電脳世界で管理者が一般人やってる話   作:VacWap / 空白言語

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Case.11 「セーブポイント」

 与えられた刀という武器は、どちらかというと友達のイスカの得物である。

 であるが、カリナは良くも悪くも普通の少女。得意武器も無ければ苦手武器もないので、達人には至らずとも"ちゃんと"レベルには使える──所謂器用貧乏である。

 

「──!」

「なん、かっ! サイキック使ってくる系に似てる!」

「L──a──」

 

 不可視のはずの砲弾。けれど余裕をもって避ける。

 自身を掴んでくる念動力の腕。触れられる前に斬り落とす。

 

 これだけやって、彼女は普通だ。それは自称だけではない。

 本当に今のエルメシアの戦闘者──廃徊技師(クラディック)はこれだけのことが最低限できる。できなければやっていけない、が正しいだろう。それほどに廃徊棄械が強く、狡猾で、何より彼らも進化に進化を重ねていくものだから、否応なしに適応せざるを得ない。

 

 テルミヌス。境界を切り裂く刀。

 そのオーバーロードを用いなくとも、今、カリナはルカを圧倒していた。

 

 無論それは、ルカが、というか中身の意識無き上位者が知性無くサイキックを振り回しているから、という事実も圧倒に加勢しているのだけど。

 

「神様! 一つ質問です!!」

「うん?」

「このルカさん、本当にルカさんじゃないんですよね! ()()()()()()()()()()()()()!!」

「ああ、もう慣れたの? いいよ、というかそもそもここジアースだから、仮に彼女が本物だとしても関係ないよ」

「そういえばそうでした!!」

 

 慣れ。学習。

 奇械士と廃徊技師の違いを挙げよ、というのであれば、強さの頭はまだまだわからないが、その「戦闘中の成長速度」だけは圧倒的に廃徊技師が勝る。あるいはアスカルティンという機奇械怪にも匹敵する程の成長力。現状と環境、自身と限界を正しく理解し、その壁を突破していく能力。

 

 無暗に、矢鱈に、無策に突っ込むことしかできなかった奇械士との違いはそこだ。無論、彼らもそれだけではなかったのだけど。

 

「──カリナ様。上方に転送反応です」

「どうにかしてください! 私は偽ルカちゃんで手一杯です!」

「成程、カリナ様には人を使う才能がありますね」

「ああいいよ、カリナ・メルティーアートの世話は僕がやってあげるから、君は早くあっちを倒しなよ。遊んでないでさ」

「──承知」

 

 斬る。斬る。斬る。

 別に灰色の世界に入ったりしない。その剣先に魂が乗っていたりしない。

 美しくもなく、無骨すぎることも無く、凡人のそれでもなく。

 

 普通──果てしなく。それはあるいは、()()()()()()()()()()()()状態なのかもしれないけれど。

 

 そうして、時間をかけて、ようやく。

 

 刃が、ルカの身体を捉える。

 テルミヌスはサイキックを切り裂く。絶対と過信していたその不壊の身体を、軽々と切り裂く。切り裂いて、切り裂き切る。

 

「──……!」

「馬鹿だな。僕達上位者はやろうと思えば人類滅ぼすのも世界滅ぼすのも片手間でできるんだ。だからこそ一般人に扮しているのが楽しいんじゃないか。それを、"空を取り戻す"なんて狂気に触れただけで汚染されて、ラミゼットの実験場をめちゃくちゃにしてさ。──君はもう要らないよ」

「!!!」

 

 声にならない声。いいや、カリナとアルカには聞こえない言語で何かを──憎しみのような言葉を吐いて、偽ルカは消滅する。

 

 同時、パン、パンと破裂音が二回響いて、肉の塊もぐちゃりと溶け落ちた。

 

「やっぱり遊んでただけだ」

「弱点を見抜くのに時間がかかりました、と言って納得してください。事細かに私の子細を知りたいわけではないのでしょう」

「おお、流石、ラミゼットと一緒にいただけあって、上位者の扱いを心得ているのね」

「はい。そして、失礼いたします。まだラミゼット様は戦っておられる様子ですので」

「君が行ってできることなんか何一つないけど?」

 

 少しバカにしたような言葉に。

 

「それが何か?」

 

 アルカは、ただそれだけを言って、どこかへ消えて行った。

 

「──ずっる。いやホント、隠し事多すぎだよ。僕対策にそれは十分すぎるけどさ、流石にやり過ぎ。──だから、君の夢をもう少しだけ叶えてあげよう」

 

 赤雷が走る。

 構える必要も、強い集中も要らない。

 

「カリナ。まだここで、やり残したことがあるかい?」

「──はい!」

「良い返事だ。それじゃあ、創り変えるよ」

 

