呪霊操術は圧倒的な手数の多さが強みの術式であり、相性次第では特級すら完封できるメタの極みである。
特級呪霊すら完封できるほどの強みである手札の多さ⋯⋯具体的に言えば、
呪術師とは主に生得術式を使い、呪いを祓うものだ。そして、生得術式は例外なく一つであり、術師が持つ手札はその解釈を応用するか、呪具と呼ばれる呪いの宿った道具を使うかの二択。
そして、呪霊操術は、呪霊の持っている術式を使用することができる。
これだけでやばさが分かる。更には極ノ番で高威力攻撃や本体の一時的強化もできる。こんなん悪用したら最悪の呪詛師とか言われるわ。
で、俺はその強みを捨ててガッチガチに縛ることで唯一の呪霊をめちゃくちゃ強化するってわけ。
あえて強みである手札の多さを捨てることで、唯一の手札を最強にする。呪霊操術の使い方間違ってるよねって言っているようなもんであり、呪霊操術を生み出した先祖には非常に申し訳ないのだが⋯⋯。
まあ、禪院よりマシでしょ。呪力ゼロの透明ゴリラとかふざけてるもん。あとは
「殲景様、当主様がお呼びです」
「ん」
女中が呼びに来た。
何の用だろうか? 相伝の赤血操術では無いし、嫡男でもない俺はもう当主なんてやりたくないんだが。
「失礼いたします。殲景様をお連れしました」
「ご苦労、下がれ」
「かしこまりました」
女中が退室し、部屋に当主と俺の二人だけが残された。
とても居心地が悪い。
「⋯⋯何かご用でしょうか?
「殲景、お前の術式は呪霊操術だったな?」
「ええ。まあ⋯⋯」
「およそ1000年前、平安時代に両面宿儺と相打ちになった加茂家の当主も、特殊な縛りを結んだ呪霊操術の使い手だったという記録がある。あと楽にして良い」
うん、俺のことだね。
楽にしていいと言われたので、言葉も崩して問いかける。
「はあ⋯⋯。それで、それが何か?」
「まずは聞け」
「はい」
そして語られたのは、その
記録に残すよう指示した記憶は無いのだが、何故残っているのだろうか⋯⋯?
前回の俺の使い方は邪道も邪道。ぶっちゃけ参考にしていいものでは無いし、自分で言うのも変だが茨の道⋯⋯いや、もはや修羅の道だ。
運悪く呪霊+自分の総合力を上回る呪霊や術師(呪詛師含む)と戦闘になれば、その時点でゲームオーバー確定のピーキー仕様。よく前回は生き残ったなと賞賛を送りたい。
それをもう一回やって、さらなる高みを目指そうとしてるバカがここに居るんですけどね?
「なんというか⋯⋯無茶苦茶ですね」
「だが、理には適っている。この縛りを結んで大成した術師は一人しかいないが、その一人は両面宿儺と相討ちという偉業を成し遂げた」
「そうですね」
「
その言葉にはとてつもない重みがあった。
文字通り、命を
運が悪ければ、あるいは他者の悪意に勝てなければ、その時点で人生終了の大博打。
吉と出るか、凶と出るか⋯⋯高々六歳のガキに話すことでは無い。だが⋯⋯この縛りは
「結びます」
「⋯⋯良いんだな?」
「ええ。元よりそのつもりでしたので」
「⋯⋯そうか」
正確にはもうちょっと縛り増やすけど、元から命懸けだし誤差みたいなもんでしょ。
その場で縛りを結ぶことになったが、俺のわがままで宿禰に同席してもらう事にした。理由はなんとなくだが、そうした方が面白くなりそうだって直感が言ってたから。
「縛りを結ぶと聞いたが、俺は必要あるのか?」
「必要か不要かなら不要だよ。でもね、
「⋯⋯ほう? そこまで言うのだ。つまらん内容なら、すぐさま八つ裂きにしてやるからな?」
「心しておくよ。
縛りの内容は次の通り。
一つ、使役する呪霊は一体のみとする。
一つ、使役呪霊と命を共有する。
一つ、使役を開始する時点で四級以下の呪霊でなければならない。
一つ、呪具と術式の併用を禁ず。
一つ、上記に反した場合死亡する。」
「⋯⋯呪具も縛るのか?」
「併用を縛るだけです。自分という弱点を、呪具で守っては縛りが弱まりますので」
無言の宿禰は口角を上げてニッコニコしている。なんだろう⋯⋯漫画ならニィィィ...って感じの擬音が着く感じ。
呪術師ってより忍者みたいな笑みだね君ね。君はもっとこう、ゲラゲラゲラゲラって笑いそうな印象なんだけど。
「おい、領域は縛らんのか?」
「呪霊操術の領域は知らないんだよね⋯⋯資料も見たことないし、効果的に相性悪いと思うし、領域展開はできないんじゃないかな? 呪霊次第でその領域を展開することはできるかもしれないけど、俺単品で領域を展開するのは無理だと思うよ」
「なるほどな」
「呪霊操術は
俺と宿禰は現時点で二級相当の術師だから、四級は丁度戦わずに取り込める上限。⋯⋯六歳児が実質術式無しで二級相当って普通じゃないな?
