なんとなく続いたよ
時は少し巻き戻る。
「出身地不明、年齢も不明、現在の目的は未知の探索。本人の価値基準は彼女の意思そのものにあると考えられる。外見は西方辺境では見かけない
国営組織、冒険者ギルド。
その辺境の街の支部長である男は、提出された真新しい
その表情は、なんとも言い難い感情が胸の内を駆け巡っていることを表しており、傍から見ればおかしな顔つきになっている。
彼が読んでいるのは、つい先日当ギルドで保護、もとい確保された一人の狐人についての冒険者用紙だ。
調査を担当した受付嬢からの報告では、新人の白磁等級と比較した場合、比べ物にならない程の戦闘技能を持つと思われ、また修羅場を何度も潜り抜けてきたらしい。そこだけ耳にすれば、「謎の古強者」とでも言えるのだろうが……
支部長は用紙の続きに目を通す。
「しかしこれらの美点を全て塗りつぶす程に、冒険者以前に人として致命的に欠如している点が多数ある。
中でも食人、つまりは人の肉が好物である点については、只人として嫌悪感を抱かずにはいられない。
これは、蜥蜴人に見られるような信仰から来るものではなく、彼女の個人的な嗜好であり、これは彼女自身がその口で明言したことである。
なぜ彼女が食人を行った者の多くに見られる廃人化の現象にあてはまらないのかは不明である。
既に正気を失っている可能性もあり得る。
しかし、彼女自身も食人という行為が勧められたものではないことは理解しているらしい。
そのため自らこのことを他者に伝える可能性は低いと思われる。
また、彼女がいう己の信条とは、『やりたいからやる。そうしたいからそうした。その道に立ちはだかる者は全て敵である』というものであり、自己中心的で他者を顧みない精神の持ち主であると考えられる。
それ以外にも、『もといた場所では殺人が許されていた』や、『賽子を振ったらこの地にいた』とか、『やる気があれば隕石を落とせる』など、あまりにも意味不明、非常識な発言を繰り返した。
また、これらに比べて些細なことにはなるが世間知らずな点も見受けられる。
『冒険者ギルドという存在を知らない』『秩序、混沌の勢力の存在を知らない』『ゴブリンとは昨日初めて出会った』など。
そして、げに恐ろしいことに、これらの発言の真偽は同席していた監督官の認めるところである。
つまり、彼女の看破の奇跡が上手く作用しなかったということでなければ、かの狐人が話した内容のほぼ全ては真実であるとともに事実であり、尋常ならざる力、それこそ神の権能とでも言うような力を持つということや、混沌、秩序の存在を知らない上で、彼女の自身の属性が
この認めがたい事実に対する判断を求める。
それと申し訳ありませんが、監督官には2日間の休暇をお与えください。お願いします」
報告書の最後の一文まで読み切った支部長は大きくため息を吐き、天井を見上げこう思った。
いやこれ絶対厄い案件だろ、と。
先日、ギルドに入ってきたところで意識を失いその場で倒れた見知らぬ者が、寝言で人肉食べたいなどと言い出したと思えば、それが寝言でもなんでもなく本心からの言葉であり、それでいて外見は極東の神使の姿をしており、更に本人の戦闘技能は決して素人とは思えず、果てには隕石を落とすだと?
頭の中に入ってきた情報の質と量に面食らった支部長は思わず眉間を抑えた。
(どう考えてもウチで対処できる問題じゃないだろこれ……新手の魔神将って言われたほうがまだ納得出来るぞ。それか伝説上で白金等級やってろよ何でそんな奴が辺境に来たんだよ)
生憎と、見た目は獣人でありながら、彼女自身は只人であるという点についても至高神のお墨付きであるため、人ならざるものという可能性はない。
しかしこんな存在が自分と同じ人間であるというのも、まるで至高神から喧嘩を売られているように感じてしまう。神よ、なぜ私を見捨てられたのですか!
