あなたは人肉の味の虜だ   作:Seair

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唐突に思いついたよ。

見切り発車とも言うよ。


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「冷やかしかい?」

 

 イルヴァの大地が新年を迎えて1ヶ月が経過した頃。ここ、ノースティリスの地に流れ着いてから幾年月が流れた熟練の冒険者であるあなたは、いつものルーチンワークとしてラーナの土産屋を訪れていた。

 そして、店頭にズラリと並んだぼったくりもいいとこの値段の商品を見て、今回もため息をつくことになった。

 

 あなたが今探し求めているのはエーテル製のハンマーだ。

 素材として最高の攻撃力を引き出すエーテルによって作られた武具は、エーテル病の促進という大きなデメリットがあってもなお強力であり、誰もが求めてやまない。そしてこのハンマーは、鍛治道具として使用することで、どんな武具であろうとエーテル製に作り替えることが出来るという、正しく神器と呼ぶに相応しい物だ。

 

 しかし、手に入れるのは相当に困難で、こうして土産屋のラインナップが更新される度に見に来るしかない。

 そもそも、ハンマーの流通量が需要に対して圧倒的に足りていないのでハンマー自体が売られていないことも頻繁にある。

 そしてその中で最上級品とも言えるエーテル製のハンマーが店頭に並ぶ可能性といえば、非常に稀である。

 

 低確率を引き当てそこから更に低確率を引く。そんな確認作業をここ最近ずっと繰り返しているあなたは、早くも飽きが来ていた。

 

 型落ちにはなるが、アダマンタイト製のハンマーで妥協しようか。ぶっちゃけて言えば、少し前にネフィアで見つけた、良エンチャント紙素材の武器を使用に耐えられるようにするためのハンマー探しであり、必ずしもエーテル製である必要はないのだ。

 

 ともかく、今回もダメだったと諦めてあなたが土産屋に背を向けようしたとき、ふと見慣れない商品が目に入った。

 

 

 ★ミラクルダイス

 

 

 ワァオー、あなたは狂喜した。

 

 何とそれは、あなたが今までに見た事のないアーティファクトだった。

 

 そうと気づいた途端、あなたは即座に四次元ポケットの魔法を詠唱し、中から大量の金貨を溢れさせた。地面に金貨が凄まじい勢いで流れていく。

 そして、土産屋が金貨の山で埋まったのを確認すると商品を手に取り、帰還の魔法サービスを利用しに魔術師の下へと駆け出した。

 有望な土産屋に対して代金の支払いと巨額の投資を行ったあなたは、稀に見る上機嫌さで自宅へと帰還した。

 

 

 

 

 

 

 自宅に帰還したあなたは、早速手に入れたアーティファクトがどのような物かを改めてじっくりと調べた。

 

 ★ミラクルダイス

 ・様々な形をした色とりどりのダイスだ。

 ・それは貴重な品だ。

 ・それは投擲に適している。

 ・()()()()()()()()()()()()()()

 

 あなたはまたもや狂喜した。

 

 初めて見る固有の効果に加え、悪性のエンチャントが一つもついていない。これは素晴らしい。偶然見つけたとんでもない幸運に、あなたは幸運の女神エヘカトルの寵愛を感じずにはいられない。

 

 今日の夕飯は魚料理にしよう、と決めたところで、あなたは早速このアーティファクトを使ってみることにした。

 

 何が起こっても問題が無いように外に出たあなたは、たくさんのダイスのうち、0から9までの数字が記された物を1つ指で摘んでみる。とても軽いそれは、ガラスのように透明でありながら深緑に染まっており、太陽にかざすととても綺麗に光を反射している。

 

 観察を十分にしたあなたは、いよいよアーティファクトを使()()()()()ことにした。手の平に全てのダイスを乗せ、世紀末覇者の如く、おもむろに天高く掲げて見せた。

 

 

(え…)

 

 

 しかし何も起こらなかった。

 

 それどころか、どこからか困惑したような声も聞こえた気がする。

 

 あなたは混乱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく考えてからあなたはポンと手を打った。そういえば、このアーティファクトの情報には、「それは投擲に適している」とあった。ならば、もしかするとこのアーティファクトは道具としてではなく投擲武器として扱う必要があるのではないか?そう思いついた。

