電脳世界で管理者が一般人やってる話   作:VacWap / 空白言語

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Case.XX 「休日」

 カリナ・メルティーアートの体質が今どういう判定になっているのかは知らないが、平和は続いている。

 あの後から何事もなく私達は海に来た。エンディミオン・ルーデンス、羅和君、真優ちゃん、カリナは学生らしい水着を、私とフィルニアは少し落ち着いたものを。ルカは子供っぽいものを。

 それぞれに着て、それぞれに海を楽しんでいる。

 ルカは泳ぐのがそもそも初めてで、知識のインストールも拒んだために学生組が付きっ切りで教えている――ので。

 

「バカンスの最中悪いけどさ。ちょいと真実を聞かせなよ、管理者」

「そんなことだろうと思ったよ」

 

 日焼けなんかしないし日差しの強さも熱さも帰られるけど、まぁ気分でビーチパラソルの下にいる二人。

 私とフィルニアだ。

 

「単刀直入に。この虫くい……というか穴あきは、なんだ?」

「君も終末論くらい知っているだろう? それが起きたんだよ。今は私の力で延命しているだけの状態。元からジアースは千年しか寿命が無かったってオチさ」

「……そうか」

「怒らないのかい?」

「怒ってどうにかなるの?」

「いいや。打つ手は打った。文字通り身を切ってリソースに回した。……約束するよ。今、あそこでキラキラした日常を送っている子供達と君は無事に外に出す。だけど私や、最早機構と化した法案会(ルーラー)の連中は」

「ああ、あんなクソッタレジジイ共は良いけどね。……アンタもなの?」

「残念ながら。ま、安全性やら何やらに関しては安心してくれていい。正確に難有れど、外には私の上位互換がゴロゴロいる。彼らは決して人間を粗末に扱ったりしない。……もう数が少ないからね」

 

 とある実験の巻き添えで、外の──エルメシア以外にいた人類は、その悉くが全滅した。

 

 だからこそ、手厚い保護こそされはしないが、決して粗雑には扱われない。

 もし絶やしてしまったらあとが面倒だから。

 

「そっか。んじゃ」

 

 んじゃ、と。

 んじゃ?

 

 フィルニアは私の首根っこをむんずと掴んで──ぶん、投げる。

 

「んなっ!?」

「お前も遊んで来い!」

 

 投げられる。みんながいる方へ。

 

「終わるなら、最後になるなら、思いで作っとけよ。消えちまうならさ!」

 

 そんなことを。

 

 

 

 

 さて、電脳世界の話は一旦置いておこう。

 彼ら彼女らは平和を過ごす。けれど同時に、違和感を覚えた者はいないだろうか。

 

 ──上位者に女はいない。

 

 それはかつての話。モルガヌスが作り出した上位者なる宿主達には、上位者同士での繁殖行為を禁ずるためと、その全ての上位者が男性で占められていた。

 一部いた女性──と思しき存在は、斬り落として盛っただけの男性。

 そう、本当に上位者は全てが男なのだ。

 

 ならば彼女は。

 

 内藤ラミゼットはなんなのか。

 

「そもそも彼女は特殊でね。次なる源をもとに構想を練った次代の上位者……になる予定だった子なんだ。あぁ、次なる源といってもアスカルティンのことじゃないよ。ラミゼットが生まれたのはアスカルティンが生まれるより遥か前だし」

「新人類、だろ。滅亡と再生を無理矢理に繰り返させるメガリスの循環。その一人目の人類。つまりアクルマキアンにいたわけだ、"機械"の時代の最初の人類って奴が」

「うん。で、その人間は役割を果たした後に機奇械怪と融合して、そのまま自我を失った。だけどその機奇械怪は融合元と同じように初めてのことをやったんだ。それが」

「機奇械怪同士の融合……融合種の初の成功例」

「そう。そこで僕は思いついた。ある意味ヘイズ、君と同じようなことをね」

 

 上位者と機奇械怪を融合させたらどうなるんだろう。

 

「思い付きで無計画。いつものことながら、っとに迷惑だなお前」

「あはは、あの頃は殊更に、だったかもね。で、とにかく僕は適当な上位者のサイキックを遮断して機奇械怪と融合させた。その機奇械怪がたまたまた女性の意識を持っていて、その上位者がたまたま意思の弱い奴で」

「結果、女の上位者モドキが生まれた、と」

「そうなるね」

 

 だから、アスカルティンは正解だったのだ。

 オールドフェイスではなく──上位者をシリンダーに入れてエネルギーを抽出したら、一生活動できるのでは、という推測は。

 

 内藤ラミゼットは名も無き上位者を捕食し、機奇械怪でありながら上位者として君臨する力を得た。

 

「けど、程なくして機奇械怪の暴走によりアクルマキアンが崩壊。彼女もNOMANSからの発信に抗ったけど、抵抗虚しく機奇械怪としての本能に呑まれた――呑まれかけた」

「それを救ったのがあのアルカとかいう嬢ちゃんか」

「その辺は記憶を一瞬掠め取っただけだからよくわからなかったけどね」

 

 纏・エルグ。エルグ姓の始祖。

 その妹であるアルカ。つまりエルグとは家名ではなく名前だったと今更判明するわけだけど、それはどうでもいいとして。

 

 纏・エルグは特異な存在だった。

 ピオの記憶空間に浮かぶ僕を見つけ出すとか、全身に"罅"を受けていて尚気丈に振る舞えるところとか。時代が違えば、そして"罅"を受けていなければ英雄価値だっただろう女性。

 その妹に会ってみての感想は──。

 

