電脳世界で管理者が一般人やってる話   作:VacWap / 空白言語

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Case.13 『惚れ薬』

 その日からはもう、本当にただの日常だった。

 イズナへ登校して、その日の終わりには廃棄地域(スクラップ)に行って、前髪が野暮ったいだのなんだのを言われて、その繰り返し。

 

 私はエクセンクリンやヘイズの力を借りて虚数の鯨や浅香捜しに心血を注ぐも――。

 

 十日経って、進展なし。

 流石に成果ゼロは私でもクる。のでスクラップの部室でぐでーっとしている……そんな時だった。

 

「ラミゼット」

「……ん? あぁ、ルカか。……珍しいね、君が一人でいるのは」

「うん。助けて欲しくて」

「ああそうかい。……助け? 何かあったのかい?」

「羅和と真優が……ヘン、なの」

 

 ああ、やっぱりか。やっぱり君達が救世主なのか。

 この進展のない話を進めてくれるのは、やっぱり──。

 

 

 

 

 桃色だった。

 

「羅和……ね、キスしよ?」

「ダメだって真優。……ここ教室だよ? あとで、ね」

「いいじゃん、見せつけたって……もうみんな公認なんだし」

 

 ズカズカと教室に入っていって、正当な後輩である次なる源……アスカルティンの胸倉を掴み、教室から出る。廊下は面倒なので屋上にアクセスし、且つ屋上へのアクセスを禁止する。

 

「ありゃ、一瞬でバレてしまった」

「何をした! 私がゆっくりゆっくり育て上げて来たイチャラブの、ボーイミーツガールの芽に何をした!」

「いやだって、じれったくて。どう見ても二人好き同士なのに告白もしなければアプローチもしない。私の知ってる一番カッコよかった女の子は、自分の特別を全部捨てて、自分の全てを危険にさらけだした上で告白してましたよ。真優さんもその素質はありそうなのに、ずーっと一定の距離感を保ってて……それで」

「それで?」

「トーメリーサの中身を参考に、惚れ薬を組んで、互いに飲ませました。原案はガロウズさんから貰いました。なんでも現実で作ったことがあるとかなんとか」

 

 これだから。

 これだから機奇械怪は! 人間の心を理解できない!!

 

「いや、こんなことをしている場合じゃない。……初期化してくる」

「ええー。また毎日あの自覚症状のないイチャラブを見せつけられるんですか?」

「ア・レ・が! いいんじゃないか! わからないか!?」

「私だけじゃなくて他の人たちもずっと砂糖吐いてますよ。……私も同じだ、みたいな顔しながらモモはモモでケルビマさんといちゃつき始めるんで、こっちは溜まったものじゃないんですけど」

「知るか! あれは私が育ててるんだ! そんな劇毒で育たれたって嬉しくない!」

 

 豪砲が顔の真横を突き抜ける。

 ……いや、今のは捕食か?

 

「ラミゼットさんは機奇械怪寄りだって聞いてたんで期待してたんですけど、どこまで行っても上位者は上位者ですね。なんですか今の言動。二人の気持ちとかガン無視じゃないですか」

「惚れ薬で心を操るのがガン無視ではないと?」

「別に自分を棚に上げるつもりはありませんよ。ただ、私を叱るクセに自分はそう、っていうのが気に食わないだけで」

 

 ……。

 

「なんだ、やるのかい? 君が外でどれほど強い存在でも、ここでの上位者は私だぞ」

「実は戦う以外にも相手をとっちめる方法っていっぱいあってですね」

 

 バチン、と。

 体に電流のようなものが走る。……クラック? すぐに初期化……いや逆に。

 

「っ! お、っとと、流石は千年間管理者として君臨し続けた上位者。一筋縄ではいきませんね」

「当然だろう。だが、そもそも何をするつもりだったのか──」

『羅和。ね、ここならいいでしょ? ここなら誰も見てないし、もう我慢できないの』

『仕方ないな、真優は。いいよ。ここでなら……熱いキスを交わそ』

「盗撮の上に視界のジャック!? 君ね、普通に違法行為だぞそれは!」

「私が今更人間の法律なんかに従うワケないじゃないですか。それに、フリスさんに言われましたから、めいっぱい楽しんで来い、って。これが私なりの答えでして」

『……ん』

『ふふ……キスを待つ真優の顔、とっても可愛』

 