 

 そうと決まったらすぐに行動。あなたは装備していた長弓を取り外し、代わりに★ミラクルダイスを装備した。

 

 やはり、とあなたはほくそ笑んだ。遠隔武器として装備できるのであればやることは1つだ。あなたはモンスター召喚の魔法を唱えた。あなたの体から溢れ出した魔力の渦が、どこかのネフィアへと繋がり、次元の穴を開ける。そして穴から飛び出してきたのは、一体のゴブリンだった。突然目の前の景色が変わったことにゴブリンは戸惑っているようだった。

 

 これで準備はできた。あなたは★ミラクルダイスを握りしめた。あなたはワクワクしてきた。

 

 重心を後ろへ、片足を浮かして投擲の体勢をとる。そのまま重心を前に流しながら浮かせた足を強く地面に踏みこむ。ムチのように腕をしならせ、あなたは渾身の一投でダイスを投擲した。

 

 パァン!

 

 一般人のスペックを大幅に上回る冒険者の筋力によって放たれた複数のダイスはさながら散弾のように打ち出され、標的のゴブリンを一瞬でミンチと血煙に変えた。

 

 その様を見てあなたは、しまった、と思った。このように扱ってしまっては、ダイスが血塗れになってしまうではないか。あなたは急いで散らばった肉片の中からダイスを探し出そうとした。

 

 瞬間、突然、肉片の中から探していた全てのダイスが浮遊し始めた。こんな機能もあったのかとあなたが感心していると、ダイスがホログラムのようなものを空間に映し出した。そこには、

 

 

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 と記されていた。

 

 これが何を意味しているのか、あなたには理解できなかったが、「それは様々な結果を引き起こす」という効果を思い出し、何かがこれから起こるんだろうと、何をするでもなく眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 カラコロカラコロ

 

 

 

 イルヴァの大地とは程遠い時空、そこに生きる一匹の小鬼が不意に顔を上げた。見張り役として洞窟の外で突っ立っていた小鬼は、えも言われぬ悪寒を感じて体をさすった。辺りを見渡してもただ静かに森の木々が佇むのみだ。

 

 嫌な気分だ。もう見張りの役はやめてしまおうか。そもそも何故空が暗い内に見張りをしなければいけないのだ。あの威張った奴は何でもかんでも自分達にやらせて、そのくせ奴自身はいい思いばかりしている。全く腹が立つ。

 

 今の自分の状況を考える程、不機嫌になっていく。むしゃくしゃした小鬼は、足下に落ちていた小石を掴むと八つ当たりのように思いっきり遠くへ投げた。放物線を描いて飛んでいく石を眺める中、小鬼の視点がある一点で止まる。

 

 その先にあるのは夜空に浮かぶ2つの月だった。空の向こうからこちらを見下ろしているあの大きな玉。そこに存在するのが当然であると言うように、今も昔も変わらない玉。当然、小鬼も今までに何度となく見上げたことがある。しかし、今宵の月はいつもと何かが違って見えた。

 

 しばらく眺めてから小鬼は首を傾げた。

 

 はて、あの2つの玉はあのような顔をしていただろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「GUOO! GEGYAA!」

 

「GEGE!」

 

「GOBB!」

 

 

 何かがあなたの近くで叫んでいる。あなたは耳障りな笑い声が響く中、目を覚ました。しかし、辺りは暗く、自分の体さえ見つけることができない。朦朧とする頭を何度か振って意識を覚醒させようとするが、状況が確認できない以上、何が起きているのか把握することはできなかった。

 

 あなたは状況の整理に努めた。

 

 まず、この状況下になる前のことを思い出した。ラーナの土産屋でアーティファクトを購入してから、自宅に帰還し、ゴブリンを召喚してダイスを投げてミンチにした。その後、ダイスが数字を空間に投射したところで、あなたの記憶は途切れている。

 

