありがたい、一先ず貴殿は休んでいた方が良い。目立った傷は回復したが疲労まですぐに治せる訳では無いからな」
◇
それから三日後、エクトはベッドから起きあがり資料を作成していた。
「確か時刻は────―うん、で……視認できる限り居たゴブリンの数は────―」
『あの鹿の魔獣、感じ取れた限りでは最低でも魔力量が────―』
「エクト殿、少し良いだろうか」
ソワードが訪ねて来たので一時中断したエクトは、彼を招き入れた。
しかし、扉を開けて入って来たのは彼と耳の長い少女だった。
「ソワードさん、彼女は?」
「あぁ、実は────―」
どうやらソワード曰く、この藍色の髪をした耳の長い────―正式に言えばエルフの少女はヒルア村から少し離れた場所に居た為保護したという。
しかし何かに怯えているのか全く喋らず、かといってイニィーツィオ警備隊にはエルフ語が話せる人が居らずエクトに縋りついたという事だった。
「できれば家族の下へ返したいんだがエルフ語はわからないし、彼女らは長命だろう? もし失礼を行っては種族間の問題になりかねないから……頼む!」
「それくらいなら大丈夫ですが……エルフ語か……」
エクトは了承こそしたが……種族関係なく最も多くの国で用いられるリングワ語と違い、エルフ語はかなり難しい。というのもエルフは森を主な住居とし、それもあらゆる森でばらばらに暮らしているので各森に住むエルフで異なった
一応エルフ語は習得しているものの、それは彼が学生時代学んだ国の近くのエルフ語なのだ。果たしてこのエルフの少女が自分の通用するエルフ語か────―
「────―師匠?」
『へ?』
少女は突然、リングワ語を話した。いや、それだけならまだいいが────―
「あ────―違う……」
『は? おい、え? 俺の事見えてんのかっていうかなんだ違うって!?』
かと思えばカレッドを見て酷く悲しそうな顔をした。
ソワードは突然虚空に向かって喋った少女に不可解な顔をしたが、エクトは全く違う反応をした。
「ソ、ソワードさん。彼女とは僕が交流してみますので一度席を外して貰っていいですか?」
「わ、わかった。何かあったら呼んでくれ」
そして退室したソワードを確認すると、エクトは……エクトとカレッドは少女と対話を試みる。
『なあ、俺の事見えるのか?』
「うん」
「どうして彼を師匠って?」
「師匠とおんなじ」
『師匠……? お前の師匠も幽霊って事か』
「……ゆうれい?」
「……? 幽霊だよ、えっと……『幽霊』」
エクトはエルフ語でも話してみたがそもそも幽霊という単語を理解していないようだった。
なんというか、エクトは幼い子供と会話しているような感覚だった。
『ええと……そうだ、名前はなんだ?』
「オリリア」
「オリリア……良い名前だね」
「うん」
『オリリア、家はどこにある? 帰るなら手伝って────―』
「すっごく暗い森」
「森って……もしかしてヒルア村近くの森の事かな……?」
『イニィーツィオで森と言ったらあそこしか無いだろうな……ふむ行ってみるか』
◇
そして、ソワードを呼びオリリアが森に住んでいるかもしれないと伝えるとソワードは苦い顔をした。
「成程……考えてみればエルフは森に住んでいることが殆ど。確かに妥当だが……あそこは魔力量が多い箇所なんだ」
国によっては魔力量が多い区域は進入禁止措置が取られている事もある、無暗に侵入して魔物化しては大変な事になるからだ。
そしてイニィーツィオの森の魔力量が多いという事は。
「何とか行けないですかね」
「……少し考えよう、明日また来る」
そう言ってソワードは部屋を出ていった。
『うーん……俺なら問題ないんだが……俺だけが行っても意味無いんだよな……』
「────―魔力量を抑えることが出来ればいいんだけど……」
◇
特にいいアイデアが浮かぶことも無く次の日、エクト達の前に現れたのはソワードでは無く重鎧を着た警備隊とは違う革鎧を着た軽装の女性だった。
「おはようございます、エクト殿!」
「お、おはようございます。貴方は?」
「はっ! イニィーツィオ警備隊副隊長、ララ・アメルです! この度ソワード警備隊長の指示により貴殿らの護衛を担当します!尚この装備は特別性なのでご安心を!」
ビシッという音が聞こえそうな程厳格な敬礼をしたララの動きにオリリアは怯えたのかエクトの後ろへ隠れてしまった。
「えっと……よろしく、それで護衛って?」
「エクト殿がオリリア殿をあの森へ連れていくに当たって、魔物への対処を命じられました!」
『警備隊員というよりは軍兵士だなこりゃ、真面目を絵に描いたような奴だ』
「それはありがたいけど……あそこは魔力量が多いんでしょ? 何か方法があるの?」
「それに関してはこちらを受け取っております」
そう言うとララはエクト、オリリアにそれぞれ水晶が埋め込まれたネックレスを渡した。よく見ると魔術を発動するための陣が刻まれている。
「これは……魔道具?」
「はい、こちらを首に着けて起動すると……外部の魔力を吸収するのです。ソワード隊長から聞いた限りでは、ものすごく燃費を悪くして周囲の魔力量を一時的に減らすとか」
『強引すぎる装置だな……』
「確かにこれなら大丈夫なのかな……?」
「それでは私は退室致します! 森へ向かう際はお呼びください!」
そう言うと素早くララは部屋を出ていってしまった。
「……とにかく、物は試しだ。オリリア、家に帰ろうか」
「うん」