呪力量は前回より多いし、もしかしたらもしかするかもしれないとは思っている。
⋯⋯宿禰以外の兄弟? 知らん。
二親等の兄弟姉妹は他に居ないんじゃないかな? あったことないし、多分居ても従兄弟でしょ。
「さて、じゃあ
「待て待て待て」
「付き添ってやろうか?」
「いらないよ?」
四級呪霊なんて散歩してりゃ見つかるわ。生まれ変わってから散歩したことないけど。
いや、蠅頭くらいなら探さなくとも見つかるだろうけど⋯⋯あ。
「⋯⋯蠅頭って成長できるのかな?」
「蠅頭が四級呪霊になったという話は聞いたことがないが」
「俺らじゃ触った瞬間に消滅しそうだ」
「触れる前に消えるのではないか?」
蠅頭は流石に辞めた方が良いという結論が出るまで、当主は頭が痛そうに額に手を当てていた。相伝じゃなくってごめんね?
相伝より強いから許してくれ。
⋯⋯やっぱ相伝じゃない方が強いってこの家おかしくね? 認識の相違かな? いや、やっぱ呪霊操術を相伝にした方が絶対良いって。人間が赤血操術使うのは絶対に間違ってるって。
「手隙の術師をつける。少し待て」
「そいつは我々より強いのか?」
「体裁の問題だ。子供だけで歩き回るのはよろしくない」
嫡男でもなし、裏の賞金首って訳でもないだろうに⋯⋯。子供なんて他にもいるんだからほっといてくれていいんだが。
しばらくすると、見たことがあるような気がしなくもないような気がする男が入ってきた。
「お待たせしました」
「足は引っ張るなよ」
「四級相手じゃまず戦いが始まらないよ」
「三級以上は使えんしな」
「取り込まずにポケット行きかな。パートナーを見つけたら餌として食わす」
少々機嫌が悪そうな男を連れ、敷地内の雑木林(対呪霊戦闘訓練用)を進んでいく。
多少開墾したりしたのかもしれないけど、そんなに変わってないような気がする。土地勘はあると思って大丈夫かな。
なんて考えていたら居た。
「早速居たな」
「最高だね。蛇型だ」
「蛇が良かったのか?」
「爬虫類は死ぬまで成長し続けるらしいからね。縁起がいいでしょ?」
「蜥蜴でも良かったわけか」
触れたら玉になった。
やったね四級だ。
「⋯⋯宿禰様方は六歳でしたよね?」
六歳ですけど、なんか文句ある?
呪霊を飲み込みつつ視線を向ける。
最初で最後の呪霊の味⋯⋯ゲロ拭いた雑巾という評価は何も間違ってない。
低級呪霊だからか、飲み込みやすいサイズなのが唯一の救いか。
「問題でも?」
「いえ⋯⋯本当に私は必要だったのかと疑問に思いまして」
「「⋯⋯」」
宿禰と顔を見合わせる。
まあ、答えは言うまでもなく──
「──要らないでしょうね」
「要らん」
「ですよね⋯⋯」
呪霊の名前は
「じゃあ餌を探してもう少し探索しようか」
「一級呪霊でも出てくれば暇が潰せるんだがな⋯⋯」
一級は死ぬって。付き添いの術師が。
宿禰くんの術式はそのうち出てきます。
この時代の現当主は殲景くんと宿禰(儺)の祖父です。父親ではありません。