 そこまで思い出して、あなたはこの状況があのアーティファクトによるものだと仮定した。あのダイスを投げた結果、何故このような結果になったのか、あの数字が意味するものはなんだったのか、疑問は尽きないが、そもそもアーティファクトとは摩訶不思議な効果を持つものが普通であり、元来そういうものだと無理やり納得した。

 

 次に、現状の把握。

 

 普段のあなたは、暗闇に対する耐性はもちろん抜かりない。しかし、この盲目状態に陥っているということは、失耐性のポーションでもくらったか。もしくは相当な手練れの盗賊に装備を盗まれたか。

 

 どちらにせよ下手人は生かしてはおかない、あなたはそう心に決めた。

 

 そうこうしているうちに、暗闇に目が慣れてきた。次第に景色の輪郭がハッキリとしていく。どうやらここは岩肌に囲まれた洞窟の内部のようだった。足下の地面には水が張っており、異臭が漂っている。加えて木材でできた何かの残骸のようなものも散らかっている。

 

 そして、先程からあなたを見つめて騒いでいる複数の人型。あなたはその風景を木の格子越しに見つめた。彼らの視線から送られる感情にはあなたは覚えがあった。具体的には犯罪者の町、ダルフィの至る所で。

 

 

 しばらくしてから、なるほど、とあなたは理解する。

 

 つまりは、このうるさい人型達が自分をここに閉じ込めたということか。恐らく気を失っていた間にここに運び込まれたのだろう。わざわざこうして閉じ込めたということは、脅迫か、お遊びか、気持ちいいことでもするつもりだろうか。

 

 見た目通りに獣性をむき出しにしたその人型に対してどうしたものかと立ち上がろうしたあなたは、両腕が何かに引っかかるのを感じた。

 

 ふと見ると、両腕が太い縄で拘束されていた。その縄の先を視線で追うと、そこにはこれまた醜悪な笑みを浮かべた人型が両手でしっかりと縄を掴んでいた。

 

 あなたは自分の両手を見つめると、更にとんでもない事に気がつく。何とあなたは全裸だった。何一つ身につけておらず、服どころか、指輪まで全て無くなっていた。これには流石のあなたも悲痛な叫び声をあげた。それを見て、複数の人型は大きく笑い始めた。

 

 愛用の装備が失われたかもしれないという恐怖により、あなたの精神は不安定になった。視点が定まらず、呼吸が荒くなる。あなたは目を閉じ、できる限りゆっくり深呼吸を始めた。大丈夫、まだ大丈夫。探せばきっと見つかる。見つけて奪った奴をミンチにする。そこまで考えてあなたは意識を現実に引き戻した。

 

 とにかく、行動しなければ。ここから脱出し、失った装備品を探す。そのために、目の前の人型を排除しなければ。あなたはハッキリした意識で四次元ポケットの魔法を詠唱した。

 

 その様を見て人型達の表情が嘲笑から警戒へと変わる。こいつ、魔術師か!?ならば詠唱をやめさせればいいだけだ!あのでかいヤツ(田舎者)からは手を出すなと言われているが、もうどうでもいい!

 

 人型達が格子の扉を開けようと殺到する。あなたは縄を引きちぎり、取り出した最低限の防具と優美な短刀(★小狐丸)を素早く装備し、縄を持っていたやつを格子の扉に向けて思い切り蹴り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぴちゃりぴちゃり、と洞窟の中で水音が響く。あなたが歩くたびに彼らの体液やら汚物やら、もしくはそれらが混ざったものがはねる。

 血の海には慣れているあなただが、あまりの不衛生さに顔をしかめずにはいられない。どうやらここは随分と前から肥溜めとして使われているようだった。なんと不潔なネフィアなのだ。あなたは、大地の神オパートスの職務怠慢を疑った。

 

 襲いかかってきた人型達は、当然ながらその尽くをあなたにミンチにされる結果で終わった。そして生まれたのがこの屍山血河である。あなたは汚れひとつ無い短刀を手に、死体の山に向けてファイアボルトの魔法を放ち、光源を確保した上で、今しがた絶命させた最も綺麗な人型の遺体に近づき観察し始めた。

 