残酷なことに支部長に求められているのは、今尚対談に使われた部屋で退屈にしているであろう狐人に対する処遇を決めることだった。
幸運にも、彼女の価値基準は自分本位ではあるが、見境なく暴力を振りまくような振る舞いは未だ見せていないため、対話ができるという点は素直に喜ぶべきことだ。
こういった輩の中には話が通じず、最終的に処断や追放せざるを得ない人物である場合も僅かではあるが有り得る。
その場合、大抵は背後に混沌の勢力との繋がりがあったりするのだが。
しかし、依然として油断はできない。
この辺境の街に、人を好んで喰らう獣人の見た目をした只人がやってきているという事実は変わらない。
この事実が民間に流布される前に何とかして彼女をこの街から遠ざけるか何かしなければならない。
捕縛? 馬鹿を言え。そんなことできるはずも無い。
報告から察するに、彼女が放浪を目的としていることは理解できた。
そんな自由を望む彼女が大人しく拘束されるはずがなく、激しく抵抗することは間違いない。
そうなった場合、報告にあった神の如き力が遺憾なく発揮されることだろう。
死者が出るだけなら上々。最悪この街が更地になった上、近隣の街にまで被害が及ぶことになるかもしれない。
仮に彼女の機嫌を損ねた場合、被害がここだけに留まらないと思われるのが度し難い。
実際のところ、彼女の機嫌が損なわれないことを祈るしか安寧を保つ方法はないのだ。
人としてこういったことを考えるのはまずい気がするが、こんなことになるのなら、あの時助ける指示を出さなければよかったかもしれない、などと思ってしまう。
これはまるで降って湧いた災害のようなものだな。と支部長は皮肉気に笑う。
圧倒的な力を持つような存在に対して、過ぎ去るのをただひたすら待つことしかできないのは、己という人間の無力さを痛感させられる。
「だが、決めなければならん」
支部長は覚悟を決めた顔で報告書に文字を書き始めた。
考慮するべきは、彼女をどうやって穏便にこの街から離れさせるかだ。
だが、彼女を街から追い出せばそれで万事解決、という訳でもない。
このような人類に対して脅威となり得る不安定な存在が確認されたことは、冒険者ギルド、ひいては王国にとって重大な事件である。
その当事者である人物を野放しにするわけにもいかない。
既に実力が飛び抜けているのならば、ここはさっさと冒険者として登録してもらうか、すぐに水の都か王都に移住してもらい、そこで高難易度の依頼をこなしてもらうのがちょうど良いのでは無いか。
もしくは、金等級以上の冒険者に監視と対処を任せるか?
そこまで考えて支部長は首を振った。
いや、やはりダメだ。彼女は災害のようでもあり、その上、いつ、どうやって爆発するかわからない爆弾のようなものでもある。
至高神の大司教がおわす水の都と王の膝元である王都に近づけること自体危険だ。
辺境の出の冒険者が辺り一帯を巻き込んで殺戮の限りを尽くしたとか、
他所に預けるのは、秩序にして善と宣告された彼女の
それまでは我々が彼女の監視役を務めなければならない。
であれば、どうするべきか。
より多くの臣民の安全と利益を守るためにはどうするべきか。
辺境の街の冒険者ギルドを任されている者として決断しなければならない。
「致し方ない……とは、言いたくないが……」
支部長は賭け、もとい、苦渋の決断をすることにした。
辺境の街に住む者全員の日々の生活が守られることを願いつつ、彼女をこの街に留めることにした。
仮に賭けに負けた場合、まず真っ先に失われるのは自分自身の命だろう。まったく、それだけで済めば良いのだが。
支部長は罪悪感と使命感、そして無力感を同時に味わいながら、複雑な心境のまま羽ペンを走らせた。
質問責めが終わってからどれほど時間が経過しただろうか。
あなたは変わらず部屋の中で椅子の上にふんぞり返り、何をするでもなくぼんやりしていた。
部屋の中で変わったことと言えば、質問責めに対するあなたの回答をまとめたであろう書類を受付嬢が部屋の外へ持って行ってからまだ帰ってこないことくらいであり、事態は進展していない。
ああ、それと残った2人のこちらに対する視線が変わったことだろうか。
槍使いの男はこちらに懐疑的な目を向け、もう1人の女(監督官という役職らしい)は心ここにあらずといった表情を浮かべている。
大方、あなたが異世界から来たということを除いて、洗いざらい話した内容が嘘偽りない事実であることを、信仰する至高神から宣告されたことが信じられないのだろう。
