電脳世界で管理者が一般人やってる話   作:VacWap / 空白言語

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Case.6 「転入生」

 世界は混沌としている。

 大気には高熱の鉄と溶けたガラスが高速で暴れまわり、降り注ぐ恒星の光線は植物の一つとして生きることを許さない。そんな地上をなんとか生き抜いた希望の国エルメシア。シールドフィールドという技術によって国の安全を保っているこの国では、とある深刻な問題が発生していた。

 

 ──人口不足。

 

 無論、元より終末へと向かう世界ではある。国外へ出ることがほとんど敵わず、だというのにその嵐の中から廃材機械の化け物が襲ってくる始末。だから、今更人間がいなくなろうとおかしなことでもない……というのが一般人の、それも諦めた者達の意見だった。

 が、それでは困る者達もいたのだ。

 それが。

 

「うぅ……ジアースの管理者と話を付けてきてほしいって、どう考えても大役が過ぎる……」

 

 他称。あるいは仮称──神様。or邪神。

 エルメシアのとある学校に通う生徒であるカリナ・メルティーアートは図書室で遭遇するそのカミサマに、「あ、そうだ。ついでになんだけど」なんてお使い感覚でこの依頼を任されたのだ。

 

 では前提のお話をしよう。

 エルメシアは困窮している。世界が終りかけているので、人々は絶望に瀕してしまった。

 それを受けて、ある"開発者"が電脳空間を構築、意識データをその空間に投影し、この辛い現実から逃れる……文字通りの現実逃避を完成させて見せたのである。

 無論行く行かないは別れた。他の星へ移住する、という意見もあったし、エルメシアを守り続けるという者達もいた。それはほとんど綺麗に三分され──。

 

 移住船は宇宙空間で大破したという。

 

 よって残されたエルメシアの人々は、既に肉体を失った電脳空間の住民と、未だ化け物……廃徊棄械(クラッドオレオム)と戦い続ける者しか残っていない。

 カリナは後者だ。図書室が好きではあるけれど、バリバリの武闘派。そのはずだったのに。

 

「やるべきことは、意識データのサルベージと、電脳空間への移住が妙に加速している理由を突き止めること……はぁ。そんなの世界が終りかけてるからに決まって」

「おや、カリナさん。憂鬱な顔をしていますね。どうかしましたか?」

「あ……っと、アルベーヌ学園長。いえ、なんといいますか、カミサマから無理難題を押し付けられて困っていると言いますか」

「ふむ。悪い宗教ですか? 悪徳の類であるのなら、私が潰してきましょうか?」

「君じゃ無理だよ、アルベーヌ。なんたって僕が教祖だからね」

「あ、神様」

 

 パッと出て来たアルベーヌ学園長と、ヌッと出て来た邪神。

 二人は視線を絡ませて──どちらもにこりと笑顔を作った。どうしてか、笑顔なのに非常に恐ろしい空気を感じるカリナ。

 

「……この子に淨眼はありませんよ?」

「別に僕は淨眼があるからあの子を好きになったわけじゃないよ。それと、この子に抱いているのは好悪というよりは期待かな」

「あらあら……これは、なんといいますか、可哀想に」

「憐れまれた!?」

 

 知られている限り、300年以上を生きている学園長と、本人は否定しまくるけど100%神様な邪神。

 カリナの友達にイスカというバ……猪突猛進な少女がいるけれど、彼女の言を借りるならば「妖怪大戦争」である。

 

「それで、私の生徒であるカリナに何を依頼したのですか?」

「君も知っているだろう? 最近廃徊棄械を鹵獲して、内部データを解析、それをジアースに流してる馬鹿がいるんだよ。ソイツが出現したあたりからエルメシアの人口が目減りしててね。別に僕はこの国が滅ぼうとどうでもいいんだけど、"流石にもうちょいだけ保たせてくんねぇ? あんまり滅ばれると萎えるんだわ"って某居酒屋店主に言われちゃってさ。旧友の頼みとあらば、って感じ?」

「……了解しました。その問題は我々人類の問題でもありますからね。ではカリナさん。単位はつけますので、その依頼の完遂をお願いします」

「えっ、味方になってくれるんじゃ」

「ふふふ、残念ながら私ではこの……邪神には勝てないのですよ」

「君ね。僕が神じゃないって知ってるだろ」

 

 どうやら敵しかいないらしかった。

 

 こうして。

 

 カリナ・メルティーアートは、単身、時間の引き延ばされた電脳空間『ジアース』にダイブすることになったのである。

 

 

 *

 

 

 廃棄地域にログイン反応があって、けれど羅和君ではなかったから気になってきてみたら、そこには少女がいた。

 

「……羅和君、性転換したのかい?」

「はい!? いえ、あの誰ですか? ナカヤマ……?」

「ああごめん、ただの悪ノリだよ。……カリナ・メルティーアートというのか。出身地域は……80862中? また、とんでもなく遠い所から来たものだね。いやまぁジアースで距離を問うのはナンセンスか。それで、年齢は……十二。思ったより幼いな」