 緑色の体表、黄色の目玉、乱れた歯、尖った耳、子供程の身長、生殖器と思われる器官。あなたの主観で目に付いた特徴と言えばそれくらいだった。

 そしてこれらの特徴に当てはまるモンスターをあなたは知らない。似たような種族なら知っているのだが、彼らはこのような集団で生活することはないし、言語を理解出来る程度の知能は保有していた。いや、中には例外と言えるとんでもない知識を持つ者達もいたが。

 それに加え、この人型達の中に雌と思われる個体は確認した限り存在しなかった。この奇妙なモンスターがまともな服を着ていないことから察するに、人間ほど文化的な生活はしていないであろうことは理解できた。

 ただ、緑色の尖った耳を見て、あなたは命の恩人である1人の緑髪のエレアの青年を思い出した。彼は今どこで何をしているのだろうか。聞いた話では、パルミア王が暗殺された際に王宮に滞在していたらしいが…

 

ぱしゃん

 

 そこまで考えたところで、あなたは暗がりの奥から何者かがこちらに近づいてくるのを察知した。

 

 あなたは即座に立ち上がり、光の届かない暗闇へと目をこらす。聞こえてきた水音が、次第に小さな地面の揺れへと変わっていく。果たして、あなたの前に姿を現したのは、地面に転がる人型とは比べ物にならない程大きな体格の、しかしやはりその人型に似たモンスター(田舎者)だった。

 

 あなたはこのデカブツが親玉であり、彼らの上位種でもあり、またこのネフィアの主でもあると直感した。そしてあなたは、この個体ならばもしかしたら言語が通じるかもしれないと突然ひらめき、一縷の望みをかけて、相互理解の第一歩として、極めて気さくに挨拶をしてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 本来大小鬼(ホブ)と呼ばれるこのモンスターは目の前の状況に憤慨していた。上質な女が2体も手に入り、これから先退屈することはないと思っていたのに、片方の女を食しているうちに手下が全員死んでいるとは、何とも使えん奴らだ。女一人の見張りも出来んとは。

 

 そう思いながら見下ろすと、何とその人間の女は、怖気付くでもなくこちらに向かって一言、短く言葉を発したと同時に手を振ってきた。一瞬、大小鬼はその動作を呪文の詠唱かと警戒したが、すぐにその顔を更なる憤怒に歪ませた。

 

 愚弄された。この女から。

 

 何を言っているかは理解できなかったが、その動作がこちらを侮辱していることははっきりと理解できた。

 

 大小鬼は激怒した。孕み袋の分際で、この俺を侮辱したこと、後悔させてやる。心も体も徹底的に壊し尽くす。

 

 右手の巨大な棍棒を振り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唸りをあげて迫る棍棒を見て、あなたは心の内で落胆した。装備を奪ったやつのことを聞き出せたら良かったのだが。

 残念だが仕方ない。自力で探し出すことにしよう。あなたは眼前の棍棒とその持ち主であるモンスターを真っ二つに切り裂きながらそう思った。

 

 短刀を振り抜くとあなたはすぐに真後ろへと跳んだ。数瞬の後、モンスターはその体を崩しながら前のめりに倒れた。

 

 その様子を見て、あなたはしばし口に手を当てて思案すると、あなたは慣れた手つきでそのモンスターの亡骸から筋肉、骨、心臓、体液、皮を手際よく解体し、それら全てを四次元ポケットの中へと放り込んだ。そして宝箱やプラチナコインを一切落とさなかったことに不満を感じながら、奪われた装備を回収するべく辺りを探索し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくの後、あなたは洞窟内の探索を終え、地上への道を通り、ようやく洞窟から脱出した。普段通りの装備に身を包んだあなたは、木漏れ日が注ぐ森の中で盛大に落胆のため息を吐いた。

 

 探していた装備は全て見つかった。失くしたものはひとつも無い。()()()()()を除いて。

 

 そう、こうして洞窟内を探し回り、終ぞ、つい先程手に入れたばかりの、この結果を導いたと思われるアーティファクトが見つからなかったのだ。

 しかし諦めが悪いあなたは、文字通り洞窟の隅から隅まで、汚物溜まりの中、モンスター達の腹の中、果てにはあなた自身が何かの拍子に飲み込んでいないかと嘔吐してまで探し続けた。