 途端──途端、だ。

 全てが変わって行く。全てが引いていく。

 

 真っ暗で遠い虚数の海も、消失していく人や物も。

 全てが「そんなことはおきていなかった」かのように。

 

 "穴埋め"されていく。

 

 数瞬もしない内に、空間が殴り割られて、そこから機械人間、としか形容できないものが入って来た。

 

「フリス!! 何をした!!」

「ジアースを強化、修復してあげたんだよ。あとどれだけ保たせられるかは君の手腕次第だね。要らない区画……地域だっけ? その辺のリソース足切りしていけば、イズナ周辺くらいはもうちょっと残せるはずだよ」

「……余計な真似を」

「それより君、早く身体修復しなよ。ナカヤマ君とマヒロちゃんだっけ? 彼らこの異常事態何も認識してないから、そろそろ来るんじゃない?」

「あとは私がやる。だからもう出て行け」

「はいはい。それじゃあね、カリナ。もう少しだけおつとめ頑張って」

「あ、はーい」

 

 そうして。

 

 全てが、()に戻ったのだった。

 

 

 Ι

 

 

 ソレに触れる。

 

「まるでテープの早回しを見ているようだ、なんて思ったかい?」

I WON'T USE(そんな)……THET OLD-FASHIONED(古めかしい言い回しは)……PHARASE(しませんよ)…….」

「まぁまぁ、いいじゃないか。それで、どうかな。あまりにも展開が早すぎる。そうは思わなかったかい?」

THAT'S WHAT A STORY(黒幕のいない物語など)……WITHOUT A MASTERMIND IS ALL ABOUT(そんなものです)…….」

「誰かが長引かせない限り、青春ラブコメアクションストーリーはおろか、大団円すら打ちあがらないか」

BECAUSE THEY KNOW THAT("早期解決こそが")……EARLY RESOLUTION IS(最も望ましいと)……MOST DESIRABLE(彼らは知っていますからね)…….」

 

 本当に。

 呆れ返るほどに臆病で悪辣で、天才だ。

 モルガヌス。この世に上位者という概念を作り出し、その大元で在り続けた男。

 

 ブルーシールというアイメリアのサイキックを完全に封じる鉱石の中にあって尚こうして僕と交信できるのは、彼がヘイズの思いつきなんかよりずっと前から保険をかけていたからだ。

 

 バックドア。

 自身に何かあった時のためのそれを、一部の上位者に仕込んでいた。

 

「ほら、よく"失って初めてそのものの価値に気付く"って言うけどさ。そろそろ君に出てきてほしいよ、モルガヌス。君の指示を受けていない上位者たちは、一部を除いてみんな堕落していくんだ。正直見ていられないし、人類が勿体ない」

REFUSE(お断りします)……ONCE THE PLANETARY ENVIRONMENT(惑星環境の水準が)……SETTLES DOWN(元に戻れば)……」

 

 そこで言葉を切って。

 

I AM GOING TO LEAVE(出ていくつもりはあります)……,BUT(ですが)……」

「"NEXT TIME I'LL DO IT MORE SKILLFULLY(次はもっとうまくやる)"かい?」

「YES……NO ONE WILL FIND OUT(誰にも見つからず)……NO ONE WILL KNOW(誰からも知られず)……NO ONE WILL REBEL(反逆もさせず)……NO ONE WILL FREE UNCOMFORTABLE(違和感も抱かせず)……」

「文字通り歴史の影に潜むわけだ」

「YES……」

 

 それは勿論、一つの在り方だろう。

 モルガヌスが本気になれば、本当に姿を晦ませることが可能なはずだ。ヘイズのような聡いものですらわからない、そもそも「大元」という存在に意識を向けられない程の完全制御。

 

 でもまぁ、それじゃあ面白くないから、介入はさせてもらうけどね。

 

「なんにせよ、もう少しだけ見守ってあげようか」

YES,IT IS(そうですね)……」

「上位者の魂が乗った機奇械怪の、最後のあがきって奴をさ」

 

 

 Я

 

 

 扉が開く。

 

「おはようございます、先輩。相変わらず野暮ったい前髪ですね」

「うん……そうだね……」

「先輩、なんか疲れてませんか? やっぱり廃棄地域に戻った方が良いんじゃ」

「えー、ラミゼットちゃんがせっかく毎日教室にいるようになったんだから、このままが良いと思うけどなー!」

「……」

 

 疲れた。本当に。

 余分なリソース、広がり続ける無駄なコンテンツを軒並み削除して、偽ルカことクソ上位者で発生したバグを全部潰して、終末が訪れたというのに終わっていないイズナ周辺の整合性をなんとか合わせて。

 ほんっとうに疲れた。

 

