電脳世界で管理者が一般人やってる話   作:VacWap / 空白言語

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Case.00 「ファンディスク」

 そして、とうとうその日がやってくる。

 吐き出せるリソースは限界。私は全力で一般人を楽しんだし、羅和君と真優ちゃんも何かを察してか、何も聞かずに一緒にいてくれた。

 

 心残りがあるとすれば、やはり二人をくっつけるに至らなかったことだろう。

 でもそれも、ジアースの中でやる必要のないことだ。外に出たって、二人はまだ生きていけるのだから。

 

「……さて、最後の大仕事と行こうか」

「それは無理だね。僕はボーイミーツガールを、青春ラブコメアクションストーリーのスピンオフ、あるいはファンディスク的な立ち位置と捉えているのだから」

「ッ、フリス!?」

 

 創り変えようとした世界。

 けれど走った赤雷は改変ではなく転移によるもの。

 

「これは君が一般人を勉強しなかったツケであり、これは最近まで頑張っていた子たちへのご褒美であり、これは──より世界を面白くするためのストーリーだと理解してほしい。だから内藤ラミゼット」

 

 まるで子供が手で遊ぶように、フリスは人差し指と親指を立てて、こちらへそれを向けてくる。

 

「すべてのネタバラシをした後で悪いけど――()()()()だ」

 

 ばぁん。

 

 瞬間。

 ……瞬間。

 

「何も起こらない……いや、フリス。フリス、どこへ行った?」

「アイツは外に戻ったよ。よーっす、初めましてになるか? 俺はヘイズ・イシイ。上位者だ」

「ヘイズ。外をめちゃくちゃにした奴か」

「そそ。そのヘイズで合ってる。ほれ、そろそろ登校の時間だろ? 子供はさっさと学校行けよ。127は卒業無いんだろ?」

「何を言って──」

 

 ゾッとする。

 慌てて世界に触れると、そこには。

 

「……リソースが戻って……いや、元より多い? ……誰が、どこからこんなものを」

「決まってんだろうがンなもん。……あー、ネットワーク内部ってのは、あの時のキモチワルイ感覚思い出してやりづれぇ」

「仮にそうだとしても、何故フリスが。何のメリットがあって?」

「アイツに損得勘定なんか存在するかよ。無計画の権化だぞ。"このまま終わるのも面白くないから"だけだよ、理由なんざ」

 

 フリスという存在の理解力で言えば、この男の方がはるかに高いことは知っている。

 じゃあ、気まぐれで。

 何も考えていない、ただ気に止まったから、程度の理由で。

 

 ジアースを──再建したのか。

 

「ほれ学校行けってお前」

「何故そうも行かせたがる。何か仕込んでいるのか?」

「そーだよ。サプライズってやつ。俺はその辺一回失敗してるからアレだが、フリス曰く絶対うまくいく、らしいぜ」

「いや、君が言った時点で失敗なのでは」

「ん? ……まぁそういうこともある」

 

 一瞬の膠着。

 ……まぁ、行くか。行けばいいんだろう。じゃあ行くか。

 

 サプライズが何であっても、もう驚けなくなったけど。

 

 それじゃあ。

 

 

 

 

 唖然とした。

 あんぐりと口を開けた。

 

「あ、ラミゼットちゃん。おはよ~」

「おはようございます、先輩。昨日あんだけ匂わせてた割に、なんでもないんですね」

「転入生はいっぱい来ましたから、それだったのでは?」

 

 転入生、と呼ばれた集団を見る。

 いやいや。

 

「えーと、初めまして! アスカルティンと言います! 廃徊──」

「私はモモだ。アスカルティンと同じところから来た」

「スファニア・ドルニル。まぁなんだ、旅をしている。ガッコに所属すんのは二回目だが、あー……まぁ、よろしく」

「カリナ! これどういうこと!?」

 

 四人。内二人は、人類の敵。私なんかメじゃないほどの敵。

 加えて。

 

「むぅ……なぜ俺も生徒なんだ。モモもだが。教師役の何が悪い」

「教師になった所で教えられること何もないからだろ、君は。その点私は優秀だからね、ちゃんと教師だ」

「……」

「いやまぁロンラウがいるのは本当に驚きだけど。良く了承したね」

「……貸し借りを返しただけだ」

 

