電脳世界で管理者が一般人やってる話 作:VacWap / 空白言語
幸いにして、合流した時の羅和はルカと共に居た。
彼も彼で大量の黒ローブを倒してきた後らしく、真優と合流した直後にルカへ声をかけ、二人を精査し、安堵を得たようだった。
「しかし、これはどうしたものだろうか。
「私達だけの手には負えなくなって来たねー」
「……えーっと、あの、今更なんですけど、あの人たちは一体……」
そういえば。
カリナへは何の説明もしていなかったな、と、羅和達は事のあらましを話す。
ドッペルゲンガー事件。ゾンビ。あるいはクローンの話。
そしてカリナの追っている人口減少とのかかわりあいを。
すると。
「……もしかしたら、なんですけど。私、解決できるかもしれません!」
「本当かい? しかし、どうやって」
「えっとですね、外の世界の廃徊棄械に、トーメリーサMk.Ⅱというのがいまして。それは、所謂極小のウィルスを大気中に放出して、付着した人間を廃徊棄械に書き換える……という種なんです」
「……聞いたことがある、どころじゃないね。まさに今の状況だ」
「はい。それで、トーメリーサの倒し方も私達廃徊技師には共有されてて」
廃徊棄械トーメリーサ。かつてこの種が機奇械怪だった時は、何の抵抗も許さずに一国を滅ぼした程の厄介な兵器であった──が、此度の人類は非常に強い。強かった。
対処法を編み出したのである。
それが。
「
「これをすることで、トーメリーサの種はトーメリーサの種同士とくっつき合い、互いを食い合って消滅します。同じことがこのクローンにも可能なんじゃないかな、と」
「……可能ではあると思う。だけど、どうやってそのクローンを変質させるかが問題だ。生憎と僕も真優も技術力が無くてね」
二人の脳裏にあのニヤけた先輩が映る――が、頼るのは違う気がする。
多分彼女は羅和と真優での解決を望んでいる。ならばすべきは。
「あの……クローンって、一人だけでも鹵獲出来たりしませんか? そこまで複雑じゃないなら、多分私いけます」
「いやでも、カリナさんは"外"から来たばかりだろう? ジアースの内部プログラムなんて弄れるのかい?」
「多分、です。ここの調査を依頼された時、邪神に
曰く、必要になるはずだから、と。
ならなかったら、ま、そういうこともあるよね、と。
あの無計画の邪神はそう朗らかに笑っていた。
「……わかった。真優」
「んー、別に【拘束術】を使うのは良いんだけどー」
「いいんだけど?」
「……なんでもないかな! よし! 早速やってみよう!」
少しばかりの違和感を羅和は覚えた。
真優が言い淀む。影を帯びる。そんなの今まで一度も無かったから。
けど、意気揚々と
ただ脳裏に、少しだけ留めて。
τ
こうして、である。
見事一人の黒ローブを捕まえた一行は、カリナの協力のもとその一体を改造、リリースし──。
「こうして俺にお鉢が回って来た、と。なんか最近後始末ばっかじゃないですか俺」
「なんだ、文句を言うのかい?