「おはようございます!」

「あ、おはよーカリナちゃん」

「おはよう、カリナさん」

「カリナおねえちゃん、おはよう」

「……お、お姉ちゃん? 羅和さん、ルカちゃんに何吹き込んだんですか!」

「え? 元からだろ、ルカがカリナをお姉ちゃん呼びするのは」

「真優さん!」

「???」

 

 諦めろ、という気も失せているけれど、なんかおかしな点が残ってたら大体フリスのせいだ。いちいち突っ込んでいたらキリがない。

 

「あと」

「うん?」

「これは、二人には聞こえないから言うけど、今まで無視してごめんなさい」

「ああ、いいよいいよ。むしろ第四世代の君がそこまで譲歩してくれていること自体が喜ばしいからね。……短い間にはなると思うけど、よろしくね、ルカ」

「うん」

 

 ルカが私をずっと無視し続けていたのは、私の中身が見えていたからだろう。

 上位者とも機奇械怪とも言えないぐちゃぐちゃの中身。なのにバグっていない透明な体。さぞかし気持ち悪く見えたはずだ。

 ルカ……Last Universal Common Ancestor。最終共通祖先。ジアースのあらゆる人間の初期アバターであるこの少女こそ、ジアースのエンドポイント。

 終末論は何もかもが本当だった、というわけだ。

 

「あの、私には聞こえちゃってるんですけど大丈夫ですか?」

「大丈夫。そして君も覚悟しておいてくれ。この世界はもうすぐ終わる。それをなんとか延命治療したに過ぎない。だから、心置きなく、心残りなく、この理想郷を過ごしてほしい。──反転はもう、起きないのだから」

 

 当初行うとされていた、現実と仮想の反転。

 けれどそれは、私がジアース側の枠組みを粉々に粉砕したことで瓦解した。

 

 あとはもう、ジアースに取り込まれていた魂がエルメシアに帰るだけだ。そうしてジアースは消えてなくなる。

 

「ね、カリナちゃん。レトロって行ったことある?」

「いえ、ないです。というかここにきてすぐに色々あったので……」

「あーねー。じゃ行こうよ。ラミゼットちゃんはどうする?」

「いや私は」

 

 逡巡。

 ……一般人をやる、んだろう。

 

「そうだね、私も行こうと思う。久しぶりにお金を使おうかな」

「普段どうやってお金使わず生活してるんですか……」

 

 奴に言わせるなら、「スポットライトが当たった時期が悪かっただけ」なのだ。

 物語が無い。ストーリー性がない。日常にそんなことを求める方が間違っている。

 

 私はただ、年長者だから。

 私の見たいもののために、という私欲はあれど──ここから先は若い二人に、っていうのが様式美という奴だと思うから。

 

「ああ、そうだ。レトロに行くなら一つ寄りたい店があるんだ」

「寄りたい店?」

「なんでもレオンが開いた店があるらしくてね。知っているだろう? レオン」

「ええまぁ。……もしかして冷やかしに行くんですか、先輩」

「レトロとショッピングは冷やかしに行く場所だろう。なぁ真優ちゃん」

「うんうん、アトラクションだよねー」

「真面目に接客している店員の気持ちを……いや、言っても無駄か。ルカ、こういう大人にはなっちゃだめだぞ」

「私大人じゃないし~」

「私も卒業していないから大人ではないな」

 

 ある程度こちらの正体を察しているカリナだけが「あはは……」という乾いた笑いをしている。その笑い方やめた方が良いぞ。奴と似てる。

 まぁ、そういう意味では一番の年少者がルカで、その次がカリナになるか。ジアースの住民は年数で年齢を数えないけど、外の世界基準にすれば数百から千のどこかであることが多いから。

 確か羅和君も百や二百は超えているんじゃなかったか? 真優ちゃんは……ちゃんと聞いたこと無いけど、第二世代だといっていたからそれなりだろう。

 私は言わずもがな、レオンとアルカもそこそこいってるはず。

 

 だからなんだ、という話ではあるが。

 

「なんならレトロの中でもレトロ……フリーマーケットまで出向くのはどうかな。お金だけは腐るほどあるから、なんだって衝動買いできるぞ」

「いいですね。フリーマーケット、たまに意識していなかったものが売っていたりするので面白いんですよ」

「どんなものが売っているんですか?」

「色んなもの、かなー。ホントに色々あるよ。どっかの学校の教科書とか生徒手帳とか、衣服データだと自作データ系、結構可愛い下着とかもあるし、ぶらぶらするのには最適!」

「へぇ~。面白そうですね」

 

 完全に奴の思うつぼだけど、乗せられてやる。

 

 楽しむか! 一般人!

 

 電脳世界で管理者が一般人やってる話を今からやってやろうじゃないか!

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