 斬る。叩き割る。

 自身の眼球をオブジェクト化して破壊し、無理矢理初期化する。

 

「わお、荒業」

「今すぐ中断させろ。――じゃないと、酷い目に遭わせるよ」

「へぇ、やってみてくださいよ。千年もの間ぬるま湯に浸かっていた骨董品に何が──ひぁっ!?」

 

 大気を創り変えて、遠隔操作を可能にし──彼女のそこ。

 背に開いたコイン投入口をくすぐる。

 

 知ってるさ。私も機奇械怪だから。

 どう頑張っても、どうやっても――そこだけは露出させないといけない。オールドフェイス投入口を何かで塞ぐことは、機奇械怪にとっての死を意味するから。

 

「形勢逆転、だね?」

「く、ぅぅ……! 三百年くらい誰も弄ってきてなかったから、これ、やば……」

「そら、早くあの惚れ薬を壊さないと、もっとすごいことするぞ。フリスでさえ理解していない、機奇械怪本人しかわからない弱点ってものを突くぞ。いいのかい?」

「それはこの、シリンダーヘッドの溝部分、とかか?」

「──~~~ッ!?」

 

 触れられるはずのない場所に触れられて、声にならない声が出る。

 

 後ろを振り向けば、そこにいたのはモモ。そしてその手にあるのは。

 

「は──私のシリンダー!?」

「ああ。夫のサイキックには透過というものがあるのだがな、その応用で、こうして位置をズラす、なんて荒業が使えるんだ。お前のシリンダーはちゃんとお前の中にあるが、ここにも存在する。存在するから触れられる」

「ッ……武人系の入力はわけのわからないものばかりだな相変わらず!」

「ふん、アスカルティンからの救援信号がなければ私がこんな無茶をすることは無かったさ。まったく、アクセスロックも厳重過ぎて日が暮れるかと思ったぞ。……それで? 私の友をこんな場所に連れ出し、あまつさえ良からぬことをしていることへの言い訳はあるのか?」

 

 ──管理者権限を使用。

 対象はアスカルティンとモモ。書き換えは位置データと衣服データ。屋上から教室に、制服から水着に。

 

 勝手に書き換えて実行する。

 

「……ふぅ。悪は去った」

「あら、もう終わってしまいましたか」

「なんだアルカ。何用……というかその手にあるものはなんだ」

「これですか? これは先ほどショッピングで買って来た『猫猫にゃんこなりきりセット』です。容姿データに合わせて大きさが変わる他、感情の値によって尻尾や耳が動くという、安物にしては良いおもちゃだと思っています」

「アスカルティンとモモなら今頃教室だ。そこで恥ずかしい思いをしているだろう。私は羅和君たちに一刻も早く会わないといけないから」

「えい」

 

 すちゃ。

 

「……アルカ?」

「いえ、私はアスカルティン様から"面白いラミゼットさんがみれるよ"とメッセージを受けてきましたので。それを見られなかった以上、こうするのは当然では?」

「はぁ、君までおかしくなったのか。……ん? なんだこれ。取れないけど」

「ええ、安物の理由がそこにありまして。容姿データを勝手に改変するので、一度は法案会(ルーラー)で棄却を命じられたデータを店主が勝手にサルベージして売っているそうで。ちなみに初期化しても取れませんよ」

「……」

「期間は二十四時間だそうです。――現実の」

「……」

「お、っとと。これは苛立ちが怒髪冠を衝く。そういえば知っていますかお嬢様。今日やっと羅和様と真優様がキスまで行ったそうで──」

 

 そうかい。

 

 

 Ю

 

 

 二百年ぶりくらいの強制シャットダウン明け。

 大体の人間は「まぁそういうこともあるか」と済ませて作業を再開するけど、一部の、本当に一部の人間は──今まで自分たちがしてきた所業の"酷さ"に気付き、バッと離れて頬を赤らめる。

 