 

 そしてその努力の甲斐も虚しく、いくら探しても見つからず、発見したのは、あなたの装備品と何者かの雑嚢で、奥の空間では人間の女性と思われる死体が、ミンチ一歩手前ぐらいの状態で放置されていただけだった。普段なら人肉の味の虜であるあなたにとって新鮮な人の死体はご馳走なのだが、汚濁に塗れた肉には食指が動かなかった。あなたはグルメなのだ。結局、非常に残念ながら捜索を諦めることでこうして地上に出てきたのである。

 

 唯一無二のアーティファクトを1回しか使えずに無くしてしまったことは痛恨の極みだ。あなたは悔しがった。せめてもう少し詳しい性能を知っておきたかった。それにこの状況に陥ったのも恐らくあのアーティファクトが原因だろう。

 

 まあ、これで永遠におさらばという訳ではないし、打つ手がない訳でもない。また、リトルシスターを探せばいいだけの話だ。彼女たちなら似たような品を見つけてきてくれるだろう。ともかく、新鮮な体験だった。

 

 良い土産話ができたと、あなたは少しだけ気持ちを前向きにし、帰宅するべく帰還の巻物を使用した。

 

 

 何もおきない…

 

 

 しかし、あなたの手の中で巻物はその効力を発揮することなく崩れ去った。手のひらには使われなかった魔力の残滓がちりとなって残るのみである。

 

 あなたは再び特大のため息を吐き、なるほど、と呟いた。見たことが無いモンスター、見たことが無い景色、何も落とさないネフィアの主、それらの情報を加味してあなたはようやく理解した。この場所は、いや、この世界は、あなたがよく知るノースティリスではない。そもそもイルヴァですらないかもしれない。

 

 その事実を認識したあなたは、高揚感と共にこの世界に対する期待を抱いた。

 

 現状で帰還する手段が絶たれた今、あなたの精神状態はむしろ良好だった。なぜならあなたは似たような状況を幾度となく経験しているからだ。

 ムーンゲートと呼ばれる別世界へと繋がる門を経て、様々な冒険をしたことは一度や二度ではないし、今回はその過程をすっ飛ばして時空を越えたに過ぎない。そしてムーンゲートを経由していないため、当然帰還するためのムーンゲートもここには存在しない。

 

 だが、ここが帰還の方法がない、全くの未知の土地であろうと何が問題だろうか。

 幸いながら、大事なものや冒険の必需品などは全て四次元ポケット内に収納してある。あなたはノースティリスの熟練の冒険者だ。異世界だろうと、しばらくの間は生き延びられる自信があった。未知と冒険はばっちこいである。

 せっかくの異世界旅行だ。気持ちを切り替えたあなたは、自分の体を大量の祝福された水で洗い流しながら、まだ見ぬ景色と文化、そしてアーティファクトを求めてこの世界をあてもなく歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 四方世界、その盤の外からあなたの様子を眺めていた神と呼ばれる者達がお互いに顔を見合わせた。彼らの目には共通して困惑の色が浮かんでいた。

 

 そこで≪真実≫がため息と同時にこう切り出す。こうして、()()のための一つ目の試練は意味をなさなくなりましたとさ。

 それに対して≪幻想≫が、ならばどうするべきか、と考える。≪真実≫が、当然このまま続行すべきだと主張すると、それに対して≪幻想≫は、いや、このままでは彼らは何も学べない。それどころか()()()と出会えなくなってしまう。それだけは避けなくてはならないと反対する。それをはたから見ていた≪死≫は、じゃあいっそそこだけやり直したらいい、と提案した。ついでにこの異端者(イレギュラー)には元の場所へ戻ってもらおうとも。

 

 このセッションをどう進行すべきか、そしてこの盤上に介入した異端者をどうするべきか、≪死≫の提案に反対する者はいなかった。

≪真実≫が祈らぬ者達(NPC)をダイスの目の分だけ再配置し、≪幻想≫が舞台となるフィールドを作り直した。

 そして、≪死≫が異端者の駒をつまみ上げようとしたとき、それは起こった。

 突然≪死≫の体がビクリとはねる。その様子を見た他二柱はその指先にある異端者の駒に目を向け、そして思わずギョッとする。

 