 こっちは完全な上位者三名。

 

「すっごいヘンな感じですよぅ……ネットワーク内部って、感覚機器が狂って……」

「これは流石に御褒美だね。外の肉体の時間を止めたまま精神だけ活動できるのは最高だ。久々にはしゃげるぞ」

「ふぉふぉふぉ……儂、用務員なんじゃな。なんか悲しい」

 

 この集団は……いやもうわからないけども。

 

 詰め込み過ぎだろう、というツッコミを入れる相手は今世界のどこにもいない。

 

 否、幻聴が囁く。

 

『そういうことで、上手く捌いてね』

 

 と。

 誰が手綱を引けるんだこの状況。

 

 

 И

 

 

 ちゃんとサプライズになっている様子を見て、久々に上手く行った計画というものへの自信を取り戻す。

 

「何がどう上手く行ってんだよ」

「なんだい、嫉妬かい? 別に君も行って良かったんだよ?」

「行かねえよ。ヘクセンお嬢様がいるならともかく、どうでもいいガキのお守りなんざしてられっか」

「こっちはこっちで大変だってわかってて言ってる?」

「安置された肉体のお守りの方が気が楽でいい。……一応聞くが、腐らねえんだろうな」

「その辺は完璧。ただ、アスカルティンとモモも送っちゃったから、廃徊棄械はもう言うことを聞かないよ」

「加えて空を取り戻す会、ね。空っつーのがフレイメアリスを差してんなら、取り戻す対象はお前じゃなくてあのミケルとかいう科学者なんじゃねぇか?」

「そういう細かいとこ気にできる人間なら最初からこんな暴走起こさないでしょ」

「そりゃそーだがよ」

 

 エルメシアのシールドフィールド。

 その外壁をぶち破ろうとした──その瞬間にメキョッと潰れる廃徊棄械。

 

「随分と狙い撃ちが上手くなったね」

「パワー馬鹿二人の反面教師にな」

「パワー馬鹿って、僕ともう一人は?」

「ヘイズに決まってんだろ。ケルビマも若ぇのに精密なサイキック操れるし、エクセンクリンとロンラウは言わずもがな。いつだって余計な破壊をすんのはお前とヘイズだよ」

「じゃあ防御面は任せるよ。僕は古井戸たちを追ってるっていう廃徊棄械を探して潰して回るから」

「ああ、行け行け。なんならもう帰ってくんな」

「僕が帰ってこないと、ラミゼット達は困ると思うけどなー」

「あんなん困らせておけ。お前が帰ってくるよりよっぽど良い」

 

 酷い。そんなに言わなくても。

 

 とまぁ、そんな感じで。

 ファンディスクだ。存分にはっちゃけて良いって伝えてあるからね。精々管理者として苦労してくれ、ラミゼット。

 

 一般人としては、もう存分に遊んだだろう?

 

 

 

 と、彼女の視点をジャックするのも面白いんだけど、まだ片付けなければならない問題があるのでもう少しこっちの話。

 

「よいしょ、と。……久しぶりに来たなぁ、ホワイトダナップ」

 

 吹き荒れる嵐をちょっと止めて、地面に突き刺さったその超巨大機奇械怪に触れる。

 もう死んだ機奇械怪だけど……ちゃんと懐かしいと思えるあたり、僕の中で結構大きな記憶になってたんだな、って。

 

「お墓参り、という文化は、僕には無いんだよね。そこに魂がいないことはわかっているから。だけど、だからと言ってその場所が荒らされることを好ましく思えるほど僕の性格はロクでもなくないというかさ」

 

 巣食っている廃徊棄械を全部サイキックで弾き飛ばす。

 ケルビマとエクセンクリンの掃除が無いとすぐこれか。ホント、ロクでもないよね廃徊棄械。結局アスカルティンとモモの"指導"がないと成長できてないわけだしさ。

 

 でも──今回は近づきつつある、ということも知っている。

 空を取り戻す会。名前はダッサいしやってることも意味わかんないけど、手法だけはいっちょ前だ。

 