あなたもあなたで、この世界とノースティリスの常識の差を見せつけられることになった。
この世界では、人は死んだらそこで終わり、というのは前もって予想していたが、それ以外の点については驚愕することも多かった。
冒険者ギルドとは、古今東西のならず者達をまとめる国営組織であるとか、魔神王とかいう存在が人の勢力圏を脅かしているとか、秩序と混沌の勢力が絶えず戦争しているとか。
お互いにカルチャーショックを受けた形ではあるが、その受け取り方は、双方全くと言っていいほど違っていた。
あなたは世界の差を実感することを毎度の異世界旅行の楽しみの一つとしているため、彼らの話は興味深く、されどさほど驚きは無い。
むしろこれくらいの違いがないと異世界に来た意味が無い、と感じるほど余裕がある。
それに対して目の前の彼らはどうか。
槍使いは疑いと共に、気味の悪いモノを見るような目であなたを見ており、監督官に至っては放心状態だ。
このような反応はあなたにとっては最早慣れたものであり、特別思うこともない。
問いと答えの応酬の中で、あなた自身についての話も幾度となくすることになった。
今の所は異世界云々を除き、知られて困るようなこともないため、あなたも赤裸々に話すことができた。
前人未踏の地があればその全てをあなたの足で踏みしめ、存在を知っている魔法は何がなんでも習得し、覚えられるスキルは全て習熟し、敵対する者はその尽くを殲滅した。
その記憶、その技量は全てあなたのかけがえのない財産であり、それらを経て手に入れた力を存分に振るいつつ気ままに旅をすることが、今のあなたが目指す冒険者としての姿だ。
そんな内容をあなたの得意な話術で懇切丁寧にかつ具体的に話していたら、段々と受付嬢と監督官の表情から色が抜けていき、最後にあなたのカルマ値は
となりでそれを見ていた槍使いは、意味はわからないが、「タダでやるには割に合わねえ仕事だ……」と呟いていた。
さて。
そんなこんなで退屈極まれりと感じているあなたはいよいよ我慢ならなくなってきた。
受付嬢が退室してからしばらく経つ。
いまだ戻ってくる気配はなく、あなたは先程にも増して不機嫌になってきた。
暇つぶしにこの場でバーベキューセットを用いてゴブリンの肉で料理でもしようか。
なんてことを考えていると、不意に槍使いがあなたに声をかけてきた。
「なあ。あんた自分のことを只人だって言ってたが、その姿は生まれたときからそうなのか?」
その問いに対してあなたは素っ気なく、後天性のものだ、とだけ答えた。
それを聞いた槍使いは酷く驚いた様子だった。
「何? ……ってことはあんた、獣人と只人のハーフでもないのか?」
あなたは自分を産んだ両親のことなど、最早覚えていない。
かろうじて覚えていることと言えば、あなたはノースティリスの生まれでは無いことくらいだ。
しかし、少なくとも槍使いが問うている今のあなたの体と出生の間には因果関係が全くないことは確かだ。
何せあなたが獣の耳と尾を生やしているのは、イルヴァの大地を癒し、浄化し、そこに生きる者たちを蝕み、根絶しにしようとする星の意思、
そしてそれ以上に、あなたの主神である財のイナリからの「そのままにしておけばきっと良いことが起こりますよ♪ わたしとお揃いです♪」という託宣のような要求に従っていることが大きな理由だ。
話を戻そう。
あなたを只の人と扱うか、それとも獣が変じた人として扱うかなど、あなたにとっては些細過ぎる問題だった。
あなたが生きてきたノースティリスでは、自身が一体何者なのかなど、生まれた時点で決められたことであり、気にすることもなかったからだ。
どんなに本来の姿からかけ離れた外見や生き方をしていようと、ノースティリスの大地に生まれ落ちた時点でその存在のアイデンティティは確立しており、余程のことがない限り生涯の間変わることは無い。
人肉を好む
筋骨隆々の妖精もいるし、商会を組織する
果てには、背に翼を生やし、機械の脳みそを内蔵し、足が馬の蹄で、鷹の目を持つかたつむりもいる。
要は、本人が確信をもってそうであると言ったならば、間違いなくそれは本人が言った通りの存在なのだ。
だからこそあなたは今でも自分自身を人間であると思っており、そこに嘘はないからこそ至高神もあなたの発言を見咎めなかったのだろう。
あなたはあなたであり、人間であると思う以上、あなたは人間のまま生き続ける。ただ、生きている世界が違うというだけの話。
ただそれだけだ。真面目に考えること自体馬鹿らしい。
あなたの答えを受けて槍使いは、うんざりした様子で「それもそうだな。悪い」と言いつつ、監督官を横目に見る。