 駒と目が合ったのだ。

 

 あまりの衝撃に≪真実≫は弾かれたように立ち上がり、≪幻想≫は椅子から転げ落ち、≪死≫は頬を引き攣らせた。三者三様に驚いた彼らは、しかし、内心で考えていることは一致していた。

 

 このモノは、盤外を認識している。そして私達を捉えている。

 

 それは彼らにとって信じ難いことであると同時に、はっきりとした事実だった。実際これまでのセッションの中で盤外へと到達した駒は存在した。だが、それがこちらに干渉してきたことは一度もなかった。未曾有の事態に怯える彼らだったが、そこに声をかける者がいた。

 

 あまり無粋なことはするものではありませんよ。

 

 凛と響く声に振り返ると、そこには見慣れない神が佇んでおり、目を細めてこちらを眺めていた。

 

 突然あの方が見えなくなったと思えばこんな所まで来ていたなんて、これはまた凄い物を拾ってしまったのですねぇ。

 

 そう言いつつ、黄金に輝く尾を揺らしながらこちらに近づいてくる彼女は、自身を≪財のイナリ≫と名乗り、イルヴァ九神の代表者としてここにきたと説明した。

 

 困るんですよねぇ、こういう異物を持ち込まれると。私達の世界のバランスが壊れてしまいます。願いの神が憤慨していましたよ。

 

 そうため息と共に言う彼女の手の平には、いくつかの色とりどりのダイスがのせられていた。

 

 それを見た≪幻想≫が、あっと声をあげる。それはいつからか失くしていたはずの神々のダイスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡り、辺境の街。その冒険者ギルドにて。

 

 地母神の神殿からやってきた女神官は、受け取ったばかりの白磁の認識票を握りしめて、依頼書が貼り付けられたボードを眺めていた。

 

 こうして冒険者になったはいいものの、誰かのためにこの力を使うという目標をいざ達成しようとなると、何とも足が動かない。受付嬢の言う通り、他の一党について行くべきかと思ったが、新米の自分がついて行くことは迷惑にならないだろうか、と考えると声をかけることを躊躇ってしまい、では一人で達成できそうな依頼を受注してみようかと考えると、流石に初めての依頼を一人でこなすのは心細いし無謀が過ぎる。

 

 既にギルドの中はお昼時ということもあり、まばらにしか人は残っていない。多くの冒険者は既に依頼を受注してそれぞれ出発してしまったのだろう。女神官は自身の優柔不断さを呪った。

 そんな自己嫌悪に陥りそうな女神官に声をかける者がいた。

 

 

「なあ、一緒に冒険に来てくれないか?」

 

 女神官が声の方向に顔を向けると、そこには同年代に見える青年とその仲間と思われる二人の少女がいた。そして全員が自分と同じ白磁の認識票を首にかけている。

 

 格好から推察するに両刃剣を腰に下げる青年は剣士、道着を着た黒髪の少女は武闘家、帽子を被り杖を持つ少女は魔術師だろうか。

 

「君、神官だろ?俺たちのパーティ、聖職者がいなくて…。だけど急ぎの依頼で、せめてもう1人欲しいんだ。頼めないかな?」

 

 突然の一党への勧誘に女神官は一瞬呆けたが、これはきっとまたとない機会だと思い、話を聞くことにした。青年剣士が言うには、付近の村に住んでいるとある娘が攫われた。その手口と状況、そして何より目撃者の証言から犯人の目星はついており、きっとゴブリンの仕業だということらしい。

 ゴブリン。最弱の魔物。家畜を襲い、婦女子を攫い、子供に対する警句になる程度の魔物。女神官が抱くイメージはそんなところだった。そしてその全てが、現実味の無い物語の中のような出来事であると無意識に思っていた。

 

 かねてより、誰かのためにこの力を使いたいと志していた女神官は、

 

「えっと、はい。私なんかで良ければ」

 

 少しの緊張はあるが、その勧誘を請けることにした。

 