 肉体の無い自分の魂を外の廃徊棄械に投射して操る、なんて。"精霊"の時代でもやってるのいなかったのに。

 

「そしてあの、虚数の鯨」

 

 思わず笑みがこぼれる。

 アレ、まるで解決したように思われているけれど、全く解決していない問題だからね。

 

 ルカもだけど――偶発的な進化っていうのは、やっぱり見ていて面白いものがある。

 

「ま、僕がでしゃばるのは面白くないからね。あれはカリナ・メルティーアートの物語にしてほしいところだけど、あの様子じゃカリナも脇役かな? ナカヤマ君とマヒロちゃん……さえも脇役になりそうだ。もう完全にラミゼットの成長の物語というかさぁ」

 

 赤雷が走る。

 天に。ホワイトダナップに。あらゆる箇所に。

 

「君の名前は呼んであげないよ。なんならみんなの記憶から消してもいいくらいだ。……それは流石に重いからやんないけどさ」

 

 純白の墓標は何も言わない。

 ただ、風化も劣化もせずにそこにある。

 

「テルミヌスを勝手に引き継がせたことはまぁ怒ってくれていいよアレキ。あ、君は別に呼ぶよ普通に。その方が後で面白いこと起きそうだし」

 

 ねぇ?

 

 なんて言って視線を向けるのは、虚空。

 そこにいたナニカはそそくさと退散していった。

 

 ダメだよ、僕相手に覗き見は。最悪死ぬよ。

 

「……あとフレシシ。ちゃんと記録してきてね。美味しいボーイミーツガールを期待してるから」

 

 彼女を送り込んだのはカメラマン役としてなので、ぜひ頑張ってほしい所である。

 

 

 В

 

 

 という顛末を、フレシシから聞いた。

 

「まぁ、あの身勝手フリスの犠牲者同士、仲良くしましょうよぅ。あ、でも今回は全然遊んで良いって聞いてるんでぇ、そんなに協力する気ないのでぇ」

「いや……あくまで管理者は私だからね。そこを手伝ってもらうつもりはないし、ジアースが復活したのなら……ジアースの良さを知ってもらいたい気持ちもある。だから気負わないでくれ。どうかここでは、機奇械怪であることも廃徊棄械や人間のことも……種族という全てを忘れて、ただ楽しんで行ってほしい」

「……」

「ん? どうした?」

「いえ、ラミゼットさんってホントに上位者なのかなぁ、って。どうにも……こう、上位者方々から感じるものを感じないといいますか」

「ああ、私は上位者を食らった機奇械怪だからね。型番としても君に近いんじゃないかな?」

「あ、そうだったんですねぇ! なんだかもっと好きになれたので、これからよろしくお願いしますね!」

 

 一気に増えたリソース。一気に増えた住民。

 それらは特にトラブルを起こすことも無く、今までいたイズナの子たちと合流した。イズナの迎合能力が高い、ともいえるだろう。

 私としてもありがたいことだ。

 

 ただ、問題は残ったままである。

 私が匂わせまくった挙句こうなったことへの補填もそうだけど、いきなり増えたリソースをもう一度振り分け直す必要が出てきたり、多分BFCがとんでもないことになるだろうから強化しないといけなかったり。

 

 フレシシにはああいったけど、助手が欲しいというのは事実。

 

「まぁ安心してくれ。そのために私が教師側になった部分は大きいんだよ。ほとんど唯一の常識人枠だからね、私は」

「エクセンクリン……でも君、モモのことになったら暴走するだろう?」

「いやもう流石にしないよ。あの子は大人になった。それもあるし、何よりここは電脳世界だからね。外の肉体に影響を及ぼすようなことが起きないような仕組みは私も一枚嚙んでいる。だから安心できる」

「……この世界にまだ問題が残っている、と言ってもかい?」

「ルカと浅香と虚数の鯨、だろう?」

 

 流石。

 いや、確かにありがたい。エクセンクリンが助手になってくれるのは、割と、かなり本気で助かるかもしれない。情報処理能力においては彼の右に出るのは……ヘイズくらいだろうし。