「……いょーっし真面目に働くぞー!」
蟲毒を始めたドッペルゲンガーは、最終的に巨大で醜悪な、何かよくわからない肉の塊へと変貌した。データ上でいえばノイズの塊、と言った方が正しい。
「ラミゼット様。今のはどういうことでしょうか」
「えちょオイ! せっかくお嬢が言葉濁してくれたのに聞くのかよ!」
「ん? あぁ、レオンは外の馬鹿と繋がっていてね。ブローカーをやっているんだ。で、まぁ再現機械に留めれば良かったんだけど、今回外の馬鹿が引き入れたのが『レギオン』と呼ばれる廃徊棄械でね。レオンは何も考えずにそいつをこの世界にダウンロードして──」
「今回の騒動に至ったと。ああ、あの時言った負い目とはそれですか」
「全部言われた! 全部バラされた!」
クツクツと笑うラミゼット。
どうやらレオンがブローカーをしていることも、廃徊棄械の概念を持ち込んだこともまったく気にしていないらしい。
機奇械怪も廃徊棄械もラミゼットにとっては既知の存在だが、それを人間が利用し、逆に暴走して手を焼く、というケースは「面白い」部類に入るらしかった。
内心「命拾いしましたね」と呟くはアルカ。
「だぁー、もういいや! もうバレてんならもう一個も使っちまうさ! "エクステンドマギア"!」
「ほぉ!」
レオンの腕甲に、何やら暗色の靄がかかる。
それは機奇械怪の"茨"とも廃徊棄械の"霧"とも違う、もっともっとも前の時代の遺物。
「"精霊"の時代の……そんなものどこで、というか誰からダウンロードしてるんだい?」
「そーいう伝手があるんスよこっちには! んで!」
エクステンドマギア。かつての外、"精霊"の時代における人間側の武装であり、"精霊"……つまりほとんど純粋に近い"茨"を吸収して攻撃力として放つ、ある意味上位者特効な攻撃。ただなぜか剣だの腕甲だの己だの形しか作られず、空を飛ぶ"精霊"にあまりにも無力すぎた、後世における評価としては「なんともいえない」と言わざるを得ない技術だ。
それでも、威力は一級品。
一撃、だった。
完全なる一撃。そして甚大なる被害は、けれどここがBFCであることを理由に許される。アルカとラミゼットへも及んだ余波はラミゼットが完全に防ぎ切り、後に残ったのは──無。
「……うっしお掃除完了!」
「お疲れさまだけど、流石にそれは没収だ。"機械"の時代、"機械と人間"の時代ならまだしも、"精霊"の時代を持ち出してくるのはご法度。他にも持っていたら今出してしまうと良い。あとその外の馬鹿にも伝えておいてくれ。やり過ぎだと」
「あー、了解です」
わかる者にしかわからない会話が続くのは、ここにわかる者しかいないからだ。
その中でも比較的"わからない側"であるレオンは、ラミゼットの言葉に大人しく従う。
彼だってわかっている。
自分が命拾いした、なんてことは。
「さて、これでドッペルゲンガー事件は解決だね。でもまだ問題は残っている」
「……空を取り戻す会、ですかい」
「そんなのどうでもいいさ。羅和君と真優ちゃんとルカのことだよ。あと邪神の手先のカリナ・メルティーアートも」
「邪神?」
「私が望んでいるのはボーイミーツガールで、アイツが望んでいるのは青春ラブコメアクションストーリー。ちょっとジャンルが違うって話さ」
「あー……まよくわかんねッスけど聞かねーっす」
「それがいい」
ラミゼットは、またクツクツと笑い声をあげて、その場から消え去ったのだった。
さて、取り残された二人の視点……ではなく、そのままラミゼットの動向を追う。
「カリナ・メルティーアート。メルティーアート……ううん、やっぱり知らない名前だな。これでランパーロとかリチュオリアだったら納得が行ったんだけど……」
過去千年分の記録を閲覧しながら、ラミゼットは目的の情報を探す。
千年。
各地でささやかれている終末論は、勿論ラミゼットの耳にも入っている。
そしてそれが
もうすぐ終わるのだ、この世界は。この理想郷は。それがどの終末論であるかまではラミゼットも考えないようにしているけれど。
それを知らないはずがないあの邪神がわざわざ新規住民を投入してきた理由。そしてレオンと繋がっているという"外の馬鹿"の存在。もう聞く機会はないだろうと思っていた
未知は大好物なラミゼットだが、嫌いなものも存在する。
特にアイツが嫌いだ。あとアイツも。
「──""灯火は既に放たれり。桃源郷を望むのならば、贄を捧げよ。さすれば一時の祝福が汝に力を与えるであろう""」
それは昔、昔々むかーしの話。
ジアースに逃げ込んだ第一世代の中にいた、"予言"のサイキックを持っていた男性の言葉。彼は数か月もしない内に自身の意識データ、人格データ、及び彼に纏わる全てをこの世界から消去したけれど、その言葉は強くラミゼットの中に残っている。