「え、いや、あの」

「ああ、喋らなくていい。聞く気が無いからね。それで、ここに来る前は……ん? 虚数の海を経由している……まさか道割き女の被害者? 記憶データ……欠落。ああ確定だ。ただ意識データは特に損なわれていないのか。浅香と関係があるのかどうかはわからないけど、これも何かの縁だ。持って行ってくれ」

「ちょ、嘘待っ」

 

 興味がない。

 羅和君と真優ちゃんとルカ以外、所詮何もできないNPCと変わらない。80862(ヤオヨロズ)に配置されたということは、"外"でそれなりの功績を持っていた人物だったのだろうけど、ジアースに来た時点でその辺の足並みは揃えられる。

 よって保存していた道割き女こと「浅香」と共にこの廃棄地域から彼女を追い出し、席に着く。

 

 静寂。

 

 ……否、もうすぐだ。

 

「先輩。もう来ていたんですか。いつも通り早いですね」

「私はほとんどここに住んでいるようなものだからね。それで、ドッペルゲンガー事件に進捗はあったかい?」

 

 いつものように。

 当然のように羅和君が入ってきて、その数瞬あとに真優ちゃんとルカが来る。

 

「いえ、事態は複雑化しました。先輩が通信をくれた後、""空を取り戻す会""が──」

 

 かくかくしかじかまるまるうまうまなっとうねばねばびよーんびよーん。

 成程。 

 ゾンビ、あるいはクローンね。それにBFCでクラッキングを受けたと。

 

「……先輩。僕知ってますよ」

「何がだい?」

「その顔は、答えを知っている顔です。ドッペルゲンガー事件の主犯、仕組み、目的。全部知ってて……」

「違うよ羅和ー。ラミゼットちゃんのこの顔は、全部知らないから楽しくて仕方がない、だよ。ね?」

「うん、真優ちゃんが正解だ。というか最近の羅和君は私のことを疑い過ぎだよ。私、割と本気で何も知らない一般市民だよ?」

「……何も話す気は無い、と」

 

 うーん。

 真優ちゃんは純粋な目で私を見てくれているけど、羅和君のこの嫌疑そのもの! みたいな目よ。

 怪しい要素しかないのは認めるけど、それだけで人を黒幕扱いしてくるのはどうかと思うよ。

 

「あ、そーだ! そんなことよりなんだけど」

「ああ、そうだった。忘れるところだった」

「うん?」

「ヤオヨロズからね、転入生が来るんだって! この辺に転送されるって話だったから迎えに来たんだけど、ラミゼットちゃん知らない?」

 

 ──……う。

 

「し、知らない」

「嘘ですね」

「嘘だねー」

「……噓吐き」

「おおルカまでもが私に毒を吐くように……嬉しいような悲しいようなだよ私は」

 

 というかまともに喋ってくれたのこれが初? 悲しい話だ……。

 

「いいだろう。白状しよう。……さっきここに来たんだけど、侵入者の類だと思って外に放り出した。どこへ行ったかは知らない。ランダムにしたから」

「えーっ!」

「……最悪外交問題ですよ?」

「わかった、わかったよ。そんな最低なものを見る目で見ないでくれ……。あー、君達今日の予定は?」

「ドッペルゲンガー事件の調査を引き続きする予定です。が、転入生の迎えくらいなら、と思って来たんですけど……」

「わかったわかったわかったって! そっち……転入生の方は私が責任を持って送り届けるから、君達は事件の方を頼むよ。あれだ、一度乗りかけた船は降りれないって奴だ」

「乗り掛かった舟、ですか」

「そうそれ」

 

 面倒なことになった。

 そろそろ事件の方に進展がありそうだから、私はニコニコしながらボーイミーツガールの顛末を聞かんとここにいるつもりだったのに。

 

 ……すべては私の面倒くさがりが原因か。

 

「なるはやでお願いします、先輩。イズナは悪評広まりやすいんですから」

「わかってるわかってる。ああ、じゃあもう行くよ。ここの戸締りは任せたよ!」

 

 廃棄地域からログアウトする。

 一度ロビー空間に戻り、先ほどの少女、カリナ・メルティーアートの痕跡を……。

 

 ……?

 

「辿れない? ……もしやまた虚数の海に……いやいや、だったら侵入形跡が残る。……なんだ? 凡夫じゃないのか?」

 

 転入生、というもの自体、確かに珍しくはあるのだ。 

 否、もっと強い言葉を使うのなら、ほぼあり得ない。

 

 配置、配備。 

 その人格データ、思考データの特質にもっとも合致した場所に人間は置かれる。だから基本的にその人はそこを気に入るし、そこにいる大体の人間と仲良くなれる。ストレスフリーを極限まで目指した結果だ。

 それが転入生、転校生となると……ヤオヨロズ(あちら)で何か問題を起こしたか、イズナ(こちら)が強く欲したかのどっちかだ。

 

 それが特異でなくてなんだと。

 