 かといってヘイズは性格がアレだから、エクセンクリンはベストチョイスだ。

 

「一番の問題は虚数の鯨だ。アレがなんであるか、なぜあんなものがいるのかが全くつかめていない。外でフリスが空を取り戻す会を捕まえ、その記憶を奪取してくれるのが一番だけど」

「ラミゼット。君はまずフリスに期待する、ということを止めた方が良いね。私の知る限り、彼が期待通りの動きをしてくれたことはない」

「わかっているよ……それなりに、身に染みて」

 

 だから自分たちで調査するしかないんだ。

 そして次に、浅香のこと。

 

「一応事の経緯を説明しておくと、法案会に任せ、人格の初期化の為された浅香は、けれどその後の動向が掴めなくなった。彼女は指定した範囲の相手を虚数の海に落とすグリッチを使う他、彼女が開いた虚数の海に虚数の鯨がいたことを考えるに、そこが繋がっている可能性は高い。元はイズナの生徒だったっぽいんだけど、痕跡が記録しかなく、また本人もバグだらけだった」

「改造された、という話であってたかな」

「ああ。当初はバグ遣い、グリッチ遣いが浅香を改造したものだと思われていたけれど、そこにいたのはルカだけ。ルカの正体は知っての通りだけど、だとすると未だにバグ遣いが誰なのかが微妙に判明していない。空を取り戻す会のメンバーの誰か、というのにはあまりにも浅はかな会だったからね、あれは」

 

 だからあの会に協力者、ないしはもっと悪事に手を染めている頭のような存在がいたと考えるのが普通だ。

 加えて今述べたすべての事象は、管理者権限をもってしても行動ログが漁れないようになっている。

 それも考慮すると──。

 

「誰かが管理者権限に手を届かせつつある、か」

「話が早くて助かるよ。そう……内藤ラミゼット、Administratorの権限はこの世界の神にも等しい。だから好き勝手されていないことがまだその何者かが管理者権限を得ていないことの証左になる。ただ、今そうでないからと言ってこれからもそうではないとは限らない」

「むしろ、仮初の終末を経て君のデータを取り終えた可能性もある。違うかい?」

「……ああ、その可能性が一番高いと思っている。なんせ私が直々に空間改変を行ってしまったし、地域(コンテンツ)の壁も破ってしまった。アレを監視されていたのなら、破り方を教えてしまったに等しい」

 

 もしその解析が終わったら。

 

「敵……仮称敵とする者は、今度こそ神気取りでこの世界に君臨し、ジアースを滅ぼすかもしれない」

「内藤ラミゼット。それは君の望むところではない。そう捉えて良いんだね?」

「ああ。ルバーティエ=エルグ・エクセンクリン。そうしないための助力を乞うよ」

 

 手を差し出す。

 それはしっかりと握り返された。……話の通じる上位者って良いなぁ。

 

「ただ、羅和君含めた生徒たちには日常を謳歌してもらうつもりだ。敵が執拗にイズナを狙っているあたり、何かイズナに恨みがあるか、イズナ内部の生徒の犯行の可能性もあるからね」

「……言いつけておかないと、アスカルティン辺りはめちゃくちゃやりそうだけど」

「そんなに酷いのかい? 私も元次なる源だけど、彼女はその自我を制御する離れ業を見せたと聞いているよ」

「酷いというか……フリスにちょっと似てるというか」

「ああ。面白そうだったら乗っかるタイプか」

「そう」

 

 ……まぁ。

 それも醍醐味、だろう。なんでもかんでも制限制限じゃあ面白くないだろうし。

 

「今回は食べたり食べられたり、壊したり壊されたりがない状況だからね。仮初の平和だとしても、友好的で且つボーイミーツガールな結果が見られることを私は望んでいるよ」

「……そうかい」

 

 その執拗にボーイミーツガールボーイミーツガール言う所、青春ラブコメアクションストーリー青春ラブコメアクションストーリー言うフリスにそっくりなの気付いているんだろうか、なんて呟きは聞こえないフリをして。

 

 こうして、ジアースの新しい時代が始まったのである。

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