「羅和……忘れよ! 今までの! さっきまでの全部!」

「そ、そうだね。真優。それがいい。今日の朝くらいまでリセットしようか僕達」

「う、うん! じゃあいくよ、せーのっ!」

「羅和! 真優!」

「お二人とも! 容態はどうですか!?」

 

 リセットをかける──タイミングで丁度来てしまった"善意の邪魔者(プレゼント)"に顔を引き攣らせる二人。

 そういえば二人は「ちょっと感覚器酔いをしたから」という理由で体術の授業を抜け出し、ここへその行為をしにきていたのだった。

 

 だからカリナは純粋な心配を。

 そしてルカは。

 

「良かった。二人の身体からバグ、消えてる」

「え! 何かバグがあったんですか?」

「うん。二人がね、二人のことを好きになり過ぎるバグ。素直になっちゃうバグがあったの」

 

 それはもう赤裸々に話すルカ。彼女の目にはバグが「そのもの」として見えているから、それはもう事細かにそれはもうそれはもう。

 

「……? それって何か悪いものなんですか?」

「悪い、とは、違うかも? でも人前で抱き合ったり、口と口を合わせたり、ずっと好きとか愛してるとか言ってたり、朝から変じゃなかった?」

「そうでしょうか。私から見るとお二人っていつもそんなもののような」

「断じて違う! カリナさん、君は一回目に何かフィルターがかかってないか診てもらった方が良い」

「し、してないよそんなこと! したいとは思ってたけド……え、あ、あれ!?」

 

 急いで口を閉じる真優。

 そんなことまで言うつもりはなかったからだ。

 

「……? カリナ、なんか変なの持ってる?」

「ああこれですか? これは先ほど、何故か教室の中で水着になっていたアスカルティンさんから渡されたもので、人を落ち着かせる効果のあるお香なのだそうです。ふふ、電脳世界でお香というのも不思議なお話ですが、確かにリラックス効果があるんですよ」

「この匂い……あれ、強制シャットダウン前、僕達もアスカルティンさんからこういう匂いのジュースを貰わなかったっけ

「うん、貰ったと思う。……その時から羅和の横顔がかっこよくて、頭ぼーっとしちゃって……え、え! 違う! 今の違くて!」

 

 事情を察したカリナは、お香を思いっきりぶん投げる。窓から外へ。

 そして認識する。

 

 あれ、邪神と同タイプだ、と。

 

「違わない……よね? 真優」

「へぇぁ!? る、ルカちゃん? 何を言って」

「違うことを言わせるデータじゃなかったもん。どっちかというと、いつも思ってる本当のことを」

「ワーワーワーワー! 羅和! 何も聞いてないね!? カリナちゃん! よし今からランニング行こう! とう!」

「……そうですね。私が触れない方が良さそうです。あと、ルカさん。これは教訓ですが、人間と言うのは内に秘める感情があってこそなんですよ。全てを話してしまうのは……ええとそう、趣がない、のだとか。それじゃ、私は走ってくるので」

 

 ドタバタと離れていく二人と──未だ呆然としている羅和。

 

 残念ながらジアースには無意識に顔を赤くさせる、という機能は備わっていない。無論ONにしようと思えばできるのだが。

 

「……ルカ」

「なに、羅和」

「今聞いたこと、忘れてくれるかい?」

「なんで?」

「……先輩じゃないけど。僕らはもう少しゆっくり進みたいからさ。それがたとえ、世界の終わりを目前にしているのだとしても」

「……わかった。メモリーに蓋をしておく」

「ありがとう」

 

 ──そんな様子を盗撮して、「よくわかってるなぁ羅和君は。これだから信頼できる!」とか言ってる上位者モドキがいたとかなんとか。

 

 

 

 さて、放り投げられたお香。

 本来は地域(コンテンツ)の壁に当たるだけなのだけど、何の偶然かちょうどそのお香が壁に当たる時に、このイズナ中の地域(コンテンツ)を出て行く者がいた。

 

 だから気付く。自身のアクセスした未許可侵入不可地域(Secret- field contents)に、見知らぬお香が落ちていることに。

 そしてそのお香を激しく吸って──自身の秘めに秘めていた感情を露わにする。

 

 これが。

 こんなしょーもない事件が。

 

 此度の事件の始まり──その真相だった。

 

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