「よい、っと。お嬢、外出すんなら一声かけてくだせぇって何度言ったらわかるんスか」

「ラミゼット様。アルカ、レオン、到着いたしました」

「ああ……ん、本物だね」

「お嬢が欲しけりゃドッペルゲンガーもといクローンウィルスのサンプルデータが」

「要らないよ。というかそんなの取っていたのか。ああだから昨日休日申請を」

「そういうことですわ。んで、午後全部使って自分のクローン殺しまわって来たんで。ああ罰則(レッド)はついてないですよ。人目に付かねえトコでやったんでね」

 

 どうやらレオンは一足先にドッペルゲンガー事件の真相に辿り着いているらしい。

 アルカも多分そうだけど、何も言わないのは私をわかっているがためだろう。

 

「カリナ・メルティーアート……という少女に聞き覚えは?」

「ねぇっす」

「ないですね。調べますか?」

「いや。……さっきね、あの部室に入ってきて。あんまりにも興味なかったからランダムでぶっ飛ばしたんだけど、実はイズナへの転入生だったらしくて。今それを探しているんだけど、どうにも移動ログが辿れなくてね」

「へぇ、お嬢にも出来ねーことあるんすね」

「いっぱいあるさ。……羅和君と約束しちゃったんだ。必ずその子を見つけ出すって。はぁ、面倒な……」

 

 広域検索をかけても、移動ログに検索をかけても出て来ない。

 名前もIDもヒットなし。虚数の海にソナーを放っているけれどそっちも反応ゼロ。

 

 ……となると、未許可侵入不可地域(Secret- field contents)か。

 顔も名前も知らない相手のSFCに飛ばした可能性を考えるとダルすぎる。

 

「……あー。お嬢、一個違法なことしていいなら、人探しすぐにできるッスよ」

「何をするかだけ聞いておこう」

「ドッペルゲンガーを使うんすよ。人海戦術です」

 

 ……うーん。

 それはなぁ。

 

「ちなみに何が違法なのかわかっているか?」

「爆発的に容量増やすんで、ジアースに死ぬほど負担かけるス。BFCとかSFCみたいな閉じた地域(コンテンツ)ならまだしも、こういう場所でやると世界が歪む可能性大」

「そこまでわかっているなら、まぁいいだろう。十分だ。十分間だけジアースの容量を()()()。その隙に見つけ出せ」

「マジか、んなことできるんすか」

「疑いたければ勝手に疑え。──やるぞ」

「うス。カリナ・メルティーアートで、モデルデータとかありますか?」

「今転送した」

 

 目の前の空間に手を置く。

 

 ──走るは、赤雷。

 

「創り変えるぞ」

 

 瞬間、気付く者はいただろうか──世界が膨張する。

 メイドことアルカが目を見開いているあたり、彼女には感じ取れているようだ。

 

「ほれ、行けよ行けよ俺達。こいつを探して持って来い。ああ、傷はつけんなよ、貴賓って奴さ」

 

 直後レオンが何か粒のようなものを地面に蒔く。それはめきめきと成長し──レオンになる。

 彼らは何かを話すでもなく、それぞれに別々の空間へのアクセスを開始し、消えて行った。

 

「さて、まぁ十分間暇になったわけですけど」

「馬鹿を言っている暇があったら構えなさい、レオン。来ますよ」

「へ?」

 

 破裂音。

 いいや、発砲音だ。現在主流のエネルギー銃ではなく、鉛玉を飛ばすそれ。勿論データ上のものではあるが、形としてはコンテンダーという奴だ。ただし装填はしない。一発撃ったら消して、再度出して撃つという手法であるため、装填数が一発であるにも関わらず連射ができる。

 

 彼女が撃ったのは、ナニであるとも形容しがたいノイズ。

 

「……ええと、ありゃなんですかい?」

「ジアースは完結している。完成しきっているジアースに手を加えたんだ。そりゃ歪みが出る。というより安全機構と言った方が正しいかな。つまり白血球だよ。ジアースに害を為している私を食い殺しに来たのさ」

「お嬢の管理者パワーでなんとかできたりは!?」

「私が管理者だなんて君に言ったかな、レオン。陰謀論好きはどっちなんだか。――そら、レオン。()()()()()()()()()()()()()()()、自分で戦うんだ。アルカは見逃しても、私は見逃さないぞ」

 

 言えば露骨に嫌そうな顔をするレオン。

 知らないけど知っている。君が数々の違法に手を染めていることなど。

 

 でもまぁ、現行犯を見ていないから。

 

「別に十分丸々戦えってわけじゃあない。君のクローンがカリナ・メルティーアートを見つけて来ればいいだけの話だよ。この状況を恨みがましく思うのなら、自分が行かなかったことを恨むんだね」

「面倒くさがったツケってことですかい。……ああもう、やってやるよ!」

 

 レオンは腕甲を出す。

 へぇ。彼が戦う姿は初めて見るけど、中々珍しいスタイルだな。

 

「誤射んなよ、アルカ!」

「射線に入る方が悪いのでは?」

 

 さて──カリナ・メルティーアート。

 君は十分以内に捕まってくれるだろうか。

 

 捕まってくれなかったら、お姉さん、ちょーっとこわーい手段を使っちゃうぞー?

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