しかし相変わらず彼女の反応は何一つなく、槍使いは大きくため息をこぼした。
あなたからしてみれば、彼女が黙っている現状はストレスフリーであった。
そしてまた、沈黙が部屋の中を支配する。と思いきや、あなたの獣の耳がピクリと跳ねる。
あなたは階下から近づいてくる足音を察知した。ようやくこの待ち時間が終わりを迎えるらしい。
あなたは椅子から立ち上がり大きく背伸びをした。それと同時に大きな白銀の尾がふわりと揺らめく。
それを見た槍使いは小さく、「先祖返りか……?」と呟いた。
その言葉はあなたの耳にしっかりと届いたが、あなたからは特に言うこともない。
ご想像にお任せします、というやつだ。
階下からの足音があなたがいる部屋の前まで到達した。
そして扉が軋みつつ開かれる。果たして、部屋に入ってきたのは受付嬢ではなく、品の良さそうな初老の男であった。
はて、彼は一体何者だろうか。
「やあ、お互いの意識がある状態では初めましてになるな」
そうにこやかに笑う彼は、自らをこの冒険者ギルドの支部長だと紹介した。
なんと責任者自らの登場である。
この組織を管理する彼が直接出てきたということは、あなたに対してどんな処遇を下すのか決定したということだろうか。
彼は部屋に入るなり椅子に座ったまま硬直している監督官を見て、思わず目元を手で抑えた。
「彼女から聞いてはいたが、これは酷いな。一体何を見ればこうも消耗するのか。気にはなるが詮索はやめておこう」
彼は何度か監督官の目の前で指を鳴らしてみるが、やはり一向に反応しない。
頭を振った彼は指で指示を出し、槍使いに彼女を連れて退室することを命じた。
その指示に槍使いは怪訝な顔をしつつも従順に従った。
こうして部屋の中にはあなたと支部長の2人だけが残された。
「さて、こういった重要な話をする場面ではアイスブレイクを兼ねて小話でもするのが粋なのだろうが、生憎とそんなことに費やすような時間を私は持ち合わせていない」
故に私も君もお互い時間を有効に使おうではないか、と支部長は笑みを崩さず話した。
あなたも話が素早く進むのは願ったり叶ったりだ。いい加減この部屋から出たいと思っていたところである。
それはそれとして、あなたをこの部屋に長時間閉じ込めるように指示した人間について何も思わない訳では無いが。
「……いや、すまない。だがこれも組織の、ひいては国の治安のためだ。君のような危け……特異な人物を野放しにするわけにもいかないのだ。理解してくれ」
冗談だ。
あなたとしても色々と有益な情報を手に入れることができたし、ここで交わした会話はお互いにとって決して無駄ではなかっただろう。
それに、大概の生命にとってあなたが危険人物であるという評価は全くもって正しいと言える。
あなたは他人から、タガが外れた、人外に等しい存在として見られることは重々承知している。
「そう言って貰えると助かる。では、始めようか」
先程まで受付嬢が座っていた椅子、つまりはあなたの目の前に座した彼は、その言葉と共に、あなたの処遇について話し始めた。
「正直に言って、我々としては君のような稀有な存在は、是が非でも手元に置くか、国の力で拘束して良いように使えるようにしておきたいのが本音だ。しかし、君がそのような環境を望まないということも理解している。何せ君は未知を求め、闇へ挑む、職業としてではない、生粋の冒険者らしいからな。違うかい?」
当然である。人に強制されて行う冒険などこちらから願い下げだ。仮に誰かからそんなことを要求されれば、あなたはすぐさま当人の首を撥ねる自信がある。
「……だろうな。そこでひとつ提案がある」
そう言うと彼の目が笑みから真剣なものへと変わる。どうやらここからが本題らしい。
「我々は、君のような冒険者をまとめ、依頼を斡旋し、無頼漢の集いに秩序をもたらすことを仕事としている。失礼を承知で言わせてもらうが、君のような、いつ問題を起こすかわからない存在に対処するのも我々に求められていることなのだ。故に我々は、いや、私は君に、冒険者として我々の管理下に入ってもらいたい」
最後の言葉を言い切った支部長は、緊張のせいか、一世一代の大勝負でもしているかのような鬼気迫る顔になっていた。その様が少し滑稽であなたは小さく笑みを浮かべた。
フムン。それはそれとしてだ。
彼が今あなたに伝えたことは、先程彼自身も話した、あなたの冒険者像とはまるっきり矛盾しているように感じる。
組織に属するということは、規律に縛られるということだ。