 一党も揃い冒険者らしくなり、ではいざゆかん、と青年剣士が出立しようとした。しかしその様子を見ていた受付嬢が彼らに声をかけた。

 

「あの、皆さん。水薬の類いはお持ちですか?」

 

「水薬?あぁ、薬のことか。持ってないですけど...」

 

「依頼の際には最低一人につき一つずつ携行することを推奨します」

 

 受付嬢がそう忠告すると女魔術師が鼻を鳴らして答えた。

 

「大げさだわ、たかが小鬼退治に」

 

「それにそんなお金もないし」

 

「小鬼退治くらい俺たちでも楽勝ですよ!」

 

 そう口走りながら冒険者ギルドの出口へと向かう彼らを、女神官はその手に持つ錫杖を強く握りしめながら不安げに見た。そして女魔術師からの

 

「なにしてるの、早く行くわよ」

 

 という声にハッとなり、早足で彼らの後を追っていった。

 

(...一応、あの人に伝えておこう)

 

 四人が出発したことを見届けた受付嬢は、万が一のことを考え、あまり褒められたことでは無いが、もうすぐ帰ってくるであろう()にこの依頼を伝えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

(こちらのことは何とかしますから、あなたは気にせず旅を楽しんでくださいな♪ついでに結果的にあなたをさらった同業者にお説教もしておきますね♪)

 

 遠い遠い場所から、しかしはっきりと聞こえる異世界の神々の会話に、あなたはここが本当にイルヴァではない未知の土地だということを実感する。

 

 現在のあなたの主神である財のイナリからの電波に、あなたは更に上機嫌になった。どうやらこの世界に関する難しいことはあちらに任せて良さそうだ。それに加え、恐らくイルヴァへの帰還の方法もそう遠くない内に見つかるだろうとあなたは考えていた。天上に住まう神々の事情は、ただの人間であるあなたには理解できるものではないが、実際にこうして世界を越えたやり取りができるのだ。そこら辺のことは主神が何とかしてくれるだろう。

 

 文字通りの神頼みをしたあなたは、歩く速度を少し上げ意気揚々と歩みを進めた。

 

 しばらくの間歩き続けると、唐突に森が開け、あなたは街道と思われる場所に出た。辺りを見渡すと道は舗装されている訳ではなく、多くの人が通った結果生まれたものだとわかる。それがあなたの前を横切るようにして続いている。続く道の遠方には壮麗な山脈が見え、山頂辺りは白く染まっている。

 

その景色は、ノースティリスで長年冒険し続けているあなたにとっても初めて見るものであり、この道の先に待つ更なる未知にあなたは心を踊らせた。この広大な世界にあなたの行く手を阻むものは存在しない。その事実に何とも感動してしまう。

 

この世界を渡り歩く前に、ひとまずは()が集まっている場所に向かいたいところだが...

 

あなたが右手側か左手側か、どちらに向かうべきか悩んでいると、不意にあなたの探知のスキルに反応があった。

 

右手側に目を向けると、道の先から四人の人間がこちらに向かって歩いてきているのが見えた。背格好からして全員子供だろうか。一人やけに古風な帽子を被っている。あなたが彼らを観察していると、向こうもあなたの存在に気づいたらしく、こちらを指さして何か話し合っている。

 

これは幸先が良い。どこからやって来たのかは知らないが、第一異世界人発見である。あなたは早速彼らに話を聞いてみることにした。

 

 

 

 

 





・★固定アーティファクト
 ノースティリスに存在する道具や武器の中でも固有の効果を持つ物。
 食べると生命力が上がるチーズからすべてを滅ぼす剣まで、その種類は多岐に渡る。

・ハンマー
 武器ではなく、鍛冶をするための道具。
 既に存在する武器防具の素材を変更することができる。
 貴重品。

・★小狐丸
 あなたが信仰する財の女神イナリから賜った一振りの短剣。
 穢れと災いを遠ざける効果がある。

・ムーンゲート
ノースティリスの各地に出現する別世界への扉。
 洞窟の中にひっそりと佇む物もあれば、街のど真ん中に出現することもある。

・ゴブリン
 犠牲者。



続かないかも。
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