「紛う方なき英雄価値だったよ。だけど、大分悪人だったね。相当な数を殺して追放を受けたらしい」

「へぇ、同族殺しね。理由とかは?」

「さぁ?」

「ま、お前がそこまで興味あるワケないか」

「ただ、これで崩れたんじゃないかな、ヘイズ。君の仮説は」

「あー。"英雄価値の発現"の仮説か。英雄価値が発現する前後に必ず親しき者の死がある――ってな。だがよ、纏の家の知り合いだのなんだのは確認取ったのか?」

「全然」

「じゃあ崩れてねえよ。サンプルになり得ないってだけだ」

 

 からんころん。

 扉の開く音がする。こんな時間に誰だろうとそちらを向けば、そこには懐かしい顔が。

 

「スファニア?」

「よおヘイズ。来てやったぞ」

「おー。……変わんねえなお前さん」

「ゾンビの身長が変わるワケないだろ。それよりどうしたんだいスファニア。というかエルメシアの検問をよく通れたね」

「シールドフィールドを穿ったら行けたよ。すぐに上位者が来て金輪際こんな乱暴なことはやめろって怒られたけど」

「そりゃそうだろアホか」

 

 スファニア・ドルニル。

 ホワイトダナップが落ちてからずっと世界を旅していた少女。彼女に惑星環境とか全く関係ないので、いい思い出はいっぱい作れたんじゃないかな。うん、人間も機奇械怪もいないけど、廃徊棄械はいるだろうし。

 

「あぁそうだ、フリス。ちょっと前に古井戸とピオにあったぜ。んでこれ渡された。けど読めねえから、やる」

「あの二人も大概人間やめてるよね。ピオは機奇械怪だけど」

 

 彼の仕組みは理解したけど、だからといって人間が生きていていい年数じゃない。

 まさか無限か? あの二人。

 

 それで……ええと。渡されたのは、なんだこれ。

 

 ……フラッシュメモリ? また前時代的なものを……。

 

「ヘイズ、ちょっと食器幾つかくれない?」

「はいよ」

 

 渡された食器類を創り変えて、とりあえず中身をみられる媒体を作る。

 えーと。……暗号文だな。なんだこれ。……えーと。

 

 参ったな。僕頭良くないんだけど。

 

「『なんざよくわからねえ"空を取り戻す会"とかいう廃徊棄械の集団に追われてんだが心当たりないかぁね』、だとよ」

「読み解けたの?」

「簡単な文字ずらし暗号じゃねぇか。こんなんも解けねえのかよフリス」

「いやだから、僕の頭は悪いんだって」

 

 何回言ったらわかるんだ。

 

 にしても。

 

「空を取り戻す会の廃徊棄械……」

「一応だが、ラミゼットから送られて来た人格データは全部""器""に宿してある。管理はメディスンだ、抜かりはねぇぞ」

「だよねえ」

 

 だから、空を取り戻す会の人格データの流出なんてあり得ない。

 

 ……と思いかけて、ふと気付く。

 もし空を取り戻す会が、仮初の終末事件より前から外に人格データを発信していた場合はどうだろう。

 

「そういやモモたちのトコにも寄ったが、一部制御を受け付けない廃徊棄械がいるとかなんとか言ってたな」

「うわ」

 

 確実にソレじゃん。

 もー、やめてくれないかな。今は青春ラブコメアクションストーリーじゃなくて、ボーイミーツガールを楽しむターンなのに。

 

「そうだスファニア。イスカと会ったことあるかな」

「ない。誰だソレ」

「イスカ・リチュオリア」

「リチュオリア? アレキの……子供か?」

「あはは、ないない。彼女は誰とも番ってないよ」

「じゃあケルビマとモモか? 上位者と機奇械怪って子供作れるのか?」

「無理だね」

「???」

「まぁまぁ、そういう子がいてさ。ちょっとお使いって形で、その子と一緒にホワイトダナップまで行ってきてほしいんだ」

「そりゃ構わねえが、なんでだ」

「届けて欲しいものがあってね」

 

 言いながらフリスはフラッシュメモリを創り出す。

 

「ほーん。……そうだ、ならヘイズも来いよ。いいだろ?」

「あ? 俺は店が」

「行ってきなよヘイズ。もう全盛期のサイキックを使える君なら、何も問題ないだろ?」

「いや道行の心配はしてねーよ。この店をお前に預ける恐怖を言ってんだよ」

「悪いようにはしないからさ」

「……はぁ。その顔のお前は梃子でも動かねえか。わかったわかった、行ってやるよ」

 

 よし。

 良い所に良い風が吹いてくれた。

 

 あと邪魔なのは──。

 

 

「君だ。すまないけど地下牢にいてほしい」

「正気かてめぇ。ああいや、フリスが正気な事ほぼなかったか」

「失礼だな、チトセ。ちょっと大規模な事やろうとしてるだけじゃないか」

「……大規模って、どれくらい」

「中三日で準備するから、エルメシアの半分くらいかな」

「半分ぶっ飛ばす、とか言わねえだろうな」

「言わない言わない。ただ半分にはちょっと眠ってもらうだけだよ」

「殺すことの隠喩じゃ」

「ないってば。信用無いなぁ」

 

 いやね、ラミゼットは諦めたけど、僕はまだ可能性あると思ってるんだ。

 

 ジアース。まだまだ使える部分は大きい。

 

 

 だったら有効活用しないとね。

 

 

 あとちょっとで終わると思って、全リソースを吐いている上位者モドキと。

 まだまだ面白そうだなと思って、盤面をひっくり返そうとしている邪神。

 

 果たしてジアースの明日は如何に──!!

 

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