過去の、それこそノースティリスの各ギルドに所属していた時ならそれも許容できていたが、今となってはそんなことは考えられない。
あなたは誰に構うことも無く、のんびりと自由な旅と冒険をしたいのであって、上の人間からあれやこれや指示されて動きたい訳では無い。
○○を殺してこい、□□を盗んでこい、古文書を解読してこい、などはもう沢山なのだ。
仕事や義務ではなく、個人的な依頼という形なら喜んで受けるが……
あなたがそう言った瞬間、支部長の目がキラリと光った気がした。そして続く彼の発言に、あなたは強烈に惹かれることになる。
「なるほど……では付け加えよう。冒険者ギルドに身を置く者に求められるのは、簡単に言えば秩序を守り、受注した依頼に対して責任を持つことだ。また、依頼を受注することは義務では無いし、個人に仕事が回されることも稀だ。つまりは、冒険者がどのように銭を得るかは、自由であり自己責任でもあるということだ」
依頼、自由、自己責任。
それらの言葉が発せられた瞬間、あなたは思わず椅子から立ち上がった。そして一瞬で支部長へと近づき、机を両手で叩いた。
「!?」
唐突過ぎるあなたの突飛な行動に、支部長は目を見開き、次いで顔を蒼白に染めた。まずい、竜の尾を踏んだか。
そして、あなたはというと……
満面の笑みを浮かべ、目を輝かせ、尾をぶんぶんと振りつつ一言、冒険者やります! と元気よく宣誓した。
そんなことが起きてから数分後。
冒険者ギルドのカウンターに立つ目が死んだ受付嬢とこの世界に来てからかつてないほど上機嫌なあなたは、テーブルの上に置かれた1つの物を挟んで相対していた。
「はい。これで冒険者登録は完了です。これからよろしくお願いしますね、
その言葉と共に、受付嬢は目の前の白磁の認識票を手で指し示す。あなたはわくわくしながら白磁の認識票を手に取った。
何とも都合が良い組織もあったものだ。あなたは真新しい認識票を首にかけながらそう思った。
何せこの冒険者ギルドの仕組みは、あなたが今までノースティリスで続けてきたライフスタイルと酷似しているのだ。
依頼を受け、達成し、報告する。細やかな点で多少の差異はあれど、基本的な部分は似通っていた。
まるで、あなたの為にこの組織が作られたかのようだ。そんな風に思えてしまうほど、あなたにとってこの仕組みは喜ばしいものだった。
あなたはこの世界を冒険するにあたって、並大抵のことでは足を止めるつもりは無いし、何とかなると思っているが、それでも憂慮していたことがある。
それがお金だ。
いつの世も先立つもの、つまりはお金は必要ではあるが、あなたにとっては安定した金銭の供給手段が無いことの方が精神的に余程問題であった。ノースティリスのお金はどうせ使えないだろうともわかっていた。
そこに降ってわいた安定した収入源。冒険者として依頼をこなせばその分報酬が手に入る。なんと魅力的だろうか。
何せ、依頼をこなすことは、あなたにとって、冒険の次に優先していることなのだ。
報酬が欲しいとか、誰かに賞賛されたい、感謝されたいとかいった動機ではなく、ただ単に依頼を達成したという事実だけであなたは喜ぶことができる。
街の掲示板に掲載された依頼を全て消化したときなどは、得も言われぬ快感を感じる。あなたはそんな人間だった。
だからこそ、この冒険者ギルドのスタンスはあなたにとって、最上ともいえる環境を提供していることになる。
これから先、目に入った依頼は全て片付けていこう。
そしてだんだんと階位を上げ、すべての依頼を受けられるようになったいつの日か、その日の夜にはギルドの掲示板に何も残らないようにすることを目指そう。
とは言え、まずはこの世界での冒険者稼業、その初めの一歩だ。
浮足立ちつつ、尻尾を振りつつ、掲示板を眺めるあなたの周囲には、今なら腐った大地でも花が咲きそうなほどに喜びの感情が溢れていた。
あなたは依頼として出されたものについては、文字通り何でもしてしまうような、とことんちょろい人間であった。
密かな野望を抱き、また一つこの世界でやるべきことが増えたあなたであった。
・カルマ値
ノースティリスにおける善悪の基準となる数値。
いわゆる犯罪係数。
ー20以下になると犯罪者としてガードに追いかけ回される。
とある固定アーティファクトを使用することで上限を増減することができる。
・エーテル
イルヴァの大地に存在する異形の森から発生する青く光る気体状の物質。
イルヴァに住まう人間にとっては有害であり、長く触れているとエーテル病と呼ばれ
る不治の病を発症し、心身に様々な影響を及ぼし、やがて死に至る。
書き溜めはあるけど続かないよ