彼女にとって。
彼女にとって、ジアースは存外どうでもいい存在だ。無くなってくれても全く構わない。
だけど、少しばかり興味が出てきてしまっている。今更、千年が経った今更にして、今更面白いことが立て続けに起こっているのだ。もっと段階的に出てきてくれたらもう少し立場とか経歴とか整えられたのになぁ、なんてボヤきは中空に消えていく。
ただ、これだけは、と呟く。
「羅和君と真優ちゃんの恋模様の決着までは、消させないよ」
『そうかい。ま、"恋"に関しては僕も何も言えないからね。君にもチャンスをあげよう』
「幻聴が自我を持つんじゃあない。……そっちはそっちで馬鹿をちゃんと探し出せ」
『勿論だよ。でもどうにも上位者っぽいんだよねぇ。いやー困った困った。僕、今ちゃんと一般人してるからさ、派手に動けないんだよ』
「私だって一般人したいんだよ……羅和君と真優ちゃんのイチャイチャを眺める壁の花であらせてくれよ……面倒事を持ち込まないでくれ頼むよ」
『持ち込んでいるのは僕じゃないってば。あー、でも、そうだな。ほら、僕が送り込んだ子、いるだろ? 彼女は面白い性質を持っていてね。
「バランス?」
『何かに成功したら、必ず何かに失敗する。幸運に恵まれたら、不運に苛まれる。出会いがあれば別れを経験し、喜びがあれば悲しみに直面する。サイキックもない、淨眼の類も持っていない。マグヌノプスでもない。ただそういう星の下に生まれて来た少女。どうだい? 面白そうだろう?』
不覚にも、確かに、と思ってしまった。
だって。
だって──そんなに簡単なイベント発生装置、中々いない。
今、あの少女は羅和たちと共にドッペルゲンガー事件を解決した。ということは。
『安定や平穏に彼女が近づこうとすればするほど大嵐が来るよ。あはは、彼女をどう扱うかは君に任せる。ああでも、あんまり虐めないであげてね。彼女は僕の教え子だからさ』
「……可哀想に」
そこで幻聴は途切れる。
通信機器があるわけでもなければ、会話ログにも何も残っていない。
ただの幻聴。
「……じゃあ、もし仮に、カリナ・メルティーアートがジアースを終わらせたら……どんなバランスが取れるんだろう」
それでも、気になりはしてしまうものである。
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イズナ中が特殊と言われるのには、その学校スタイルというか気風にある。
全部が古風なのだ。授業も校舎も。だからこうして「校庭」にある「運動場」で「走る」なんて体術授業を行っているし、校舎の中では「画材道具」で「モデル」を視ながら「写生する」なんて美術授業をが行われているし。
他の学校はそんなことをしない。ひたすらインストールと反復練習、そして自身が取りたい資格に向けた猛特訓。
イズナは変わっている、イズナは自由がない。
そんなことを言われるのはもう日常茶飯事である。
でも、当の学生たちは、そんな学校生活を謳歌していた。
トラックを四周してから、そのまま走り高跳び。
痛覚及び衝撃を一時的に消す空間が敷いてあるのでクッションの類はないけれど、着地まで完璧にこなして──カリナはようやく周囲に気付いた。
「えー! カリナさん凄い! 一発で【体術一級】行けちゃうんじゃない!?」
「体力切れも起こしていないし、体幹のブレも驚く程ない。いやはや、ヤオヨロズのレベルの高さには驚かされるな」
「メルティーアートさーん! 可愛いよー!」
「おいディアス、負けてんじゃねーよ! 三十秒遅れって、どんだけ差ァつけられてんだ! もっと頑張れ!」
「馬鹿言え全力だ馬鹿! メルティーアートさんが早すぎんだよ……ッ!」
声援。
それはもう大声援。
何度も言うけれど、カリナ・メルティーアートは一般人だ。
廃徊技師という職業にこそついているけれど、その実力は低いとも高いとも言えない位置。邪神のせいで知識だけは深いけれど、だからといって頭の回転が速いわけでもない。
それが、なんだろうか。
ジアースに来てから──褒められることばかりだ。
気恥ずかしさからそそくさと知り合い……真優の元へ向かえば、ハグされた。それは常識的なことなのか、周囲にいた女子も集まってきて「凄い凄い」と囃し立てる。
電脳空間に汗臭さとかないので、そのままフローラルなハグだった。
「流石だねー!」
「そ、そうなんでしょうか……。割とみんな、外の人はこれくらい……」
「ひゃー、じゃあ外ってほんと怖いトコなんだ」
けれど、カリナは知っている。
経験上──こう良いこと続きだと、揺り戻しが来る、ということを。
たとえば、そう。
「──ねえ、私──綺麗──?」
イズナ中の校庭にいた全員が、虚数の海に落ちてしまう、とか。